杞憂
なし
杞憂
14時予定より早く
小屋に到着
時刻は13時少し過ぎ
私は
パーティのメンバーが
それぞれにがんばった証拠だと
安堵した
しかし
ここで検討すべきことが
このまま
エスケープルートをたどって
下山することも可能だが
どうするのだろうか
先輩も気をはりすぎたか
すこし疲れ気味のようす
けっきょく
一度なるちゃんの
様子をみることにして
さちが手早く体温計をだす
ありがたいことに
なるちゃんの
熱は朝のまま
平熱であった
熱はなかったが
半日がんばって歩いた
なるちゃんのことを考え
リーダーである先輩は
ここに
1泊することにした
安堵感がみんなに
広がる
さちが茶色の液体が
入ったびんを取り出した
就職試験などで
山行に参加しなかった
4年生からもらった
ウイスキーだという
少しくらいなら
大丈夫ということで
下山の荷物を
軽くするために
みんなで
飲むことになった
コップ1杯を
みんなで飲むことにしたが
1杯の半分で
もうみんなご機嫌で
ウイスキーは
疲れた体にしみた
珍しく少し饒舌になった先輩が
去年からかかわっている
私大ワンゲル連のことを
私たちに愉快に語った
先輩曰く
大学それぞれの
カラーがあって
部活連盟の事務局として
すごくやりがいがあること
先輩も
いろいろな人との出会いが
あるのかと
酔った頭で私は思った
酔ったさちがやたらと
先輩につっこんでいる
あまりのつっこみに
思わず先輩が
他大学の気になる子について
ぽっと話をした
とても気の利く女性が事務局に
いるという
さちがつづけて
「その子
先輩にきがあるんじゃないですか」
と言ってひどく笑った
さちはいつものように
明るくつっこんだのだが
なぜか先輩は
グラスを見ながら
浮かない顔
「飲みすぎた、飲みすぎた
みんなで酔いをさまそう」
と先輩
何かを言い聞かせるように
自分のポリタンの水を
一気に飲んだ
そして
天気図の時間ということで
おひらきになり
先輩はその後
終始無言であった
その夜は
おそろしいくらい天候は
安定し
翌朝、天気は快晴で
胸までしかない
ハイマツが
見渡す限りつづく森林限界を
ゆっくりと
足に負担をかけないように
私たちは下山していった
何事もなく
私たちは下界にたどりついた
あんなに楽しみにしていた
カツカレーも
ビールも
下山先の温泉でのおふろも
なんだか私には
はいってこなかった
おふろからあがって
旭川まで
1時間ちかく
バスにゆられながら
もとの生活のことばかり私は
考えていた
なし