真実の愛耐久実験
「真実の愛と言うのは、わたくしの拳に耐えられるのかしら」
王太子の執務室でそう呟いたのは、難しい顔をして書類と向き合っている公爵令嬢であった。
王太子の名はアイレー、令嬢の名はミリネ。二人は婚約者同士であり、今は二人して急ぎの案件に対応している所である。
執務机に向かい、書類のチェックとペンを動かす手を止めないまま溢された言葉に、同様に執務机に向かって仕事をしていたアイレーと王太子付政務担当官ノウルはしばし動きを止めて彼女を見た。
三人に共通しているのは、くっきりと浮いた目の下の隈。
現在この場の最高責任者であるアイレーは、ひとつ溜息をついて卓上のベルを鳴らした。
休憩が必要だ、と判断したためだ。
「君の拳に耐えられるなら、それはまあ『真実の愛』と宣っても偽りではないだろうけど」
アイレーがミリネにペンを置かせ、応接エリアのソファにエスコートするのを見て、ノウルもペンを置く。
タイミング良くティーワゴンを運んできた侍女達が、軽食と焼き菓子、紅茶をセッティングしていく。
「君には休息が必要なようだよ、少しゆっくりしよう」
「それはアイレー様もでしょう、わたくし達は働き過ぎですわ」
「そうだね…でもあと少しで処理が終わるから」
王が戻ったら、一か月くらいまとめて休みをもらおうか。
そう言って、アイレーは軽食を口に運ぶ。
そのくらいの休みは認めてもらわねば困る。何せ、非常識な突発案件…しかも複数…の後処理をするために忙殺されているのだから。
「お休みも欲しいですけれども、やはりそれより真実の愛の耐久実験をさせていただきたいですわ」
「……まあ、気持ちは、わかるけど」
「私も、どのくらいの耐久力があるのか知りたいですね」
焼き菓子を上品に口に運びながら、据わった目で続けるミリネに、同意するアイレーとノウル。
三人がこうまで『真実の愛』を目の敵にするには理由がある。
ソレが、現在の三人を過労状態に追い込んでいる元凶であると言っても過言ではないからだ。
「今、処分保留にしている『真実の愛』の皆様には手が出せませんので…アイレー様、どこかで真実の愛の方をひっかけてきてくださいませんか」
「……それは、今まさに真実の愛を叫んでる者達を連れて来いと言う事かい?それともまさか、私に『真実の愛(笑)』を見つけて来いとでも?」
「後者ですわ」
「うーんきゃっか」
真実の愛を叫ぶ者がそんなに居ても困ると思うのだが、何せ今、ソレを声高に叫んで隔離されている者が六名居るので、他にもいないと言い切れないのが恐ろしい所。
なんと、王の長期外遊のタイミングを狙ってなのか『真実の愛』を理由にした高位貴族後継の婚約破棄騒動が三件も立て続けて起こったのだ。
王の外遊に合わせたとて、貴族の婚約婚姻に対しての王承認の原則がなくなるわけではない。
婚約破棄した側の貴族達は王太子よりも年上で、学園での先輩にあたるのは確かだが、それで王代理の承認をもぎ取ろうとしたとでも言うなら浅慮がすぎるが、やらかした者達の思惑がどうであれ起こった事には対処をしなければならない。
婚約破棄を叫んだ高位貴族の内訳は、男性二人に女性一人、いずれも嫡子で次期後継者予定だったが、廃嫡確定で王が戻るまで軟禁。
破棄を叫ばれた側の女性二人、男性一人の内、それに便乗して良からぬ画策をしていた女性一人も軟禁、家にきちんと報告して対処準備していた他二人はお咎めなし。
破棄の原因になった女性一人、男性一人は低位貴族であり、二人は貴族籍から抜かれる事が確定しているが、こちらも王が戻るまで軟禁。平民女性は巻き込まれただけである事が証明されたので、一時的に家族共々保護されている。
やらかしたのが一組だけであれば、軟禁などという生ぬるい事はしないのだが、今回は同時期の企みだったという事で、王が戻った際に見せしめを兼ねてまとめて処分する予定だ。
