4 〜 邂逅 〜
「あー、なんか疲れた……」
放課後、美術準備室。
他人の視線がないのを良いことに、奏は完全にだらけていた。
今だったらこのまま溶けてスライムにもなれそうだ。
「いや、一応私がいるのですが……?」
「アリシアはまぁ、別に良いかなって」
「まぁ、別に構いませんけど?」
そう言いつつもアリシアの機嫌は悪くない。
それも全部、今彼女の手元にある甘味のおかげである。
学園内でも屈指の人気洋菓子店、パティスリー鬼ヶ島。
その店の放課後限定の人気商品、たっぷり完熟桃を一つ丸ごと使った贅沢タルト。
完熟桃を宣言しているだけあって、素材は店主がこだわりにこだわった契約農家から直接仕入れている。
その味は絶品の一言。
一度食べたら忘れられない一品である。
疲れた時には甘い物。
その言葉に嘘偽りなく、良くお世話になっている。
そう、今日のような日は特に。
「…………」
頭に糖分をぶち込みながら、奏は先の狼炎との一戦を振り返る。
狼炎・ヴォルフガング。
魔女狩り機関というだけあって、流石の強さだった。
あのまま続けていれば間違いなく奏は負けていただろう。
魔術を行使できないというデメリットがあるとは言え、実践でそれはただの言い訳にしかならない。
体術のレベルの高さはもちろん、着目すべきは彼自身の魔術レベルの高さだ。
魔術は万能のように見られるが、その実、本人が自在に扱うのは至難の業である。
一般的に形式化された術式であればともかくとして、彼のように自分の戦闘スタイルに合わせた術式は細部までの洗練されたコントロール技術が必要不可欠だ。
もし、彼にその技術がなければ、いくら彼の戦斧が業物であったとしても、あっという間に溶け落ちてしまっていただろう。
「さて、どうするか……」
兎にも角にも厄介なのはあのエンチャント魔術だ。
あれをどうにかしなければ、こちらの武器は飴細工同然。
「う~ん……」
買い換えたばかりの短刀に手を添えて感触を確かめる。
まだ馴染みがない分、新鮮な感触だ。
いっそのこと紅人の暗器のように武器をいくつか仕込んでおくのもいいかもしれない。
携帯しやすく、動きを阻害しづらいのは短刀の利点だ。
選択肢の一つとしては全然ありだろう。
もしくは彼のように手甲を装備するのはどうだろうか。
あの手の装備は対魔術戦を想定していることも多い。
炎にもある程度耐性があるはずだ。
「いや……」
だが、問題は彼の魔術に対して有効かどうか。
普通の魔術師相手であれば、十分に有効だとは思うが、狼炎レベルとなるとそういうわけにはいかないだろう。
ヘカトンケイルはいずれも歴戦の猛者たちである。
彼もその一員である以上、その辺の店売り装備で簡単に対策できるようなレベルではないだろう。
それに手甲は見た目以上に重さがある。
当然、頑丈な物ほど、その重量は増していくこともあり、奏の戦闘スタイルとは極めて相性が悪い。
そもそもこちら側のメリットを放棄してまで取る戦法かと言われると疑問が残る。
自分が納得できないのであれば、その手は選ぶべきではない。
「そういえば――」
「ん?」
思考に耽っているところに、アリシアが割り込んできた。
奏がこの状態になっている時に彼女が声を掛けてくるのは珍しい。
逆にこういう時に声を掛けてくる時はそれなりに的を得た発言をする時だ。
「魔女狩りたちはどうでしたか?」
問い掛けはシンプル。
「まぁ、強かったよ」
そこは素直にそう思う。
戦闘技術、魔術スキル、そして、その練度。
どれを取っても間違いなく超一級。
文句のつけようもない。
ただ少々、いやかなり性格に難ありだろう。
典型的な一匹狼タイプ。
たった二人とはいえ、一緒にいることに違和感を感じるレベルだ。
ただ、それだけ彼女が強者であるということなのだろう。
打ち合ったのはたった一合ではあるが、それでも実力は明らかだ。
間違いなく、ジャンヌは狼炎よりも強い。
「思うところありって感じですね?」
「そうだな――」
否定はできない。
今の状態で戦うのが得策ではないのは間違いない。
ただ、手が届かないのかと言われると、そうではないと思う。手を伸ばしてギリギリ届くかどうかというそんな距離感。
こういう状況が一番難しい。
失敗すれば当然、それは死に直結する。
とはいえ、攻めないという選択もまた同じこと。
自分が勝利できる際の際を見極めなければならない。
「奏なら大丈夫ですよ。多分」
「まるで見てたような言い方だな」
「実際、見てましたので」
冗談なのか、事実なのか、こういう時の彼女の発言は真偽の判断が難しい。
確かに、魔術師としてのアリシアのレベルは高い。
奏のような魔術オンチから見てもそれは明らかだ。
