第2話『はじめての宮廷。騒動、即・勃発です』
「おい、目線を下げろ。リリーの視線より上に立つな」
「ひぃっ! は、はいっ、陛下!」
今日も今日とて、皇帝・カイゼル=ヴァルフレイム様の溺愛はフルスロットルである。
私はというと、宮廷デビュー一日目。
本当なら、平民出身の5歳児が皇帝の側で歩いてるなんて、ありえないわけで――
「リリー様、お足元お気をつけくださいませ」
「リリー様、そちらは日当たりが強うございます」
「リリー様、本日の花はラベンダーでございます。お好みでしたでしょうか?」
「……私、なんか女王になってない??」
完全に“姫様ムーブ”されていた。
しかも問題は、まだある。
◇ ◇ ◇
「お待ちしておりました、皇帝陛下。……そして、そちらの“子供”は?」
リリー初・公式行事は、重臣たちとの謁見。
当然ながら、彼らの視線は冷たい。
「……陛下、まさかとは思いますが、魔術暴発の噂のあるこの幼子を、側近に?」
「側近? 違うな。俺の唯一にして絶対の癒しだ」
「癒し!?」
「リリーの笑顔一つで、俺は一国を赦せる。だが、リリーが涙を流せば、世界を滅ぼす」
「ええええええええ!!?」
私もびっくりである。
◇ ◇ ◇
その後。
重臣たちの一人が、ニヤリと嫌な笑みを浮かべて言った。
「では、試させていただきましょう。皇帝陛下がなぜこの子をそこまで重用されるのか――。
どうせはったりの魔法力、ただの噂でしょう?」
……それが間違いだった。
「リリー、好きにしていい」
「えっ!? いいの!? やっていいの!?」
「うむ」
私、張り切ってやりました。魔法チートの真髄を。
・空間ごと切り取る斬撃魔法
・空飛ぶゴーレムお手製(ハート型)
・物理演算無視の広域雷撃魔法
・ラストは爆発しない炎でハート型演出!
ド派手な魔法を一通り披露したあとの、重臣たちの顔。
「……嘘だろ……ただの子供が、魔術省の理論を完全無視して……!」
「次元干渉魔法が実現してる!? 魔法理論崩壊する!! 研究やり直しだー!!」
カイゼル「……ふ。これが、我が娘だ」
「娘になった覚えないんだけど!?」
「将来は花嫁だが?」
「何!? 今!? この流れでそれ言う!?!?(顔真っ赤)」
◇ ◇ ◇
その日の宮廷は、魔王でも現れたのかってくらい阿鼻叫喚だったらしい。
だが私は、ようやく気づいてしまった。
――この皇帝、
溺愛というより、もう信仰では??