後継の育成に難有りとして急遽当主交代した家もある。
また、この件で貴族間の派閥の勢力が多少変動したため、その調整で新たな婚約や契約が幾つか締結された。
通常の執務に加えて、王の代理として、かつ緊急処理が必要な案件が一気に増え、短期的に過労状態になっている、というわけである。
王が戻るまであと一週間。
アイレーがこれ以上同様の案件が増えないように監視体制を敷いたのもむべなるかな。
今のところはそれが功を奏したのか、続く愚か者はいないようだ。
なんとか処理も峠を越え、後は細かい(しかしめんどくさい)調整が終われば通常の状態に戻る、と言った所なのだが。
ミリネのストレスがここに来て大変な事になっているようだ。
「ミリネ、私は君の婚約者だと言うのに、婚約者に不貞を勧めるのは良くない」
「アイレー様、婚約者ではありますが、わたくし達の間に真実と呼ぶようなよくわからない愛はございませんわ、探しに行っていただいて構いませんのよ?」
「拳で耐久力を計りたいがために詭弁を揮うのはやめておくれ」
上品に軽食と焼き菓子を食しながらの二人の応酬に、自席で一服しているノウルは気が気でない。
実際に二人が何事かを起こすとは思っていないが、なかなかどうして他人に聞かれたら誤解を招きかねない内容なので。
あまりにも際どくなったら口か手か挟まねば、と覚悟をキメるノウルを余所に、二人の会話は続く。
「大体ね、私が君との間に求めるのは『真実の愛』とか言うよくわからない感情じゃなくて、親愛と尊重だよ」
「婚姻に際しての打算と便宜の上に建てるには丁度良い塩梅の感情ですわね」
「二人で建てるなら継続性も望めるだろう」
「どちらかに偏らないバランス調整は都度必要ですけれども」
「そこの努力を破棄するなら、その時点で関係を終了させられても文句を言えないと思っているよ私は」
見つめ合っているのに甘さはない、甘さはないのになんか惚気を聞かされている気にちょっとなる…という解せない感情で眺めてしまうノウルだが、割り込んでまで止めねばならない話にはならなそうで一安心する。
一安心したノウルは、控えていた侍女に茶器類の回収を頼み、仕事に戻る。
今日の処理分を終えれば、一息つけるはずだ。
「さて、私も仕事に戻るとするか」
「そうですわね、アイレー様も真実の愛を探しに行ってくださる気はないようですし」
「一生そんな物には縁のない身でありたいね」
頑張って進めれば、明日は早く帰れるんじゃないかな、等とアイレーが執務机で呟いた時、ミリネとノウルは少し嫌な予感がした…予感はしたが、処理量だけを考えるならその認識は間違っていない、と特に口にする事はなかった。
その日もキリの良い所まで進めて、三人は仕事を切り上げた。
きっと明日には一段落するはずだ、と信じて。
***
その知らせは、朝、三人が執務室に揃って、本日の進め方についてのすり合わせをしている時にもたらされた。
「ジェラワット公爵家の嫡男が、婚約破棄を目論んでおります」
監視体制チームの連絡係が、申し訳なさそうにそう告げる。
知らせを受けた三人は、天を仰いだ。本日も仕事の上がりが遅くなる事が確定したからだ。
「連絡ありがとう、とりあえず詳細を聞かせて欲しい」
「良ければ貴方もこちらに座ってちょうだい」
アイレーとミリネが応接卓に用意されたコーヒーを連絡係にも勧める。
これから更に疲れる話をしないといけないのだ、せめてゆっくり座って欲しいという気持ちからである。それでなくても予定外の仕事をしてもらっているわけだし。
その意を汲んで、連絡係は恐縮しながらも座ってコーヒーを飲んだ。
ジェラワット公爵家は国内の筆頭公爵家である。王妹が降嫁しているため、かの家の子供達はアイレーの従兄弟にあたる。