とはいえ、そんな彼女をもってしても先の実技演習の状況を覗き見ることができるのかと言われれば疑問が残る。
個人を追跡するための魔術の類は確かに存在する。
しかし、それは奏の特異体質故に効果を発揮しないのだ。
別の手段として、他の誰かを監視することができれば話は別だが、彼女がわざわざそんなことをするとは思えない。
「簡単なことですよ。演習エリア全てをモニタリングすれば良いだけですから」
「そんなサラッと言えるようなことじゃないだろ……」
実技演習で使用したエリアが一体どれだけの広さがあると思っているのか。それこそこの街の商業・住居エリアをまるっと覆い尽くしてもお釣りが来るレベルである。
しかもそれが隣接して東西南北に広がっている。
事前にどこのエリアで行われるか告知されるとはいえ、それだけのエリアを監視するのは簡単なことではない。
「それこそ魔女でもないと難しいだろ」
「だから何度も言ってるじゃないですか、私は魔女だと」
「はいはい――」
そんな簡単に魔女が身近にいるわけがない。
『魔女』と呼ばれる存在は世界にたった百四十三名しかいないのである。
その内の一人がこんなところで、毎日ぐぅたらしてたまるモノか。
「そういう冗談はせめて朝、一人で起きれるようになってからにしてくれ」
別に朝食を持って行くのがダメなわけではない。
せめて、魔女として落ち着いた調子で出迎えて欲しいという話である。日頃、しっかりとローブを着て、コーヒーでも飲んで出迎えてくれれば、少しは信じたかもしれない。
「はぁ……」
「何ですか、そのため息と視線は」
「いや、何でも」
何も言うまい。
沈黙は時として美徳である。
これも優しさ。
そう、諦めではなく、友人としての優しさなのだ。
「むんっ!」
頬をぷくっと膨らませたアリシアが渾身の右ストレートを奏の顔面にお見舞いする。
「何すんだ」
「何か良からぬことを考えている目をしていました」
「冤罪にも程がある」
「いえ、有罪です。間違いありません」
痛いか、痛くないかで言えば正直痛くはない。
せいぜいがじゃれてきた子供の手が当たった程度である。
「全く、気を付けてくださいね。彼女たちは目的を果たすためだったら何でもやるような連中ですよ」
「あぁ、それは今日の一件でよく分かったよ」
ヘカトンケイルたちは他者の命を何とも思っていない。
彼女たちはまるで虫ケラでも踏み潰すかのように他者の命を奪える。
生殺与奪は彼女たちの気分次第。
死者が出なかったのは運が良かっただけだ。
彼女たちの気が変われば一瞬で学園には屍の山が築かれるだろう。
「てか、気を付けないといけないのはお前の方だろう?」
「え――?」
「え?、じゃないだろ……」
なぜそこで不意を突かれたような顔をするのか。
彼女たちはヘカトンケイルであるのだから、そうなれば目的は間違いなく奏ではないのである。
言わば、奏たちはお遊び。
たまたま立ち寄った街にあった少し遊べる程度の玩具だ。
「魔女なんだろ、お前は?」
そう、彼女たちの本来の獲物は他でもない魔女だ。
であれば、自称魔女である彼女を放っておくはずがない。
「頼むからオレ以外のヤツに私は魔女だとか言うなよ?」
洒落にならないのは目に見えている。
「流石に冗談が通じるような相手じゃない」
それこそあの二人は目の色を変えて襲いかかってくるだろう。
今度こそ、本気で。
「まぁ、大丈夫ですよ」
「お前なぁ……」
「ふふ、奏は心配性ですね」
「真面目に言ってんだぞ、オレは?」
「分かってます。分かってますよ」
奏の入れたコーヒーに大量の砂糖とミルクを入れながら、アリシアはふわふわとした返事を返す。
「心配してくれてるのは分かっています。えぇ、本当に」
「冗談じゃなくてだな……」
「はい。そうですね」
「あのなぁ――」
つい苛立った声を上げてしまう。
しかし、そんな奏に対して、アリシアは少し寂しそうな、待ち焦がれているような複雑な表情を浮かべていた。
「そうだったら、良いんですけどね……」
温くなったコーヒーにアリシアはゆっくりと口を付ける。
「死ぬ時って、どんな感じなんでしょうね」
「……さあな。分からんが、普通は怖がるんじゃねぇか」
あくまで想像の話である。
そこまでの経験はないものの、自分が死の淵に直面していると想像したならば、少しばかり恐怖を覚える、と思う。
生きている以上、誰も『死』からは逃れられない。
他の人がどう思うかは分からないが、一般的にはそうではないだろうか。
「良いなぁ……」
普段は少し達観した雰囲気のアリシアが珍しく子供のような声で呟く。
「奏は、死にたいと思ったことはありますか?」
「……あるさ」
少し悩んだ末に、奏は静かに答える。
