表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/185

084話 ドラゴンを成敗するのです 後編

「我こそが竜王なのです。貴様は人間を食べる下賤なニセ竜王などに惑わされてはいけないのです!」


『は……? ぐーっクックク……。に、人間よ。何の冗談だ? ククク。人間が竜王様のわけがあるまい。ふぁーはっはっは……』


 ガルムマルフの奴は、我のことを忘れているようなのです。

 ですから、今ここではっきりさせてやるのです。


「な、何がおかしいのですか。我は竜王なのです。その証拠に、我はガルムマルフの弱みを握っているのです」


「ちょ、そんな危険なこと、冗談でも本気でも言うなよ。消されてしまうぞ」


 ミリアが我の耳元でささやいたのです。

 でも、奴は竜王である我を消すことなどできないのです。


『ふぁーはっはっ。我に弱みなどない。たとえあったとして、人間ごときがそれを知る由もなし』


 高笑いですか。その余裕はどこから来ているのですか?


「ガルムマルフ。貴様は竜王に活のいい魔物を捧げるためと理由をつけて魔物牧場を造成し、育てた魔物のほとんどが貴様の腹に入っていること、我が知らないと思うのですか!」


『ぐっ……』


 ふふふぅ。ガルムマルフごとき下っ端が、我に隠しごとなどできないのです。


「まだあるのです」


「レティシアや。そこまでにして少し待つのじゃ。ガルムマルフよ。よく聞くのじゃ。ここにおる妾たち全員がお主の弱みを知っておる。妾たちがこのままドラゴンの領域から戻ることがないようならの、その弱みはそれぞれの故郷の町から世界中に広められる手筈になっておるのじゃ。そのこと、よく留意しておくことじゃの」


「そうか。私が今ここで死んだら噂が世界中に広まることになるぞ」


 突然、マオリーが割って入って嘘を言い出したのです。

 ここにいる者の中では、ガルムマルフの弱みを知っているのは我だけなのです。マオリーに教えた覚えはないのです。マオリーは大嘘つきなのです。


『に、人間。踏み潰してやろうと思った矢先、汚いぞ……』


「貴様は人族からの貢物を五年に一度しか竜王に捧げていないのです。残りの四年分は貴様のねぐらにあるのです!」


 我にしてみても、フリーデから貢物について聞いたときに、領主が竜王への貢物を「毎年」捧げていると初めて知ったのです。毎年だったのです、毎年。我も驚いたのです。

 そして当時、ガルムマルフが領主と交渉をしたのです。

 つまり、奴が貢物は五年に一度と我に偽り、四年分をくすねていたに違いないのです。


『ギクッ。そ、そのことが万が一にでも竜王様に知れ渡ったら……』


「竜王の我は、もう知っているのです」


 キラキラな貢物は、ドラゴンが町を襲わない約束のために用意されている素敵な物なのです。つまり、すべてがドラゴンを統べる竜王である我に捧げられているのです。


『人間。いい加減、その自称竜王様を止めよ。気分を害する』


「我こそが竜王なのです。だから止めないのです」


「ちょ、レティ。そこは譲歩しろよ。明らかにおかしいところだぞ」


 我の体がドラゴンであれば、奴など、簡単に懲らしめてやるところなのです。


『人間。知ってはならないことを知っているのが気に食わぬ。我のブレスで故郷ごと焼かれたくなければ、生涯他言せぬことを誓い、この場から去れ』


 ガルムマルフが鎌首を後ろに下げながら大きく口を開いたのです。

 それを見て冒険者どもが後方に逃げ出し、エムとミリアは我の後ろに移動してしゃがんで頭を抱えているのです。

 マオリーだけ、スティックを構えて何か魔法を発動しようと待機しているのです。人族なのに、ドラゴンを前にしてあの堂々とした態度、解せないのです。むかーしの、嫌な奴を思い出してしまうのです。奴は魔族だったのですが。


「貴様にはドラゴンの誇りがないのですか! 誇り高きドラゴンは、上空からの一方的な虐殺などはしないのです。地に足をつけ、正々堂々と対峙することこそが誇りなのです」


『次から次と……。小癪な』


 ガルムマルフが地上へと降り立ちました。

 そして、再び鎌首を後ろに下げて口を大きく広げ、


「ふっふっふ。我は知っているのです。貴様はブレスを吐けないことを。貴様は昔、人族の勇者と戦い、急所のツボを剣で刺されてブレスを吐けなくなったのです」


『ぐぬぬ……』


「まぶたの傷痕は、その戦いでつけられた傷なのです。回復魔法で治せるのに、あえて治さなかったのです。勇者の温情で殺されなかったという屈辱を忘れないよう、傷痕として残したのです」


『人、間……』


 今です。一気に畳み込むのです。


「貴様なら理解しているはずなのです。戦って得るのならまだしも、戦いもせずに生贄として差し出すなど、言語道断なのです。だからニセ竜王に生贄を持って行ったらダメなのです。ドラゴンの名誉が地に落ちてしまうのです」


 ふふふぅ。我にかかればガルフマルフごとき、論破は簡単なことなのです。


『生贄の件、人間の言うこと、一理あり……。新竜王様はまだ幼いがゆえに、戯れているのかもしれない……。一度、我が説得してみよう。我としてもおかしいと思っていたのだ。生まれ変わることで、こうも考え方が変わるのかと』