嫡男のターファが婚約破棄をするというのであれば、相手は国内有数の富を築いた新興貴族のマールボク伯爵家次女のディアン。
王家と伯爵家の富を繋ぐための政略で結ばれた婚約である。
その一点だけ見ても頭痛が痛くなるような案件だと言うのに、ターファが婚約破棄を目論んでいるタイミングというのがまたろくでもないため、報告する側も受けた側も酒を浴びるように飲んで寝てしまいたいなと思ったとかなんとか。
ターファが婚約破棄の発表の場に選んだのは、王が外遊を終えて帰国する直前の夜会、夏の星夜会と呼ばれる会だ。
星の話にある、恋人達が年一度の逢瀬を果たすと言われる日に、婚約者や伴侶との絆を深めようという趣旨で開催されるお祭りと、その後に王宮広間で行われる交流会。その交流会の方で大々的に『真実の愛』を叫ぼうという事らしい。
なんで人前でやりたがるんだろう、家でやれ。
「報告ありがとう、また追加で動きがあった場合は連絡頼む」
「かしこまりました」
「まだ気を抜けない日が続きますが、交代で休んでくださいね」
「今回の特別手当はまた別途でますので、後日確認してください」
三人で報告係を労って送り出す。
これから、詳細の記載された報告書の精査と対応を考えなければならない。
めんどくさい…とてもめんどくさい、と言う顔を隠せないアイレーとミリネ。ノウルも澄ました顔は崩さないが、気持ちは同じである。
やはり真実の愛耐久実験をすべきでは?
お互いの顔を見合わせた三人は、一回深く頷いた。
王への緊急連絡で許可を取った三人は、嬉々として準備をはじめた。
楽しい耐久実験の下準備である。
真っ先に行ったのは画策令嬢の処分だった事をここに添えておく。後回しにすると忘れそうだったので。
***
交流会に集まった貴族達は、少し困惑していた。
ここ一か月くらいで真実の愛を叫んだカップルが二組、意気揚々と参加していたからだ。
軟禁されていると聞いていたが、随分と元気そうだな…と訝るような反応をする者も居れば、やはり応援していた者達の愛が正しかったのだと目を輝かせる年若い者も少なくない。
やらかした者達の親族は、大人しく周囲に紛れ込み、近付こうともしていない。
事前に通達を受けているので、飽くまでも見学者の立場である。
そこに、ジェラワット公爵家の嫡男ターファがやってきた。
婚約者ではない女性をエスコートしたまま会場を見渡し、見つけた婚約者ディアンの前に歩を進めた。
周囲に見せつけるように、隣の女性をしっかり抱き寄せたターファが、ディアンに向かって破棄を告げた。
「ディアン!お前との婚約を破棄する!」
その瞬間。
「真実の愛を謳う皆様、本日はお越しいただきありがとうございます」
広間が暗転し、王太子の婚約者であるミリネの声が響く。
声と共に、ジェラワット達とやらかしカップル二組に光が当たる。
「ここ一か月程、わたくし達は『真実の愛』を謳う方々に振り回されておりました」
「関係者間で片付ける事もできない素晴らしい愛の後始末、とても大変だったよ」
ミリネの声に王太子アイレーの声も続く。
光を当てられた三組の男女は、おろおろとしている。何が起きているのか理解できていないのだろう。
特に、軟禁を解かれたばかりの二組は「自分達の愛が認められたのだ」と喧伝している最中だった。
お前らに迷惑をかけられた、という言葉の意味は理解できていないだろう。
「素晴らしき愛をお持ちの皆様に、本日はわたくしから提案がありますの、どうぞ広間の中央へいらしてくださいませ」
ミリネの言葉に会場内で待機していた近衛騎士達が動き、三組の男女を広間中央へと移動させる。困惑の声が上がるが、全て無視だ。
三組が中央に集まった所で、広間の光が元に戻る。
中央には一組の腕輪が置かれた台座があり、その両側にアイレーとミリネが立っている。アイレーの隣にはノウルも並んでいる。