自分に魔術の才能が皆無だと判明した時。
俗に言うダッドトイ、しかもオールダッドだと自覚した時、奏は子供ながらに絶望したのを今でも覚えている。
自分の部屋に引き篭もり、数日泣き続け、泣き疲れて寝てしまった幼少期の記憶。
それでも奏は運が良かった。
もし、奏が魔術に傾倒している家庭に生まれていたら捨てられていたかもしれない。
しかし、忍霧家はそうではなかった。
忍霧家は代々武術で栄えてきた家系だった。
加えて祖母はその道でも名の知れた武道家であり、母は薬学に秀でた才女であった。
絶望に打ちひしがれていた奏を救ったのは祖母である音の言葉だった。
「悔しいなら強くなりな――」
音もまた魔術を使えはするものの、その才には恵まれなかった。
「まぁ、家系なんだろうねぇ。ウチの家は代々それほど魔術が得意じゃないんだ。けどねぇ、代わりに武術の才には恵まれてることが多いからね。きっとあんたも大丈夫さ。私が大丈夫にしてやる――」
あの時の音の力強い言葉が奏を救った。
師範代となった今でも、奏は自分に武術の才があるかどうか懐疑的だ。
それでも祖母の言葉を信じて、鍛錬に打ち込んできた。
強くなったのは間違いない。
でも、もっと強くならねばと思う。
音や唄が誇れるような武人として、誰にも負けないほどに強く。その気持ちは、想いは、鍛錬を重ねれば重ねるほどに強くなった。
その結果が今である。
実技演習では生徒どころか、講師陣にも一度も負けたことはない。
強いのか、弱いのかと問われれば、弱くはないと答えるだろう。
要するにまだ自信が持てないのである。
自分の強さに。
「奏――」
沈黙に背中を押されて、アリシアが口を開いた。
「私はずっと死にたいと思っているんです」
「…………」
「でも、死ねないんです。私は、死なないんです――」
その言葉は重い。
「アリシア――」
「…………」
その重さにどう応えるべきか。
戸惑いを見せるアリシアの視線を正面から受け止める。
そんな彼女に、奏は顔を近づけ、彼女の頬に右手を添えた。
想定外の状況に、アリシアは思わず目をギュッと瞑る。
そして――
バチン!と、二人きりの美術準備室に痛打が響いた。
「――っ!」
途端、声にならない悲鳴をあげて、腰を折りたたんで額を抑えるアリシア。
忍霧流歩武術はその名の通り、ベースは足捌きにある。
しかし、鍛えているのはそこだけではない。
根本的な部分で武器を選ぶ必要がない故に、極めれば極めるほどに全身の鍛錬が必要であることを気付かされる。
そんな鍛え抜いた体から放たれたデコピン。
ただのデコピンと侮ることなかれ、その威力は幼馴染である鞍刃でさえ、全力で逃げ出すほどである。
「うぅううううううううううううううう――――っ!」
頭に響き渡るあまりの痛みに足をジタバタ、のたうち回るのをどうにか我慢しながらも、目尻の端に涙が浮かぶのを止められない。
悲鳴をあげなかったのは、自称魔女のプライドだろうか。
先ほどまでの悲痛な表情はどこへやら、今のアリシアからは大層恨みの込められた視線が向けられている。
「バカなこと言ってんじゃねぇよ。この引きこもりのサボり魔が――」
そんなアリシアの視線を奏は軽く笑い飛ばす。
「別にここがダメってわけじゃねぇけどよ。たまには外に出てみても良いんじゃねぇか? 無理してとは言わねぇけど、ちょっと気分を変えてみるのも悪くないと思うぞ?」
「それでも何も変わらなかったら?」
「そうだなぁ……」
アリシアの目にあるのは怯えだった。
その目は、かつて奏が浮かべていた感情と近いモノだ。
「その時は、一旦諦めちまっても良いんじゃねぇか?」
「え――?」
その返答は流石の魔女様も想定していなかったらしい。
「まぁ、あれだ。気分を変えたくていざやってみても、上手くいかない時もあるしな。そん時はすっぱり諦めても良いだろ」
「それで、どうするんですか?」
「ん〜、そうだなぁ」
別にそこで絶対にそれをやらなければならないというモノはない。
「とりあえず甘味でも爆食いしてみるとか?」
ただ、自分を楽にしてやれば良い。
「別に何でも良いんだよ。結局、その時の自分が楽になれば。オレだって甘味じゃなくて、肉めっちゃ食ったりしたこともあるしな」
夜中に家をこっそり抜け出して、山で魔獣や野生の獣を狩っては一人で肉祭りをしたことを思い出す。
帰ったところを、玄関の前で仁王立ちしていた音に歓迎され、こってり絞られるまでがセットだった。
「んで、しばらくはまた不貞腐れるんだよ。そしたらまたどっかでちょっと気分変えてみるかってなるからよ。そん時にまたちょっとやってみる。これの繰り返しだ。意外とこんなんでなんとかなるもんだぜ?」
