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婚約破棄された公爵令嬢は、偽りの魔王を討ち果たす ―クズ王子に転生した俺、世界を騙して君を救う―  作者: ぱすた屋さん


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第12回:クズ王子を演じるための「正しい」振る舞い方



 第二王子のカイルまでが陥落したことで、王宮内の空気はもはや「平和な日常」を通り越して「狂信的なカルト教団の総本山」のような有り様になっていた。

 どこを歩いても虚ろな目の騎士がミリアを讃える詩を口ずさみ、侍女たちは彼女の足元を清めるために、一日に何度も廊下を磨き上げている。

 そんな狂った城の頂点に君臨する聖女ミリアの隣で、俺は今日も今日とて「最低最悪のクズ王子」という大役を演じ続けていた。


(……ああ、肩が凝る。精神的な意味で。カイルの奴、魅了されてからというもの、隙あらば俺より先にミリアの靴を磨こうとするから、こっちも対抗してクズっぽい独占欲を演じなきゃならない。一人の化け物を二人の王子が取り合う図面なんて、普通の乙女ゲームなら眼福だろうけど、現実は地獄の介護施設ですよこれ)


 俺は豪華なソファにふんぞり返り、ミリアが剥いてくれた葡萄を「あーん」と口に運ばれながら、内側では必死にデバッグ画面のデータを整理していた。

 ミリアは上機嫌だ。カイルという新しいスロットを埋めたことで、彼女の支配領域はさらに安定し、俺の首筋に刺さった触手からも、以前より余裕のある「満足感」が伝わってくる。


「ねえ、ヴィンセント様。カイル様も加わって、私たちの毎日がもっと楽しくなりましたわね。次は誰を私たちの『お友達』に誘おうかしら?」


「そうだね、ミリア。……だが、あまり他の奴らに構いすぎて、俺への愛を疎かにしないでくれよ。俺は君を独り占めしたいんだ。他の男が君の視界に入るだけで、腸が煮えくり返るほど不快なんだよ」


 俺の声が、嫉妬に狂ったクズの響きで部屋を満たす。

 心の中では「どうぞどうぞ、他の奴のところに行ってください。俺のMPを吸うのを止めてください」と土下座しているが、演技に妥協は許されない。

 ミリアは俺の言葉に「まあ、独占欲の強い殿下も素敵!」とはしゃぎ、俺の首に腕を回してきた。

 

(……よし、聖女様の機嫌は最高潮だ。ここらで『仕事』の許可をもらうか)


 俺は彼女の指先を愛おしそうに弄りながら、さも思いついたかのように切り出した。


「ところで、ミリア。……例のエリザベートの資産没収だが、まだいくつか未処理の品があるんだ。アルトワ公爵家の地下倉庫に、魔力耐性の高い『使い古された外套』や、不味すぎて家畜も食わないような『保存食の山』があってね。あんなゴミ、王宮の帳簿に乗せるのも汚らわしい。俺が適当に処分しておいてもいいかな?」


 ミリアは興味なさそうに首を傾げた。


「ゴミ? ふふ、ヴィンセント様がそう仰るなら、本当に価値のないものなのでしょうね。好きになさって。……でも、そんなことより私と遊んでくださらない?」


「もちろん、すぐ終わらせるよ。あんな女の残骸なんて、一刻も早く視界から消してしまいたいからね。……そうだ、その『ゴミ』を彼女が向かっている北の国境へ向けて、あえて『不法投棄』させてはどうだろう。自分の持ち物がゴミとして道端に捨てられているのを見れば、あいつも自分の立場をより深く理解するだろう」


 俺の提案に、ミリアの赤い瞳が愉快そうに細まった。

 彼女はこういう「他人の尊厳を踏みにじる演出」が大好物だ。


「まあ、素晴らしいアイデアですわ! ヴィンセント様、本当に意地悪。うふふ、エリザベート様、どんなお顔をするかしら。……ええ、許可しますわ。好きに捨てていらっしゃい」


(……交渉成立。これぞ、クズ王子による『正しい』振る舞い方。悪意を装えば、慈悲を通せる)


 俺は「ありがとう、俺の女神」と彼女の額にキスをし、ようやく「事務作業」という名目の自由時間を手に入れた。


 自室に戻り、扉を施錠した瞬間、俺はデスクに向かってデバッグアイを全開にした。

 視界が青いノイズに覆われ、財務局の資産リストが展開される。

 俺が言った「ゴミ」の正体は、もちろんゴミではない。


【名称:極北仕様の対魔魔導外套(品質:最上級)】

【状態:未鑑定(表面上は『カビの生えた古布』に偽装中)】

【解説:かつてアルトワ公爵家が北方の防衛に従事していた時代の秘蔵品。氷結耐性九十パーセント】


(よし……。これを『廃棄物』として登録する。デバッグ権限行使! 品目名を『汚染された雑巾』に書き換え、さらに処分理由を『第一王子の不快感による即時廃棄』に設定)


 カタカタと、脳内でキーボードを叩くような感覚。

 システムの検閲が入り、警告灯が点滅する。


【警告:アイテムの価値と処分理由に著しい乖離があります。修正を推奨します】


(知るか! 俺はクズなんだよ! クズっていうのは、一千万ゴールドの国宝を『色が気に入らない』という理由で便所に流すような生き物なんだ! 俺がゴミだと言ったら、それは世界一のゴミなんだよ!)


