第2話 どうしようもない
「瑞樹、それは生理よ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。は?」
意味が分からなかった・・・。
(は?おれが生理?・・・・・・・・・・・。いやいやいやいやありえないって!!!だって、お、れは・・・・・・・。おとこ・・・・・・。え?)
「瑞樹、あのね、よく聞いてほしいの、それは生理で・・・・・・。」
母さんはなんにも俺が反応を返さなかったからなのだろうか。
再度、落ち着いた声で、”生理”と聞き間違えが発生しない発音と音量で言っている。
のだが・・・・・・・・・・。
「え、は?生理って、それって、女の子だけがなるやつなんじゃ・・・・・。!?!?!?」
トイレの中で半狂乱になりながらも、頑張って言葉をひねり出す俺。
生理なんて保健体育の授業なんかで話は聞いたことはある。
ただ、それは女の子特有の病のはずで、男である俺がなるわけがないし、関係がないことだと思って、いつも話半分で聞いていた、あの・・・・・・・・・・。
ズキン
「うっぐっ」
そして、そんなパニック状態のおれのことなんてお構いなしに再度、お腹の中を抉るような痛みが走り、思わずうめき声をあげてしまう俺。
それだけではない・・・・・・・。
ボタボタボタ
痛みが走った瞬間、俺の意志とは関係なしに股から血の塊が床に落ちていった。
「え、あ、え!?なんでなんで!?!?!?」
本当に意味が分からない状況だった。
突然、母さんに女の子しかなり得ない病気であるはずの生理だと聞かされたこともそうだし、それが真実だとわからせようとするかのように、きっちり聞いていなかったからうる覚えの生理中の女の子に起こる症状に酷似するこの症状の数々・・・。
「うっ!!!おぇぇ・・・。」
「瑞樹!?大丈夫!?鍵開けて!!!」
あまりにもありえない情報が脳内を駆け巡ったせいなのだろうか、それとも、この母さん曰く”生理”のせいなのだろうか、はたまた血を失ったことによる貧血作用のせいなんだろうか。
ドアに向かって嘔吐してしまう俺
(うぇぇ、汚い・・・。うっうっ)
そして、トイレに座り込んでしまう俺。
血は止まる気配なく、未だに股の奥から流れ落ちては便器の中を赤色に染めていく・・・。
「うっうっ、どうして・・・。どうしてこんなことに・・・。」
もう完全にパニック状態になりながら、大粒の涙がひたすら頬を伝い、床へと落ちて、あまりにもこの状況に目を伏せたくて、手のひらで自分の顔を覆ってしまう俺・・・。
「うっうっ、しんどいよぉ・・・・。痛いよぉ・・・・・。苦しいよぉ・・・・・。」
思わず、しんどいことをそのまま吐露してしまう俺・・・。
今まで、”男だから”というのもあって、あんまり人前で泣いたり落ち込んだり、そういったものを見せてこなかったのに、もうそんなことを気にしていられるほどの余裕はなかった。
「瑞樹・・・・・・・・・。お薬、お薬持ってきてあげるから・・・。少し待っていて・・・。」
「う、うん」
バタバタバタバタ
母さんはそう言うと、足音を響かせながら階段を駆け下りていった。
”薬”がどんな効能のものなのかはわからないけど、このしんどさと痛みが少しでも和らいでほしい・・・。その気持ちで一杯だった。
「ひっく、ひっく・・・。うっうっ・・・。痛い・・・。気持ち悪い・・・。しんどいよぉ・・・。母さん、早く・・・・。」
母さんからの呼びかけがなくなったのもわずか数秒のことのはずなのに、たまらなくこのひとりきりのこの空間は自身の心を蝕んでいく。
一度、泣き出してしまったせいもあるのだろう。
今まで必死に我慢することのできたはずの悲しみに襲われた俺の涙は一向に止まらない。
バタバタバタバタ
「瑞樹、お薬持ってきたから。鍵開けて」
「うっうっ、ぐすん、母さん・・・・・。」
多分、いつもの、いや今までの俺であれば、こんな自分のぐちゃぐちゃな泣き顔なんて母さんに見せることが嫌で、鍵を開けることも助けを求めることだってしなかっただろう。