その一例が他でもない自分であることは胸を張って言える。
「その結果として、今ここにいるのがオレだ!」
冒険者養成国立学園の門扉は人種、年齢問わず、広く開け放たれている。
学費も入学時に払うのではなく、入学後ある程度の猶予を持ってから支払うという他にはないシステムだ。
それはありとあらゆる人に可能性を与えるという名目があるからだが、逆に卒業資格を得ることは非常に難しい。
必要となる単位の取得はもちろんだが、加えて志望する専門分野の実力、知識レベルも実戦レベルが必要だ。
それら全ての要件を満たして、初めてこの学園は卒業資格を与えられる。
おかげで卒業者は即戦力として、第一線で活躍することが可能だ。
しかし、それでもまだ上があるのが冒険者家業である。
厳しい世界であることは分かっている。
それでも、奏はその世界で生きていきたいと思っている。
そこは奏がオールダッドかどうかは関係ない世界。
実力こそが全ての弱肉強食。
真に切磋琢磨が行われる場所。
「だから、そんな悲しいこと言うなよ」
アリシア・エイトテイルが魔女であろうとなかろうと、奏にとって彼女が大事な友人の一人であることに変わりはない。
「まぁ、あれだ。なんか気分が滅入った時は、一緒に甘味食うくらい付き合ってやっからよ」
なんだか、気恥ずかしくてソワソワする。
「そ、それは……」
奏の様子を察してか、アリシアがそっと言葉を紡ぐ。
「奏の奢りですか?」
「…………」
せっかくの気恥ずかしさが台無しだ。
言いたいことは多々あれど、ここでそれを口にするのは野暮というモノだろう。
「まぁ、良いよ。そん時は奢ってやるよ」
「カフェオレも付けてください」
「はいはい」
妹の心でも、そんな我儘は言わないだろう。
「ふふ、約束ですよ?」
膝を抱えて、ようやくアリシアが微笑む。
「覚えておくよ」
少しは機嫌も良くなったようだし良しとしよう。
甘味の爆食い程度で機嫌が良くなるなら安いものだ。
「ねぇ、奏?」
「なんだよ」
少し照れ臭いのはきっと自分だけなのだろう。
「もし、私が本当に死にたいと願ったら――」
今、彼女は一体どんな顔をして、そんな言葉を口にするのか。
「その時は、私を殺してくれますか?」
その表情は伺えない。
なんとも、見てはいけないと思ったから。
「……」
沈黙で乗り切ろうとするが、隣から感じる視線がそれを許さない。
どうやら拒否権は行使できないらしい。
事情はどうあれ、その問い掛けには真摯に答えるべきだと思った。
「……はぁ」
だったら取るべき選択肢は一つしかない。
「そんな奇跡みたいな偶然があったらな」
そんな地獄のような奇跡が起きないことを切に願う。
「約束ですよ――?」
しかし、奏の祈りを知ってか知らずか、アリシアはこれ以上ないまでに穏やかな笑顔を浮かべていた。
そんな顔をされてしまってはもうこちらとしては何も言うことはできない。
結局、なんだか話の流れで、そのまま甘味大食い祭りに発展してしまった。
当然、手持ちの甘味だけで終わるはずもなく……
買いに走ったのはもちろん、奏である。
ついでに言えば、出資したのも奏だった。
抗議はしたが、残念ながら受理されることはなかった。
とはいえ、別に嫌なわけではなかった。
その時間が楽しい時間だったのは間違いない。
「……ったく、なんだよ。本当に」
気分転換できたのは一体どちらなのか。
二人きりのお祭り騒ぎは夜まで続いた。
ヘカトンケイルの来訪から数日、ジャンヌと狼炎の二人は現在も変わらず学園に滞在していた。
噂では色々と学園を見て回っているらしいが、講義に顔を出しているところは見たことがない。
見かけるのは専ら実技演習の時くらいで、その都度、これ見よがしに奏にちょっかいを掛けてくる。
ちょっかいと表現してはいるものの、一度でも対応を誤れば、命を落としかねないという盛大なお遊びである。
毎度、巻き込まれている鞍刃と紅人は正直、気が気ではないらしい。
とはいえ、奏にとっては貴重な強者との実戦経験の場でもあるため、自分から仕掛けることはないものの、その都度、迎撃を繰り返していた。
今の所、戦績は決着着かずが続いてはいるが、その都度、奏の短刀は使い物にならないレベルとなっている。
出費が嵩む状況ではあるが、演習への参加回数は減っていることもあり、結果として収支はプラスだ。
代わりにここ数日、アリシアとの甘味祭りが頻繁に開催されているのは秘密である。
絡んでくるのは狼炎のみだが、都度、耳が腐り落ちるようなスラングを浴びせてくるのが原因だ。
一度、本気でケリをつけてやろうかとも思うのだが、監督している講師が涙目になるのは明らかなので、ここは大人の対応でやり過ごしてはいる。
