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7 きょうの図書館

 今日はよく晴れている。

 転校して数ヶ月。春が過ぎ去り、汗ばむ季節が顔を覗かせていた。

 今僕は、うわんと一緒に市立図書館に来ている。


 僕はあまり本を読まない。特に活字ばかりの小説や文学作品は興味がないし、読み切れる自信もない。

 現代文の成績は悪くはないが、文庫本の何百ページを読破した経験は両手で十分足りるくらいだ。文庫本をなんとなしにめくってみても、最初の数ページで投げてしまうのが常だった。

なのでその読み切った本は特に気に入った作品たちで、数冊ではあるが全て面白い少数精鋭の物語である。その中でもお気に入りなのが…あれ、なんだっけ。まぁいいや。

 つまりそのくらいハマらないと読了できないほど、僕の守備範囲は狭かった。別に本が嫌いなのではない。むしろ書店や図書館のこの雰囲気は好きだ。紙の匂いも、なんとなく落ち着く。


 この図書館は昔から建てられているが、最近改装をしたそうで、元々結構な広さだったのが更に大きくなり、蔵書数も倍以上となったらしい。建物に入ると大きなホールが出迎え、右手には鯵田だけでなく近隣の街の市報やイベントフライヤーなどが壁の棚いっぱいに入れられている。図書館はそれを辿って少し先に出入り口がある。

「上山さん、本とか読むんですか?」

「人の文字はあまり読めない」

「そうなんですか」

 意外だった。クリーニング店やヒガラシ履物店に行ったときは、パッと服を出したり、妖怪同士はテレパシーに似た力を使えると言っていたのに。そういう不思議な力で人の文字も解読できないのだろうか。

 いまいち、妖怪のできることできないことの違いがよくわからなかった。

「でも、随分前に誰かから」

 うわんが言いかけたところで、後ろから「あれぇ?」と声が聞こえた。あからさまに他人に喋りかける口調だったので思わず振り向く。横のうわんは5cmほど目線を下げ、呆れたような諦めたような、渋い顔をしていた。


「おおーい!ちょっとちょっと、うわんじゃねえ!?」

「善河くん…こ、声が大きいよ…」


 ヨシカワくんと呼ばれている男性は、派手な色の髪の毛を七三くらいで高く分け、チャラい印象もあるが人懐っこそうな顔立ちだ。たれがちなくりっと丸い黒目と人差し指をこちら…というか、うわんに向けている。シャツの袖から見える手首には、パワーストーンらしき緑色の石が連なったブレスレットが見えている。


「だってほら、宇住見てみろよ!全部わからんって!」

 ウズミと呼ばれた男性は気弱そうな出立ちで、ヨシカワさんの少し斜め後ろで肩を強張らせている。センターで緩く分けた前髪の横はツーブロックになるよう刈り上げており、下がった眉尻の下には細く吊り上がった目が開いていた。

