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婚約破棄された公爵令嬢は、偽りの魔王を討ち果たす ―クズ王子に転生した俺、世界を騙して君を救う―  作者: ぱすた屋さん


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第24回:辺境の魔物は、俺が事前に弱らせておきました




 王都から離れた場所を走る豪華な馬車の中。

 俺は聖女ミリアを膝の上に乗せ、彼女の機嫌を取りながら、意識の半分をデバッグアイの深層へと沈めていた。


 ミリアは俺の胸に顔を埋め、獲物の断末魔を待つ捕食者のような、静かな期待に満ちた声を出す。


「ねえ、ヴィンセント様。離宮に逃げ込んだあの方……もうそろそろ、外に溢れる魔物たちに引き裂かれてもいい頃ではありませんこと?」


「ああ、もちろんだ。離宮の周囲には、この季節に最も狂暴化するフロスト・ジャイアントの群れを呼び寄せておいた。あいつらの硬い皮膚と、家を一軒粉砕する氷の棍棒の前では、あんな女の剣など枝切れも同然だよ」


 俺の言葉に、ミリアは幸せそうに身を震わせる。


 だが、俺の視界裏では、凄まじい速度でシステム・ログが更新されていた。


(やらせるかよ。フロスト・ジャイアント? ああ、確かに呼び寄せた。だが、あいつらのスペックは今、俺の手によって徹底的にデバッグ済みだ!)


【デバッグアイ:遠隔広域ハック実行】

【対象:北方離宮周辺フロスト・ジャイアント全個体】

【項目:最大HP 9999→1】

【項目:物理防御力 500→-1000】

【状態:エリザベートに対し、全個体への【極度の威圧感】を付与】


(よし。見た目は巨大で恐ろしいままだが、中身はもう、叩けば割れる薄焼きせんべい以下だ。エリザベートがバルムンクを一振りすれば、勝手に爆散して経験値に変わる仕様にしてやったぞ)


 脳が焼けるような熱気。システムを広域で書き換え続ける負荷は、俺の肉体を着実に蝕んでいる。


 鼻から垂れてくる熱い液体を、俺はミリアに気づかれないよう、馬車の暗がりに紛れて袖で拭った。


「……あ。見てごらんなさい、ヴィンセント様。あの方が……出てきましたわ」


 ミリアが指差す遠視の水晶球の中。

 離宮の重い扉を開け、エリザベートが姿を現した。


 彼女の隣には、ポーションの瓶を抱えたレティシアが寄り添っている。


 エリザベートの瞳には、かつての絶望は微塵もない。バルムンクの光を反射させ、彼女は目の前に立ちふさがる見かけ倒しの巨人たちを見据えた。


「道を開けなさい。私は、こんなところで立ち止まっている暇はないの!」


 エリザベートが剣を薙ぐ。

 本来なら、巨人の足首を掠めるのが精一杯の距離。


 だが、彼女の剣先が空を切った瞬間、巨人は「うわあああ!」と言わんばかりのオーバーな動作で、自ら四散して消滅した。


「……え? な、何が起きたのです!? 今、かすってもいなかったはず……!」


 ミリアが驚愕して水晶球に顔を近づける。

 俺は必死に胃液を飲み込み、冷酷な笑みを貼り付けた。


「ハハッ。見ろよミリア。あいつ、あまりの恐怖に理性を失って、自らの生命力を魔力に変換して剣に乗せているんだよ。捨て身の特攻さ。ああ、滑稽だ。命を削って、一時的な無双を楽しんでいるだけだよ」


「そうなのですか? ……まあ、それならいいですけれど。でも、次々と巨人が倒れていくなんて……」


(嘘だよ、全部俺のデバッグだよ! 実際には、巨人の被弾判定ボックスを十倍に広げて、彼女が剣を振るだけで当たるように設定したんだ!)


 次々と巨人が消えていく。

 エリザベートは、自らの手に入れた力に驚きながらも、迷いなく吹雪の先へと突き進んでいく。


【対象:エリザベート】

【獲得経験値:大量(ボーナス適用済み)】

【レベルアップ:Lv.25→Lv.30】

【称号:巨人殺し(見かけ倒し)を獲得】


(よっしゃ。これで、彼女はもうただの令嬢じゃない。魔王である俺を討つための、真の勇者としてのステータスを手に入れつつある)


 その時。

 ガクン、と馬車が揺れた。

 同時に、俺の意識が激しく点滅する。


 過労とMP枯渇。そしてシステムの拒絶反応が、限界値に達した。


「……が、……ッ」


 俺は、ミリアの膝に顔を伏せたまま、激しく吐血した。


「ヴィンセント様!? また……! やはり、お体の具合が……」


「……く、くく……。いや、違うんだ、ミリア。あいつが……あんなに鮮やかに、俺の用意したおもちゃを壊すから……。あまりの屈辱に、血管が、はち切れそうなんだよ……ッ!!」


 俺は血に濡れた顔を上げ、狂ったように笑ってみせた。


 ミリアは一瞬たじろいだが、その俺の狂気に魅了されたのか、うっとりと頬を染めて俺の顔を両手で包み込んだ。


「……まあ。そこまで悔しがってくださるなんて。ああ、ヴィンセント様。貴方のその悪としての執念……本当に、ゾクゾクするほど愛していますわ」


 彼女は俺の口元の血を、自分の指で拭い、それを舌で舐めとった。


 吐き気がする。だが、これが必要なデバッグ維持活動だ。

 彼女の支配欲を満たし、疑念を逸らす。


 その代価として、俺の寿命が数年削れようが、構わない。


(エリザベート。巨人は片付けた。次は、王都から放たれる暗殺者だ。そいつも、俺が事前に調整しておいてやるからな)


 俺は意識が遠のく中で、水晶球の中に映る彼女の背中を見つめ続けた。


【デバッグアイの経験値を獲得】

【レベルアップまで残り:五十】


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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