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074話 ミスリル山が爆発しちゃうの? 前編

 場所を広い仕事場に移し、作業に一区切りつけた弟子から順に、立ったロックゴー君が前となるように並んで座る。数人、ロックゴー君を見た途端、驚いて変なポーズになっていたのが印象的だった。


「よし、みんな集まったな。では弟子たちに紹介しよう。こいつは俺の友のロックゴー。過去の諍いは水に流し、今後は仲良くするんだぞ。分かったな! いじめたら承知しねえからな!」


「「「「「へい!」」」」」


「でな、ロックゴーがお前らに話したいことがあるっつーから、集まってもらった。じゃあ、ロックゴー、話を始めてくれ」


「グググ……。近イ将来、コノ山、爆発スル」


「「「「「「ええええー!!」」」」」」


 ロックゴー君の最初の一声に、この場にいる全員が一斉に驚いた。唐突すぎるよ。ミスリル山が爆発するの?


「ちょ、爆発ってなんだよ? 面白いことが起こるのは好きだけどさ、山が爆発って、度が過ぎているぞ」


「爆発とは噴火のことか? 俺たちは毎日のように坑道を掘り進めているから、マグマの熱は体で感じている。しかし、噴火はまだまだ先だと予想しているぜ?」


「グググ……。タダノ噴火、違ウ。爆発トハ……」


 ロックゴー君が言うには、この山の中腹辺り、その地中に大量の水が溜まっていて、マグマがそれに触れそうになっている。もしも、マグマが水と触れてしまうと大量の水蒸気が発生し、一瞬にして大爆発が起きちゃうんだって。


「今、どえらいことをサラっと述べやがったな。要するに、マグマの支流が、五合目と六合目との間にある地底湖に迫っているってことか。地底湖が沸騰してよ、やかんを熱し続けたときにふたが吹き飛ぶような感じで、この山がドカン、となるのか」


 地底湖はこの山の芯となる位置ではなく、北にずれた部分に存在する。地中のマグマは真っ直ぐに上がらずに、多くが地底湖の方向へと逸れているみたい。


挿絵(By みてみん)


「タダノ水蒸気爆発、コノ山、ナクナルダケ。シカシ、マナ水蒸気爆発、威力絶大。遠イ土地、巻キ込ム」


 しかも、ミスリル山はその名前の通り、魔法鉱石のミスリルを産出する山で、魔法の源のマナをふんだんに含んでいる。そのマナが地下水に溶け込んでいて、爆発を大規模なものに変えてしまうらしい。

 あっ、ロックゴー君が目を光らせて、壁に絵を映しだした。あれは地図だね。


「被害予想域、コウナル。甚大ナ被害域ノミ、示シタ」


「まじか! そんなに広範囲に被害が及ぶのか!」


挿絵(By みてみん)


「エルフの森、壊滅しちゃうよ。獣人の国も壊滅だね。聖クリム神国、ベーグ帝国、バタロン王国は国土の半分ぐらいが被害に遭うかもしれないんだね」


「で、避難すればよいのじゃな?」


「行き先は、カレア王国ですか? でもですね、もしも受け入れてもらえたとしても、爆発後にとんでもないことになっていますから、帰ることができなくなるのです」


 避難先はカレア王国か、クロワセル王国になりそう。どちらにも知り合いがいるから、説明はできる。受け入れてもらえるかは別にして。


「俺たちの避難先は、北のドラゴンの領域か。鉱石探しからやり直しだな」


「それは却下なのです。大事なねぐらに穴を掘る賊は、おととい来やがれなのです」


「おいおい。レティが決めることじゃあないだろう? まあ、私だったらドラゴンが怖いから、そこには行かないけどな」


 せっかく爆発から逃れられても、ドラゴンにパクリと食べられちゃうよね。


「「「「「うーん……」」」」」


 私たちを含め、ラルゴーさん、弟子のみんなが唸っている。


「近い将来と言われてものぅ……。ロックゴーよ。マナ水蒸気爆発までの猶予は、どれくらいあるのじゃ?」


「グググ……。早ケレバ、フタ月」


「嘘だろ!? そんな短期間じゃ、避難している余裕すらないぞ」


「受け入れの交渉は、事後承諾になるのです」


「たとえ事後承諾であったとしてもじゃ。被災想定地域の全住民に知らせ、さらに避難してもらうには、ふた月では到底足りぬと思うがの……。ここドワーフの国なら間に合うやもしれぬが、近隣諸国に至っては、まず無理じゃ」