だけど、「薬を持ってきてくれた」という言葉がひどく安心感を覚えさせて、何の抵抗もなく、トイレのカギを開けてしまう。
「瑞樹、ドア開けるわよ・・・・。」
「うん・・・・・。」
母さんのその声とともにドアノブが動き、ドアが開いていく。
そして・・・・・・・。
「瑞樹!?!?」
母さんの声とともに温かい感触がおれの顔に伝わっていく。
抱きしめてくれたのだ・・・。
こんなにも嘔吐していて汚い筈の自分の顔をその胸元で抱きしめてくれた・・・。
ただ、それだけのことで愛情を感じてしまう俺・・・。
「母さん、ごめんね・・・。汚いのにごめんね・・・・・。」
「・・・・・・・・。いいのよ。いいのよ・・・。」
泣きながら謝る俺に母さんはただ背中を優しく摩ってくれた・・・。
涙や吐瀉物で母さんの服はぐちゃぐちゃになっていたけれど、そんな優しさがなくなるのが怖くて、そのまま泣き続けてしまう俺・・・・・・。
(ほんと情けないな・・・・・・。俺・・・・。)
そして・・・・・・・。
「あ、瑞樹、これ・・・・・・。飲める・・・・・・?お水も持ってきてあげたから」
「うん・・・・。」
あれから、数分の時間が経ち、やっと落ち着くことが出来た俺の手に母さんは錠剤を2錠置いてくれた。
それが何の薬かはわからないまでもきっとこの痛みやしんどさを和らげてくれるものなのだろう。
おれは、母さんに言われるがまま、そのお薬を飲み込むと、水を喉に通していく。
さっきまで嘔吐していたからなのだろう、少しの喉へのつかえと酸っぱさを感じながらも、喉に明らかな潤いをもたらしていく。
「それじゃあ、少し寝ときなさいね。生理の時はゆっくりしとかないともっとしんどくなるんだからね・・・・・・。また吐きそうになったり、痛くて気持ち悪くなったら呼びなさいね・・・・・。」
「うん・・・・。ありがとう・・・・・。母さん」
俺は情けなくなりながらも、これ以上母さんに迷惑はかけたくないその一心で母さんの言うとおりにすることにした…。
まだお腹のあたりはズキンズキンと痛みが走ってどうにかなりそうだし、その度に股の間を流れていく不快な感触に気持ち悪さを感じながらも、目を閉じる。
おそらく、母さんは俺が眠りについても、俺の嘔吐した跡やあのドロッとした得体のしれない血の後始末をさせてしまうことだろう・・・。
そのことにたまらなく罪悪感と憂鬱さを感じる・・・。
しかし、吐いたり、泣いたり、股から流れ落ちたりと、色々と精神的にも体力的にも疲弊していたのだろう・・・。薬の作用というのもあるのかもしれないが、目を閉じてしばらくすると睡魔はやってきたので、その流れに沿うように意識を手放すことにしたのだった。
そして・・・・・・・・・・・・。
「う~ん、まだ痛いけど・・・・・・。少し、ほんの少しだけ、マシになったような・・・・・・・・。いや、そんなことないかも・・・・・・・・・・・・・。うっうっ・・・・・・・。」
あれからいくばくかの時間が過ぎていたのだろう・・・。
最初に起きた時に窓から差し込んだ光は今がまさに朝であることをこちらに感じさせていたというのに、今はもう夕方なのか、はたまた夜になりかけているのだろうか、
差し込んでくる光は太陽のものではなくなっていて、どことなく部屋の中も薄暗い雰囲気を醸し出していた。
「ん~、暗い・・・・・・・・・。それになんかトイレ・・・・・・。行きたいかも・・・。」
そう考えてしまった途端、ブルッと小刻みに震えてしまう俺・・・。
おそらく、というか絶対に膀胱いっぱいに尿が溜まっているのだろう。
身体は正直なようで、俺に排尿を促してくる。
しかし・・・・・・・・・・・・。
「またあの凄惨な光景を見ないといけないんじゃ・・・・・・・。」
脳裏に浮かんでくるのは今まで生きてきた人生の中で見たことのない血液?が、自身のパンツにべっとりと付いていた光景だった。
あれからおそらく数時間は過ぎていてもなお、ついさっきのことのように目を閉じれば。あの光景が絶望感と共に浮かんでくる。
「うぇ・・・・・・・・。」
思わず嗚咽を零してしまう俺・・・・・・・・。