「本当、毎度のことだけど、ハラハラさせられるわね……」
奏以上に気疲れしているのは鞍刃の方である。
「そうか? でも、今までサボりまくってた分、お前には良い刺激になるだろ?」
「それは、まぁ……」
実際、奏と狼炎の戦いは鞍刃にとって良い勉強になっている。普段サボりがちな彼女が演習後、奏に手合わせを頼むほどだった。
「で、どうすんだ? 今日はやめとくか?」
「やらないとは言ってないわよ!」
「へいへい」
おかげでここ数日の紅人の機嫌はすこぶる良い。
「親父殿に苦言を言われることもないし、お師匠に八つ当たりされることもないんだぞ?」
「分かる。それは痛いほど良くわかる……」
今まで苦労させられた者同士、通ずるモノがあった。
これで少しでも真面目に道場に通ってくれることを願うばかりだ。
ちなみに、まだ鞍刃は道場に顔を出していないため、状況はマシになってはいるものの、肝心のお師匠様の機嫌は怒髪天のままである。
どう頑張っても地獄は目に見えているので、奏と紅人としてはさっさとバッドイベントを終わらせて、音のガス抜きをして欲しいというのが本音だ。
当の本人にそれを伝えても、全力で逃走されるのは分かっているので敢えて口にはしない。
本当にヤバくなったら気絶させてでも、連行する算段である。
「いざとなったら頼むぞ、奏」
「任せとけ」
誰も虎の尾は踏みたくない。
一緒に地獄に落ちるくらいなら、潔く落とす側に回る。
それも三人の間での一つの友情の形だった。
そもそも、当の本人が遊び回って、奏と紅人がその尻拭いをするのがおかしな話なのである。いい加減、鞍刃には帳尻合わせをしてもらわないと困る。
紅人と簡単な打ち合わせをしつつ、今日も演習後に鞍刃との模擬戦をこなす。連日の模擬戦のおかげで、鞍刃の鈍っていた動きも大分マシになってきていた。
元々センスは良いだけに、勝負勘を取り戻すのも早い。
真面目にこなしていけば達人の領域に達するのも遅くはないだろう。
とはいえ、当の本人はなかなかそこまでのモチベーションには至らない。
こればっかりは周りがどう言おうと本人の問題なので、手の出しようがない。
音も良く口にする、きっかけを待つしかないだろう。
その日の講義が全て終了したら、翌日に備えて装備を整える。
短刀は念のために、予備を用意することにした。
それでも心許ないところではあるが、今できる最上の備えだった。
一息付いた後は美術準備室でアリシアと談笑するのが日課だった。
以前は日が空くことが多かったが、最近は毎日訪れるようになっていた。
気分転換という目的はもちろんあるし、先日のアリシアの様子が少し気になっていたというのもあった。
しかし、そんな奏の気掛かりは杞憂だったかのように、彼女の様子はすっかりいつも通りだった。
代わりに彼女とのやりとりでは主に、実技演習での振り返りをするようになった。
主に話すのは奏であり、彼女は聞き役に回ってくれる。
これが意外に効率良く奏の思考を整理するのに役立っていた。
特に魔術における彼女の知識は狼炎の戦い方を理解する一手として大きかった。
一応、奏も知識として魔術のことをそれなりには学んではいるが、行使できないという大きなデメリットを抱えているため、魔術師本人が持つ感覚や思考回路についてはどうしても大きく及ばない。
その埋めたくても埋められない溝を、アリシアの助言は的確に埋めていってくれる。
この時ばかりは自称魔女という彼女の言葉を信じてしまいそうだった。
それほどまでに彼女の魔術における理解は深く、解説は分かりやすかった。
「しかし、聞けば聞くほど、魔術ってのは底が見えないな……」
知れば知るだけ、その向こう側が見えてくるのは武術と同じだ。
「その考えは間違っていないと思いますよ。むしろ私からすれば、武術の方が難解だと思えますし」
「なるほど……」
要するにどっちの方向に向かって穴を掘るのかというようなことなのだろう。
そして、当然ながら、その方向は二つに限らず、人の数だけ無数に存在する。
奏が武術に全振りしているような方向なのに対し、狼炎は武術メインでありながら魔術をそのサポートに使う方向に舵を取っているというところだろうか。ただ、狼炎について言えば、ソレが魔術方面についてもかなり深い。
魔女狩り機関という存在は伊達ではない。
「やっぱ強いな、アイツ……」
好き嫌いの度合いで言えば、気に入らないというのが正直なところではあるが、実力は認めざる得ない。
そして、ジャンヌは狼炎以上に強い。
物言いだけで狼炎を制するのだから、相当なモノだろう。
「それは見方によっては自画自賛にも取れますけど……」
「なんでだよ……」