 二人とも、おそらく大学生ほどの年齢だ。

「静かにしてくれ」

 うわんが頭をかきながら面倒くさそうに振り返る。僕は何が何だかわからないまま、「え、あの、」と狼狽えるしかなかった。

「お、お知り合いですか」

「できれば知り合いたくない奴らさ」

 うわんを知っている上、うわんのこの反応だ。二人もきっと妖怪なんだろう。

 うわんとやりとりしている間に二人が近づいてきた。ウズミさんは半ば引っ張られる形で。

「なぁほら!まずうわんが外に出てる、しかもだぞ、人間と並んで歩いてる、話してる、」

「す、ストップストップ」

 少し声のボリュームは落ちたものの、興奮を隠せず喋り続けるヨシカワさんの服を引っ張り制すウズミさん。埒があかないといった態度でうわんが言う。

「あのね、僕だって外を歩いたり人と喋ったりするさ。それで、なんで君たちがここにいるんだい」

「いやだって前までフガッ」

 ヨシカワさんがそう言ったところで、ウズミさんが口をふさいだ。ある意味、息ぴったりだこの人たち。

「えっと、僕たちは大学の課題で…」

「お二人とも、大学生なんですね」

「え、えぇ。桜詰大学で、彼は河川工学など、僕は海洋学を…」

 僕からの質問に一瞬戸惑いを見せたが、ウズミさんは答えてくれた。

「僕は桜詰南高校の羽木原と言います。桜詰大学、志望校として興味があったんです」

「そうなんですね!あ、えっと、僕は宇住です」

「俺は善河!よろしくおいしゃーす」

 口をふさがれていた宇住さんの手を取ると、善河さんの方も僕に向かって名乗ってくれた。

「全く、君のたらしぶりには困ったものだな。ちなみにこいつらは河童と海坊主だ。阿呆そうなのが河童、大人しいのが海坊主」

「えっ!そうなんですか」

「阿呆そうはおもろいって、普通に悪口じゃん」

 耳馴染みのある名前に僕は驚いた。河童は確か河川に住み着く妖怪で、頭にお皿があって、きゅうりが好物だというイメージだ。

 海坊主は釣り好きの叔父に一度、「魚を獲るときは海に感謝しないと、海坊主が現れて船を沈めてしまう」と聞かされたことがある。

「そんで、うわんはなんで羽木原クンと一緒なん?マブ?」

「まぶ?なんだいそれは。…ただの探し物さ」

 うわんより少し背の低い善河さんは、うわんの顔を覗き込むようにして聞いた。それを避けるようにうわんが小さな声で答える。

「え、え、なになに気になる」

「ちょっと、あんまり詮索すべきじゃないよ」

 首を突っ込まれたくなさそうなうわんに同調するように、宇住さんは一層興味津々の様子の善河さんを諌めた。

「上山さん、このお二人にもお尋ねしましょうよ」

「…まぁいい、中に入って話そう」

 僕がうわんに提案すると、少し考えてそう言った。未だ面倒くさい子供に絡まれたような顔をしているが、僕の言葉を飲んでくれたようだ。

 僕たちは図書館の自動扉をくぐり、少し涼しい館内へ入っていった。


─────


「えぇと、…あぁ、いたいた。あれだよ」

 出入り口近くにあるキッズコーナーを通り過ぎ、奥行きに沿って伸びるカウンターのある一点を指差してうわんは囁いた。職員が歩き回るカウンター。窓口の隅に座って本を読んでいる女性が一人、見える。

「綺麗な人ですね」

 遠目でしか見ていないが、ストレートロングの黒髪に横顔の鼻だけが覗いていた。カウンターに肘をついているが、背筋はまっすぐ伸びており、ベージュの薄手のカーディガンの袖から見える白い手首はほっそりとしていた。


「お、お二人は、一木さんに会いに来たんですか」

 宇住さんが小さい声で僕とうわんを交互に見やる。うわんは「そうだよ」と答えると、ついてくるよう目で促して女性のもとへ向かった。

 あの美人は、イチキさんというらしい。


「やぁ」

「…」

 うわんがイチキさんの目の前に立ち、少し腰を屈めて話かけた。が、しばらく待っても返事はなかった。読書に夢中なのだろうか。

 近くで見るとやはり息を呑むほど容姿端麗で、おでこの真ん中から左右へ絹糸のように垂れ下がった黒髪はストンと素直に落ち、毛先が少し机についている。病的なほど白い肌に伏せられた大きな目、濃いめの眉はやや凛々しくも優しい雰囲気を醸し出しており、弧を描いた口元はリップの桜色が乗せられていた。

