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婚約破棄された公爵令嬢は、偽りの魔王を討ち果たす ―クズ王子に転生した俺、世界を騙して君を救う―  作者: ぱすた屋さん


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第18回:彼女が拾った伝説の剣は、俺の隠し財産です




 ブラッド・ウルフの群れを「超低攻撃力化」という力技で無力化し、エリザベートのレベルアップを遠隔で見守ってから数時間。


 俺の脳は、MPの過剰消費とミリアによる精神侵食のダブルパンチで、焼けるような熱気を持っていた。


(……ハァ、ハァ……。頭が重い。目を開けているだけで視界にノイズが走る。だが、ここで休むわけにはいかないんだ。……なんせ、今の彼女には『牙』が足りない。あんな果物ナイフみたいな短剣じゃ、この先の魔境は突破できないんだよ)


 俺は王宮の宝物庫へと足を運んでいた。

 隣には、当然のようにミリアが寄り添っている。

 彼女は俺の腕に指を絡ませながら、不気味に静まり返った宝物庫の内部を眺めていた。


「ヴィンセント様、こんな埃っぽい場所に何の用ですの? 私、もっとキラキラした宝石が見たいわ」


「……ふん、宝石などいつでも手に入るさ、ミリア。……今日は、王家に伝わる『粗大ゴミ』を処分しに来たんだよ。見ろ、あそこにあるボロボロの長持ながもちを」


 俺が指差したのは、宝物庫の最奥、何十年も開けられた形跡のない、錆びついた鉄の箱だった。

 ミリアは興味なさそうに鼻を鳴らす。


「まあ、本当に汚らしい。……それが何か?」


「王家の恥部だよ。……かつてアルトワ家が王家に献上したという伝説の剣『バルムンク』だ。……だが、今となっては魔力も枯れ果て、ただの錆びた鉄屑に成り下がっている。……置いておくだけで不快なんだよ」


 俺は冷酷に言い放ち、デバッグアイを起動した。

 俺の網膜だけに映し出される、真実のステータス画面。


【名称:魔剣バルムンク(真名:太陽の審判)】

【状態:偽装・封印(座標固定中)】

【真のスペック:物理攻撃力+999、全属性耐性+50%】

【現在的外観設定:[錆びた鉄板]】


(……よし。こいつの『外見データ』だけをゴミとして上書き固定してある。聖女の鑑定スキルですら、これを見抜くことはできないはずだ)


 この剣は、ゲーム『深愛のユートピア』における最終盤の最強武器の一つだ。

 本来なら勇者が数々の試練を越えて手に入れるものだが、実はこの世界では「王家の倉庫でゴミ扱いされている」というバグじみた裏設定があった。


 俺はミリアに向かって、歪んだ笑みを浮かべて見せる。


「ミリア。……あの女、エリザベートは、まだ自分の家柄に誇りを持っているようだ。……なら、そのプライドを象徴するこの『ゴミ』を、彼女の元へ送り届けてやろうじゃないか」


「あら……? どういうことですの?」


「追放された彼女に、かつての家の栄光であったはずの剣を『恵んで』やるのさ。……もちろん、中身はただの錆びた棒だ。……『これがお前らの家の今の姿だ』という手紙を添えて、彼女の進行ルートにある廃坑に、あたかも『誰かが隠して忘れた遺失物』のように配置させる」


 ミリアの赤い瞳が、嗜虐的な喜びで細まった。


「……まあ! ヴィンセント様、本当に性格が悪いですわ! かつての宝がゴミだと突きつけるなんて……。あの方がそれを握って絶望する姿、ぜひ見てみたいですわね!」


(……交渉、成立。……これで、最強の武器を彼女の手に渡す正当な理由ができた)


 俺はすぐに、王宮の隠密部隊――もちろん、俺がデバッグで「忠誠心のパラメータ」を自分だけに向けさせた極秘の工作員を呼び出した。


「おい、このゴミを持って北の『嘆きの廃坑』へ行け。……あそこにはエリザベートが今夜、避難するはずだ。……一番目立つ場所に置いてこい。……いいか、絶対に『王宮からの荷物』だとは悟られるな。……彼女に『幸運にも自力で見つけた』と思い込ませるんだ」


 ミリアの目の前では「嫌がらせ」として命令を出し、実際の手順では「彼女の希望」として配置させる。

 俺は鼻血を啜り、ミリアに抱きつかれながら、遠隔視の水晶球を起動した。


 デバッグアイの補正映像。

 エリザベートは、寒さと空腹に耐えながら、目的の廃坑へと辿り着いていた。

 彼女は震える手で焚き火をおこし、奥まった場所で横になろうとして……。


 そこに、不自然に置かれた錆びた鉄箱を見つけた。


『……何、これ。……鍵が、壊れている?』


 彼女がゆっくりと箱を開ける。

 中には、ボロボロの布に包まれた、ひどく錆びついた剣が入っていた。

 ミリアはそれを見て、ケタケタと笑い声を上げる。


「あはは! 見てくださいな、あの期待に満ちた顔! ……中身がそんな汚物だと知ったら、どんな顔をされるのかしら!」


 だが、画面の中のエリザベートは、笑わなかった。

 彼女はその錆びた剣を、震える手で、まるで壊れ物を扱うように大切に抱きしめたのだ。


『……これ、知ってる。……お父様が、ずっと探していた……。アルトワの……守護の剣……』


 彼女の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

 それは絶望の涙ではない。

 かつての家族の温もりを、世界から拒絶された地で見つけた、再生の涙だった。


(……そうだ、エリザベート。……それは君の剣だ。……今はただの錆びた棒に見えるだろうけど、俺がタイミングを見て、その『封印設定バグ』を解除してやる)


 俺はミリアの肩に腕を回し、彼女の耳元で囁いた。


「見ろよミリア、あんな鉄屑を大事そうに抱えて。……あいつ、本当に壊れてしまったらしい。……ゴミを神様のように崇めている。……滑稽すぎて、涙が出るよ」


「本当ですわね、ヴィンセント様。……ああ、美味しい。あの方の狂った希望が、最高の調味料になりますわ」


 ミリアが俺の首筋に深く、熱い吐息を吹きかける。

 俺の心臓は激しく波打っていたが、それは彼女への恐怖ではなく、エリザベートが「牙」を手に入れたことへの、狂おしいほどの喜びによるものだった。


【対象:エリザベート】

【装備:錆びた鉄の棒(真名:バルムンク)】

【状態:精神的支柱の獲得、士気の大幅上昇】


(……次は、その剣の『封印』を、ミリアに気づかれないように解除しなきゃな。……そのためには、俺のMPをまたごっそりと生贄に捧げる必要がありそうだが)


 俺は、視界が白黒に明滅するのを必死に堪えた。

 エリザベートが剣を腰に差し、真っ直ぐな瞳で暗い廃坑の奥を見据える。

 その凛々しい姿に、俺の魂は震えた。


 見てろよ、バケモノ。

 お前が「絶望の種」だと思って蒔いたそのゴミは、いつかお前の心臓を貫く「希望の剣」に変わるんだ。


 俺は笑った。

 世界で一番最低なクズ王子の顔で、最高に愉快なハッピーエンドを夢見て。



【デバッグアイの経験値を獲得】

【レベルアップまで残り:三百五十】


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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