客観的に見て、奏自身は二人には及ばない。
やはり魔術という力の差は大きい。
それでもどうにかするしかない。
ないモノはない。
ない袖は振れないのである。
「手っ取り早いのはやはり武器でしょうね」
「やっぱそうなるよなぁ……」
魔術耐性を持った武器の調達が一番シンプルかつ確実な対抗手段だ。
奏の体質を考えれば、それだけで継戦能力は一気に向上するだろう。
「とはいえ、そうなると――」
「安くはないですね」
「だよなぁ……」
抗魔術が付与された武器となれば、その金額は並の武器とは桁が大きく異なる。
それこそ豪邸がが軽く一軒建ってしまうレベルだ。
それでも最低レベルだと言うのだから、上を見ればキリがない。
正しく青天井の金額になるだろう。
「世知辛い世の中だ……」
「いつの時代もお金は正義ですからね」
学生の身分にしては比較的懐は潤っている方ではあるが、それでも到底足りない。
理想とする装備に届くには、一体どれだけの月日と費用が必要になるのだろうか。
思案すればするほど、理想と現実の距離は開いていく一方である。
「膨大な資産は絶対に必要とは言わないまでも、あって困ることはありません」
「とはいえ、流石にソレは現実的じゃねぇなぁ」
「ですね。せめて奏の武器にエンチャントが付与できれば良いのですが、それも無意味ですしね」
奏の特異体質の性質上、武器に触れた瞬間にエンチャントは一瞬で解除されてしまう。
エンチャント系の魔術自体が高位の魔術であり、それが付与された武器だけでも通常のモノと比べて遥かに金額が上がる。
にもかかわらず、奏が必要とするレベルはソレでは不足だった。
必要なのは素材の品質として抗魔術を持つ武器。
しかし、そのレベルは腕の立つ冒険者であってもなかなかお目にかかれない代物だ。
まだようやく冒険者に手が掛かるか直前という状態の奏には到底難しい。
「ここは大人しく、複数持ち歩いておくのが妥当だな」
「そうですね。後は可能な限り品質を上げたモノにしておけば、多少なりともマシにはなるはずです」
結局、導き出された結論は現状維持。
残念ながら他にできることはなさそうだ。
強いてやるべきことと言えば、学園だけではなく、街に入っている武器屋にも顔を出しておくことくらいだろう。
武器が購入できるのは当然、学園だけではない。
街にも武器屋は無数にある。
ただ、品質にかなりのばらつきがあるのと、学園の購買部に比べるとかなり割高なため、学園に通う生徒が利用することはほとんどない。
それでも、この街を訪れる冒険者をターゲットにそれなりに品質の高い武器を扱っている店は確かにある。中には購買部で買えるモノよりも遥かに高品質なレアモノもあるとかないとか。
労力に見合っているかと言われればかなり疑問が残るが、やらないよりはマシだろう。情報収集しつつ、時間がある時にでもいくつか見て回ることにしよう。
ピンからキリまであるとはいえ、奏も学園に通って年数はそれなりに経っている。
店の良し悪しについてはそれなりに詳しい。
学園内の簡易ギルドのスタッフにもそれなりに顔馴染みはいるので、そちらでも聞いてみればある程度信頼できる情報が集まるはずだ。
せっかくの機会だ。
積める経験は重ねられるだけ重ねておきたい。
ヘカトンケイルレベルとなるとそれだけで十分貴重だ。
次の実技演習は二日後だった。
その日も当然のように狼炎からの襲撃をやり過ごした奏はいつも通り、この後に補充する装備を思案していた。
結論、短刀を予備まで含めて持ち歩くという選択は悪くなかった。
おかげで継戦時間はかなり伸びたし、機を見て切り替えることでその時間は倍以上になったのは大きな収穫だ。
二本目どころか、三本目までを視野に入れても良いかもしれない。
そんな折――
「おい――」
「ん?」
珍しく、狼炎が奏に声を掛けてきた。
「何か用か?」
馴れ合いを好まない彼が自分からジャンヌ以外の人物に話し掛けるのは珍しい。
他人が話しかけても基本無視が通常営業であり、襲撃時でもスラングを飛ばしてくる程度。
そんな彼がきちんと人の言葉を発して接触してくるのはレア中のレアだった。
「お前、いつもこの後はどこに消えている?」
「はぁ?」
学園の敷地は広大だ。
それはもちろん、演習エリアを含んでいるからでもあるが、校舎だけでもかなりの部屋数がある。
講義で使用している教室はもちろんだが、各講師陣の私室兼、研究室や、一部の部活動などで使用される部屋もかなりの余裕を持って確保されており、当然、未使用となっている部屋も多数存在している。そういった部屋は一部の生徒たちの溜まり場として使われることは珍しくなく、学園側も特に問題が起きなければ目を瞑っているというのが暗黙の了解。