 そして美人であると同時に、イチキさんを纏うオーラは妖艶でもあった。目元から下には濃い影が落ちている。まるでその眼下に滅亡した地球があるかのような、深い影だった。


「おい、聞いてるのか」

 うわんが再び尋ねると、イチキさんはゆっくりと顔を上げ、丁寧な動きで本に栞を挟んだ。

「珍しい」

 そう一言だけいうと本を脇に避け、身を乗り出して「何かご用?」と聞いた。職員用の名札には“市立図書館職員 一木”と書かれている。

「あぁ。ゆっくり話せる所はあるかな」

 初めてまともに一木さんがこちらを見た。黒々とした瞳。射抜くような視線だった。思わず目を逸らし、先ほど置かれた本を見る。

「ゆ、UFO」

「興味があるの?」

 本の表紙には“大特集!UFO・UMAの謎 某宇宙ステーションに隠された秘密とは!?”と書いてある。僕はてっきり、純文学とか詩集とかを読んでいると思っていたので拍子抜けしてしまった。ふと漏れ出た僕の声に、一木さんが反応した。

「あ、い、いえ…。少々その、意外だったもので」

「そう。…で、後ろの二人も、あなた達のお連れ?」

 少し残念そうな素振りを見せ、一木さんは問いかけた。善河さんがすかさず「お連れでーす」と返事する。次いで宇住さんが「お、お連れ、です」と小さな声で言った。二人は、どうやらたびたびこの図書館を利用しているらしかった。


「お待ちください」

 一木さんは立ち上がると、そばにいた職員に「トクダン借ります」と声をかけ、鍵をとってきた。「こちらへどうぞ」という声についていくと、“特別談話室”とプレートが書かれた部屋に通された。“トクダン”とはこの略だったのか。

 しかしその辺の高校生、大学生と着流しの男がゾロゾロ移動しているさまはさぞかし異様だったろう。実際、利用者の脇を通る時何人かに訝しげな視線を向けられた。気がする。

「適当に椅子出して座って」

 一木さんはそう言いながら照明や空調をつけたり、会議などで使われるような長テーブルを出したりしていた。後ろに畳んで置かれたパイプ椅子が数脚あったので、いくつかもって広げる。

 うわんが逆さに持って脚を無闇に動かそうとしていたので、広げ方を教えてやった。



 長テーブルを挟んで僕たち四人と一木さんは向かい合わせに座った。顔の前で手を組み、先ほどのようにテーブルに肘をついている。

 皆が席につくと、うわんは早速「聞きたいことが」と言いかけた。しかしそれを遮ったのは一木さんだった。


「その子はだあれ?」


 静かに、だが強かにそう聞いた。僕を見つめるその瞳は、視線だけで殺されそうなほど鋭いものだった。睨むというよりは、これから食う小動物を楽しんで見ているかのような表情だ。口もとは緩く笑ってはいるが、引き攣ったようにも見える。

 見つめられるうち、いつの間にか冷や汗が出てくるのを感じた。思わず息を呑む。血の気がさーっと引く、というのはこういった時に使う言葉だろうか。この感覚はうわんと出会った時のような──いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。


 一木さんの周りの空気が少し揺れている気がした。一木さんから感じ取れるこれは、紛れもない“敵意”だった。


「脅かすな。俺の友人だ」

「あら、そう」

 横に座るうわんが、似たような気迫で一木さんの質問に答える。見ると目の赤は濃くなり、少し怒気を孕んでいる気がした。善河さん、宇住さんは硬い表情のまま、冷や汗をかいてやりとりを見守っている。


「この子に危害を加えるとただではおかないよ」


 うわんがそう一木さんを制すと、一木さんは少しの沈黙の後ふっと息を抜いて「木霊くんの目もあるものね。あぁ、うざったいわ」と組んでいた手を解き、背もたれに体を預けた。

