表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/185

095話 名探偵ミリアちゃんリターンズ 前編

 よーし、ここからは私の出番だ。探偵魂が燃えてきたぞ。

 虫眼鏡の汚れを服の裾で拭き取り、正面に構えて覗きこむ。


「で、祭壇岩って、どの辺りに置いてあったんだ?」


「あらったまん、きよったまん。そこモモ」


 そこ?

 巫女様が指差す先は、白虎岩の手前、私の右側。

 草が生い茂っていて、大きな岩をどかしたような感じはしない。


「この辺りなのじゃな。ふむ……。一年もすれば草が生えて当然じゃのう」


 そっか。祭壇岩が盗まれたのは一年以上前だったか。

 とにかく、地面をとことん調べて犯人の痕跡を見つけ出してやる。どんな些細な痕跡も見逃さないからな。

 私は意気込み、屈んで調査を開始した。


「うーん……。地面に段差があるぞ。ふむふむ……」


 段差の深さは手の平を横に倒したくらい。それが長く続いている。その長さを調べると、事前に聞いていた祭壇岩の径と一致した。

 つまり、ここに大きくて重い祭壇岩が置いてあったのは間違いのない事実だろう。


「ここに祭壇岩があったのは明らか。それをどうやって運んだか、だな」


 段差周辺の草をかき分け、広く地面を調べる。

 黒い岩の破片はまったく落ちていない。破壊して持ち去った可能性は著しく低いと考えられる。というか、ないと断言できる。


 お? これは靴跡か? こっちにもあるぞ……。

 虫眼鏡の向こうには、靴跡とみられるくぼみが見えている。

 犯人はこの辺りに立って運んだのか?

 段差の周囲をぐるりと調べて回り、やはりいくつも靴跡があることを確認した。


「複数犯だな……。いろいろな靴跡が見られるぞ。それに……、これは裸足!? ジューシー族のものか?」


 それぞれ靴跡の大きさが異なっていて、複数犯による犯行だと考えられた。

 ただ、新しそうな物が混ざっているので、全部が犯人の靴跡ではないのかもしれない。


「はぁ。相変わらずサルは察しが悪いねえ。祭壇岩の捜索には、あたいらのほかにもジューシー族も関わっていたのさ。足跡の一つや二つ、残っていてもおかしくないだろう?」


 そうだよな。私たちは、これまで調査に携わったどの冒険者も犯人を突き止めることができなかったから指名依頼を受ける運びとなったんだ。冒険者の靴跡が残っていても不思議ではないか。

 つまり、ここでは現場は保存されていないということになる。

 靴跡からの犯人特定は難しいと判断しよう。

 それなら、運び出した手口から犯人を予想するしかないな。

 大きな岩だ。とにかく大勢いないと持ち上げることすらできないはずだ。一体、どうやって運んだんだ?

 押したり引いたりか?

 でも、今まで見てきた地面には引きずったような跡はなかったぞ。

 うーん。持ち上げて運んだと考えるのが妥当なのか。


「祭壇岩には、持ち上げるときに手をかけるようなくぼみとかがあったのか? それとも、ロープをかけるようなでっぱりでもあったのか?」


「あらったまん、きよったまん。そのような物はないモモ、滑らかな側面をしていたモモ」


「ミリアや。お主、持ち上げて運んだと考えておらぬか? それにはちと無理があるのじゃ」


「無理って言っても、そうするしかないだろ?」


 引きずったり、コロを挟み込んで動かした形跡が見当たらないからな。


「もし、持ち上げて運んだとするのじゃ。さすれば、段差のどこかが崩れて当然じゃろ?」


「まあ、大勢が関われば真っ直ぐ垂直に持ち上げるなんて、普通はできないよな。少しでも位置がずれたり回転したりすれば、段差のどこかがいびつになるってことは理解できるぞ」


「うむ、よく見るのじゃ。どこを見ても段差は崩れておらぬ。しいて挙げるなら、白虎岩に接する位置の段差が、白虎岩側にやや傾斜しておることぐらいじゃの。祭壇岩を白虎岩側へ動かすことなどできぬゆえ、その傾斜は祭壇岩の形状によるものと考えるべきじゃろうな」


 マオの奴、いろいろ観察しているじゃん。

 私の助手に任命してやろうか。


「大勢が関わって手で持ち上げた線はないとして、それなら少人数で魔法で浮かせることはできないのか? マオならいろいろな魔法を知っているだろ?」


「魔法のう……。妾が三人おればできぬこともないかもしれぬが、妾は一人しかおらぬからのう。それに、同時に真っ直ぐ浮き上がらせるには相当の訓練が必要じゃ。そこまでして盗む価値があるものなのかのう」


「広い世界に目を向ければ、マオと同じような奴が一人や二人、いるだろう。魔法説は、有力だな」


 私は魔法を使えないから、三人同時に発動させることが難しいことなのかどうかは分からない。


「ところで巫女様。祭壇岩には何か秘密があって、盗んだ先で何かに使うことができるのか?」


 そもそも大きな岩を盗む動機は何だったんだ?


