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086話 クッククコケッコ研究所

「君! そこの君! 見どころがあるりん!」


 人混みの中、このニワトリパジャマの女の子はどう見ても私たちを凝視している。

 知り合いの誰かと間違えているのかな? それともここは帝都だからミリアちゃんの知り合いだったりするのかな?


「ほら、ぼーっと立ってないで、大神殿を見て感じたことを、体全体で表現するりん!」


「え? え? ええ~?」


 人違いじゃなさそうだよ~。女の子は自らが踊りながらも、真っ直ぐ私を見ているんだもん。

 大神殿を見て感じたこと?

 荘厳でおっきいってことだよね?

 両手を大きく広げ、近くの観光客に手をぶつけてごめんなさいと謝る。


「君の感動はそんなちっぽけなものだったりん? ほら、そこの君たちも、表現するりん! ふんす、ふんぬっ」


 マオちゃん、ミリアちゃん、レティちゃんを指差し、踊って見せる女の子。


「わ、妾もかえ? えっと、そのぅ」

「我もやるのですか」

「私もか!?」


「感動が薄れる前に、体で表現するりん!」


 踊りを止め、腕を組んで私たちの前に立ち塞がっちゃったよ。もうやるしかないよね?


「ふぅ。小麦の穂の彫刻があるゆえ、こんな感じかのぅ」

「キラッキラなのです」

「んー。どっかーんと大きい!」


 体を斜めにして風に揺れる穂を表現したマオちゃん。

 両手をヒラヒラさせて宝石の輝きを表現したレティちゃん。

 しゃがんでから跳び上がり、大神殿の大きさを表現したミリアちゃん。


「やだ。みんなに見られているよ?」

「ひゃー。恥ずかし~。人として死ねるぞ」


 いつの間にか、周囲の目が私たちに向いていた。

 私とミリアちゃんだけが恥ずかしがって肩をすぼめた。女の子はもちろん、マオちゃんとレティちゃんはまだ堂々と踊っていたりする。


「るるるん。いい。実にいい。よし。続きは研究所でやるりん。ついてくるりん」


「つ、ついてこいって?」


「知らない者の後をついていってはいけないのじゃ」


「たぶんだけど、私は彼女が誰だか知っているぞ」


「ミリアの知り合いなら、問題ないのです」


「いや、名前と特徴を知っているぐらいで、知り合いってわけじゃないからな。帝都では有名人なんだぞ」


 なぜか、女の子の後ろを歩くことになった私たち。

 南広場を出て西広場へと抜け、さらに西に進む。


「さあ、遠慮なく入るりん」


 案内されたのは大きな石造りの建物。集合住宅なら六世帯分ぐらいの大きさ。奥行も結構ありそう。建物の左半分は鉄の引き戸になっていて、巨大な何かを出し入れできるようになっている。


「ここまで来たんだ。入ってみようぜ。ここなら人目につかないだろうし、何か面白いことが起こりそうだ」


 私たちは建物の右半分にある扉から中へと入る。

 扉の先は広いリビングで、大きなソファーとテーブルが設置されている。


「ここで続きを見せるりん。それっ、早く、早く!」


 女の子は私たちの前に立ち、ぴょんぴょん跳ねるようにせがんでいる。改めて正面から顔を見ると、私と同い年か、少し年下に見える。

 ここで踊れって?

 みんなの顔を見まわすと、ミリアちゃんが生き生きとしている。やる気だね。ここで踊っても他の誰かに見られる心配はないし、思う存分踊るのかもしれない。

 もう、私もやるしかないよね?

 ミリアちゃんを皮切りに、四人全員が踊りだす。女の子も踊っているから全部で五人だね。

 ピオちゃんは女の子の近くに行き、こちらに向き直ってにこやかに浮かんでいる。


「まだりん。もっと激しく、それでいて穏やかに! 感動は、もっとこう、心の奥底からどばーっと……」


 胸の前で祈るように結んだ両手をがばっと広げ、体を左右に傾ける女の子。

 激しく穏やかにって、意味が分かんないよ~。


「所長、どこに行ってたんですか! 捜したんですよ!」


 後ろの扉を開けて、外から少し年上に見える女性が入ってきた。そのまま私たちの前、女の子の隣に行く。

 所長って、ニワトリパジャマを着た女の子のこと? 他に誰もいないし。


「ミーは、ここにいるりん」


「それは今です! 本当にもう……。納期が迫っているのですから、遊び回ってたらダメですからね!」


「取り込み中、少しよろしいかの? お主らは何者なのじゃ? なぜ、妾たちが踊らねばならぬのじゃ?」


 マオちゃんが踊りを止めて話しかけた。


「インスピレーションりん。君たちの踊りはミーの五感を刺激するりん」


「それは第六感だろ!」

「ぶべっ」


 強化されたハリセンで女の子を殴ったミリアちゃん。

 女の子の首が完全に横に倒れたけど、大丈夫なのかな?