もう一度あの瞬間を味わうことは耐えられそうもなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・。我慢しよう・・・・・。」
数秒間の自己問答の末、出てきた答えはこの尿意を我慢することだった。
普通に考えれば、今後一生尿意を我慢することなんてできやしないことは分かっていたのだけど、いまは、いまだけはどうしても行くことを拒んでしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。収まれ・・・・。収まれ・・・・・・。収まれ・・・・・。」
自身の身体に言い聞かせるように、この尿意が収まってくれと反芻してしまう俺。
布団で顔全体を隠しながらするその一連の所作は傍から見れば、だいぶおかしい。
しかし・・・・・・・・・。
女の子の身体というものは男の身体よりも我慢というものができないのだろう。
「あ・・・・・・・・・・・。嘘・・・・・・・・・・。」
何度目かの反芻をした瞬間、それまで我慢できていたはずの尿が情け容赦なくも、尿道を通り、そして・・・・・・・・。
自身の股に温かい、それでいて嫌な感触が溢れてくる。
おれはほんとうに情けないことにおしっこを漏らしてしまったのだった。
お漏らしなんてもうとっくの昔に卒業したはずのことで・・・・。
まさか高校生にもなって、身体がこんなことになってしまったとはいえ、お漏らしをしてしまうだなんて思ってもいなかった。
尿が何秒間出ていたのかはわからないし、わかりたくもないけれど、永遠にも等しいくらいの時間に感じられてしまう。
言いしれようのない罪悪感やみっともなさ、居たたまれなさが一気に襲ってきて、涙が込み上げてしまう。
ブルッ
そして、排尿しきったためなのか、股のほうが小刻みに痙攣して、ほんとうに自分の身体が女性のものへと置き換わったことを痛感して、言いしれようのない絶望感もまた感じてしまう。
「どうして・・・・・。どうして、どうして、こんなひどい目に遭わなきゃいけないの・・・。」
急に昨日まで男だったはずのおれが生理になってしまったこともそう、そして、今のお漏らしだってそう。あまりにも自身の尊厳を踏みにじるには十分すぎることばかりに、心の底から恨み言が溢れていく。
「最悪、最悪、最悪・・・・・・・・。最悪・・・・・。」
そして、さっきまでは直後であったこともあり、股を伝って、じんわりと感じていた尿の温かみも今度は今の自分の心の温度を現すかのように冷たくなっていき、そのことも余計に自身の中に渦巻いている暗い感情を増幅させていった。
「瑞樹、大丈夫?どうしたの?ってあら・・・・・・・?」
いつの間にか、母さんはおれの部屋の前にいたのだろう。
いや、思い返してみれば、自分の想定以上の声のボリュームで恨みつらみを言っていて、それで駆け付けてきてくれたんだろう。
ドアを開けた母さんはすぐにおれの身に起きた”失態”に気付いてしまったのだろう。
ゆっくりとこちらにまるで子供をあやすような顔をしながら近づいてくる。
「こ、来ないで!!!」
そして、母さんが一歩。また一歩と自分の布団に近づいてくるたびに、自分のしでかした”失態”を痛感し、今度は羞恥心となって自信を襲い、思わずそんな風に拒絶してしまう。
「・・・・・・・・・・。大丈夫だからね・・・・。」
そんなおれの拒絶に対しても母さんは優しくて、逆に胸が痛くなってくる。
「うっうっ、なんでおれ、こんなことになっちゃったんだよ」
抑えられるわけもなかった。
またしても声を上げながら泣いてしまうおれ。
いまの俺は誰がどう見ても惨めでしかないだろう。
高校生にもなって失禁し、そのことを母親に咎められるわけでもなく、子供をあやすように慰められて・・・・。
「母さんも昔、同じようになったから・・・・。その気持ちは分かるよ・・・。」
母さんはそんな言葉をおれの頭を優しく撫でながら、ボソボソと呟いてくる。
(母さんも同じってどういうこと・・・?普通にこういうおしっこを漏らしたってことがあるってこと・・・?それとも、おれみたいに女になって・・・。ってこと?)