奏にとっては美術準備室がこれにあたる。
とはいえ、美術準備室に鞍刃たちが訪れたことはない。
鞍刃自体があまりそういう場所を好まないというのもあるし、他でもないアリシアが他人との関わりをあまり好まないからだ。
一度、引き合わせてみようかとサラッと話を振ってみたが、良い返事は返ってこなかったので、それ以降その話をしたことはない。
「どういうことだよ?」
別に何か後ろめたいことをやっているわけでもなく、隠れているつもりもない。
他の生徒たちと同様に自由に時間を使っているだけのことだ。
「良いから答えろ」
「はぁ…… 別におかしなことはねぇよ。お前のせいでガタが来た装備を新調して、翌日の講義の確認。それが終わったら近くの甘味処で甘いモノ買って、ゆっくりしてるくらいだが?」
「ふぅん?」
その回答に興味を見せたのはヘカトンケイルのもう一人の方。
ジャンヌ・アルメリアだ。
「何かおかしなところでもあるのか?」
「いえ、別に? ただ、そうね。そのゆっくりって言うのはどこなのかなって。少し、気になったのよねぇ」
「空いてる教室で適当に放課後を過ごしてるだけだが?」
「そうね。別にダメとは言われないものね?」
「まぁ、良いとも言われてねぇけどな」
ジャンヌがこちらに向ける視線が何だか気持ち悪かった。
こちらの奥底を覗き込むような、そんな感覚。
おそらく知らないところで色々と調べているのだろう。
その中で奏に不信を抱くのは分からない話ではない。
何せ、奏は魔術の影響を受けないのである。
それは攻撃、回復の類はもちろん、探知系といったモノも当然含まれる。
そんな想定外の存在が学園内にいる状態でそういった魔術を使えば、想定外の結果が出るのは当然だろう。
実際、過去にはそういった事象も幾度とあった。
その度に、奏は奇異な視線を向けられてきたものだ。
おかげで今ではすっかり慣れてしまっている。
「良いのよ。気にしないでちょうだい。ただ、ちょっとだけ引っかかっただけなのよ」
「何がだよ……」
逆にそのジャンヌの物言いが奏には引っかかる。
「『魔女』――」
その場に居合わせた全員が、ゾッとするような冷たい声。
「知らないかなと思って……」
その向けられていた気持ち悪さの正体が知れる。
ソレは憎悪であり、敵意の込められた狂った視線。
悪意ではなく、狂気。
ただ、目的を達するためだけに全てを捧げた人種の成れの果て。
過去に数度だけ、道場破りに訪れた武人が纏っていた気配と似ていた。
しかし、彼女のソレは彼等よりも更に深く、堕ちていた。
一体何があれば、そこまで堕ちていけるのか。
まともな思考では到底思い付かない。
魔女狩り機関という組織の意味、その一端を垣間見たような気分になる。
ただ、過去の経験が奏をその場に踏み止まらせた。
「知るわけないだろ?」
ジャンヌに呑まれることなく、言葉を返せたのはそれらの経験のおかげだ。
それがなければ、この場の全員が彼女の狂気に呑まれ、狩られていたかもしれない。
「魔女なんて化け物みたいな存在が、その辺に簡単にいてたまるかよ。百四十三人しかいないんだぞ? そんなヤツがその辺に転がってたらびっくりだろ」
「それはそうねぇ。でも、私たちが認知しているのが、百四十三ってだけで実際はもっといるのよ?」
「それでも、だ。そんな簡単にいるもんじゃねぇだろ」
この学園には国内外から様々な人種が集まっている。
それでも世界の全人口から見れば、せいぜいが一パーセントにも満たないレベル。客観的に見て、可能性はあれど、その数字は限りなくゼロに近い。
そんな可能性をその真逆にいるような奏に結びつけるのはそれこそおかしな話だろう。
「ふふ、まぁそうよね。君の言う通りよ」
「何なんだよ、全く……」
「ふふ、ごめんなさいね。ところで忍霧の、やっぱりヘカトンケイルに来るつもりはないかしら? 歓迎するわよ」
「だから行かねぇって」
何度誘われても答えは変わらない。
この数日、狼炎から向けられる嫌悪や先のジャンヌが奏に向けた狂気然り。
それらを受けて、なぜ入りたいと思うのか。
「それは残念――」
話はそれで終わりと、ジャンヌは奏に背を向けて去っていく。
何かまだ言いたげな雰囲気を残しつつも、狼炎もそれに無言で続く。
その場の空気が緩んだのはそれから少し経ってから。
異様なほどの緊張感に、誰もが手持ちの飲み物を一気に煽った。
「――そういうわけだから気を付けろよ」
放課後の美術準備室。
いつも通り、手土産を口にしながら、奏は疲れを吐き出すように言葉を口にする。
本日の甘味はドーナツ。
チョコソースがたっぷり掛かったモノと生クリームを中にたっぷり包んだモノを二種類見繕ってみた。
