第2話『ダンジョンで出会ったチート幼女(5歳)に、Sランクパーティが頭を下げた件』
中級ダンジョン《哭く神殿》――。
ここは、魔族と古代種が交戦した歴史ある遺構。
6層以降は高ランク冒険者でも全滅報告が相次ぐ、難関ダンジョンだ。
「ねぇカイゼル、そろそろ『詠唱』ってやつ、試してみたくない?」
「リリーがそうしたいなら、地形ごと焼き尽くしてもいい」
「いや、焼かないで!? 検証って意味で言ったの!」
私は杖を構え、深呼吸する。
「――蒼穹に響け、雷の福音」
パアァアアァァンッ!!
雷鳴が響いた次の瞬間、フロアのモンスターは全滅。壁すら黒焦げ。
隣で見ていたカイゼルは、まるで芸術鑑賞をしているかのようにうっとりしていた。
「リリーは……神話だな……」
「なんかもう逆に恥ずかしいよ!? 詠唱一回で詩にならないでよ!」
その時だった。
「た、助けてぇえええ!!」
奥から、傷だらけの冒険者が数人、転がるように走ってきた。
「大丈夫ですか!?」
「ま、まって君!? こんな危ない所で、子どもが――って、あれ、リリィちゃん!?」
よく見ると、その中には冒険者ギルドでも名高いSランクパーティ【紅蓮の星矢】がいた。
彼らが怯えた様子で告げる。
「下層に、“影竜”が現れた。完全に不意打ちで、仲間が……!」
「“影竜”? 本来は最深層にしか出ない超危険モンスターじゃ……」
「俺たちでも歯が立たなかった……撤退しようとしたけど、結界で道が……」
「――わかった、行くよ。案内して?」
「えっ!? リリィちゃん、ダメだ! 君は子どもだし――」
「その“子ども”が、君ら全員より強いぞ?」
後ろで笑っていたカイゼルが、一歩前へ。
◇ ◇ ◇
下層に降りた瞬間、暗黒の気配が満ちる。
「来たな、小娘……」
闇から現れたのは、漆黒の鱗と紅い瞳を持つ影竜――古代魔獣ランクA++。
普通なら、国家単位で討伐が必要な存在。
けれど私は、一歩も退かない。
「おねむの時間だよ、ドラゴンさん♪」
杖を構え、笑って詠唱する。
「――光よ、すべてを赦し、すべてを裁け(ジャッジメント・セレス)」
神聖魔法と破壊魔法の融合。光の柱が天井を突き抜け、竜の影すら焼き払う。
ドォオンッッッ!!!
影竜、撃破。
……20秒で。
◇ ◇ ◇
「な、なんだ今の……!? 魔王か、天使か……」
「いや、あれは“リリィちゃん”っていうんだよ……」
「すごい……いや、怖い……いや、どっちも……」
Sランク冒険者たちは呆然としながら、私に向かって――
「本当に、ありがとうございました……!」
「……すみません、あの、サインって……もらえますか?」
「いいけど、あとでお菓子ちょうだい?」
「は、はいっ!!」
◇ ◇ ◇
ダンジョンの噂は広まり、
“チート幼女とその付き人”として、私とカイゼルはすっかり有名になってしまった。
「これが世に言う、“リリィ様ご一行”か……」
「いやあの、皇帝も一緒にいるの忘れないで!? 変装ガバガバだけど!!」