 先ほどまでのピリついた空気が変わったのを感じた。だがうわんは一木さんを警戒したままのようだった。

「っあー、びっくりした!ビビらせんでくださいよったくもう!アハハ」

 善河さんが明るく笑った。若干無理をしているように見えなくもないが、隣に座る宇住さんも「はは、あはは…」と愛想笑いをしている。

 僕も引き攣った笑みを浮かべていると、うわんが囁いてきた。

「気をつけるんだよ。こいつは昔人を食ってたからね」

「えっ!?」

 思わず大きな声が出る。それを察して一木さんの視線が再び、こちらに向いた。

「初めまして、私は一反木綿よ。人の時は一木玲子いちきれいこって名前だけど」

「あ、はっ、僕は羽木原と言います…よろしくお願いします」

 人を食っていた、と言われ全く否定することなくにこやかに自己紹介を始めた一木さんに、かなり戸惑ってしまった。

 やはり本当の話なのだろうか。だとしたらおっかなすぎる。

 一反木綿といえば、アニメかなんかで主人公の味方として登場していた細長い布のような妖怪キャラを思い出す。その一反木綿と思っていいのかな。


「えっと…うわんさんと一木さんは昔からのお知り合いなんですね。あれ、じゃあうわんさんか一木さんが、この中では年長…?」

「いや、この面子で一番古いのは河童だ」

 驚いて咄嗟に善河さんの方を見た。こっちを向いてニッと笑い、ピースしている。

「あっでも全然タメでいーから!気ィ遣われるとなんかさぁ、萎えんだよね」


「妖怪は好きな姿になって人々に溶け込んでいるから。見た目ほど当てにならないものはないわ」

 美人で儚げな印象だが、その実、人を食べていた過去も持つという一木さんの言葉は重く、説得力があった。

 誰が新参者で誰が古参か、人はほとんど見た目で判断するので、妖怪の世界は大変そうだな、と思った。尤も、今まで会った妖怪で誰かが誰かにへりくだっている様子は見たことがないので、序列なく皆対等だったりするのだろうか。

 見た目は同じでもかなり生き方や関わり方が違うのだ。きっと。

 僕がそんなことを考えていると、うわんが座り直して口を開く。

「で、本題だが…そこの二人にも聞きたいことなんだ」

「ぼ、僕たちにも…?」

 顔を見合わせてはてなを浮かべる二人。一木さんは少し身を乗り出す。


「ヒジツの札がどこにあるか、知っていたら教えてほしい」

 空気が一瞬、固まった。善河さんは口を窄めた表情でこちらを見たままだし、宇住さんは細い目を見開いて唾を飲んだ。一木さんはというと、眉をピクッと一瞬動かした後は微動だにせず、何かこちらを──というかうわんを探っているようだった。


「…ですって。どう?善河くん」

「ど、どうってどういう意味すか!」

「一番の古株でしょう?」

 いきなり話を振られた善河さんはおどけてツッコんだ。

「まぁそうっすけどぉ…ゆーて千年くらい生きとる俺でも二、三回しか見たことないっすからね…。探し物って、それだったんすね」

 せ、千年も生きてるのか…。確かに、河童の歴史はすごく古いと聞いたことはあるが、その辺にいそうな大学生の口からそんなことを聞いても、にわかには信じがたかった。

 そしてどうやら善河さんは、一木さんといると敬語になるらしい。なんとなく気持ちはわかる。

「海坊主はどうなんだ」

「僕も…聞いたことがないです。すみません」

「残念ながら私もよ」

 うわんの問いに、宇住さん、次いで一木さんが答える。今回も空振りだったようだ。


「どうしてその札を探しているの?」

 押し黙ってしまったうわんに、一木さんは最初のようなゆっくりとした口調で聞く。まるで聞き返すこともはぐらかすことも許さない、といった聞き方だった。


「そこの羽木原くんと関係がありそうね」

「そうだ」

 うわんは間を置かず答えた。


「ふぅん。じゃあ…その子はあなたの弱みってわけ」

「…ハギワラくん、行こうか。これ以上こいつらといても何も生まれない」

 ガタ、と椅子を引いて立ち上がるうわん。一木さんは未だ薄い笑みをたたえたまま、こちらの様子を見ている。善河さんと宇住さんは「えー」だの「ちょ、ちょっと」だのなんとか言って、再びやってきたひりついた雰囲気に戸惑っているようだ。

