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008話 誘拐事件を解決するのです 前編

 異次元迷宮ルーキーズダンジョンを踏破した妾たちは、小人の国を抜け、さらに猫まで妖精の姿に変えて妖精の国を飛んで通り抜けた。

 元の世界に戻った妾たちは、いつもの宿に泊まり、朝を迎えたのじゃ。


「清々しい朝じゃ。それにしてもエムが勇者だったとはの……」


 勇者エムは、勇者の使命をはき違えておるのじゃ。

 しかしじゃ。ここでそれを訂正してしまっては、魔族の国ジャジャムにある魔王城に向かわなくなってしまうゆえに、あえて黙っておくことにしたのじゃ。

 ジャジャムは遠い。魔王城はもっと遠い。妾一人だけでは行くことなどできぬ。一人では路銀を稼ぐことすらできぬからの。


「ふぁ~あ、おはよー」


 エム、ミリア、レティシアの順に目を覚ましおった。

 妾が早く目覚めたのは年寄りだからじゃと?

 記憶は数百年分あるが、この体はピチピチの若者じゃ。

 む? 若者はピチピチとは言わないじゃと?

 それについては今後気をつけるとしよう。


「勇者の技を使えるようになったし、そろそろ魔王を倒しに行こうか」


「今日からすぐに行くのです」


 早速、ジャジャム行きの話になりおった。

 妾も早く行きたいとは思うが、その前に、この国でやり残したことを片付けないといけないのじゃ。


「話の腰を折って悪いと思うのじゃが、妾にはこの国で一つだけ、やり残したことがあるのじゃ。それを済ませてからでもよいかの?」


「きっと長旅になるから、やり残したことがあるなら、先にやっちゃおうよ」


「ありがとうなのじゃ。実はの――」


 妾は、故郷ジンジャー村が盗賊団に襲われ、両親と妹を亡くした。

 ジンジャー村を襲った盗賊団が憎い。

 今世のこの体に深く刻み込まれた憎しみの念を晴らさないと、妾は前には進めぬのじゃ。

 こうしてエムの仲間になったのも、盗賊団を懲らしめてやるためじゃ。ジャジャムに行くのはその次の目的なのじゃ。

 とりあえず、妾が転生した魔王であることを伏せて、今世での経緯を説明してやったのじゃ。

 普段口にしておる通り、妾は妾自身のことを魔王と認識しておるのじゃが、現時点では、妾はまだ魔王として正式に認められてはおらぬからの。認められるには、現地で儀式をする必要があるのじゃ。

 それに、打ち明けるとジャジャム行きが怪しくなるに決まっておるのじゃ。ここに魔王がおるのじゃからの。行く必要がなくなったと言うに違いないのじゃ。


「ぐすっ。マオちゃーん。ぞんな、かなじいでぎごどがぁ~」


「村が壊滅って、そりゃあひでぇなあ」


「マオリーの過去に、心が痛むのです」


「過去っていうほど昔ではないのじゃぞ。妾がお主らと出逢う少し前の出来事じゃ」


 妾にとっては昨日のような出来事。

 盗賊団はまだ近くにおるかもしれぬのじゃ。


「ぐすっ。マオちゃんって、不幸の星の下に生まれたんだね」


「家族に恵まれ、妾はとても幸せに暮らしておったぞ」


 不幸になったのは盗賊団が村を襲ったからであって、それまでは幸せそのものだったのじゃ。


「盗賊団かあ。マオの家族を襲うなんて、許せないぞ。そうだ! ここで待ってろ。知り合いに盗賊団について何か情報を持っていないか聞いてきてやる」


 村を壊滅させるほどの盗賊団なのじゃ。一人や二人ではない。きっとどこかにアジトがあるはずじゃ。

 ミリアには盗賊団に詳しい知人でもおるのかのぅ。


「うん、ミリアちゃん、盗賊団を絶対に見つけてきてね」


「善処する」


 ミリアは部屋から外に出ていった。

 しばらく待っても帰ってこぬから、妾たちは食堂に下りて朝食をとることにした。

 おおぅ。妖精のピオピオはまだ寝ておったのじゃが、エムのポケットに入れて部屋を空けておいた。このまま旅立つかもしれぬしのぅ。

 猫は、この宿屋が引き取ってくれた。宿の主が猫好きで助かったのじゃ。野に放ったら、再び妖精の国に行くかもしれぬからの。


「おっ、ここにいたのか。聞き出した結果を話すぞ」


 ミリアが戻ってきた。皿の上のハムを摘まんで口に運び、モグモグしながら席に着く。


「どうだった? 盗賊団はどこにいるの?」


「それについては、残念だけど正確な情報は得られなかった。その代わり、ジンジャー村の最寄りの町、メルトルーの情報を仕入れてきた」


「メルトルーの町なら、妾も行ったことがあるのじゃ。国境に近くて人通りが多く、ここよりも栄えておる町じゃ」


挿絵(By みてみん)


