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068話 異次元迷宮、愉快迷宮 前編

 手入れのされていない細い道を行く。人通りはさっぱり。

 草がぼうぼうで、時々道を見失うこともある。

 前方で道は緩やかに右へと曲がっていて、それに沿うように進もうとすると、


「この草原、何か怪しいのです」


「怪しいって、何が?」


「何か面白い物でも発見したのか?」


 レティちゃんが何かに気づき、そのまま曲がらずに真っ直ぐ草原に入り込んで行った。


「お主。ヘビに噛まれるやもしれぬゆえ、もう少し慎重に進まぬと危険じゃぞ」


 草をかき分けて進む私たち。かき分けるたびにいろいろな虫が舞う。

 草は前方の視界を遮るくらいに生い茂っていて、その間からいつヘビが顔を出してきてもおかしくない状態。

 道から大きく外れた場所でレティちゃんは止まり、付近の草を念入りにかき分け始めた。


「この石が怪しいのです」


 そこに現れたのは、四角形に綺麗に整えられた白っぽい石。レティちゃんの頭と同じくらいの大きさ。


「人工物のようじゃな。なんじゃろう、墓標かの?」


 マオちゃんは鑑定の魔法を発動し、とくに何も情報を得ることはできなかった。ただの石のよう。


「まだあるのです」


 またレティちゃんが草をかき分けて進みだした。

 少し離れた所にも、同じような四角形の石があった。さらに体の向きを変えもう一個、四角形の石を発見した。


「全部で三つ。変わった配置じゃの。墓標だとすると中心部分に埋葬しておるのかの?」


 三つの石の配置は三角形になっていて、マオちゃんがその中心に向かって歩いて行く。


「花が咲いておるの。ぬお!?」


「わわっ。マオちゃんが消えちゃったよ?」


 中心の位置に到達して屈んだと同時に、マオちゃんが消えてしまった。

 左右を見渡しても、マオちゃんの姿は見当たらない。

 草むらの中に転送ゲートが隠れていたのかな?


「追いかけるしかないのです」


「行くぞ!」


 マオちゃんがかき分けた場所を走り、私たちも中心部分へと向かう。


「サフランが咲いています♪」


 するとそこには紫色の花が一輪咲いていて、それに触れた途端、どこかへと転送された。


「異次元迷宮なのですか?」


 精巧に積まれた石の壁。それが迷路を構成しているように見える。


「うむ。ここは異次元迷宮。通称、愉快迷宮。振り向いても行き止まりで、帰りのゲートが設置されておらぬのじゃ」


「マオちゃん、無事だったんだね。よかった」


 今までの異次元迷宮だと、入ってすぐの所に、元の場所に戻るゲートが設置されていた。それがここには見当たらない。私たちは入り口ではない場所に転送されたのかな?


「探検です。出口を探しましょう♪」


「探すしかないのです」


 宝箱に期待しているのか、探求心からなのか、ピオちゃんは楽しそう。

 もう出口を探すしかないから、みんな武器を手にして迷宮探索を開始した。


「ねえ、この愉快迷宮って、ふざけた名前だよね?」


「そうじゃの。正式名称部分を読み取ることができなんだゆえ、通称部分を読み取ったのじゃ。それが愉快迷宮じゃ」


「この間のガラクタ魔物の名前みたいなものなのですか?」


 あの迷宮では割れた皿がBPで、それは正式名称ではなかった。

 ここも似たような感じなのかな?


「妾にもよく分からぬのじゃが、そう捉えてもよい気がするの」


 まあ、異次元迷宮の名前を気にしていても出口はみつからない。

 私たちは精巧に積まれた石の壁で構成された通路をとにかく歩く。

 マオちゃんによる必勝迷宮攻略法で、右手を壁に当てて進んで行くと、第一魔物を発見した。


「前方遠くに魔物がいるね」


 曲がった先が真っ直ぐな通路だったので、マオちゃんの探索魔法よりも先に魔物を目視で確認できた。迷宮タイプの異次元迷宮内では、探索魔法の探知範囲が極端に狭くなっていることがよく分かる。


「石の足なのです」


 両手で抱えることのできるような大きさの足。足首から先しかなく、人間の足の形をしていて、両足揃っている。


「うむ。魔物の通称は『踏んだり君』と『蹴ったり君』じゃな」


「また通称なのですか。通称だとしても、ふざけているので……、ぐへっ」


 人間が歩行するように、左右交互にゆっくりと接近してきた石の足。突然浮かび上がったかと思った次の瞬間には、レティちゃんを踏みつけていた。


「こやつ、一瞬天井を突き抜けおったぞ!?」


 迷宮の天井の向こう側に消え、見失ったんだよね。そしたら、レティちゃんの頭の上に現れたんだ。


「ぎゃふっ」


 がはっ、痛いっ……。

 レティちゃんを踏みつけた足ばかりに気を取られていたら、今度はもう片足が私を蹴った。

 腹を蹴られて腰を曲げ、尻餅をついた私。そのまま石の床の上を滑って行く。


「ピオピオや。素早く動けるようになる演奏を頼むのじゃ。そして、ミリアよ、思い切り暴れてやるのじゃ」


「いきなりやられたもんな。倍にして返してやるぞ」


「アジリティアップの旋律、体を動かしながら聴いてください♪」


 いててて……。ポーション、ポーション……。


「うっひゃー。やるぞやるぞ! アイシクルマッシュ、ダブル!」


「有象無象を貫く魔王の岩、メガ・ロックランス!」


 私が痛みを堪えて回復している間に、ミリアちゃんはいつもより素早い動きでレティちゃんを踏みつけている石の足に接近し、ハリセンを巧みに使って凍りつく殴りを左右の往復で二回打ち込んだ。