「うむ。結構なのです。それと、竜王は我なのです。ニセ竜王など、捨て置けばよいのです」


『人間、まだ言うのか……。その減らず口、噛みついて潰してやるぞ』


「おいレティ。ここはおとなしく従っておけよ。せっかく生贄の件がうまく行きそうになっているんだからさ」


 ミリアがまた、耳元でささやいたのです。

 むぅー。我が竜王なのに、なぜ、竜王を名乗ってはいけないのですか……。

 でもなのです。それにこだわっていたら、得られるはずの名誉が得られなくなるかもしれないのです。

 だから、ここはぐっと堪えて話を合わせてやるのです。


「我が竜王かどうかは、今はどうでもよくなったのです。貴様は、早くニセ竜王に生贄を止めさせるよう、説得に行くのです」


『我は我らの領域に進入してきた人間どもが遠くに行くまでここを離れるわけにはいかぬ。人間よ、早々に立ち去れ』


 変な所にだけ責任感のある奴なのです。

 仕方ないのです。我らがここを去ることにするのです。


「エム。隠れていないで立つのです。今から魔族の国ジャジャムに行くのです」


 ミリアはさっき、ささやくために立ったので、エムだけがしゃがんだままなのです。


「そ、そうだね。後ろにいる冒険者の人たちにも聞こえているかな?」


「大丈夫じゃろ。逃げた冒険者どもは遠い木の陰ではあるがの、こちらの様子を窺っておるのじゃ。あの距離なら、念話も会話も聞こえておろう。生贄が中止になったことは理解しておるはずじゃ」


「では、出発するのです!」


『ま、待てーい! 人間。我の前を堂々と素通りするとは、どういう了見だ? ここは人間の通ってよい場所ではない。おとなしく帰れ』


 このまま草原となっている場所を歩いて北に向かおうとしたのですが、ガルムマルフがすぐに引き留めたのです。


「北に行くだけなのです。問題があるのですか?」


『ある。人間。どこまでずうずうしいのだ。ここは力尽くでも通さぬぞ』


 ガルムマルフは、ふわりと浮かんで我らの前に立ち塞がったのです。


「力尽くなのですか? いいのですか? 我は貴様の弱点を知り尽くしているのです。息の根を止めることさえ容易なのです」


『つくづく、世迷言をぬかす奴よ。ふっ。やれるものならやってみろ』


 やってもいいのですか?

 ガルムマルフが挑発に乗りやすいのは、今も昔も変わらないのです。

 可哀想だから、息の根は止めず、しばらく痛くて動けなくなるツボを押してやるのです。


「我は武器も魔法も使わないのです。貴様はじっと動かずに我の拳を受けやがれ、なのです」


『武器を使わぬだと? どこまで舐め腐ったことを抜かすのだ。よかろう。じっとしててやる』


 ツボは少し高い場所にありますから、背後に回り込み、尻尾の上を歩いて背中へと登って行きます。

 背びれに掴まり、腰よりも上の辺りまで登ったら、準備完了なのです。


「ガルムマルフ、いいですか? 泣いて謝っても、もう遅いのです」


 グーに握った右手を大きく振りかぶり、羽の付け根より下の位置を思い切り殴りつけます。

 ここのウロコは幻影なので、そのまま皮膚へと拳が突き抜けて行きます。


『ぐぎゃあぁぁ!!』


 バタン!!


 ガルムマルフは苦悶の表情を浮かべて首をぐにゃりと回し、地面に倒れて横になったのです。

 我は巻き込まれないよう、すぐに飛び降りました。


「まじか!」


「レ、レティちゃんがドラゴンを素手で倒しちゃったよ!?」


「レティシア、お主……」


 ガルムマルフは、口から泡を吹くようにして痙攣しているのです。


「どうですか? 我は嘘などついていないのです。理解したのなら、我が竜王であることも嘘ではないのです」


『そ、それは、う、そ……』


 震える口から声が出ました。


「レティ、そればっかりは、嘘にしか聞こえないぞ。まあ、その件はどうでもいいから今のうちに、行ってしまおうぜ」


「うん、行こ、行こ」


『ま、待て……。我が、二度も、人間、に、倒さ、れ……、あまつ、さえ、侵入、を、許した、となると……』


 我らはガルムマルフを放置して先に進もうとしたのです。すると、ガルムマルフが涙を流しだしたのです。ちょっとやり過ぎたのかもしれません。


『これ、以上、の、くつ、じょく、は、ない……。この、まま、我を、ころ、せ……』


「ごめんなさいなのです。少しやりすぎたのです。弱点を一方的に突いたのは悪かったのです」


 ドラゴンの弱点を見抜けるのは竜王の特技なのです。それは今でも使えるのですが、ガルムマルフはやんちゃですから懲らしめる必要があり、前世のうちに既に弱点を見抜いていたのです。

 やり過ぎたことを謝りながら、頭を撫でてやりました。


『竜、王、様しか、知らぬ、ツ、ボ……』


「ガルムマルフが我に倒されたのは当然のことなのですが、誰にも内緒にしておくのです。エム。奴の失態は見なかったことにして東回りで迂回するのです」


 今ここで我らが北を目指してドラゴンの領域を通過してしまうと、ガルムマルフの名誉が地に落ちてしまいます。

 奴は通るくらいなら殺せと言っていますが、我も同じ立場なら同じことを言うと思うのです。人族が目の前を素通りすることは、それくらい屈辱的なことなのです。

 かといって、ガルムマルフを殺してまでここを通らないといけないこともありません。


「え? 東へ?」


「東にはバタロン王国があって、その北に、ドラゴンの領域ではない山脈があるのです。そこを通るのです」


挿絵(By みてみん)


「なるほどの。魔王城に向かうと考えれば、それほどの遠回りにもならぬじゃろうな」


「ガルムマルフ、養生するのです」


 まだ鎌首を地面につけているガルムマルフは、放っておいてもすぐに治るのです。

 我らはガルムマルフと別れ、ドラゴンの領域から出ました。

 ミリアの故郷に向かい、そこから街道を通ってバタロン王国に入るのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