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婚約破棄された公爵令嬢は、偽りの魔王を討ち果たす ―クズ王子に転生した俺、世界を騙して君を救う―  作者: ぱすた屋さん


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第21回:聖女の視線が痛い。でも俺は彼女を監視する




 騎士団が「謎の迷走」の末に疲弊して帰還してから、王宮の空気は一変した。

 無能を晒した騎士たちは再教育という名の拷問にかけられ、王宮の廊下には常に誰かの啜り泣きや、ミリアを讃える狂信的な詠唱が響いている。


 そんな狂気の中心で、俺は今、人生最大の危機に直面していた。


 ――視線が、痛い。


 ミリアが、俺の隣で黙ったまま、じっと俺の横顔を見つめている。

 いつもなら「ヴィンセント様、大好きよ」と絡みついてくるはずの彼女が、今日は一言も発さず、ただ獲物を観察する蛇のような瞳で俺を射抜いているのだ。


(……マズい。マジでマズいぞ。あの『迷子デバッグ』、騎士団の動きがあまりに不自然すぎたか。……ミリアの奴、俺が何かを仕組んだんじゃないかと疑い始めてやがる)


 俺の心臓は、全力疾走した後のように激しく鼓動していた。

 だが、俺は優雅に紅茶を啜り、窓の外を眺めるポーズを崩さない。

 ここで動揺を見せれば、その瞬間に「パージ」される。


(……見られてるだけじゃ終わらせない。デバッグアイ、逆監視カウンター・モニタリング起動。ターゲット、ミリア。彼女の『疑念値』と『思考ログ』を抽出せよ)


 脳が焼けるような痛みに耐えながら、俺は視線の主へとハックを仕掛ける。

 ミリアの周囲に、俺にしか見えない不気味な赤黒いウィンドウが展開された。


【対象:ミリア(精神寄生体・幼体)】

【状態:疑念(高)、思考演算中】

【思考ログ:……おかしい。ヴィンセントの心拍数は安定している。……でも、あの騎士たちの不自然な回帰。……彼らの脳に直接『座標バグ』が起きたような感覚。……もし、ヴィンセントが『自分システム』の一部を掌握しているとしたら……?】


(……ヒエッ。バレかかってる! こいつ、勘が良すぎるだろ! 寄生体のくせに論理的思考までしやがって!)


 俺は冷や汗を流しそうになるのを、デバッグスキルの『汗腺制御』で強引に抑え込んだ。

 ミリアの視線は、今や俺の皮膚を焼き、筋肉を突き抜け、骨の髄まで暴こうとしているかのようだ。


 沈黙が、永遠のように続く。

 やがて、ミリアがゆっくりと口を開いた。


「ねえ、ヴィンセント様。……貴方は、私のことをどう思っているのかしら?」


 試すような、冷たく甘い問い。

 俺は紅茶を置き、彼女の方を向いた。

 彼女の赤い瞳の奥で、無数の触手がうねり、俺の「嘘」を待ち構えているのが見える。


「……愚問だな、ミリア。君は俺の女神であり、俺のすべてだ。……最近の俺が少し浮かない顔をしているように見えるなら、それはあの騎士どもの無能さに腹が立っているからだよ。……君の望むエリザベートの死を、あんな無能どもに任せた俺の失策だ」


 俺は立ち上がり、彼女の目の前に跪いた。

 そして、その冷たい手を取り、手の甲に深く、執着に満ちたキスを落とした。


(デバッグアイ! 俺の『表情データ』に強烈なノイズを混ぜろ! ミリアへの『狂気的な愛』と、エリザベートへの『剥き出しの殺意』……この二つを混濁させて、思考を読み取らせるな!)


 脳内に電気ショックのような痛みが走る。

 システム・ディレイ、零コンマ零五秒。

 俺はその一瞬に、俺の精神構造を「ミリアさえも恐怖するレベルのクズ王子」へと書き換えた。


「……あんな女、早く消えてしまえばいい。……ミリア、君の視線が痛いよ。……疑われているのだとしたら、いっそ君の手で俺を壊してくれないか? 君に疑われながら生きるなど、俺には耐えられない」


 俺の瞳に、わざとらしいほどの「狂気」を宿らせて彼女を見上げる。

 ミリアの思考ログが、激しく乱れた。


【思考ログ:……ああ、やっぱり。……この男の心は壊れている。……私への執着で、ドロドロに溶けている。……疑うだけ時間の無駄かしら。……こんなに汚くて、美しい魂、私以外には飼い慣らせないもの】


 ミリアの顔に、いつもの蕩けるような微笑が戻った。

 彼女は俺の髪を優しく撫で、その指先を俺の唇に這わせた。


「ふふ、ごめんなさい、ヴィンセント様。……貴方の愛が深すぎて、つい試したくなってしまったの。……ええ、信じているわ。貴方は私の、最高の下僕(お気に入り)ですものね」


 彼女の影から伸びた触手が、満足げに俺の首筋をなぞる。

 危機は去った。

 だが、俺のMPはほぼゼロになり、内臓はズタズタだ。


(……助かった。……でも、もう限界だ。監視されているのは俺だけじゃない。……俺も、お前の『綻び』をずっと見てるからな、ミリア)


 俺は彼女を抱き寄せながら、デバッグアイで彼女の「エネルギー残量」を確認した。

 度重なる広域魅了と、俺への精神干渉。

 ミリア自身の負荷も、着実に積み重なっている。


【対象:ミリア】

【リソース消費率:上昇中】

【支配スロットの安定度:微減】


(……少しずつ、ズレてきてる。……このままエリザベートが強くなれば、必ず逆転のチャンスが来る)


 視界の端で、エリザベートの現在地を映す。

 彼女は俺の「迷子デバッグ」のおかげで稼いだ時間で、新しい拠点を見つけ、バルムンクを磨いていた。

 その瞳は、もはや折れることのない剣のように鋭い。


【デバッグアイの経験値を獲得】

【レベルアップまで残り:二百】


 俺は吐き気を押し殺し、ミリアの耳元で愛の言葉を囁き続けた。

 監視し、監視される、終わりなき地獄。

 それでも、俺が彼女を救うための「壁」であり続ける限り、このゲームにバッドエンドは訪れさせない。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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