第1話『冷酷皇帝、溺愛モード突入。第一段階、距離感をゼロにせよ』
冒険者としての生活を終えて、私――リリーは帝都の宮廷へ戻ってきた。
あのダンジョンでの冒険も、ギルドの仲間も、今では少し懐かしい思い出。
でも――宮廷に帰ってきたとたん、私の平穏は終わった。
「……リリー、もう少しこちらに」
「え、えっ? カイゼル、ちょっと近いです――っ!」
私の手を取って、指をなぞるようにキスするこの人。
金色の髪、最高級のルビーのような深い赤い瞳。冷たく、でも私にだけは甘い声。
――皇帝陛下、カイゼル=ヴァルフレイム。
私を拾ってくれた、帝国一冷酷と呼ばれる美貌の魔導皇帝さま。
……なんだけど、最近どう見ても本気で距離感がバグってる。
「ダメだな。離れると、手が寂しい」
「いやいやいや、くっつきすぎー!」
「では、手を握るだけでは足りないということか。……口でも塞ぐか?」
「かぁぁぁぁああああっ!?!?!?」
耳元でそんな囁きをされたら、反応するなってほうが無理!
「な、なんでこんなに急に迫ってくるのっ!」
「我慢の限界だからだ」
「なにが!?」
「お前が子供扱いされることに、だ」
……一瞬、心臓が止まった気がした。
「お前は、もう十分に“大人”だ。
誰より聡明で、誇り高く、強く、美しい。……だから」
皇帝陛下は、私の頬にそっと触れ、
まるで壊れ物を扱うように、でもしっかりと包み込むように言った。
「そろそろ、女として抱きしめても……いいか?」
「……~~~~~~っっ!!」
なにその爆弾発言!?
耳が! 頭が! 思考がショートしそう!!
「ま、まだっ! 私、心の準備が!」
「では、時間をかけよう。
――お前が“自分が恋されている”ことを、ちゃんと自覚するまで」
その夜、私は部屋のベッドで転がり続けた。
天井を見つめながら、思ったこと。
――恋って、こんなに逃げられないものなんだね!!!
(※この後、リリーの逃走劇がしばらく続くことになる)