恥ずかしいやら罪悪感やらで頭の仲はぐちゃぐちゃで全然考えはまとまってはくれやしない。
母さんのくれた錠剤のおかげもあってか、あの腹部を抉るような強烈な波は今は
収まってはいるけれども、またいつ襲ってきてもおかしくはなかったし、いまはそのことに触れないことにした。
「大丈夫?このままじゃ嫌だろうし、とりあえず着替えてきなさい。わたしはお布団こうかんしておいてあげるから」
少し落ち着いたと判断したのだろう
母さんは、撫でていた手を外し、着替えを促してくれた。
思い返すまでもなく、おれの下着もパジャマ用に着ていたジャージのズボンはおしっことそして多分血でべちゃべちゃになっていたのだから・・・・・。
「うっうっ・・・。ほんとに恥ずかしい・・・。」
洗面所に行き、なんとかズボンを下ろしていく・・・。
それは失禁したせいだろう、水分をたくさん含んでいて、脱ぎにくい。
べしゃり
ズボンを床に落とした時の音としては普通ないような音が響いてさらに嫌な気分に陥ってしまうおれ・・・。
しかし・・・・・。
本当の問題はここからだった。
確認するまでもなく、おれの下着の中もぐちゃぐちゃになっていて、布の吸収限界を超えているせいもあってか、押さなくても、下着と股関節の間から尿が滲み出てくる。
黒色のパンツだったこともあり、おしっこ特有の黄ばみなどは見られないまでも、そこに溜まっていることは明白だった。
そして、それだけでもこの下着を下ろすことに抵抗感を感じるというのに、失禁する直前、そして今も感じたあの腹部を抉り、なにかが奥底から這い出た感触のせいで、別のおそらく、またあの血もそこにあるのだと・・・・・・・。
「いやだ・・・・・・。また確認したくない・・・。」
寝る直前に見てしまった大量の血液が頭の中に沸いてきて、脱がなきゃ一向に着替えることなんてできないのに、脱ぎたくなくなってしまう。
「見たくない、見たくない、見たくない。でも・・・・・・。」
ぽたぽたと下着の中から液体が零れ落ちて、洗面所の床を濡らしていく。
「キモい・・・・・・・・・。気持ち悪い・・・・・・・。」
嫌悪感や不快感が一気に押し寄せてきて、涙までもが込み上げてしまう。
そんなことをしている間も絶え間なく、滲みだしては床を汚していく自分の液体・・・。
「嫌だ嫌だ嫌だ、もう嫌だ」
気が付くと、また先ほどと同じような弱音を吐いてしまうおれ。
こんなにも精神が弱ってしまうことなんて今までなかったのに・・・・。
どうしても、下着の中身を確認することをためらってしまう
だって確認してしまったら・・・・。
(本当に自分が女の子になってしまったことを認めざるを得ないのだから・・・。)
「どうして、どうして、どうしておれがこんな目に遭うんだよ・・・。昨日までは普通だったのに・・・・・。」
「んっ・・・・・・・。」
しかし、そんな泣き言を言い続けたところで勝手に自動的に下着が交換されるわけもなく、何分かの逡巡の後、ようやく下着の端に手をかけ、もう一押し力を下向きに流せば、下着をずり下ろすことができるところまで持ってこれた。
本当は嫌だった。
(おれは男だ!!!)
