閑話②『出会い――それは、氷の皇帝に春が訪れた日』
俺は、感情を殺して生きてきた。
冷酷と呼ばれ、恐れられ、崇められ、利用される――
それが皇帝という立場であり、俺に与えられた唯一の存在理由。
だが、ある日。
帝都の郊外――魔導士たちですら避ける“魔力暴走地帯”で、俺は“それ”に出会った。
「……っ、魔力の歪みが酷い。ここに誰かが……?」
兵が報告した。「子どものような姿の何かが、浮かんでいた」と。
ふざけた話だと思った。
魔力の嵐の中に、子どもなどいられるはずがない。
だが――そこにいた。
ふわふわの銀髪、透き通るような肌。
そして、**空間を圧倒するほどの“存在感”**を放つ、小さな少女。
まるで、世界そのものが彼女を中心に回っているかのように感じた。
「……貴様、名は?」
俺が問いかけたとき、その子は首をかしげた。
「ひゃ、ひゃい!? え、リリーですっ!」
......そして、困ったように笑った。
その瞬間。
俺の中の時間が止まった。
鼓動が、確かに早くなっていた。
何年ぶりだろうか。いや、こんな感覚は生まれて初めてだったかもしれない。
震えていた。
指先ではない。
心が――氷漬けだったはずの心が、確かに熱を持っていた。
「リリー……」
その名前を呼んだだけで、口の中に甘い風が吹いた気がした。
少女は、まるで日だまりのように笑っていた。
「……小娘、今から貴様は俺のものだ」
「え、えぇぇぇぇええええ!!?!?!」
可笑しな子だ。
恐れもせず、媚びもせず、ただ、まっすぐに俺を見た。
その目が……とても、懐かしかった。
◇ ◇ ◇
それから彼女は、俺の城で過ごすようになった。
リリーは魔法を瞬時に理解し、臣下すら手を焼く難問をお菓子を食べながら解いた。
だがそれよりも、俺が何よりも嬉しかったのは――
彼女が、俺に恐怖以外の感情を向けてくれたことだった。
呆れ、笑い、驚き、そして……ときどき、寂しそうにする顔。
それら全てが、俺に“生きている”と教えてくれた。
……リリー。
お前がこの世界に現れたその日から、俺は皇帝ではなくなった。
ただのお前の虜だ。
たとえ全世界を敵に回そうとも。
お前一人を守るためなら、俺は何のためらいもなく剣を振るう。
それが、俺の――
氷の皇帝、カイゼル=ヴァルフレイムの生涯を賭けた恋の始まりだった。