「皆さまは『真実の愛』は強い、多少の妨害等には負けはしない、と謳っておられまして…ああ、ジェラワット公爵令息様はこれからでしたか?でもあまり関係ありませんわよね、同様の事をこの場で仰る予定だったのですものね」
突然の名指しにターファが顔を赤らめるが、ミリネの言葉は止まらない。
「あまりにも素晴らしい、強い物だと謳われるので、わたくし気になってしまって」
そこで、少し恥じらうようにミリネは頬を染め、目を伏せた。
鎮座した腕輪で気付いた者も僅かにいるようだが、大半の人間はミリネが何を言い出すのかわからず固唾を飲んで次の言葉を待つ。
目伏せたまま、うっとりとした声音で告げられたのは、それを向けられた三組からすれば絶望に近しい内容だった。
「皆さまの『真実の愛』は、わたくしの拳に耐えられるのかしら?拳を受けてみていただけないかしら…って」
ここで、ミリネについて少し語ろう。
ミリネは武功で名を上げ公爵まで駆け上がった家門、メーカラ公爵家の長女である。
武で名を立てる事を至上としている家らしく、男女関係なく体術を極限まで極めるという教育方針をしている。
その中でもミリネは当代随一と呼ばれた子供であった。5歳で庭の大岩を砕いたとか、10歳で人差し指だけで崖を登り切ったとか、長男次男がかすむような噂の枚挙に暇がない。
噂の真偽はさておき、ミリネは『素手で岩を砕ける』令嬢なのである。
拳に耐えられるか、と問われた男女は、顔面を様々な色に染め上げた。
生身で殴られれば、良くて大怪我悪くて死亡である。
間違っても耐えられる等とは言えない。
そういう空気になるのは見越していたのだろう。ミリネが補足として腕輪に注目を促す。
「あぁ、勿論、生身で受けてくださいとかそういう話ではないのです」
こちらをご覧ください。
とミリネが指し示す先には腕輪を掲げたアイレーがいる。
「この腕輪は、王家に伝わる魔器の一つ、連理の腕輪と言う」
アイレーの説明に出た、魔器という言葉に会場がざわつく。
人が魔法を使えないこの世界で、魔法のような不思議な効果をもたらす物を総じて魔器と呼んでいる。
仕組みは不明、複製もできない代物だが、効果が保証された物は権力者や好事家が囲い込んでおり、現物を見る事はほぼない。
そんな貴重品がなぜ…と思う人々を知ってか知らずか、アイレーは説明を続ける。
「この腕輪は身に着けた二人が、思いを一つにする事で盾を出現させるという物だ」
実際に見せようか、と言ってアイレーとミリネが腕輪を装着する。
「盾は、二つの腕輪それぞれに嵌めてある色石を押す事で発動できる、二つとも押さないと発動できないのでそこは注意が必要だ」
「発動する際は、装着者二人を覆うように盾が発動しますわ」
説明しながら二人が色石を押すと、二人の前に薄い膜のような物が発生した。
二人の間にある台座も盾の範囲に入っているらしく、二人の姿同様に少し揺らいで見える。
「発動に関しては確認できたと思いますが、これですとわたくしの拳に盾が耐えられるかわかりませんので、ノウルお願いできますか?」
「かしこまりました」
盾を消して、腕輪を外したミリネからノウルが腕輪を受け取る。
腕輪を装着しながらノウルがアイレーの隣に戻るのを見て、ミリネはドレスの隠しから指ぬきのナックルグローブを取り出し装着した。
「そうそう、二人で一つにする思いは愛情でなくても問題ありません」
そうでないと、アイレー様とノウルの間にある愛情を確認しないといけなくなってしまいますし。
等と、ミリネの当て擦りめいた発言に、会場のあちらこちらから小さな笑いが漏れる。
親愛や敬愛でも発動するが、それだとやや弱く、この場での実証には向かない事も併せて確認済みなのはここだけの話だ。それ以外があってもミリネは構わないのだが、いずれにせよ今はもっと心を一つにできる事があるのだから、そちらが優先である。