「大きな声では言えないけどな、そこの領主が悪いことをしようと企んでいるらしいんだ」


「悪いこと? どんなこと?」


「宿を出てから話す。盗賊団の情報を得るためにも、その町に行かないといけないだろ?」


「そうじゃの。向こうのほうがジンジャー村に近いゆえ、盗賊団の情報を得やすいはずじゃ」


 妾たちは朝食を終えて宿から出る。


「これから他の町に行くのですね。それなら、旅立つ前に、昨日買い込んだお花を町の外に植えてもらえませんか? きっと皆さんの役に立つと思いますよ♪」


 昨日、町に帰ったときに、ピオピオが花を買えとせがみ、妾たちはなけなしのパーティー資金を使って鉢植えの花をたくさん買い込んだのじゃ。

 ピオピオは近くに花がないと生きていけぬゆえ、昨夜は宿屋の部屋の中でも窓際に飾っておった。


「うん、分かったよ。ピオちゃんのために買った花だから、ピオちゃんの好きにすればいいよ」


 妾たちは町の東門から外に出て、外壁沿いを少々歩く。

 最初は門衛が怪訝な顔をして妾たちのことを見ておったが、ただ歩いておるだけじゃったからすぐに興味をなくして見ることをやめおった。


「この辺がいいです。ここに植えてください♪」


 浅い穴を掘り、鉢植えの花を鉢から出してそこに植える。


「万物を潤す魔王の恵み、メガ・ウォーターボール」


 攻撃にも生活にも利用できる水魔法で花に水をやる。

 すると、ピオピオがエムのポケットから抜け出して花の上を舞い、妾の知らぬ不思議な魔法を唱えた。


「なんだ? 花に魔法をかけるのか?」


「今のは、お花の寿命を延ばし、さらに他者の意識がここに向いて荒らされないよう、幻覚作用を付与したのです♪」


「いろいろ魔法を使えるのじゃな。それなのに、なぜ猫ごときにやられたのじゃ?」


「猫は天敵です。面と向かって魔法を撃つなんて、自殺行為ですから!」


 怖くてできなかったのじゃな。

 猫の後で暴れておった魔導戦士に至っては、魔法耐性があって妖精族の魔法では傷つけることができなんだと。なんとも奇妙な物を作ったものじゃのぅ。


「さーて、準備完了です。行きましょう♪」


「またピオが音頭を取るのか」


「誰でもいいよ。行き先はもう決まっているんだから」


 妾たちはそのまま、東へと足を向かわせた。

 その道中、ミリアから「領主の企み」について聞かされることになった。


「宿で言っていたメルトルーの町の領主の件、今から詳しく話すぞ。いいか、よく聞けよ。メルトルーの町の領主が、商人の娘をさらって身代金を要求しようとしているんだ。もちろん、主犯が領主だと明るみにならないように企てているらしい」


「それはとんでもなく悪い領主様だね! すぐに止めさせないと!」


「そうなのです。我が全力で阻止してみせるのです」


「なんか胡散臭いのぅ。なぜ、まだ起きてもおらぬ事件について、しかも他の町の領主のことなどを知っておるのじゃ?」


「まあ、そこは私の知人の情報の正確さを信じてくれ、としか言えないな。実際にメルトルーの町に行けば分かるからさ」


 犯罪が起きることを前もって分かっておれば、誰も苦労はせんのじゃ。

 妾たちは途中の小さな町で乗合馬車に乗り、数日かけて、メルトルーの町まで移動した。


「本当に大きな町だね」


「我の故郷と比べると小さいのです」


「レティシアの故郷も国境に近い町じゃったの。大きさの違いは、経営手腕の差じゃろうな。レティシアの故郷のほうが経営が上手で栄えておるのじゃろう。人流は、こちらのほうが明らかに多いはずじゃからの」


「ここは、聖クリム神国に通じる街道上にあるもんな。巡礼とかもあって、人通りは半端ないよな」


 街道上を行く間にも多くの人や馬車とすれ違った。

 町の中に入っても、多くの人が行き交っておる。

 夕方になろうとしておる時間帯ゆえに、夕飯のための買い込みをする者が多いのじゃろう。

 しかし、これだけの人が出歩いておるにも関わらず、露店の数がやたら少ないように感じるのぅ。少ない露店なのに、その一部の露店だけに人が集中しておるようにも見える。

 軒を連ねる商店も同様に、一部だけが繁盛しておるように見える。


「悪い。中央広場で待っててもらえるか? この町の知人に、盗賊団について何か知ってないか尋ねてくるからさ」


 ミリアはこの町にも知人がおるようで、人流の中に消えていった。

 以前、妾は失意に沈んでこの町を訪れ、盗賊団を倒す仲間を探した。

 妾はあそこに見える冒険者ギルドでパーティーに加入し、すぐに追い出されたものじゃった。それと比べると悪いのじゃが、エムは暖かく妾を迎え入れてくれたのじゃから感謝せねばならぬの。

