閑話①『出会い(リリー視点)』
閑話
『出会い――魔法チートな幼女、氷の皇帝に拾われる』
(リリー視点)
気がついたら、私は真っ白な空間にいた。
なんというか、記憶がすっぽり抜けてて、やけに体が軽い。
いや、体が軽いっていうか……手足が短い!?
「え、幼女!?」
鏡も何もなかったけど、どう考えてもこのサイズ感、幼女。
まあそれはいいとして――
……目の前、めちゃくちゃに空間が歪んでた。
「なにこれ? 魔力嵐?」
なんとなく知ってる単語がぽんぽん浮かんできた。
急に、魔力力の歪みが軋みだし、あっという間に吸い込まれた!!
歪んだ空間を漂いながら、私は思い出した。
そか、私転生したんだ。
◇ ◇ ◇
転生した世界は、剣と魔法のファンタジー。
そして私――リリー・ノクターナは、いきなり森の中に放り出された。
「え、待って、何このチュートリアル不親切すぎじゃない!?」
しかも、体はちっちゃい女の子。明らかに幼児。
たぶん5歳くらい? ……というか、なぜか魔力だけ異常値なんですけど。
「よし、火の玉でも出して暖を……」
ボンッ!!
「ちょ、何これ小規模爆発してる!? 私、村ひとつ消せるレベル!?」
うっかり火の玉を出したら、森の一角が消し飛んだ。
それで、とりあえず安全なところを探そうと
ふらふらと歩いていたんだけど――
「……貴様、名は?」
背筋がゾワっとした。
振り向いた先に立っていたのは、まるで“人間”じゃないほどの威圧感を持つ男性だった。
白銀の髪に、冷たい赤い瞳。
黒い軍服みたいなのがよく似合ってて、こう……圧倒的ラスボス感。
「(え……かっこいい……というか、え、怖……でも美しい……)」
思考が忙しい。とにかく忙しい。
でも。
彼の瞳は、ほんの少しだけ、寂しそうだった。
「……小娘、今から貴様は俺のものだ」
ものすっっごい驚いた。
でも――彼の目が、ほんの少しだけ和らいだのがわかった。
「……リリー」
「うん?」
「お前を、俺の傍に置く」
「いや、唐突すぎでは!? 初対面で“拾った”ってどういう!?」
「俺のだからな」
「え、ちょっと待って、何? 買い物? ペット? 皇帝って野良幼女拾っていいの!?」
「今から法改正する」
「そこまで!?!?」
◇ ◇ ◇
そうして私は、あれよあれよという間に――
帝国の皇宮に連れてこられ、めちゃくちゃな甘やかしライフが始まった。
部屋は豪華、食事は最高。
チョコもケーキも無限に出てくる。
「異世界ってすごい……!」
でも、なにより驚いたのは――
あの冷酷そうな皇帝、カイゼル=ヴァルフレイムが、
私の目を見るたびに、ほっとしたように微笑むことだった。
「リリーがいると、世界が静かに感じる」
「私が静かなタイプとは思えないけど……」
「俺の中の嵐が止まるんだ」
「……なにそれ、詩人?」
「お前だけは、俺の感情を凍らせない」
……ああ、なんかこの人。
すごく、すごく大きなものを背負ってる人なんだなって思った。
私は、この人に拾われてよかった。
そして――この人を、一人にしたくない。
「だからカイゼル!」
「ん?」
「今日はね、“魔法で空飛ぶクレープ屋さん”作るの!」
「国家予算を回す」
「やめて!!」
こうして、チート幼女と冷酷皇帝の、
ちょっとヘンテコで、世界を揺るがす生活が始まった。