「お二人とも、準備はよろしいかしら」
「あぁ」
「いつでも、お好きなタイミングでどうぞ」
ぐっと拳を握りこんだミリネと、腕輪を発動させた二人が正対する。
広間の貴族達が固唾を呑んで見守る中、ミリネが右拳を真っすぐに突き出した。
拳が盾に当たった瞬間、大きな打撃音が広間に響き渡り、衝撃の余波が広間の空気を揺らしたが、アイレーとノウルは微動だにしていない。
盾に当てた拳を引いて、居住まいを正したミリネは、一つ息を吐いた後で笑顔を見せる。
「お二人ともさすがです、良い盾でしたわ」
「ありがとう」
平然とした顔で礼を言うアイレーと、その横で涼しい顔をしているノウルを見た『真実の愛』の者達は(なんだ、そこまで怖がるほどの威力じゃないんだな)と思った。
元来が自分に都合良く考えがちの人間達なのだ。そうでもなければ公衆の面前で契約の破棄など声高には叫べない。
そう考えるであろう事まで含めて、すべてが下準備として整えられていたのだけれども。
ちなみに、アイレーとノウルは(早くこいつらがボコられる所を見て留飲を下げたい)という気持ちを一つにしていた。
不要な仕事への呪いは固いのである。
「わたくしの拳に負けない強度の盾を発動させられるという事が、これでおわかりいただけたと思います」
「とは言え、ミリネの拳に耐えられるかの挑戦は強制ではない」
「ですが、挑戦が成功した場合には褒美があります」
強制ではない、と聞いて『真実の愛』の者達は尻込みしたものの、次の褒美と言う言葉に素直に反応した。
更に続いた言葉に、挑戦する以外の選択肢がなくなる。
「あなた方は、このままであればやらかしの責任を取って貴族籍を失います」
ジェラワット公爵令息、あなたととそのお相手も漏れなく同じ扱いになる予定です。
とノウルが続けるのに、ターファは赤くなったり青くなったりと忙しい。
まだやらかしてないのに、と言わんばかりだが、実行に移した所で止められているので誤差でしかない。
「ですが、わたくしの拳に盾が耐えきれた場合には、わたくしの私有地の一部を領地として差し上げます」
「また、王家預かりとなっている伯爵位を譲渡しても構わないと、王の許可を得ている」
ここに居る三組は、真実の愛だなんだと宣いながら、そのために全てを捨てる覚悟はない者達だ、とミリネ達は考えた。
そのために用意した餌としての領地と爵位。
ちょっと拳の圧に耐えたら平民になるのは免れる。その打算に動く者が出るまでに時間はかからなかった。
「そんな褒美などなくても、私達の真実の愛が固い事を証明致しますわ」
最初に名乗りを上げたのは気の強そうな元公爵令嬢だった。お相手は可愛い系の元子爵令息だ。
婚約者であった伯爵令息に蔑ろにされたとかなんとかで破棄を叫んだ。
ミリネとも交流があり、その関係であの拳に耐えられる人間を幾人か知っていたのも、判断の早さに繋がったのだろうか。
尻込みしている子爵令息に何事か囁きかけて説得をしているようだ。
他二組は、一旦静観する事に決めたのか、大人しく隣の相手と身を寄せ合っている。
いずれにせよ、一組は実験に参加してくれるようだ、とミリネは笑顔になる。
さて、『真実の愛』の固さやいかに。
「挑戦ありがとうございます、では腕輪を装着してくださいませ」
アイレーから受け取った腕輪を二人が装着した所で、盾の発動を確認するよう促す。
盾が無事発動したのを確認して、ノウルが挑戦についての詳細を説明する。内容は以下の通り。
・挑戦回数は三回
・三回の内、一回でも盾が耐え切れば報酬を得る
・途中でのリタイアも可能
「また、これは腕輪に関する注意事項ですが、思いが一つにならない・強度が足りない場合は盾が消滅しますのでご留意ください」
「わかりましたわ」
「は…はい」
