「地球を救っても、家庭内問題が解決するとは限らない」
白い美貌に額を露わにした黒髪の一筋が落ち。
黒眸から、一筋の涙が零れ落ちる。
氷の美貌と、或いは無表情に揺れる感情をあえかにも零すことなく常に冷静にあるといわれるひとのその姿に。
闇に白い美貌が映え、一筋零れ落ちる涙はまるで珠玉のようにして。
――ちょっと、やばい、どうしよう、…っ!ジェシカに怒られる!
いまおれ、ちょっと本多ってきれいかも!とかおもっちゃった!と。
内心パニックなのを隠して、平気な振りして隣に立つ人物に向き合うのは、アメリカ合衆国海軍所属情報将校アレックス・ローズ少佐。
年齢にしては出世が鬼のように早い為、実年齢もとても若いが、外見年齢も若い栗毛に榛色の瞳をしたアレックスだが。
二人、夜道を歩きながら。
隣に立つ本多一佐を前に、かなりな動揺を憶えて両手をあげて。
「なにをしてる、アレックス」
怒ってその仕草をみる本多に、アレックス・ローズはいいわけをしていたのである。
「うん?これはね?降参っ、ていうポーズ?ホンダ、頼むから、そのダダ漏れな色気、しまってくれる?お願いだから?プリーズ?」
あやしい日本語と英語まじりでいうアレックスに、疑わしい視線を送る本多だが。
問題なのは、その鋭い黒眸に僅かにまだ涙がのっていて。白い美貌に額から落ちる黒髪と、きつく結んでいるくちびるの色気がつまり。
「…美人って、破壊力ツヨイ、…」
「何がだ、まったく!わかる日本語で話せ!」
鋭くいう本多がいわゆる八つ当たり、をしているのは理解できているのだが。
その点をいうなら、…――。
――エイリアンにも空気を読んで出て来てほしいよね?うん?
天を仰ぎ、そんなことを思うアレックス・ローズを知るのかどうか。
本多家の屋敷から夜道を歩きながら。
闇を歩く本多の姿が、白く玲瓏と美しいとか。
何より、先程から、怒りに任せているせいで。
「…だから、ホンダ、頼むからそのいろけをしまって、プリーズ、…」
闇夜に迎えに来ている米国と日本の関係者。護衛として就いているはずのかれらが気の毒になってアレックスがいうのだが。
うん、おれも両手をあけておかないとジェシカに怒られそうだもんね、…。
「だから、なにを訳の解らない話をいっている!こちらはな?…―――くそっ、…!」
ちら、とみて。
怒って拳を握っているホンダがとても危険なのに目をそらす。
―――怒ってる美人って、…しかも、ちょっとまた泣きかけてるし、…。
「ホンダ、プリーズ。たのむから、泣くのはヤメテ、ね?」
でないと、いま周辺にいるガードがかわいそうだから、と留めるアレックスを本多が睨む。
「だから、なにをだ!泣いてない!」
む、とくちをつぐんでいうのがとんでもない破壊力だ。
白い美貌で。これが王国とか騎士がいた時代なら、間違いなく傾国といわれただろう。
――ホンダ、男だけどね?
怒りで白い美貌に、なみだを浮かべている眦に紅がわずかに乗る。黒髪がはらりと額に落ちるさまと。
「…―――キケンすぎるって、…ホンダ」
つかれて、本多の肩に手を置いて。溜息をついて肩を落とすアレックスに。
「なにをしてる!はやいとこ、移動するんだろう!くそ、…でなけりゃ、――…」
堪えていたものが溢れ出すように。
くちをつぐみ、なみだを堪えるから。
鋭いまなざしが常の黒が揺れ、なみだが零れて。
白い美貌に、涙が零れ落ちるのを。
冷徹な氷をおもわせる美貌が堪えきれずに涙を零し、アレックスをみあげてくる。
―――えーっと、その?
「オレのリセイをためしてる?ホンダ?」
「誰の何の理性だ!そんなもの試すか!…――――うちの、うちの娘が!…娘が、形だけとはいえ!けいやく、…―――くそっ!なんで結婚なんか!!!」
おれはゆるしてない、…―――!
と、叫ぶのをこらえていう本多の黒眸に涙が零れて。
くちをむすんで本多がアレックスをみあげて訴える。
俯いて肩に額を押し当てて、怒りを堪えているらしき本多を抱き留めて。
――ジェシカ。ボクは、別に本多に何もしてません。それは、ちょっと、…美人だなーとか、おもっちゃったりしてるけど、…!
