097話 名探偵ミリアちゃんリターンズ 後編
翌朝。
まだ眠っているベッティを揺さぶって起こし、ゲートのある森へと移動する。
そこで妖精の姿になってゲートをくぐり、見渡す限りの花畑の上を飛んで行く。
「ハエ、ハエ~」
「ハエではありませんから。妖精ですから♪」
花畑の上を飛んでいるのにハエって、どんな発想力をしているんだか……。せめてハチなら、分からないでもなかったが。
「さっさと行くのです」
蛇行するように飛ぶベッティの手を掴んで急がせるレティ。
すぐに小人の国へのゲート前に到達し、そのままくぐる。
「わーお。また景色が変わったりん」
ピンク色の空に白い綿雲が浮かんでいる。
草原の先に見える森。太い幹の木々の枝にはトマトのような形の家がぶら下がっている。
「ふはっ!? 人が浮かんでトマトに食われたりん。人食いトマトりん!?」
あれは小人族が家の中に入っただけなんだけど、初めて見るとトマトに吸収されたように見えなくもない。でも、トマトには窓がついているから家にしか見えないんだけどなあ。
「違うよー。あれは小人が家の中に入ったんだよ。人食いトマトじゃないからね」
「浮かんで出入りするりん!? 理論は、素材は!」
ベッティには刺激が強すぎたのか、バタバタ暴れるようにもがいている。
そんなこんなで森の中を飛んで進んで行き、木々が少なくなって空が見える場所まで行ったところで元の姿に戻る。
「きゃん。足で立ったりん」
「いつものことだろ!」
ハリセンがいい音を立てると、それに気づいてか、木々の間から見覚えのある老人が現れた。身長は私の膝よりも下だ。
「これはこれは、救国の勇者様。本日はどうなさったんだべ?」
小人族の族長のゆゆだっけ。久しぶりだから名前はうろ覚えだ。
「えっとね、おっきな岩をジゲンに隠すことってできるの?」
「はて?」
「実はじゃの、かくかくしかじかでの……」
いきなり言われても理解できないよな。それでマオが詳細を説明してくれた。
「なるほどのう。できるできないは、現地で確認しないと断言できないべ……。そうじゃの、ゴンに行ってもらうべ。おーい、ゴンやあ、ちとここに来るべ」
族長に呼ばれて、これまた見覚えのある小人がやって来た。
こいつは初めて妖精の国を訪れたときに、私たちに救助を求めた奴だ。猫にやられて困っていたんだよな。そして、私たちが次元の狭間とやらに落ちていたのを掬い上げてくれもした。
族長がゴンにいろいろ説明をし、それから私たちに正確な場所の提示を求めた。
「だいたい、この辺なのです」
魔法収納から地図を取り出し、バタロン王国の王都バータよりも北の位置を指で押さえたレティ。
「ああ、そこはジューシー族の。ゴン、行ってくれるべな?」
「救国の勇者様の手助けになるのら、オラ、よろこんで行くべ」
なんか適当に示したのに通じたようだ。
「村の北側になるのです」
「分かったべ。ほな、行ってくるべ」
ゴンはスコップをどこからか取り出し、空間に穴を掘り始めた。
「ちょっと待った! ピオの転移魔法で移動するから、な。ここで穴掘りはしなくていいぞ」
いくら空間をチョンボして近道できるからといっても、穴を掘って現地まで移動したら何日かかることやら……。
「そっけ? なら、はよ行くべ」
「妖精変化♪」
みんな妖精の姿になり、これまで通った経路を戻る。
小人の国のゲートをくぐって妖精の国へ、 妖精の国のゲートをくぐって人族の世界へ。
「すぐ終わりますから、ちょっとここで待っててください。報告してきます♪」
みんなを元の姿に戻すと、ピオだけが再びゲートの中に入って行った。
報告の相手は族長なのか?
いつも何を報告しているんだろうな?
それほど待つことなく、ピオはすぐに戻って来て、私たちはジューシー族の村の北にある、白虎岩の傍へと転移した。
「エリート妖精の魔法は、便利だべなあ」
ん? エリート妖精? 小人族からはピオはそんな呼ばれ方をしているのか?