 ミスリル山が爆発するって知らせるだけでも大変。それを信じてもらって、さらに避難してもらう。ちょっと考えただけでも大ごとだよ。

 それに、乗合馬車で移動するとなると、一つの国を横断するのにひと月近くかかる。当然、乗合馬車って数が限られているから、全住民が乗ることなんてできない。だから、移動してもらうことは簡単なことじゃない。


「グググ……。友ヨ。マナ水蒸気爆発、オレト、防イデ欲シイ」


 ロックゴー君は、この山に末永く平穏に過ごしたいのが本音。だから、ここに住むドワーフのみんなと一緒に爆発を回避したいと思っている。

 最初はロックゴー君もどこかに避難しようと考えていたんだよ。ドワーフのみんなと仲良くなったから、これなら回避できるかもしれないと思うようになったんだって。


「お、おう。俺には何も対策が思いつかねえが、俺にできることがあるなら、なんでも手伝ってやるぜ」


「つまりロックゴー、お主にはマナ水蒸気爆発を回避するための、なんらかの方策があるのじゃな?」


「アル……。ドワーフ、穴、掘レル……」


 ロックゴー君の説明が始まった。

 まずは地底湖の底に横穴を開けて、マナ水を山の外へと抜き出す。

 しかし単にマナ水を抜くだけだと、いずれすぐにマグマが地底湖の底を突き破って噴火が起こる。

 その猶予を得るために、ロックゴー君がミスリル山に語りかけてマグマの支流を増やしてもらうんだって。って、ロックゴー君、そんなことができるんだね!

 単にマグマを押し戻すこともできるらしい。でもその場合、マグマの圧力が強まって、次の噴火が超大規模になってしまうようなので、それはしない。


「おう。やってらやらあ! お前ら! つるはしとスコップを持て! 今から行くぞ!」


「「「「「おおー!!!」」」」」


「ちょっと待つのじゃ。お主ら、地底湖の底に直接穴を開けて、溺れぬ方策があるのかえ?」


「水か……。大量の水が穴の中に流れ込んでくるのか……。まったく対処のしようがねえぜ」


 この他にもいくつか問題があって、坑道行きは先延ばしに。すぐに作戦タイムとなった。

 マオちゃんとレティちゃんが活発に意見を出し、それをラルゴーさんが受け入れる形で話は進む。

 弟子のみんなからの質問に答えつつも詳細が詰められていく。

 二人の豊富な知識に脱帽だね!

 マオちゃんの出身村に、土木作業に詳しいおじいちゃんがいたのかな?

 レティちゃんにしてみても、貴族様の基礎知識だったのかな?

