第2話『リリィ、14歳。皇帝陛下からの正式なプロポーズ――けれど逃げ場がどこにもありません!』
十四歳の誕生日。
私は、宮廷で開かれた祝宴の中心にいた。
着慣れない純白のドレス。
金糸で織られたレースが、魔術反応でほのかに輝いている。
招かれた貴族たちは、私を見るたびに目を見張った。
「あの皇帝陛下が、心を許した少女」
「もはや、帝国の象徴になる存在」
――そんな噂が、まるで香水のように空気を満たしていた。
でも、私の心はそれどころじゃなかった。
なぜなら、
この祝宴の本当の目的は、誕生日祝いじゃないから。
「リリー」
その声が、背後から聞こえた瞬間、心臓が跳ねた。
振り返ると、カイゼル――皇帝陛下が立っていた。
漆黒の礼服に身を包み、銀の徽章を胸に。
彼の赤い瞳は、私だけを捉えて離さない。
「こちらへ来てほしい」
「……え、あの、えっ、ちょ、心の準備が――」
「遅い」
◆ ◆ ◆
連れて来られたのは、祝宴の真っ只中――壇上。
あっという間に視線が集中する。
貴族も、側近も、魔術師たちも、固唾を飲んで見守っていた。
その中で、彼は、私の手を取って、片膝をついた。
皇帝が、跪く。
「リリー=ノクターナ」
「……!」
「俺はお前を、我が妻として迎えたい」
空気が、凍った。
誰もが息を呑み、世界が止まったように感じた。
でも、止まったのは私の方だった。
胸の鼓動がうるさくて、言葉が出ない。
「この先、帝国を共に治め、
俺の隣で、世界を見てほしい」
「へ、陛下……」
「お前のすべてを、守る。愛する。誰にも触れさせない。
だから――俺を、選んでくれ」
私の指に、彼が持っていた指輪が滑り込んだ。
赤く、澄んだ宝石――
その中心に、彼と私の魔力が交わる光が灯る。
契約の証、そして皇后の証。
「……はい。私で、よければ」
返事をした瞬間、カイゼルの瞳が揺れた。
嬉しそうに、なのにどこか、飢えたような。
「……やっと、手に入れた」
次の瞬間、彼は私を強く引き寄せて、唇を重ねた。
「んっ……!」
熱く、深く、まるでこの場にいる全員に見せつけるように。
「これで、もう逃がさない」
「わ、わかりましたから! 陛下、落ち着いて……っ!」
「いや、まだ足りない。足りるわけがない」
「ひっ……式はまだ、これからなんですよぉぉおおおおお!?」
――こうして私は、皇帝陛下から正式にプロポーズされました。
もう、逃げ場なんて、どこにもありません。




