第5話『皇帝陛下、嫉妬で魔王化!?』
――宮廷に不穏な空気が流れていた。
「リリー様に毎朝お茶を淹れる係を、今日は私が担当します!」
「いえ、先日のお茶タイムで微笑んでいただいたのは私ですので、私が!」
「リリー様のリボンの色を覚えているかで決めましょう!」
「むしろもう、リリー様のご趣味を熟知している私が専属でも――」
…最近、やたら周囲の人間が私に甘い。
いや、もともと“皇帝の溺愛姫”として存在してたけどさ?
暗殺者改め護衛のゼル(元・終焉の刃)まで、毎朝こんなことを言ってくる。
「リリー様、今朝の陽射しは貴女の瞳のように眩しいです」
「……寒気するからやめて?(ガチ)」
しかし、その日はとくに――
一人の青年魔術師が、私に真顔でバラの花束を差し出してきた。
「リリー様、あなたに出会ってしまったのが、運命でした」
「……(え、誰!?)」
「あなたの魔術理論に心を打たれたのです。この心、受け取ってほしい――!」
花束を差し出す彼の後ろから――
ズオオオオオオ……
空気が揺れた。いや、空気が“逃げた”。
「……下がれ」
そう言ったのは、金の髪と蒼の瞳を持つ――皇帝カイゼル=ヴァルフレイム。
その瞳に宿る感情は……明らかに“殺気”。
「カイゼル!? どうしてここに――」
「リリーに近づいた。……死刑が妥当だな」
「待って待って待って!? お茶会開いただけ! バラ渡しただけ!!」
「バラ1本につき100年幽閉だ」
「物騒すぎるッ!!」
私が必死に止めなければ、
今日から魔術学院に“永久氷結された男”の像が建っていたかもしれない。
◇ ◇ ◇
その夜。
私はカイゼルに詰め寄った。
「もー! ちょっと過保護すぎじゃない!?」
「何を言ってるんだリリー。お前は世界遺産だぞ」
「急に壮大になった!? 私まだ5歳なんだけど!?」
だがカイゼルは真剣だった。
「俺はな、リリー。お前が笑えば、世界が笑っているように見えるんだ。
でも、お前が誰かに向かって笑えば――その笑みを独占できなかった自分が、憎くなる」
「……あの、皇帝ってもっと冷静な存在じゃないの?」
「リリーが俺だけを見てくれたら、私も持てるかもしれない」
「なんでそこで私に責任来るの!?」
◇ ◇ ◇
結局、魔術学院では“リリーに恋すると命が危ない”という新たな風評が流れ、
男子生徒たちはみな“安全圏から見守る派”になってしまった。
「……これで安心だ。リリーは俺のものだ」
「安心じゃない! 不穏だよ!」