きたきつね
なし
みんながほうほうの体で
行動食の袋をあけて、
中のおしつぶされたパンを食べている時
先輩は何を思ったか
疲れたみんなに
コッフェルで
あたたかい飲み物を
ふるまおうと
がさごそザックを
店開きしている間の
一瞬の出来事
さちが気づいて
追いかけたが間に合わず
やせたきつねに
行動食のパンを
先輩は1週間分
全部持っていかれてしまった。
先輩は
はじめこそは
あわてていたけど
「予備食を
たくさんもってきて
いてよかった。
今頃は、母ぎつねが
子どもたちにたくさん
食べさせてあげているだろう」
とのたまう始末。
しばらくして
先輩少し困った顔で
「でも、店開きした時
だれかに呼ばれた気がしたんだ。
おまいら、だれかおれのこと
よばなかったか」
先輩はその後も
ぶつぶつ言っていた
濃い霧が出てきた
そして
先輩の横顔が
みえなくなった
そんなこんなで
山頂に向かうも
天候は急激にくずれていき
尾根は風が吹き
日帰り登山客は
ピークを写真に撮ってはやばやに帰る始末
ピークから小一時間
しばらく歩いて
尾根より下のテント野営地に
強風の中
いそいでテントを張り
夕食の支度にとりかかり
先輩がラジオを聞きながら
明日の天気図をつくり
夕ご飯を食べながら
明日の山行の相談となった
おりからの台風が
北海道付近で熱帯低気圧にかわらず
居座るという事態
まったくもって異常。
ついていないとしかいえない天気
ほんとうに
昨日までの天気が嘘のような
天気の急変であった
けっきょく
その日は明朝に
希望を持ちながら
早々に寝ることとなった
寝る間際、鹿撃ちにいくことにして
さちと二人でテントをでた
お互いが離れないように茂みに向かったが
すごい濃霧。お互いのヘッドランプも1m先を照らさない状態
これで遭難してはと
声を掛け合い事をすませた
帰り際、
あまりの濃霧に
手をつなぎテントを
目指すも方向がわからず
「これはだめか」
と思われた時
先輩の力強い声が
濃霧の中に聞こえ。
私たちは無我夢中でその方向に向かい
助かった
先輩が私たちを
呼んだとき
後ろに強い風の
さざなりを感じたが
テントにかけこみ
着いた安堵感だけで
すぐにシェラフにもぐりこみ
そのまま眠った
なし