 俺はシステム・ディレイの零コンマ零五秒を利用して、無理やり承認ボタンを連打した。

 ヴィンセントの「我儘な王子の人格」という皮を被ることで、システムは「ああ、こいつは本当に馬鹿なクズなんだな」と判断し、本来なら通らないはずの理不尽な処理をパスさせる。


【判定:第一王子の『性格的欠陥』による手続きとして受理。廃棄を実行します】


(……よっしゃあ! パスした! 性格的欠陥、万歳!)


 俺は拳を握りしめた。

 続いて、大量の高栄養保存食を「賞味期限切れの汚物」として登録し、輸送ルートをエリザベートが今夜到着するはずの廃屋付近に設定する。

 表面上の手続きは「追放した女をさらに精神的に追い詰めるための、ゴミの投げつけ」だ。

 だが、その中身は、彼女が北国の冬を越すために必要な命の綱。


 俺はふらつく足取りで椅子に座り込み、MP回復薬代わりの苦い茶を飲み干した。

 精神を削って数値を弄り、聖女の前でデレデレし、財務局の役人を怒鳴りつける。

 これが俺の、世界を救うための「正しい」振る舞いだ。


 ふと、窓の外を見ると、中庭でレティシアがこちらを見上げているのが見えた。

 彼女の瞳には、まだ不安と、そして俺が先日囁いた「信じろ」という言葉への迷いが同居していた。

 俺はデバッグアイで彼女の周囲を確認し、監視の目が薄いことを確かめると、一瞬だけ、窓越しに不器用なピースサインを送った。


 レティシアが目を見開いて絶句し、すぐにパッと顔を赤くして、嬉しそうに走り去っていく。

 ……よかった。彼女が正気でいてくれることが、今の俺の唯一のセラピーだ。


 視界の端で、エリザベートの現在地をモニターする。

 彼女は今、北風が吹き荒れる国境の関所付近にいた。

 そこで、彼女を監視する兵士たちが、俺の命令通りに「ゴミ」を彼女の足元に投げ捨てたのが見えた。


『おい、エリザベート! 殿下からの追記だ。お前にはこんなゴミがお似合いだとよ!』


 兵士が笑いながら、最高級の外套(ゴミ偽装済み)を雪の中に放り出す。

 エリザベートは、それを汚らわしいものを見る目で一度見つめ……。

 だが、その隙間に隠された「俺の手紙」の続きに気づいたらしい。


 彼女は震える手で、その「ゴミ」を拾い上げた。

 

【対象:エリザベート】

【思考:……温かい。……どうして。これ、お父様が大切にしていた、あの……】


(そうだ、エリザベート。それは君を守る盾だ。……兵士に何を言われてもいい。君が生き延びて、いつか俺の首を刎ねに来てくれれば、それでいいんだ)


 俺は画面を閉じ、再び冷酷な王子の仮面を深く被った。

 扉の外では、カイルが「ヴィンセント兄様! ミリア様がお呼びです!」と、元気いっぱいに俺を呼びに来た。


(……はいはい、行きますよ。またあの地獄の『どっちがミリアを愛しているか選手権』をやるんだな。受けて立ってやるよ。俺のMPが尽きるまで、たっぷりとクズの演技を見せつけてやる)


 俺は鏡の中の自分の醜悪な笑みを確認し、堂々と部屋を出た。

 デバッグアイの経験値が、微かに、けれど確実な音を立てて積み上がっていく。


【スキル:デバッグアイの経験値を獲得】

【レベルアップまで:残り650】

【現在のシステム・ディレイ:0.05秒】


 道のりはまだ長い。

 けれど、俺は止まらない。

 この孤独なハッキングが、いつか世界を覆すその日まで。


 次は、あの第三王子……インテリ眼鏡の弟がミリアの毒牙にかかる前に、何かしらの「バグ」を仕込めるかどうかだ。

 俺の胃に穴が空くのが先か、救済が間に合うのが先か。

 ゲームは、まだ序盤の終わりすら迎えていない。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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