そう心の中で念じながら、頑張ってずり下ろしていくおれ。
その瞬間、やはりというか当然のように血液の匂いと共にアンモニア臭、そして魚が腐ったようなそんな不快な匂いが一気に下ろした所から鼻腔に向かって流れ込んでくる。
「おぇ・・・・・・。」
また途轍もない吐き気に襲われ、嘔吐してしまいそうになる。
(こんなエグイ匂いなのかよ・・・・・・。)
一気に脳を覚醒させるようなそんなひどい匂いだった。
しかし、そんなことよりもなによりも・・・・・。
「おぇ・・・・・。やっぱり・・・。」
これで3度目なはずなのに、やはりそれにそう簡単に慣れられるわけもなく・・・。
下着いっぱいに広がる血だまりを見た途端、一気に胃酸が駆け上がって来てしまった。
そんな風に嗚咽が止まらない中、下着をじっくりと見ると、そこにはこれまたやはりというか、赤の中に白いシートのようなものも見えてきては、ほんとうに嫌になってきてしまう。
それは紛れもなく、ナプキンと言われるものだろう。
記憶の中で、保健の授業で習ったそれと同じだと本能が言っている気がした。
(まさか、男のおれが付けることになるとは思ってなかったけど・・・。)
こんなことになるんだったら、もっときっちり話を聞いておくべきだった。
まあ、普通にこんな奇想天外なことが男の身に降りかかるなんてこと想定する方が難しいんだけど・・・。
「うぇ・・・・・。血がべっとり・・・・。これからどう処理すればいいんだ・・・。」
きっちりと授業を受けていなかったツケをこんな時になって痛感してしまう。
男のおれが生理用品の処理方法なんてまともに聞いているわけもなく、いや、というか、こんな話を保健の先生が語っていたかどうかすら怪しいのだけれども・・・。
しばらく、天井を見上げながら立ち竦んでしまうおれ。
目線を下に下げれば、真っ赤な下着と共に今まで当たり前にそこにあったはずの棒は跡形もなく消え、代わりにこれまた血まみれの割れ目があって、どうしようもなく、嫌悪感であったり、気持ち悪さであったりが込み上げてきてしまった。
「このままパンツごと捨てようかなぁ・・・。おしっこでぐちゃぐちゃだし、このシート?の取り方もおれにはわからないし」
思わず、考えることすら放棄しそうになってしまう。
それほどに、このわずかな間に起きたことが脳を途方もなく披露させていた。
(おれの身体どうしちゃったんだろう・・・・・。)
突然こんなことになるなんて誰も考えられるわけもない。
数秒悩んだあげく、やっぱり自分の身体から排出されたものとはいえ、その血液とは根本的に違う血に触りたくなくて、そのままパンツを脱ぐと洗面所の中に置いてあるごみ箱に入れて、お風呂に入ることにした
「はぁ・・・・・・・・・。これがおれの身体・・・・。もうどこからどう見ても女の子でしかない・・・・・。」
お風呂に入りため息を付きながら、鏡に映る自身の姿を見て、さらに嫌な気持ちになってしまう。
秘かに”男だから”と鍛えて大きくなっていたはずの腕や足からはそんな筋肉は跡形もなく消え、代わりに柔らかそうな細腕細足へと変わり、髪の長さは変わっていないにしろ、それでも顔が女性っぽくなってしまっているせいか、心なしかボーイッシュ系の”女の子”としか思えない。
その上、胸筋のあたりは明らかに男の頃にはなかったであろう柔らかい膨らみが小さめとはいえそこにあり、自身が女なのだと意識させるようで・・・。
そして、股のほうにはやはりこれまでの10余年の間、一緒に連れ添っていたはずの棒は消え、代わりに割れ目が開いていて、その中からさっき嫌になるほど見た血が出ている。
”女の子”でしかない姿がそこにはあった。
「夢ならどれほど良かったことでしょう・・・。あはは」
あまりの絶望感に頭が若干おかしくなってしまうおれ。