「私もう退勤なの。帰るから、あなた達はゆっくり本でも読んでいったらいいわ」

「だ、そうですよ。僕も借りたいものがあるんです」

 本当はそんな本は無いのだが、館内を見て回りたい気持ちがあったので一木さんの言葉に甘えることを提案した。うわんは袖を引く僕の方を見て、しばらく黙っていたがやがてため息をつき、了承してくれた。

 後ろで善河さんの「ナイスギワラ!」という訳のわからない一言が聞こえた。



───


「一木さん、あんな態度でしたけど…そんなに悪い方じゃないですからね」

 特別談話室、通称“トクダン”を出た僕たちは、各々好きな書架へ向かった。善河さんは技術・工学の棚へ、僕と宇住さんは民俗学の棚へ。うわんは、一木さんが職員に「お先に失礼します」と挨拶をしカウンターの奥へ入っていくのを確認してから、ふらふらとどこかへ行ってしまった。

 妖怪の伝承や地域ごとの都市伝説が書かれている本の背表紙を眺めていると、宇住さんがごく小さい声で話しかけてきた。

「そうなんですか」

「あぁ、えっと、人にとっては良くないですよね…食べちゃうし…」

「そ、そうですね」

「でも、一木さんは人の姿を持ち始めてからぱったりとやめたんです、そういうの」

 妖怪にとって、人を食べるというのはどういった枠に入るのだろう。楽しいからだとか、腹を満たすためだとか、そういった理由があって行われるのだろうか。それとも、ただなんとなしに、邪魔な虫を追い払う感覚なのだろうか。

「ククノチさんが見てるからっていうのも、あるけど…。一木さんは、多分誰よりも人間の文化に興味を持っていると思う」

 ククノチさんというのは木霊さんのことだろう。宇住さんの、センターから耳に流している前髪がはらりと落ちる。

 そういえば一木さんを初めて見た時、熱心に読んでいた本は未確認生物の雑誌だった。確かにああいったものは、人の生み出す文化や信仰というものによほど興味がないと読まないだろう。読んでいる時の表情も幾ぶん柔らかで、本当に楽しんで目を動かしていたように思う。


「宇住さんは、一木さんのことが好きなんですか?」

「えっ?」

 先ほどから一木さんの立ち居振る舞いを弁解するかのような口ぶりの宇住さんに、思い切って聞いてしまった。

「えっと、妖怪同士で気が合う合わないはあると思うんですけど…。その、羽木原さんが言っているのはいわゆるツガイとしての恋愛感情ですよね」

「はい」

「残念ながら、僕たちはそこまで人と近くないんです。そういった感情は生殖行為を前提としているので」

「そうなんですか」

 突っぱねた言い方というよりは、もっと柔和な、しかし研究者のような淡々とした説明で諭されてしまった。そうか、人と妖怪ではそもそも生まれが違うのだ。

「すみません、失礼なことを言ってしまいました」

「いっ、いえいえ!そんな」

 あっ、と大きな声を出してしまったような仕草で自分の口をふさぐが、元々小さい声をさらに小さくして喋っていたので、周りには聞こえていないようだった。

 僕が謝罪して気まずくなったのか、宇住さんは再び口を開く。

「で、でも、伝承にも度々記述がありますが、妖怪と人との間で愛情が生まれることはあったようですよ」

「あぁ…なんか、聞いたことがあります。狐とか」

「まさに、それです。不思議ですよね」

 以前どこかで、女に化けた狐と人の男が恋に落ち、子供を身籠る物語を聞いたことがある。あまり覚えていないが、大昔の出来事としてそういった言い伝えは各地にあるそうだ。


「うずみーん、ちょこっちきて」

「ハギワラくん、今いいかい」

 棚の両端から同時に善河さんとうわんがひょっこり出てきたのは、僕も宇住さんも何冊か本を手にした時だった。思わぬシンクロに宇住さんと顔を見合わせてクスッと笑い、各々呼ばれた方へ行くのだった。


 そして僕は、うわんに見せられた一冊の本に頭を悩ませることになる。

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