こちらからのガードとして就いている尾行の二人がちゃんと証言してくれるかな、と天を仰ぐ。米国側からのガードなら証言してくれるかも、とか。
ちなみに、ガードはアメリカ海軍側から二名。日本側からも何処の所属かは未確定だが二名だ。多分、お互いに人数を揃えているのだろう。
そんなことを思いながら。
肩に額をつけて、怒りを堪えている本多の身体にさわらないように両手をハングアップしてみせて。
――ボクは、ムザイです、ジェシカ。…
遠くアメリカにいる奥さんをおもう。双子の母となったジェシカは、確かに以前、本多のいっていた通り。
――ダイジョーブ、ホンダ。ニホンでなくても、オクサンが一番エライのはアメリカデモイッショダカラ…。
美人がすぎる本多一佐が、怒りを堪えようとするあまりに美人度が増してしまって。
――もう、何かホンダはキケン物のような気がする、…。
冷徹に普段、感情を見せないようにしている本多一佐。それでさえ、危険だというのに。
「…うん、見せたら、キケンだよね、…」
眦を流れる涙ひとつで、国が購えるだろう、とかいっていたある人物に同意してしまいそうなほどだ。
ともあれ。
「…ホンダ、お迎えが来たから、乗ろう」
「やっとか。…遅い!こちらは貴重な時間を使って、――――こんなことに時間を裂かれなければ、娘をっ、…!」
またキケン物になりそうな本多の肩に手をおいてなだめる。
「気持ちはわかるけど、」
「わかるのか?俺の気持ちが?娘を見合いの席に出して、それは仕方のないことだが、――本人の希望も、…――だが!それを、今度のあれがらみで席を外す必要が出来て、…―――そしたら、中の娘だぞ?まだ高校生だというのに、――――」
「…――ホンダ、」
「だというのに、あんな奴に!契約のみとはいえ、…!結婚だと?!なんでそんなことを、ゆるしてやらなくちゃいけないんだ、…!」
怒りに拳を握り、また涙が黒眸に零れて落ちそうな本多。
それに、アレックスは勇気を出して。
「でも、ホンダ。此処は行かないと、こっちもエイリアン対策しなくちゃ、だし?」
「――――エイリアンの野郎、…!処構わず出て来たりするから、こっちが対策をしなくてはならなくなるんだ、…!地球侵略?そんなもの、うちの娘が見合いをしていないときにやれ!」
「…――ソーだね、ホンダ、…うんうん」
カウンセリングの基本は、相手のいうことを否定しないこと、と。
ジェシカに聞いた心得を内心で復唱しつつ本多の話をアレックスが聞く。ちなみに、アレックスの妻はFBIの交渉官である。人質とか出たときに犯人と交渉するのが仕事だ。
「ダカラ、ホンダ。…はやくかえるために、エイリアンにも、カエッテもらおー?」
「…そうだな!アレックス。こちらの都合も考えず、地球侵略するとか、迷惑にも程があるというんだ、…!次元回廊をひらくのに地球が都合がいいとか、勝手な言い分を聞いていられるかというんだ!さっさとぶちのめして、戻ってくるぞ!ローズ!」
「うん、ホンダ、…ガンバロウ」
本多家の敷地は広い。
夜道を歩くと思えたのさえ、非常識に広い本多家敷地の一部で。
そして、その先にさらに広くひらけた一角は。
照明がきれいに線を描いている、ヘリポート。
個人の敷地にヘリポートがあるのは、アレックスが育った環境では普通だが。
そこに降りているブラック・ホークを前に、にこりとアレックスが笑む。
アメリカ海軍の誇る強襲用ヘリに、二人で乗り込んで。
そして、ヘリに乗りようやく普段の無表情に戻った本多に少しだけほっとしながら。それから、思っていた。
黒い幽霊ともいわれた強襲用ヘリに運ばれながら。
――ちょっと、今回のエイリアンは気の毒かもしれない、…。
あれは、本多一佐とアレックス・ローズが初めて出逢ったときのこと。
地球侵略にきたエイリアンという非常識な存在と第一次接近遭遇をして。
そして、何とか二人で退けることに成功した。
それが、いけなかったらしい。
つまり、あれから。
エイリアン案件が出る度に。
本多とアレックスの二人は世界中をエイリアン対策で呼び出される日々を送っているのである。
――ホンダの文句もわからないではないよね、…。
双子の誕生日なんていう大事なときに、カリフォルニアにエイリアンが次元回廊をあけて出て来た日には殺意を憶えた。
あのときは、ホンダが協力して、二人の誕生日ケーキを持っていく時間に間に合わせてくれたしね?
