第5話『新入り冒険者に絡まれたので、カイザードが威圧だけで全員黙らせた件』
今日も私はギルドに来ていた。
目的はただひとつ。
「新作のお菓子クエスト、受けにきましたー!」
「リリィ様、今回のご依頼はこちらになりますぅぅぅ!」
受付嬢は私の姿を見た瞬間、三秒で土下座。
机の下から取り出したのは、なぜか“宝箱入りのクッキー詰め合わせ”。
「(……貴族対応か神様対応なのか、もはや誰にもわからない)」
しかし、そんな平和な時間に――
「おい、そこのガキ!」
ギルドの隅でガヤガヤしていた新入り冒険者たちが、こっちを睨んでいた。
「なんでこんなチビにギルドの受付嬢が媚びてんだよ!」
「お前のせいで、こっちはまともな依頼も来ねぇんだぞ!?」
「そんな格好でうろついてんじゃねぇ!」
……うん、まあよくある。
“実績が見えない新人”ほど、実績ある子どもを目の敵にしがちなのだ。
「ねえ、君たち。クエストちゃんと読んでる?」
「はぁ? 読むに決まってんだろ!」
「この“お菓子の審査依頼”、Sランク以上じゃないと受けられないよ?」
「……え?」
「今の私は【ギルド特認S++】だよ?」
「……は?」
そこに――静かに、だが確実に空気が変わる。
背後から、**“帝国の冷気”**のような気配。
「――リリィに声を荒げた者、前へ」
黒いローブを羽織った男。
新入り冒険者たちは、彼がただ者じゃないと瞬時に察した。
「おい、誰だあいつ……?」
「わからん……でも、なんか息がしづらく……」
「“目が合った”だけで、体が動かねえ……!?」
そう。彼こそ、帝国皇帝・カイゼル=ヴァルフレイム。
そして、冒険者リリィの忠実すぎる護衛カイザード(仮)
――なおリリーに恋煩い中。
「リリィに歯向かうなら、資格はひとつ。死を覚悟してからにしろ」
「ひ、ひいいいぃぃぃ!?!?」
「す、すいませんっしたあああああ!!!」
彼らは涙目で土下座し、履歴を消す勢いでギルドから退場していった。
◇ ◇ ◇
「……カイゼル。ちょっと脅しすぎじゃない?」
「甘い。あれは“忠告”だ」
「それ以上ってなにがあるのよ」
「この国ごと、沈める」
「やめて!? 皇帝としての自覚持って!!!」
その日から、
ギルドでは“リリィ様に近づく時は、まず黒マントの許可を得る”という暗黙のルールが定着した。
受付嬢曰く、
「リリィ様が笑えば国家が栄え、泣けば都市が沈む」とのこと。
もはや神話である。