 少々過去を思い出し、露店を眺めておるとミリアが戻ってきた。


「戻った。ここだと話せないから、先に宿をとろう。そこで話す」


「もったいぶっているのです」


 適切な宿を探し、宿泊の手続きを済ませる。

 部屋の中に入り。


「状況は悪い。領主の企みは、既に実行に移されているようなんだ」


「えー! すぐに商人の家に行って、誘拐を止めないと!」


「行くのです!」


「二人とも待てって。最後まで話を聞けよ。誘拐は既に実行済みなんだ」


 ミリアが部屋から飛び出そうとした二人を制止する。妾は勇んではおらぬぞ。


「ええええー!」


「ど、どうするのです?」


「それで、確実とまではいかないが、娘を監禁しているらしい屋敷の情報を聞いてきたんだ」


「領主館ではないのかえ?」


「そんな足がつくようなことはしないさ。悪徳領主による計画的な犯行だからな」


 ミリアはどうやって情報を得ておるのじゃ?

 知り合いは衛兵なのかの?

 衛兵が悪事を知っておっても、領主が主犯なら衛兵は動かぬ、そういうことかの。


「今から、娘が監禁されていると思われる屋敷に行って、証拠を掴もうと思う」


「うん。早く行こう」


 宿を出て、町の隅のほうに行く。

 そこでやや暗い裏通りに入り、目星をつけていく。


「たぶん、あれだ。あの屋敷が聞いた特徴と合致する」


 ミリアが指差す先には、裏通りに面しておるにしては大きめの屋敷があり、二階の窓にまで泥棒除けのX状の鉄格子が嵌めてある。

 あれでは窓から突入することも逃げ出すこともできぬのぅ。


「どうやって証拠を掴むの?」


「乗り込むのですか!」


「レティシアよ。乗り込んだら助けるまで一貫して行わないといけないぞよ。妾たちだけでできるか、よく確認して計画を立てることが重要じゃ。で、ミリアよ。何か良い手立てはないのかえ?」


 人質として娘に刃を向けられると、妾たちは何もできなくなる。

 見張りの者が何名おるのか、その辺りが重要となってくるのぅ。


「それをここで考えようかと」


「「「「うーん……」」」」


 細い路地に入って皆で考える。

 長い転生人生において、妾が直接人質を救出した経験などはなく、良い考えなど浮かばない。


「まとまりませんね。私がちょちょいっと見てきましょうか?」


「お! そうか、ピオがいたか。偵察するにはもってこいだぞ」


「ピオちゃん、お願い。少し様子を見てきてよ」 


 ピオピオは光る粉を少々散らしながら高く舞い、近くの民家の二階の軒下に紛れるように飛んで目的の屋敷へと向かう。

 隠れるようにして飛んでおるのは、猫やトンビが怖いからのようじゃ。あそこを飛べば、人間の目にも入りにくいしの。


「ピオピオが二階の窓から中に入ったのです」


 鉄格子があっても、ピオピオなら通り抜けられる。

 たまたま開いていた窓から中に入ったようじゃの。

 吉報を待つとしよう。


「お待たせしました♪」


「おおう、早かったの」


 ピオピオはすぐに戻ってきた。


「中にはですね、椅子に縛られた女性がいました」


「すぐに助けに行くのです!」


「だからレティ、待てって。それで監視している者は何人ぐらいいたんだ?」


「二階だけで、四人いましたよ。一階には行っていませんが、声は聞こえてきました♪」


「少なくとも五人もいるんだね。ちょっと難しいねー。それでも私の勇者の技があれば……」


「エムよ。そう勇むな。娘を盾にされると、妾たちは何もできなくなるのじゃ」


「「「うーん……」」」


 またシンキングタイムじゃの。


「やっぱりさ、領主に直接話すしかないんじゃないのか?」


「そうなのです。悪いことをしているのは領主なのです。悪事を暴けば、怯むに違いないのです」


「お主らのう。悪事を裁くのも領主の仕事じゃ。下手をすると妾たちが犯人扱いされてしまうかもしれぬぞ」


 誘拐の罪を擦りつけて妾たちを牢に入れ、領主は何事もなかったかのように商人に娘を返す。商人はこの結果でも礼金を出すことじゃろう。娘を助けた良い領主にの。


「ピオちゃん。女の子が捕まっていた部屋にも見張りがいたの?」


「はい。そこに四人です」


 それはまた、多いのぅ。

 下手をすると屋敷の中全体で、十人ぐらいいそうじゃの。


「そっかー。じゃあ、今思いついたアイディアその1は却下だね。アイディアその2を試してみよう」


「アイディアってなんなのですか?」


 レティシアは突入のためのアイディアだと思っておるようで、盾の持ち手を強く握り締めてから尋ねた。レティシアよ、落ち着くのじゃ。今、妾たちが突入したところで解決はできぬのじゃからの。


「うんとね、私たちも飛べばいいんだよ」

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