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第二部 終章

「……じゃあ」



「うん」



私たちは正座をし、向かい合う。



「今日から、よろしくお願いします」



「こちらこそ、よろしくお願いします」



そして互いにピシリと最敬礼をする。さすが侍、いさぶの礼はキマッている。



一泊の江戸旅行を終え、東京に帰ってきた私たち。今夜から、彼もこの家で暮らすのだ。



今日から始まる私たちの暮らし。これからひとつずつ、決めていこう。二人で。



「さて、“続き”をするかな」



足を崩すやエロい顔で笑う彼に手招きをされ、その腕にすっぽりと納まる。胸にもたれながら見上げると、ああどうしよう。目をつぶるのがもったいない。至近距離にあるその顔をもっと見ていたい。



「…はじめっから、じゃないの?」



けれど頬に手を置かれ、彼の顔が近づけば、目を閉じるよりほかなくて。そして温かいものが私の唇を覆うのだ。初めは優しく、味わうように。次第に熱く、没頭するような口づけ。



ちょ、待って待って待って!



「続き」どころじゃない。じゃま者のいない分、容赦なく激しく終わらない。アンタそんなにがっつく系だった? だ、ダメだ。もう無理! 恥ずかしすぎて憤死する!



隙をついてさりげなく胸に顔をうずめ、インターバルをとる。荒い呼吸をくり返し、息を整えようとしていると、いさぶが顔を覗き込んできた。じっと熱く、いやエロく見つめられ、私は思わず手で顔を覆う。



「どうした?」



顔を隠したまま黙って首をふる。と、いさぶのヤロー顔に置いた私の手を上から握って来やがった。ひー!



「これをどけてはくれんのか?」



「もう恥ずかしくて無理だよ…」



「何が恥ずかしい」



「だ、だって……」



……久しぶりなんだもん!! このあとに続くであろう、さらに甘いふれあいが。もちろん経験はある。ある、けど大人だからって慣れてるわけじゃない。身のこなし方なんて覚えてない。いや昔から知らなかったか。



「緊張なら儂もしておる」



……そうなの?



手を外して見上げると、今度はいさぶのほうが目をそらせた。



「どして? 伊三さんもこういうの久しぶり?」



「ずっと、おさげ髪の頃から見てきた娘が腕の中にいるのだ。緊張しないほうがおかしい」



……いさぶったら。いさぶったら!



もう娘でもねえだろ、とか、久しぶりかどうかはさりげなくスルーしやがったな、とか。その辺のツッコミは控えてやろう。



「いいな。私だって青かった頃の伊三さんを見てみたかった」



バカップルにも程があるってくらいの私の発言に、いさぶがこちらに視線を戻す。照れたような困り顔。よし、形勢逆転。



「その頃から私のこと好きだった?」



もちろん脳内BGMは斉藤和義だ。あのセリフも憧れるよね。



「さてどうだったかのう」



コラそこは「ずっと好きだった」だろ! ……まあよい。次の攻め手だ。



「ヤキモチ焼いてくれたよね。あれうれしかった」



「いや忙しかったわ。誰かさんが狭い部屋で若い男に抱きしめられておるわ、手をつないで眠っておるわ。挙げ句の果てに求婚されてニヤけておると来た」



ヤバい。風向きがあやしくなってきた。とぼけとけ。



「そうだったかのう」



するといさぶは私の鼻をキュッとつまみ、



「安心せい。儂は妬かせん」




……落ちた。



そうなのだ。私は上手にヤキモチが焼けないタイプで、自分に自信がないから妬くよりも先に不安になってしまう。だから面白がって妬かせるみたいなこと、しないでほしい。……私はするけど。



それをわかって言ってるんだとしたら、もう完敗です。煮るなり焼くなり好きにしてください!



と、いう心情を目で伝えてみた。どこまで伝わるか、まあ表情を見たら私が落ちたことくらいわかってしまうだろう。は、始まる? 始まっちゃう? キャー。胸小さくてごめん。




──あ。



待てよ。子どものこと、まだ話し合っていない。今はまだできないようにしておいたほうがいいんじゃないかな。でも久しく男がいないわが家に当然アレはないわけで。か、買いに行く? いさぶになんて説明する? 憤死だ憤死。ぎゃー。



「……そういえば」



百面相のごとく照れたりさかったり迷ったりする私をいったん離し、いさぶはたたんである着物の間から何かを取り出した。



「あいつにこれを渡された。使い方はお前さんが知っているはずだと言っておったぞ」



……こ、これは!



「あいつはどうしてこんなもんを持っておるのだ!」



それはまさに今買いに行こうかどうか思案した、アレ。義兄がなぜそれを!



「蛇の情報力をなめるな、と言っておったぞ。これはなんだ。どうやって使う?」



情報力って。そんなもん覚えてあいつはいつ利用するのだ。え、ソレの使い方? そりゃあ大人だから知らなかないけど、私にそれをしろってのかあの男。くそぅ、覚えとけ。あることないこと志緒に吹き込んでやる!



「あの男はなんて?」



「……迷いが解決するまで待ちきれんときは、使えとさ」



……その口ぶり。



「知ってるんでしょう」



「ん?」



やっぱりそうだ! そのニヤケ顔。



「それが何か知ってて聞いたんでしょう! このエロ侍!!」



エロ侍は、今度は手招きをせず、自分から私の元へにじり寄ってくる。拗ねた私はじりじりと後退する──行き止まりにはベッドがあることをもちろんわかった上で。



前言撤回。お義兄さんありがとう。



二人の距離が縮まるにつれ、いさぶのエロい笑みが真面目な顔になり。私のしかめっ面もまた、ほどけていく。再びその腕に納まれば、あとはもう止められない。




これから始まる私たちの暮らし。



初めは少し、甘めでもいいよね。





──第二部おわり──

第二部終了です。


前回ほどのスピード感には欠けましたが、その分甘さが多めになるようがんばりました。


スピード感が落ちた理由はわかっています。前回は主人公が独女だったのでほぼ自分の心情を投影してスイスイ書けたんですが、今回は男ができてしまったために想像力が必要になったという痛々しい理由(笑)


いったん「完結」としますが、できればまた書きたいと思っています。よければたまに見に来てください。


ありがとうございました!

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