「あなた、所長に何をするのですか!」


 女性は、女の子の首をグキッと元に戻し、ミリアちゃんを睨みつけている。


「ラチが明かぬからもう一度問うのじゃ。お主らは何者で、踊りには何の意味があるのじゃ?」


「所長のお遊びに付き合っていただき、ありがとうございます。ここはクッククコケッコ研究所。魔道具を開発販売しております。こちらが所長のベッティ。私は助手と事務を兼務するカミラと申します」


 魔道具の研究所?

 その所長がこの女の子?

 信じられないよ~。


「あら。信じられないような顔をしていらっしゃいますね。こう見えて、所長は稀代の天才魔道具開発者なのです」


「えへん。疑問が解消されたから、ミーが満足するまで一緒に踊るりん。それっ、ふんす、ふんぬ、ふんふんふふふん!」


「第六感を刺激するって言ってもなあ。どうして踊らないといけないのか、全然理由になっていないぞ」


 そもそも第六感って何?


「君たちは知らないりん? ロンギゼアス大神殿から、魔道具の依頼が来ているりん」


 踊りの途中でピタっと静止し、変な姿勢のまま目を丸くしたベッティちゃん。


「所長。受注の内容について、部外者が知っているはずがありませんから。もう少し常識をわきまえてください」


 カミラさんは右手で額を押さえた。


「意味不明なのです。大神殿が踊りの祭りでもするのですか?」


「おしい! 実におしいりん! 詳しく言うと……」


 これまで私たちがいくつも見てきたように、帝都ではショーウインドウの中に珍しい魔道具が多く使われている。そのほぼすべてを、ここクッククコケッコ研究所が考案し製作している。

 今回、ロンギゼアス大神殿から客寄せのための魔道具の製作依頼があり、おおまかには、動きのあるショーウインドウが望まれている。

 しかし、大神殿の客寄せと言われても、ベッティちゃんとしてはいまいち実感が湧かなくて、実際に大神殿を眺めながらどんな魔道具がいいのか考えていたんだって。


「全然踊りと関係ないじゃん」

「ぶべっ!」


 ハリセンがいい音を奏でた。それと同時にベッティちゃんの口から半透明な物体が抜け出したように見えた。


「あなた! これ以上所長の頭がおかしくなったら、魔道具で世界が破滅するかもしれません。ですから頭を殴るのはお止めください。世界が震撼するような魔道具を発明する天才ですが、精神年齢は見た目以下なのですから」


 ゴキゴキッと首を戻し、頭を撫でるカミラさん。半透明な何かがベッティちゃんの口の中へと戻って行く。


「動かない魔道具は、踊りを忘れた踊り子りん」


「こちらクッククコケッコ研究所では、単に一つの魔道具を製作するのではなく、いくつもの魔道具を組み合わせて、動きを再現しているのです」


「大神殿の動きを魔道具で製作するりん!」


「大神殿の動きとは、何なのですか? 大神殿は動かないのです」


 動かない大神殿を宣伝する、動く魔道具。

 根本的な部分で間違えている気がするよ。

 あれ? よく考えてみたらクッキーも動かないよね?

 動かない物を動くように見せる、そういうこと?


「大神殿そのものは動かないりん。しかし! 大神殿を見た者の心の中では、何かが動いているりん」


「それを『感動した』と言うのじゃろうな」


「なるほどー。だから感動を体を使って表現しろって言ってたんだね」


 合点がいったよ。


「君、やはり見どころがあるりん!」


「待て! 何かがおかしい。そして面白い匂いがする。名探偵の私は見逃さないぞ」


「事件じゃないから、犯人なんていないからね」


 虫眼鏡で何か証拠を探そうとしているミリアちゃん。そもそも事件なんて起こっていないから。


「これだから素人は。矛盾点その1。あれだけ観光客がいるのに、どうして客寄せのショーウインドウが必要なんだ?」


「言われてみればおかしいのです。もう、めいっぱい客が来ているのです」


「だろう? 矛盾点その2。ショーウインドウなんて小さな物を作っても、あの広場では全然目立たない。つまり、大きな効果は見込めない。それなのにわざわざ製作依頼をした。おかしくないか?」


「うむ。そうじゃのう。ショーウインドウを設置したところで、どれだけの者が目にするのか、はなはだ疑問じゃのう」


 凄いよ! ミリアちゃん冴えてるよ!

