新婚旅行
なし
長い旅を終え
私たちはついに
東京に戻った
帰りのフェリーが
また郷愁すぎた
山行が終わってしまう
3年生も引退してしまう
そんな寂しさでいっぱいの
帰り旅
それを打ち消すかのように
やっと到着した
大学部室前
そこには4年の先輩方が
待っていて
みんなで
「おかえりいいいい」
って
パーティメンバー全員のにっこり
似顔絵のかいてある
横幕をひろげて
笑顔で待っていてくれた
すぐに部の山行道具を片づけて
いつものとおり
大学近くのいきつけの
居酒屋にみんなで凱旋報告
やっとテンションが
もどったか
というくらい
山行組みも4年生もみんな楽しそうであった
会も盛り上がった中盤
先輩が事務局だったからか
そういえばという感じで
OBが私たちが北海道に
旅立った後
私大ワンゲル連につめていた
女の子が自殺
ひどく思いつめての自殺で
いたたまれなかったと
すこしさびしそうにみんなに
伝えた
大声でさわぐ人
30人ほどの人たちが
先輩を離さなくて
披露宴に引き続きの2次会
いつのまに
私も参加していたのか
さちも隣で
東京の独身男性軍団と
話をしている
披露宴のメンバーそのままのようだ
酔っているのだろうか
ここまでの記憶がない
にぶくなった
頭をもとにもどすために
そとにでることにして
部屋の出口をさがした
人ごみを
かきわけ
ふらつく足元で
ぶつかりながらも
外に出ようとしたとき
先輩を物思いに
みつめる一人の女性に
気が付いた
人越しのはるかむこう
窓辺にいる女性
何かどこかでみた
いや会ったようなきがした
しかし
人ごみをかきわけ
外に出ようと
その扉にむかったときには
そこには誰もいなかった
すこし外の空気をすって
冷たいソフトドリンクを飲んだら
だいぶ私も元気になってきた
そして
やっと私たちの
テーブルに来た先輩は
明るく酔っていた
テーブルに来るなり
どのテーブルでもしていただろう
来週、成田からハワイへ出発する
新婚旅行について熱く語っていた
本当は海、そしてサーフィンが好きな奥様の
意向を組んで
海外挙式も考えたのだそうだが
高齢の祖父母たちのことを考え
地元での挙式となったそうだ
そのぶん呼べるだけ人を
呼んでにぎやかに
披露宴を行うことにしたらしい
「先輩が新婚旅行に
出発する日、久しぶりに
私も山に登るんです」
思わず私は先輩に
言っていた
飲みつぶされて
焦点のさだまっていない先輩が
おお、いたのかという顔で
私をみた
「おお、そうか。
山はいいよな、それで
どこに行くんだ?」
「職場の同僚室井さんが
山が詳しくて
私はどこに行くのかわからないけれど
紅葉の初めで
すすきがでていて
東京近郊の山に登るよって
言っていました」
「このへんで紅葉のはしりといえば
T岳だな。あそこはいいぞ。
ロープウエイであっという間に山頂だ
快適な山行になりそうだな、
宮沢。よかったな」
「それよりその同僚の
室井さんは山、詳しいのか?
山久しぶりすぎて遭難すんなよ」
冗談まじりに先輩は言った
「詳しくは知らないけど
今年も何回か山に行っているみたいです」
「なんだか昔の知り合いと
同じ苗字だったもんで
まあ、じゃましたな」
遠い目をしながら
先輩はそう言って次のテーブルに
後ろを振り返らず手だけあげて
行ってしまった
なし