「あらったまん、きよったまん。祭壇岩は黒くて大きな岩。秘密も何もないモモ。ジューシー族に代々伝わる、歴史ある大事な岩モモ」


 ここで祭事を行う際に、ロウソクを立てたり供え物を置いたりする目的に使われていたテーブルのような存在。


「つまり、ただの岩じゃの」


「そうなると、動機は嫌がらせとかの類になるのか……」


 嫌がらせとなると、絞り込みは難しくなりそうだ。なんてったって、盗みの容疑者をいきなり死刑宣告するような巫女様だからな。多くの者から恨みを買っていると予想がつく。

 これまでに巫女様に死刑宣告をされた者の遺族の恨みとか、あるいは、巫女様と対立する一派が存在するとか、そういう線から潰していく必要がある。


「あとで、祭壇岩がなくなる以前の、裁定の記録を見せてもらえるか?」


「あらったまん、きよったまん。今日、裁きを下したのは八年ぶりモモ。古いのを見るモモ?」


 あちゃ~。祭壇岩が盗まれたのよりずいぶん前になるな。こりゃあ恨みの線は消えたな。


「そっか。記録を見せてもらうのはやめる。じゃあもう一つ。巫女様に対立するような勢力っていないのか? 嫌がらせを受けた経験があるとかさあ」


「おいサル。巫女様に対して失礼だねえ。巫女様あってのジューシー族。巫女様あってのバタロン王国。邪な考えをする奴なんてどこにもいないのさ」


「それならばこそ、成り代わろうって考える奴がいてもおかしくないだろ?」


「ぼぼぼぼ。占い、祈祷ができないと巫女様にはなれないぼん。成り代わりようがないぼん」


 くー。特別な能力がないと巫女様にはなれないのか。

 巫女様が特段贅沢な暮らしをしているようには見えないし、そもそもあばら家に平気で住んでいるジューシー族が贅沢を望んでいるようにも思えない。妬みの線もなさそうだ。


「それならさ。ジューシー族は巫女様に多額の献金をしないといけない決まりになっているとか、金の流れで巫女様が妬まれるようなことってなかったのか?」


「重ね重ね失礼だねえ。金なんて人族が使う物。たしかに神殿の運営には金が必要さ。王都に行って木材一つ入手するにも金がかかるからねえ。だからあたいらが金を稼いでいるんじゃないか」


「誰も献金なんてしていないろー」


「そっかー。うーん……。動機の解明には、時間がかかりそうだな……」


 もっと別の視点から考えないと犯人像は浮かび上がらない。多くの冒険者が携わっても解決できなかっただけのことはある。これは難事件だ。


「ねえ。大きな岩って重そうだし、持ち上げるのは無理だって話だったよね? それなら魔法収納に入れて運ぶことってできないのかな?」


 エムが一つの可能性を言った。

 魔法収納かあ。私は魔法が使えないから詳しくないなあ。


「エムの魔法収納には入りそうなのか?」


「そんなの無理だよー。でも、大きいのを入れられる人がどこかにいるかもしれないよ?」


「それはまずないのう。全盛期の妾であっても大きすぎて入れることなど到底できぬ」


「なんだよ、全盛期って。じゃあ、魔法じゃなくって収納の魔道具ならどうなんだ?」


「聞いたことがないのう……」


「「「うーん……」」」


 魔法収納や収納の魔道具についての話になったので、動機について考えるのは先送りにして、再び運搬方法について考える。

 実際に誰かが行ったことなんだから、絶対に答えはあるんだ。もっと考えろ、私!

 大きな岩を運ぶ方法、方法っと……。

 大空を眺め、それから視線を落としていく。すると、遠くに高い山脈が見えた。


「あ、閃いたぞ!」


「なんじゃ? 言うてみるのじゃ」


「犯人は人族じゃないんだ。ほら、あそこに山脈が見えるだろ? きっとあそこからドラゴンが飛んできて盗んで行ったんだ」


 あの山脈はドラゴンの領域だからな。ドラゴンなら空からやって来て軽々と岩を持ち上げ、飛んで行くことができるはずだ。きっと犯人はドラゴンに違いない。


「ぶるぶるっ。ドラゴンは黒い岩なんて欲しがらないのです。だから犯人ドラゴン説は完全に間違っているのです。我はここでの調査を終えて、すぐに次の調査地に移動するのがいいと思うのです」


 両腕を抱えるようにして話すレティ。


「おいおい、まだ調査は始まったばかりだぞ? もっと現場検証を重ねて……」


「次の調査地ってどこのことかな?」


「てきとーに帝都にでも行けばいいのです」


「ベーグ帝国の帝都かえ? 藪から棒に。またお主の勘なのかえ?」


「行けば調査の輪が広がるのです。ここよりも絶対にマシなのです」


 なんだか、レティは調査に飽きただけって感じがするんだよな。すぐにでも家に帰りたい子供の駄々のようにも見える。


「そうだね。レティちゃん寒そうだから、巫女様の案内はこれで終わりにして、今日は帝都の宿屋に泊まろうか」


「まだ日が高いし、もっと調査したいんだけどなあ……」


 エムがさっさと巫女様に礼を言って、調査隊は解散の運びとなった。ま、巫女様がいなくなっても、残って調べれば同じことなんだけどな。

 気にせず調査を続行し、巫女様と「ジューシーレインボー」が視界から消えた頃。


「ほら、ミリアちゃん、行くよ?」


 いつの間にか白虎様の脇に花を植えたエムが、ピオと一緒に私の隣に来た。


「しょうがないなー。明日は朝から再調査だぞ」


 どうせ一年前の事件なんだ。解決が一日遅れても影響はないだろう。


「帝都ゼトラへ、フラワーテレポート♪」


 私たちはベーグ帝国の帝都に飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