「ここじゃ、ここ。そのくぼみに嵌まるように、妾よりも背の高い岩が置いてあったのじゃ。それを別次元に移動させることは可能かのう?」
「んだば、今から調べるべ」
スコップを手に持ち、空間に穴を掘るゴン。やがてその姿は見えなくなった。
しばらく待っていると、別の場所からひょっこり顔を出した。
「こりゃあ、なかなか難しいべ。一番近い次元でもな、場が乱れていて容易に大きな物を落とし込むことはできそうになかったべ」
近くの次元、やや近い次元。それからこの次元世界の次元端。
ゴンはいくつか調査し、難解な理由をつけて大きな岩を隠すことは無理だと判断した。
「それにしても立派な岩だべなあ……。この岩は、元は真っ白なはずだべ。なんで濁った色になっているべ?」
「白虎岩の歴史のことを聞かれてもなあ。ずいぶん昔からここにあるようだから、汚れているだけじゃないのか?」
白虎岩に近づき、岩の表面を手の平で摩りながらゴンは話した。ジューシー族の誰かが昔は白かったって言ってたよな。
きっと、大きすぎて掃除ができないだろうから、汚れているんだろう。
「オラ思うだ。岩を盗むにしても隠すにしても、岩の気持ちにならんと真相は掴めねーべ。オラはまだその境地に至ってねーから、おめーらもこれから一緒に修行すっか?」
白虎岩の気持ちになる……。汚れているから掃除しろってことになったら大変だ。私は手伝わないからな。
「修行なんてしていたら日が暮れてしまうのです。岩の気持ちの分かる者を連れてくればいいのです」
「岩の気持ちの分かる者……。ロックゴー君のことだね! 呼びに行こうよ!」
今日のエムは頭がよく回るな。
「んあ? 知り合いに岩の気持ちの分かる奴がいるべか?」
「魔物じゃがの。意思疎通のできる慧変魔物で、良い魔物じゃ」
私たちはミスリル山六合目のラルゴー鍛冶場の前へと転移した。
その際、小人のゴンは同行せず、空間に穴を掘って帰路に就いた。
「うほほー。今度は山の上りん!」
「ここはドワーフの国の、ミスリル山だぞ」
というか、なんでこいつを連れてきたんだ?
単純に、家に帰すのを忘れているだけなんだよなー。
で、ラルゴー鍛冶場の中に入ると、ワイズロックゴーレムのロックゴーがラルゴーの弟子と一緒に店番をしていた。
「グググ……、イラッシャイ、マセ」
「ロックゴー君、おひさ~。元気にしてた?」
「グググ……。元気」
「おう、おめーらか。今日は何の用だ?」
奥の作業場からラルゴーが顔を出した。
ごつい皮のエプロンをつけているから、作業中だったようだ。
「今日はね、ちょっとだけロックゴー君を借りたいの。いいかな?」
「おう、いいぜ。好きなだけ連れ回してやれや」
「グググ……。散歩」
「ロックゴー君、行こう!」
ラルゴー鍛冶場から外に出て、白虎岩の傍へと転移する。
「グググ……」
「えっとね、そこの地面くぼんでいるよね? そのくぼみに嵌まるようなおっきな岩が盗まれたんだよ。私たちはその犯人を捜していて、ロックゴー君にはそれを手伝ってもらたいんだ」
「幅はくぼみの通りでの、高さは妾よりちょい高いくらいの黒い岩じゃ」
「グググ……。岩……」
ロックゴーは屈んで段差を確認し、さらに立ち上がって周囲を見回した。
「どうだ? 何か分かりそうか? 小人族が言うには、岩の気持ちの分かる者に尋ねろってことだったから、ロックゴーに頼んだんだ」
「グググ……」
ロックゴーは、なくなった痕跡よりも、現存する白虎岩に興味を示している。近づいて手で触れ、指をトントンと動かす。
「グググ……。コイツ、何カ、話、アル……。シカシ、オレ、ミスリル、コイツ、ケイソ。通ジナイ」
「そこをなんとかできないかな? ロックゴー君ならきっとできるよね?」
いや、できないって言っているのに、エムのその強引さはどこから出てくるんだ?
「ぶるぶるっ。ロックゴーができないなら、無理なのです。諦めて帰るのです」
「いや、待つのじゃ。意思疎通といえば、昨日、巫女様が奇跡を起こしたじゃろ? ここでもう一度頼んでみないかえ?」
「あれは偶然っぽい感じだったけどな」
巫女様自身が凄え驚いていたからな。
昨日のことは、起こそうと思って起きたことじゃないぞ、絶対に。
「うん、偶然みたいだったけど、できないとも言い切れないし。巫女様を呼んでくるよ」
エムとニワトリパジャマの後ろ姿を見送り、私は再び虫眼鏡を手にして現場検証をする。
うーん……。何も見つからないな。犯人は計画的に証拠隠滅を図ったんだろうな……。
そこまでして盗むか隠す大きな岩って、理解に苦しむよなー。
「お待たせー。連れてきたよー」
「あらったまん、きよったまん。皆の衆、よろしいモモ? それでは跪き、祈りを捧げるモモ」
白虎岩の前に立った巫女様が木の棒をバサッバサッと振り、私たちに跪くよう指示を出した。
しゃーないなあ。私も祈らないとダメなのか。
「あらったまん、きよったまん。かしこみかしこみもうす~。祭壇岩を盗んだのは、誰モモ?」
「白虎岩様。犯人を教えてよ」
「奇跡よ起これ、なのじゃ」
「白虎様だっけ。祭壇岩を盗んだ犯人を教えてくれると助かるぞ」
「ふんすっ! 犯人、犯人!」
「ぶるぶるっ。どうでもいいから早く終わらせるのです」
「はぁ。これだからサルどもは……。これまでも何回か同じように巫女様が白虎岩に祈祷したことがあるのにさ」
「今回も同じ結果になるだけろー」
「巫女様が乗り気になったのは、昨日の奇跡があったからだ、ごるぁ!」
「ぼぼぼぼ……」
今日も巫女様の護衛として「ジューシーレインボー」が来ている。異次元迷宮に行かないときは暇なんだろうな……。
『ガオーン。犯人? いねーよ』
周囲が眩しく輝き、どこか高い位置から声が聞こえた。
「ほえ!? ピーピピピっ!?」
「ま、まさか!?」
「ありがたいろー」
「ごるぁ!?」
「ぼぼぼぼ~」
巫女様を筆頭に、全員驚いて地面に尻をついた。
「ひっひぃふぅー。ひっひぃふぅー。はぁー。あらったまん、きよったまん。かしこみかしこみもうす~。汝、白虎様モモ?」
巫女様が最初に立ち上がり、みんなが次々と立ち上がる。
『俺様は白虎だ、ガルルル。それがどうした?』
「白虎様って、ずっとここにいるんだよね?」
『当たり前のことを聞くな。俺様は動けないからな』
「それなら、祭壇岩を盗んだ犯人を知っているよね? 犯人が誰だか教えてよ」
エムは白虎様と会話をしている。
白虎様はジューシー族の護り神、つまり神様なんだろ?
