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婚約破棄された公爵令嬢は、偽りの魔王を討ち果たす ―クズ王子に転生した俺、世界を騙して君を救う―  作者: ぱすた屋さん


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第27回:システム警告。これ以上、彼女を助けられません




 視界が、真っ赤な警告色で埋め尽くされている。

 王宮の執務室、ミリアの冷たい肌の感触を背中に感じながら、俺は意識の深淵で絶叫に近い警告音を聴いていた。


 これまでの遠隔デバッグは、いわば「小細工」だった。

 摩擦係数を変える、重力をわずかに弄る。それらは世界の理の範疇で説明がつく「誤差」として処理されていた。

 だが、今、エリザベートを狙う残りの暗殺者二人は、その誤差さえも技術でねじ伏せようとしている。


(クソ、あいつら……滑る地面を逆に利用して加速しやがった。ナイフが飛ばなきゃ、直接喉を掻き切ればいいってか。流石はプロだ、対応が早すぎる!)


 エリザベートはバルムンクを構え、必死に猛攻を凌いでいる。

 だが、多勢に無勢。暗殺者の連携は、彼女の未熟な剣筋を確実に追い詰めていた。

 俺は焦り、さらに深い階層のコードへと手を伸ばす。


(だったら、あいつらの存在そのものを「一時停止」させてやる! 全パラメータを強制的にゼロに――)


 その思考が形になるより早く、脳内に雷が落ちたような衝撃が走った。


【緊急警告:システム許容限界を超えた干渉を検出】

【判定:プレイヤーによる世界法則の過剰な破壊行為と見なします】

【ペナルティ:これ以上の直接介入は、プレイヤーの存在消失デリートを招きます】


 目の前の透過ウィンドウが激しく点滅し、「アクセス拒否」の文字が並ぶ。

 俺の指先が、ガタガタと震え始めた。


「……あ……っ、が……」


 喉の奥からせり上がるのは、鉄の味だ。

 胃に穴が開くどころの話じゃない。全身の血管が、内側から高圧洗浄機で洗われているような激痛が走る。


「ヴィンセント様? どうかなさいましたの? そんなに震えて……まるで、誰かに首を絞められているみたいですわ」


 ミリアが俺の首筋に指を添える。

 その指先から流し込まれる彼女の魔力が、デバッグで疲弊した俺の精神を泥のように汚していく。

 助けたい。だが、システムが俺の手を弾き飛ばす。


(嘘だろ……。ここで見捨てろってのか? 俺が、俺だけが、彼女を救えるはずなのに!)


 画面の中、暗殺者の短刀がエリザベートの脇腹を狙って閃いた。

 彼女は辛うじて避けるが、バランスを崩して雪原に倒れ込む。

 万事休す。暗殺者が死神のように彼女を見下ろし、止めの一撃を振り上げた。


(動け……動けよ、俺の権限! 何がデバッグアイだ! 何が最強スキルだ! 推しの一人も救えないで、何が管理者だよ!)


 俺は心の中で、自分を縛るシステムの鎖を無理やり引きちぎるイメージを重ねた。

 肉体が壊れてもいい。意識が消えてもいい。

 彼女が生き残るなら、俺の全てを代償に差し出してやる。


 その瞬間。

 脳内のノイズがピタリと止まり、無機質な音声が響き渡った。


【累計デバッグ経験値が規定値に達しました】

【デバッグアイ:レベルアップ】

【新権限解放:パッチ・アップグレード】

【既存の「バグ」を「仕様(仕様外動作)」として恒久化する権限が付与されます】


 視界が、青から白銀の世界へと塗り替えられる。

 レベルアップによる全MPの強制回復。

 そして、これまでのように「一時的な数値の書き換え」ではなく、世界そのものに新しいルールを「追記」する力が、俺の右目に宿った。


(……これなら、いける。システム、警告なんて無視だ。これはバグじゃない。俺が決めた新しい「仕様」だ!)


【パッチ適用:聖なる加護の誤発動】

【内容:対象「エリザベート」の周囲において、殺意を伴う物理エネルギーを、全て「回復魔力」に変換するバグを仕様として固定】


 暗殺者の刃が、エリザベートの胸元に突き立てられた。

 だが、肉を裂く音はしなかった。

 刃が触れた瞬間、まばゆい光が溢れ出し、エリザベートの疲労と傷が一瞬で癒えていく。


「……な、何だこれは!? 刺したはずだぞ!」


 驚愕する暗殺者を余目に、エリザベートは力強く立ち上がった。

 彼女の手に握られたバルムンクが、これまでで最高の輝きを放つ。


「分からないけれど……今の私は、負ける気がしないわ!」


 一閃。

 光の軌跡が暗殺者たちを吹き飛ばした。


 執務室の俺は、崩れ落ちるようにソファに体を預けた。

 鼻からも、目からも、耳からも、微かに血が流れている。

 だが、唇は笑っていた。


「……ふふ。……ざまあ、見ろ……」


「ヴィンセント様? 何がそんなにおかしいのですか?」


 ミリアが不気味なほど冷たい声で問いかける。

 彼女の放った暗殺者が敗北したことを、彼女もまた感知したのだろう。


「……いや。……あの女が、あまりにも『しぶとい』のが、可笑しくてな。……ミリア、君の影も、案外大したことはなかったようだ」


 俺はミリアを挑発するように睨みつけた。

 彼女の顔から笑みが消え、部屋の空気が凍りつく。


 デバッグアイ、レベルアップ。

 だが、それは同時に、俺が「人間」からさらに遠ざかったことを意味していた。


【デバッグアイ:レベル2】

【レベルアップまで残り:二千】

【身体侵食率:五パーセント】


 俺は、震える手でミリアの頬を撫でた。

 愛している。そう嘘を吐くたびに、俺の魂はバグに蝕まれていく。

 けれど、それでいい。

 彼女が勇者になるための時間は、俺が命を削って買い叩いてやる。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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