 私には想像すらもできないことばかりだったよ。


「それじゃあ、手分けして作業開始だね!」


「お前ら! つるはしとスコップを持て! 今すぐ行くぞ!」


「「「「「おおー!!!」」」」」


 話がまとまると、ラルゴーさんは弟子のみんなを外へと連れ出して鍛冶場を閉め、二十五番坑道へと向かった。

 二十五番坑道内に、地底湖へと下りられる道がある。


「私たちも急ごう」


「フラワーテレポート♪」


 私たちは、エルフの里へと転移した。

 それは、地底湖から抜き出したマナ水が山の北側斜面を流れ、エルフの森に到達することになるから。

 やはりドワーフとエルフは基本的に仲が悪いようで、私たちが長老に説明する役割を買って出たんだよ。


「長老! 話があるんだ!」


 巨大な木の枝にある長老の家。その扉を叩いて呼び出す。


「なんじゃ。騒々しい……。おお、ピオピオ殿か。新しい花でもお探しかの?」


「急ぎで大事な話なのです。今すぐ聞くのです」


「とんでもないお話です♪」


 扉を開けて姿を現した長老に詰め寄るようにしてレティちゃんが声を上げた。ピオちゃんも長老の顔の前に飛んで行った。

 それを見て、長老は渋々な様相を呈しながらも、話を聞いてくれることになったので、事情をすべて話した。


「ふお? ミスリル山が爆発して、この辺り一帯が消失する? ピオピオ殿の話とはいえ、荒唐無稽すぎて、とても信じられぬのう……」


「だから、そうならないように、これから作業すると言ったのです」


「長老よ。先々代の過ちを繰り返すのかえ?」


 マオちゃんは、思い悩む長老の肩を軽く叩き、優しく伝えた。まるで、マオちゃんのほうが年上みたいだよ。


「……! そうじゃった。先々代は妖精殿の申し出を断り、生涯を悔いて過ごすこととなった。危うくワシも同じ過ちを繰り返すところじゃった。その諭し、感謝する。ふむ。ワシはピオピオ殿を全面的に信用する」


 こうして、長老によって隣の会議場に代表者が集められ、すぐに話が広められた。


「ワシらは、この森に流入するマナ水をどうするか考えねばならぬ」


「どうしてドワーフの尻拭いをしないといけないのです? すべてドワーフの国で処理してもらいましょう」


「ドワーフの馬鹿どもが流す水など、断固受け入れ反対だ!」


 会議場内が荒れている。この様子からも、ドワーフとエルフは基本的に仲が悪いことが窺える。


「皆の衆、冷静になるのじゃ。ドワーフどもはこの一帯を消失させぬよう、努力しておる。それに、向こうは高地。マナ水が低地に流れることは必定。皆の衆は、馬鹿どもよりも知恵の回らぬ愚か者ばかりなのか?」


「ドワーフよりも愚か者!?」

「私たちには知恵がある!」

「馬鹿にされてたまるか!」


「ならば、考えるのじゃ。皆の衆の知恵で、目の前に迫った災難を回避しようではないか」


 長老、場を制御するの上手だね。たったの一言で、場の雰囲気が一気に変わった。

 代表者のみんなは必死に考えるようになり、次々と対策案が挙げられる。

 議論を重ね、いくつも廃案となり、新案が浮上する。


「では、決まりじゃな。皆の衆、作業に取り掛かるのじゃ」


 対策案が固まり、方々へと散るエルフのみんな。

 おおまかには、ミスリル山から流れ出るマナ水を、西のフェルメン湖に誘導することになる。

 しかし、それを実現するには地面を掘って道筋を作り、さらに土手も設置する必要があるため、ドワーフの助力が必要となる。

 ドワーフとの共同作業になることについては、当初はほぼ全員が難色を示していた。しかし、長老が過去の失敗を引き合いに出し、仲が悪いことを理由に後ろ向きになることは必ず将来後悔することになると説明し、場内を納得させた。

 ドワーフの国へは、長老自らが助力依頼に出向く。


「エバンさんに、渡しそびれちゃったね」


「ハリセンの強化は、一難去ってからだな」


 手元にあるのはハリセン強化に使う素材。皮袋に入っている。

 エバンさんが既にどこかに行ってしまったから、ハリセンの強化は後日だね。


「こちらでの作業の様子をある程度見届けてから、ミスリル山に戻るのがよいじゃろうのぅ」


 いざ作業を始めると、新たな問題が発生するに違いないよね。

 その影響で対策が変更になったりしないかを見極め、それからラルゴーさんに報告に戻るのがよさそうだね。


「現場は遠いぞ。私たちはエルフみたいに森の中を素早く移動できないから、すべてを見届けるのは無理だ」


「ミスリル山に近い場所。あの辺りならピオちゃんの転移で行けると思うから、まずはそこに向かおう」


挿絵(By みてみん)