いいのか?
『くどい。犯人はいない。さっき言ったはずだ』
「お主、祭壇岩がなくなったのは知っておるのじゃろ? それならなぜ犯人を知らないのじゃ?」
そうだよな。動けないでずっとここにいたのなら犯人のことを知っているはずだよな。
目がないから見えないとか、そういう理由ならしょうがないけどさ。
『黒い岩か? あれはうまかったぞ。もっと俺様に捧げよ。さすれば俺様は強く大きくなれる』
ん? うまかった? 何を言っているんだ?
「まさかお主が、祭壇岩を取り込んだのかえ?」
『そうだが、何か?』
さも当たり前のように答えが返ってきた。
右手がプルプルしてきたぞ。
この衝動は抑えられない。
「犯人はお前か!」
ハリセンで白虎岩を叩くと、バコーンといい音がした。
「サル! なんてことをするんだい!」
「ごるぁ!」
「取り押さえるろー」
「ぼぼぼぼ」
「おい勘違いするな。犯人は私じゃない、白虎岩だろ? 取り押さえるならそっちだ」
「そ、それは、そう、なのかい?」
「ごるぁ?」
リンゴとレモンが上を見上げた。ちょうど、白虎岩のアゴが見えるているはずだ。
「ズバリ、私の推理では、白虎岩が大きくなる伝説は、白虎岩が近くの石ころを吸収していたからだ。その証拠に、この周辺には石ころの一つも落ちていない」
「真実のようなことを言っているろー」
「ぼぼぼぼ……」
「そして決定的な証拠は、灰色になった白虎岩だ。これは黒い祭壇岩を吸収したことが原因だ。『昔は白かった』と証言を得ているからな」
ふふっ。決まったな。
くー。これだから名探偵はやめられないぜ。
「ミリアよ。お主がそのように格好つけなくとも、既に白虎岩が自白しておったじゃろ?」
「そうなのです。早く終わらせろ、なのです」
エムが巫女様にかけあい、祭壇岩の件はこれで解決したと了承を得た。依頼書にサインをもらい、王都バータに転……。
「ベッティを帰すほうが先だよな」
先にベッティを帰すため帝都に転移すると、
「所長! どこをほっつき歩いていたのですか!」
「ふんすっ! 妖精の国、小人の国、果物の国に行ってたりん!」
両手を腰に当てのけ反るようにして話したベッティに、助手のカミラが抱き着いて涙を流しだした。
「ううう……。探したんですよ、心配したんですよ……」
「いっぱい見てきたりん。たっくさん魔道具のアイディアが生まれたりん。ふんすっ! さっそく開発に向かうりん!」
感動的な再会になるのかと思いきや、マイペースなベッティだった。
★ ★ ★
あのあと、ジューシー村では巫女様の意向で白虎岩に新たな岩を捧げることが決まり、村をあげて採取・採掘することになった。
岩の採取・採掘作業は後日で、その前にお祭りをするらしい。立て続けに神様の声が聞こえる奇跡が起きたからな。そうなるよな。
「あらったまん、きよったまん。かしこみかしこみもうす~。豊饒神様、お声を届けたもれモモ~」
「……」
あれから何の声も聞こえてこない。けど、奇跡だって騒いでいたくらいだから、聞こえないのが普通のことなんだ。
私たちは王都バータに行き、冒険者ギルドで指名依頼の達成報告をした。
問題を完全解決したことで、当初の報酬よりも多くもらえた。もともと依頼は犯人の特定までで、捕まえることは含まれていなかったからな。実際犯人を捕まえてはいないけど、犯人は捕まえようのない白虎岩だったし巫女様もそれで納得している。だから完全解決なんだ。