「これからどうして生きていけばいいんだろう・・・・。学校はどうすれば・・・。将来はどうすれば・・・・・・。え、やっぱりおれも男の人のこと好きになって結婚とか・・・・。は・・・・・・・・。はぁ・・・・・・・・・。なんでおれがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ・・・。なんでなんで・・・・・・・。」
涙が溢れて止まらない
鏡に映る自分の顔も、当然のように泣き顔でぐしゃぐしゃになっていた。
「彼女とか作って・・・。エッチとかもしたかったなぁ・・・。」
考えれば考えるほどに、”どうして自分がこんな目に”と思ってしまう。
昨日まで、普通に男だったはずなのに・・・・・。
「このまま、お風呂にい続けても、さらに病むだけだし・・・。早く洗おう・・・。」
少しだけ、ほんの少しだけ、落ち着きを取り戻したおれは、シャンプーを手の平に取ると、そのまま泡立ていき、頭を洗っていく。
昨日までと全く同じように髪の毛を洗っているはずなのに、なぜか髪の毛の手触りが違う気がする・・・・・。
「こんな些細な変化もなんだか悲しいな・・・・。ほんと・・・・。」
鏡の中の自分も残念そうで悲しそうな顔をして、こちらを見ている。
「おれもこの先、女の子みたいに髪の毛を伸ばすようになってしまうんだろうか。」
髪の毛をごしごしと洗いながら、ついついそんなことを考えてしまう。
さらに落ち込むことなんてわかりきったことだけど・・・・。
「いまのおれはボーイッシュ系に見えなくもないんだろうけど・・・。もし、肩にかかるくらいとか背中まで伸びたら・・・・・・・・・。もうきっと女の子にしか見えないよな・・・・・。はぁ・・・・・・・・・・。」
自分で落ち込む種を作っては、そのことを考えて病んでしまう。
さっきから、それの繰り返しで、自分がますます嫌になってしまう。
「・・・・・・・・・・・・・・・。また血出てるし・・・・・・・・。」
さっき母さんに渡された薬を飲んでいたからなのだろうか。
初めて経験した瞬間のような強烈な腹部の痛みは明らかに和らぎ、今は腹を下した時くらいの痛みへとそれは変わっていた。
まあ、最初の痛みがドきつかっただけで今の痛みも結構痛いんだろうけど・・・。
しかし、出るものは出てしまうようで・・・・・・。
たとえ、痛みの程度が一段階下がったとはいえ、股の奥から血液が排水溝へ向かっていくのを流れていく様を見ると、やっぱりもう”女の子なんだ”という気持ちにさせられてしまう。
「はぁ・・・・・・。ほんと嫌だ・・・・・。うんざりする・・・・・。」
おれだって男なわけだから、普通であれば、このいまの状況ー突然女の子になったーということも身体を触ってみたりして、楽しんでいたのかもしれないのだけど・・・。
女の子になった始まりの日から”生理になる”とか・・・・・・・。
おれは前世でどんな大罪を犯したんだ・・・・。とかそんなオカルト的な気持ちに苛まれてしまう。
それほどにいまのおれは不幸だった。
「はぁ・・・・・・・。」
あれ以上お風呂に長居していたところで、逆上せてしまうだけで今の状況が解決されるわけでもなく、足早に髪の毛と身体を洗って、お風呂場を後にしたおれは、母さんがいつの間にか用意してくれていたのであろうナプキンが付いた下着に足を通し、未だ慣れない紙のようなものが股間に吸い付くように張り付く変な感覚を味わされ、部屋に戻った。
そして、母さんが交換してくれて綺麗になっている布団に頭から倒れ込んでしまうおれ・・・。
「もう疲れた。寝る・・・・・・。」
ただお風呂に入った、それだけのことなのに、この異常なまでの疲労感に襲われて、もうそのまま起き上がることはできなかった。