 私たちはミスリル山の麓、つい最近エバンさんに連れて行ってもらった場所に転移した。この周辺には花が咲いているんだよね。


「わわっ。木が動いているよ!?」


「もう作業が始まっているのです」


「エルフは、魔法で木を移動させることができるからのぅ」


 離れた場所で、木がグラリグラリと揺れながら移動している。

 近寄って改めて観察すると、木の根っこが、まるで足の役割を果たすようにグニャリグニャリと動いている。


「ひゃー。面白すぎるぞ!」


「ウッドウォーカーにそっくりなのです」


 エルフのみんなが真面目に働いているのに、ミリアちゃんは大喜び。

 私だって驚いたよ。だって、木が動くなんて思わないから。


「木々がどいて開けた場所が、川になるのかな」


「仕上げはドワーフに頼るのじゃろうな」


 私たちは、下流となる方向に進んで行く。

 作業している何人かに話を聞いたところ、ただ木に移動してもらうだけでなく、マナ水に紛れる砂利などをろ過できるよう、根っこを張り巡らせる場所を用意するらしい。

 マナ水を誘導するフェルメン湖は聖なる湖とされていて、濁らせることは禁忌なんだって。

 私たちは作業の様子を見ながら歩き、ある程度進んだ所では、エルフが集まって議論を交わしていた。


「上の命令とはいっても、本当にご神域にドワーフを入れるのか?」


「ドワーフがいなけりゃ、川なんてできない。仕方ないだろ」


「馬鹿どもにご神域を侵されるかと思うと、ハラハラして夜も眠れなくなりそうです」


「大丈夫。あいつら、いざご神域に入っても、そこがご神域だなんて気づきやしないさ」


 ここにいるエルフは誰も会議場にはいなかった。作業指示を受けただけで納得がいっていない様子。

 どうやら、この先にご神域があって、そこにドワーフを入れることに難色を示しているみたい。

 ご神域ってなんだろう。

 会議場でも同じような議論があった。あのときは尋ねられるような雰囲気ではなかったから黙っていたけど、ここでなら尋ねてもいいよね?


「ねえ、ご神域ってなんのこと?」


「あー、お客人。聞こえていましたか」


「ご神域ってのは、ご神木様周辺の聖なる土地のことさ。ご神木様を里の中心で見ただろ? あれと同じものがもう一柱、この先にあるのさ」


「里にあった大きな木と同じ物がもう一本あるのか」


「ミスリル山の昇降機に乗ったときには、そのような物、見えておらなんだがの?」


「きっと、あのときはみんなビビりすぎていて、景色を眺める余裕がなかったのです」


 言われてみれば、見てないような気がする。どこにあるんだろう?


「ははは。視認阻害の結界で囲ってあるから、遠くからは見えないさ」


「なんだ、見えなくしているのか。ご神域に入ると、何かまずいことでもあるのか?」


 ミリアちゃんの問いかけに、エルフのみんなが一瞬ギクッとした。


「ご神域そのものには問題ない。ただ、ご神木様を見せるわけにはいかないだけだ」


「たとえお客人であっても、これ以上は踏み入ってはいけない話。お引き取り願おう」


 エルフのみんなは腕を組み、機嫌悪そうな顔で私たちを追い払った。

 仕方ないので私たちは少し離れた場所に行き、


「エルフは、何かを隠しておるの」


「隠し事なんてどうでもいいのです。ドワーフが困っているのです」


「これから困るのはドワーフだけじゃないよ。この周辺の国に住むすべての人が困ることになるんだから。そうならないように頑張らないと」


「エルフの様子を見れたし、今度はドワーフが何をしているのか見に行こうぜ。くー、ワクワクが止まんねー」


 ドワーフのみんなが何をしているのかは、話し合いに立ち会っていたから大まかなことは知っている。みんなそれに従って働いているだけで、ワクワクするようなことなんてないと思うよ?


「そうだね。そろそろ坑道に行こうか。ピオちゃん、お願い」


「はーい。二十五番坑道へ、フラワーテレポート♪」


 ラルゴーさんにこれまでの経過報告をしないといけないのは事実。だから、私たちは二十五番坑道へと転移した。

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