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prologue

 どこかの部屋の中で、二人の幼い女の子が遊んでいた。床には、子ども用のおもちゃが散らかっている。

 幼い女の子二人は、とてもよく似た姿をしていた。それはまるで、姉妹のように。

 そして、とても仲よく遊んでいた。

 片方が少し年下の女の子に優しく笑いかけると、もう一人の女の子は嬉しそうに笑う。二人とも、とても幸せそうな顔をしていた。

 そうして、穏やかな時間がゆっくりと流れていた。

 見ているこちらも、思わず顔を綻ばせてしまうほどのあたたかな光景だった。

 そう思っていると、急に目の前が真っ暗になった。そして、次の瞬間には、違う景色が広がっていた。

 目を逸らしてしまいたくなるほどの、酷い有様だった。

 床にはボロボロなったおもちゃが散らばっている。そして、年上の女の子が倒れていた。もう一人の幼い女の子の方は、怪しげな女性の腕に抱えられていた。腕の中にいる女の子は、泣き叫んでいた。何度も床に倒れている女の子の名前を呼んでいるようだった。そして、床に倒れている少女の方は、小さな女の子に手を伸ばしていた。


「○○を返して!」


 床に倒れた女の子が叫ぶ。


「今のあなたに何ができるの?」


 朝笑うように女の人は言葉を吐き捨てた。


「っ! だったら、私も……」

「それは無理な相談ね」


 少女が私も年下の女の子と一緒に連れて行くように声を発したが、女性は少女の言葉を遮って嗤った。

 少女は、悔しそうに顔を歪ませる。


「フフッ。あなたに良いものをあげるわ」


 女の人は嘲笑を浮かべながら、ゆっくりと倒れている少女に近づいていく。少女は後退しようとしたが、うまく身体を動かすことができずにそこから動くことができなかった。

 そうしている間に、少女の下に魔方陣が現れた。

 突然床に現れた魔方陣を見て、少女は目を見開く。これから何をされるのか、気付いてしまったのだ。

 慌てて逃げようとするが、先程身体を動かすことができなかったため何もできない。


「やだ。……やめて」


 今にも泣きだしそうな声で懇願する。


「嫌よ」

「っ!?」


 少女が息を呑むとほぼ同時に、床に描かれた魔方陣が光り出した。

 そこで映像は途切れた。

 次に見えたのは、床で倒れて泣く少女の姿だった。

 どうやら、魔術が発動したあとの光景のようだ。


「だ……め……」


 少女は力の入らない身体で、女性に向かって必死に腕を伸ばす。


「この子は預かっていくわ」

「やめて……」

「フフッ。それはできないわ」


 女性は、未だに泣き叫ぶ少女より幼い女の子を抱きかかえて嘲笑う。


「恨むなら、私じゃなくて無力な自分のことを恨むのね……」


 そう言って、女性は幼い女の子を抱えたまま姿を消してしまった。


「やだ、連れて行かないでよ……」


 少女の涙で震えた声が、静まり返った部屋に響いた。

 その声を聞いていたのは、少女の隣に転がっていた、大きなクマのぬいぐるみだけだった。



◇◇◇◇◇


 ハッと目を覚まして少女――アヤは飛び起きた。

 部屋の中は暗く、陽が昇るまでにはまだ時間があった。


「ゆ、め……」


 アヤはぽつりと呟いた。

 ――夢だけれど、夢ではない。先程まで見ていたのは、昔の記憶。実際にあったこと。

 ――どうして、今になってそんな夢を見たのだろうか?


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