 私はまったく気づかなかったよ。


「るるるん。答えを言うりん。南広場の観光客受け入れ数にはまだ余裕があるりん。そして南広場の露店のほとんどが大神殿に上納金を渡しているりん。だから大神殿はもっと客を増やしたいりん」


「金目当ての客寄せとはの。とんだ生ぐさ神官じゃの」


「矛盾点の二つ目は、当たっていますよ。ショーウインドウをいかに多くのお客様に見てもらうのか。そちらの解決方法も模索中なんです」


 カミラさんは悩ましそうに言った。


「動く絵で見せたらダメなの?」


「るるるん。動く絵? それはどのような物を指すりん? 紙芝居だったら客寄せとしては厳しいりん」


 あらら。私は動く絵を何度も見てきて当たり前のように思っていたけど、メモリートレーサーって超貴重な魔道具だったんだよね。普通の人は知らなくて当然だよ。


「ほら、これだよ」


 横の空間に、レティちゃんがドラゴンを素手で懲らしめる絵を映し出した。


「うがぁっ!」

「キャー!」


 ベッティちゃんは変な声を上げ、動く絵に見入っている。

 カミラさんは大きく口を開けて白目をむいてしまった。


「は、迫力があるりん……」


「エムや。もっと衝撃の少ない、平和な記憶を用意できなんだのかえ? いきなり間近でドラゴンを見せられたら、常人であれば、ああなるのが普通じゃぞ」


 マオちゃんはカミラさんのほうに顔を向けた。カミラさんは完全に気を失っている。

 そっか。別の記憶にしないといけないね。

 何を思い出そうかな……。


「るるるん! コ、コココッ!」


「絶対にエムはわざとやっているのです」


 今度は、レティちゃんがぼろぼろになりながら、巨大アヒルと対峙している絵になった。これはこれで迫力がある。

 ニワトリパジャマのベッティちゃんの姿が目に入って、こうなったんだよ。わざとじゃないんだから。


「感動したりん! これで行くりん! すべて解決したりん!」


 メモリートレーサーを高値で買い取ってくれるのかと思いきや、類似品を自作するそうで。

 メルトルーの町の冒険者ギルドのギルドマスター、ヘレンクさんが是非買い取りたいって言ってたから、ここで売ったらいけないんだけどね。


「妾たちの踊りは無駄になったのじゃな……」


「無駄にはなってないりん。心の奥底に宿った感動の思い、それを魔道具で再現するりん。とても参考になったりん」


 こうして、ベッティちゃんの役に立った私たちは、四日後に南広場で再び会う約束をしてクッククコケッコ研究所から出た。

 四日間、いろいろ帝都観光をして、もう見る所がなくなった頃。

 南広場に私たちの姿があった。


「るるるん。現場で試運転するりん。うまくいけば、このまま納品になるりん」


「所長。勝手に納品の口約束をしないでください。所定の手順で、検収を上げてですね、ブツブツ……」


「「「「「「「おおお!」」」」」」」


「な、何? びっくりしたけど、綺麗!」

「あれは、麦の絵か? 動く絵だ! 輝いている!」

「白波が美しいですわ……」

「クリム神様!?」

「ロンギゼアス大神殿の動く絵だ!」


 南広場中の観光客が一斉にやや高い位置を見上げ、感動に酔いしれている。

 ロンギゼアス大神殿の壁の彫刻が動いている絵。

 なんとなく、私たち全員の踊りが再現されている感じがする。

 風に揺れる宝石の麦の穂。それに重なるように宝石の白波が流れて行く。それが消えると、クリム神様の姿が現れる。夫婦神が肩を寄せ合い、大神殿を指差す。

 ここで大神殿の絵に切り替わり、キラキラな麦の穂が左右から何本も現れて大神殿の下半分を覆う。その背景までが輝いている。

 荘厳さも、穏やかさも、そして綺麗さも。大神殿を見て思うことすべてが詰まった絵になっているよ。

 再現していないのは生ぐさ神官、ってことだけかな。


「凄えな。この短期間でここまでの物を作り上げるなんて、ベッティは噂通りの天才魔道具開発者だぞ」


「世界が震撼するというのは、まんざら誇張ではなさそうじゃの」


「るるるん。君たちの熱意を形にしたりん。君たちなくして、この絵は完成しなかったりん」


「そうですよ。受注してから皆様にお会いするまで、所長はずっと解決の糸口すら掴めずに悩んでいましたから」


「ま。たまには私たちも役に立ったってことだよな」


「今回の活躍もまた、我らの名誉になったのですか? なったのですね?」


「うむ。大したことはしておらぬが、悩みを解決するぐらいのことにはなったようじゃ」


「それで十分だよ」


 上を見続けている観光客をかきわけ、私たちはその場を去る。

 背中越しに、ベッティちゃんとカミラさんが「ありがとー!」って叫んで手をずっと振ってくれていたのが印象的だった。

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