本当に、ホンダには感謝してるよね、と。
それをいくと、今回のホンダはかわいそうだよね、とおもう。
地球の危機なんて、本当にそこに転がっているもので。
エイリアンのひらいた次元回廊をつぶせるのが本多だけであり。
アレックスがその助手として、エイリアンの言語解析を担当している以上。
「…仕方ないんだけどね、…?」
本多は三人の娘をとても大事にしていて。
溺愛といっていいくらいで。
だというのに。
―――ごめん、ホンダ。
長女の見合いがある時間の少し前に、丁度、エイリアンが次元回廊をひらく兆候が察知されてしまったのだ。呼び出されて二人でそれを塞ぎ、でも完全ではないから監視をおいて。
その警戒している最中。民家の庭に―――オレゴン州のあまり人口が多くない地方だったのは幸運だったが、―――エイリアンが別の回廊をひらいてしまったのだ。
「もういい加減、倒すか、…―――交渉を開始したいよね?」
言語資料は集まってきている。
先方の都合で常に振り回されるのはやめておきたいよね?と。
ひそかに微笑むアレックスに、なにを思うのか白い無表情な美貌で本多一佐が冷たい視線を送ってくる。
「交渉だと?」
「なまぬるい?けどね、一応、あちらの方が科学技術的には上のようだしね?いろいろと、丁寧にお話し合いをして、わかってもらいたいな、とおもって?」
「…―――話し合いか」
「基本でしょ?」
「確かにな。…こんなことは早く終わらせるに限る。…アレックス」
「うん?」
本多一佐の冷えたまなざしに。
「娘の見合いに立ち会うことができず、この事態を招いた責任は必ず連中に取ってもらおう。―――アレックス」
「うん?」
そうだよね、とかジェシカ直伝の心理的対応法とかで答えているアレックスを冷たい視線で本多が見据える。
「おまえこそ、この件が長引くと結婚記念日に影響するぞ?はやく終わらせないと、次の週じゃなかったか?」
その本多の言葉にアレックスが愕然とする。
「…――ホンダ、…そうだった、プリーズ、…エイリアンとこーしょーなんてしてる場合ジャナイヨネ?破壊していい?向こうにあるエイリアンの基地?ゼンブ、消し飛ばす?」
謎の日本語もどきと英語でパニックになりながらいうアレックスに、本多一佐がしずかにいう。
「そういうことだ。おまえも、地球を救う程度のことでは家庭の問題を解決できないのは身に染みただろう?だから、今回のエイリアンの件は最速で片付ける。いいな?」
「うん、ホンダ、ヨーク、わかった!ジェシカ大事だからね!…結婚記念日、…やっと結婚してもらったっていうのに、―――ジェシカにフラレル!」
蒼白になっているアレックスに、本多一佐がしみじみと頷く。
「そう、地球を救ったくらいではゆるしてもらえないからな、…。何しろ、」
うちの奥さんは、世界を何度も救ってるからな、…と。
しみじみと夜の海をみながら、空母へと着艦するライトの合図をみる。
エイリアンから地球を救おうと、家庭内問題が解決するわけではけしてない。
「…――はやく片をつけて、戻る」
そうして、契約結婚を無事解消させる為にがんばらなくては、と。
誓っている本多一佐だが。
何はともあれ。
「今度の回廊は、オレゴン州の民家と、ハワイ沖の海底をつないじゃってね?」
「だから、海から行くのか」
「ソーダヨ!海から逆に回廊を辿る。そして、途中にあるはずのエイリアンの中継基地を潰す」
「貴軍の海軍と海兵隊の協力には感謝する」
「公海上だけど、うちの領海が近いしねー」
一路、アメリカ海軍所属空母に乗り、アレックス・ローズ少佐と本多一佐はエイリアン対策の為に活動を開始する。
エイリアンを倒して最速でそれぞれの家族のもとに戻る、と決意して。
そう、確かに。
エイリアンをたおして地球を救っても、それだけで家庭問題は解決しないのである。
結婚記念日をスルーなんてすることになったら。―――
そんなサムイこと、考えたくないもんね?
だから、エイリアンにはわるいけど、いなくなってもらうし!と改めて決意しているアレックス・ローズ少佐と。
そして、娘の契約結婚などという巫山戯た事態を絶対になくしてみせる!と悲愴な決意をしている本多一佐。
二人が、エイリアン対策の名コンビとして地球で知られている理由。
それが何となくわかるような二人の思考だが。
ともあれ。
地球を救っても、家庭内問題が解決するとは限らない。
その事実を胸に、アレックス・ローズと本多一佐は、今日も今日とて
エイリアンによる地球侵略から地球を護る為に駆り出されるのであった。―――
がんばれ、アレックス。
がんばれ、本多。
地球を救っても、奥さんに会ってもらえなかったり。
結婚式に間に合わなくなりそうで、結婚を取り消されそうになったり。
色々しながら、かれらもがんばっているのである。
そんな、アレックス・ローズと本多一佐の二人を乗せて。
一路、空母ミッドウェイは夜の海を、ハワイ沖を目指し急ぎ航行している。
エイリアンが開いた次元回廊、その開口部を遮断し地球侵略を止める為に、今日もかれらは闘うのである。――――
地球を救っても、家庭内問題が解決するとは限らない。
ENDE
色々と台無しな感じの本多です
おかしい…普通に他の話では美形で格好良い一佐何ですが