「『真実の愛』で結ばれたお二人なら、きっと先程のアイレー様達の盾より固い盾を発動させられるに違いありませんね」
そう言ってミリネが二人の前に立つ。
「準備ができましたら教えてくださいませ」
「準備できていますわ」
「い…いつでもどうぞ」
「では、いきますわよ」
二人の返事に、ミリネは先程と同じように右拳を突き出した。
その拳が盾に触れたかに見えた瞬間、甲高い音を立てて盾が砕けた。
砕けた盾は空中に消えたが、盾がなくなった事によって衝撃が真っすぐ二人に向かい、身構えていなかった二人の体が弾き飛ばされる。
大惨事を引き起こしかねない状況だが、吹き飛ばされた二人が、周囲の人々に突っ込む前に、近衛騎士達が布で受け止めた。準備万端である。
「あら、思ったより脆かったですわね」
残念そうにミリネが呟く。
その声は静まり返った広間によく通った。
残りの二組の顔色が悪くなる。悪くなるが、吹き飛ばされた二人を嘲るような色もそこには見え隠れしている。
存分に慢心して欲しい、そして挑戦してほしい。そう思いながら、ミリネは布に寄り掛かったまま未だ動けない二人に近づく。
「一回目は残念でしたわね、では仕切りなおしましょう、二回目の準備をしてくださいませ」
にっこりと微笑んで言われた言葉に、髪も正装も嵐に巻き込まれたかのようにぐしゃぐしゃになった二人は蒼白になった。
「もうむりです」
「ごめんなさいごめんなさい」
半泣きで震えてうずくまる二人には、もう挑戦する気はないようだ。
今の状態の方がさっきより良い盾がでそうなのに、もったいない…と思うも、二人の意思を尊重してリタイアを認める。
「リタイアされるのでしたら仕方ありませんわね」
「では廃籍の手続きを完了致しますね、お二人はこの場に参加する資格を失ったので、外に出ていただくように」
ミリネの言葉を受けて、ノウルと近衛騎士達が動く。
速やかに腕輪が回収され、二人は丁重に外へと運ばれた。
今日の宿だけはミリネから提供されているので、明日の朝から楽しい平民暮らしの始まりである。
がんばれ、しんじつのあいがあるならきっとだいじょうぶ。と生温かい目で送るミリネ、アイレー、ノウルであった。
「さて、他の二組はどうなさいますか?」
その言葉に、自分達は大丈夫だと思っている二組は順に挑み、同様にリタイアして去っていった。
優しげ貴公子系の元伯爵令息も、守ってあげたくなる小動物系美少女元男爵令嬢も、王子系美形公爵令息も、クール美女系子爵令嬢も、全員くしゃくしゃの状態になって外に運ばれていった。
「『真実の愛』……儚い物でしたわねえ」
「思った以上に脆かったねえ」
残念そうに呟くミリネとアイレーに、交流会参加者達は震えながらも同意する。
全員が一回でリタイアした事に関して、もうちょっと粘れよと思った者も少なくはないようだ。
兎にも角にも、見せしめとしてはそこそこの効果を上げたと言えるのではないだろうか。
余興は終わり、後は夜会を存分に楽しんで欲しいと伝えて一旦下がろうとしたミリネとアイレーだが、大事な事を伝えていなかったと再度広間に向き直った。
「今日、この夜会に参加してない者にも是非伝えて欲しい」
「『真実の愛』で契約を破棄する前に、まずはわたくしの所に来てくださいませ」
わたくしの拳に耐えられる愛を見せていただければ、どんな無茶な婚約変更であってもわたくし達が味方になって万事整えて差し上げます。
以降、アイレーの治世が終わるまで、真実の愛を謳って婚約破棄がなされる事はなかったと言う。
尚、拳に耐えた『真実の愛』が存在したかどうかは残念ながら記録には残っていない。
連理の腕輪はパーティーグッズ
ディアン嬢は先に余興内容が伝えられていた&その後の対応が決まっていたので広間暗転後にさっさと帰路につきました、というのを入れる隙間がなかったので置いときます。