疲れた時には甘いモノ。
今日も糖分は脳に優しい。
井戸端会議のネタはもちろん、実技演習の後、ヘカトンケイルの二人とのやり取りである。
「ああいうのは洒落になってねぇから勘弁して欲しい」
「そうですね」
隣のアリシアは聞いているのか、いないのか、他人事のように相槌を淡々と打つだけに徹している。
「まぁ、初日にあれだけ派手にやり合っていれば当然の結果です。アレらは常に欲求不満な娯楽欠乏症の集まりみたいな存在ですから」
「辛辣だな」
「それなりには良く知っていますので」
冷静に回答しているが、そんな彼女は椅子をくっつけた雑なベッドから上半身が零れ落ちていた。
なんともだらしなく、説得力は皆無である。
何だったら奏が来る直前まで寝ていたのだろう。寝癖があちこちに跳ねたままである。
これが魔女と言われても信じるのはまず無理だ。
しかし、そう思う瞬間もある。
『魔女』と呼ばれる存在の多くは何らかの理由で俗世から離れたような生活をしている者が多いと聞く。
その点だけ見れば、彼女は間違いなくソレだろう。
ただし、肝心の生活能力が壊滅的なため、一人では生活できるのか正直不安だ。
今でも、奏が献上した食料以外のゴミを見たことがない。
そして、もう一点、彼女自身の魔術に対する知識力。
これについては狼炎との一件から露見した事実。
的確な分析力と分かりやすい解説、魔術が使用できない奏には馴染みのない感覚まで、彼女は客観的に論じることができる。
奏の持っている知識はせいぜい学園で学べるレベル止まりだが、それでも他者とは一段階レベルが違うと分かる。
しかし、それらを踏まえたとしても、奏にとってアリシアは自称魔女でしかない。
彼女が魔女であると決定づける証拠は何一つとしてない。
何よりも、奏がダッドトイ、しかもオールダッドであったとしても、初見から不快な態度を取らなかったのは彼女だけだ。
その点において、奏は心の底から彼女を尊敬していた。
そんな彼女との交友関係を大事にしたいと思っている。
きっとこのまま、お互いがソレをはぐらかしたままにしておくのが一番良い。
敢えて宙に浮かせたままの方が都合が良いこともある。
その日の愚痴や出来事、どうでも良いことを気軽に話せる間柄なんて、一生の内にどれほど出会えるだろう。
例え気心の知れた間柄であっても、何でもは話せない。
もちろん、奏とアリシアの間にも話せないこと、話していないことはあるだろう。
それでも、彼女が奏にとって貴重な友人であることに変わりはない。
「ん、もうこんな時間か。そろそろ帰らねぇと――」
気付けば時計の針がそろそろ左上に集まろうとしていた。
夕食を家族揃って食べることは別に決まり事ではないのだが、それでも遅くなると心配はされる。
親にとって子供はいつまでも子供のままだ。
翌日も変わらず、朝の鍛錬は行わなけれなならないのだ。
「今日の飯何だろな」
育ち盛りの男として、夕飯は大きな楽しみの一つだ。
朝は魚が多い忍霧家だが、夜は比較的肉が多い。
魚料理が好きな奏ではあるが、体を動かした後に食べる肉は最高だと思う。
「お前もちゃんと飯食えよ」
「分かってます」
「あと風呂も入って、歯も磨けよ」
「子供ですか、私は……」
「ある意味、子供よりタチが悪いだろ」
「むぅ――」
少なくとも、心の方が規則正しい生活を送っているのは間違いない。何より彼女はちゃんと朝も自分で起きるし、着替えだって一人でできる。何だったら最近は夕食のお手伝いも進んで買って出るくらいだ。
間違いなくアリシアより手は掛からないだろう。
身内贔屓と言われても否定はしないが、とりあえず彼女には心の爪の垢でも煎じて欲しい。
同じように生活しろとは言わないが、せめてまともな食事くらいは摂って欲しいものだ。
「まぁ、なんだ。夜更かしもほどほどにな」
とはいえ、あまりうるさく言うのも何なので、これくらいでお暇させてもらうとする。
奏がドアに手を掛ける。
「あ、奏。少し待ってください――」
「ん――?」
その時、既に準備室の扉は開けられていた。
それは僅か。本当に僅かな隙間。
しかし、その向こうと――
「見ぃつけたぁ――」
交錯した視線。
奏は反射的に短刀を抜いていた。
刹那、音よりも先に大鎌が彼を襲った。
「――――っ!」
衝撃波がドアごと、奏を弾き飛ばした。
ドガシャ――ッ!
準備室の端で山となっていた机が崩落する。
「奏――っ!」
悲鳴を上げるアリシアと対照的に嬉々とした表情で教室に入ってくる来訪者。
「はぁ、やっと見つけた。本当、手間掛けさせないで欲しいわ」
魔女狩り機関――ヘカトンケイル。
ジャンヌ・アルメリアが解放された入り口から現れた。