 そこに追い打ちをかけるように、マオちゃんが尖った岩を撃ち出して石の足を貫通。これで片足が粉砕し、魔石に変わった。

 あたた……、まだ動くと痛い……。

 ここまでの動作から、左右一対で一体の魔物だと思っていたら、片足撃破だけでも魔石になり、左右の足が別々の魔物だと理解した。


「まだまだ行くぞ! オーバースイング!」


 今度は私の前方にいる、残った石の足目掛けてミリアちゃんの渾身の大振りが炸裂。大振りなのに隙が少なくなっていて、石の足は避けることもできず、突き飛ばされて壁面に激突した。


「おおぅ。一撃だったのじゃ……」


 石の足には亀裂が入り、粉々に崩れ、遂には魔石へと変わった。


「回復促進の曲、奏でまーす♪」


 ピオちゃんが曲を切り替え、ゆったりとした、心温まるような曲になった。

 今のうちに追加でポーションを口に含もうっと。

 コクン。

 みるみる痛みが引いていく。これは中級ポーションぐらいの治りだよ。実際に中級ポーションを買ったことがないから、比較の効果は想像ね。


「ぶはぁ。我を踏みつけたこと、後悔させてやるのです」


 頭頂部を摩り、グキ、ゴキッと首を動かして全快したことを確認するレティちゃん。


「また遭遇したら、そんときはレティに任せるぞ」


「もう倒したからの」


 やっぱり四人いると戦力激アゲだね!

 実際は二人しか戦っていないって?

 今の戦闘で私とレティちゃんは、盾役だったんだよ、きっと。

 また蹴られてもいいように、腹筋を鍛えておかないとね!


「回復が済んだのでしたら、進みましょう♪」


 真っ直ぐな通路を進み始める。

 左手側は、精巧な模様を刻んだ円柱状の柱が複数並んで壁を形成している。そのうちの一本には笑顔のような模様が刻まれている。


「柱と柱の隙間から向こうが見えそうなのに、何も見えないね」


「そうだよな。柱は彫刻されたように中央付近がくぼんでいて、柱の並びには隙間があるのにな。なんで向こうが見えないんだ?」


「異次元迷宮とは、得てして予想通りにはいかぬものじゃ」


 ただの円柱ではないから、柱と柱の間には隙間がある。

 そこを覗き込んでも、見えるのは真っ暗な闇。あるいは何もない空間。実は向こう側が本当に真っ暗なのかもしれない。

 私たちは、柱だったり石の壁だったりする通路をひたすら真っ直ぐ進む。


「どこまで進めばいいのですか? 柱を何本見たのか分からなくなるくらい進んだのです」


「ずっと同じ配置の壁を見ている気がするよ」


 どれだけ行っても同じような真っ直ぐな通路。

 石壁、柱壁、柱壁、石壁、柱壁、柱壁、石壁、……。


「これは、もしや……」


 何か思うところがあったマオちゃんが、石の壁を凝視し、識別の魔法を発動した。


「ぬお! これは罠じゃ。『行ったり来たりの罠』と名称までつけてあるのじゃ」


 どうやら、私たちはずっと同じ場所を繰り返し歩いていたみたい。

 前方の床に四人が乗ると、瞬時に後方に戻される仕組みになっているらしい。


「戻るしかないね」


 後ろを向くと、すぐに曲がり角が見えた。

 そこまで戻り、右に曲がる。必勝迷宮攻略法の行動だね。

 何度か分岐で右に曲がり、行き止まりで方向転換して戻ったら、また右に曲がる。


「右にばかり曲がるのですが、マオリー、本当にこれでいいのですか?」


「うむ。常に右手を壁に接するように歩けば、いずれすべての通路を踏破することになるのじゃ。いつものようにお主の勘に頼って進んでもよいのじゃが、たまには正攻法で行くのも経験となってよかろうて」


 いつも盾役のレティちゃんが先頭で、私に進行方向を尋ねる場合を除けば、レティちゃんの勘頼りで進むことがよくある。それでも踏破できていた。

 でも、勘がいつでも冴えているという保証はないから、攻略法があるのなら、それを経験しておくのもいいことだと思う。

 とにかく、マオちゃんって物知りだよね。近所の冒険者おじいちゃんの武勇伝とかを聞いて育ったのかな?


「おい、何かいるぞ」


 またまたマオちゃんの探索魔法よりも先に、目視で魔物らしき存在を発見した。

 それは人型で、石の床の上にうつ伏せになっていて動かない。両腕は力なく伸ばした状態で、顔は横を向いていて口が半開き。白目を剝いている。


「あれって魔物じゃなくって、誰か行き倒れた人なのかな?」


「いや、魔物じゃ。通称は『ぐったり君』のようじゃ」


「またふざけた名前の魔物なのです」


 武器を構えてゆっくり近づいて行くと、魔物は私たちに気づいたのか、ぐぐぐっと震えながら腕を立て、起き上がった。でも、俯いて腰を曲げ、だらりと腕を垂れ下げている。


「襲ってこないけど、やってしまえばいいのか?」


「素通りできるのであれば、それに越したことはないのじゃがのぅ」


「警戒して進むのです」


 レティちゃんの盾に隠れるようにして壁際を進む。


「うわっ」


「な、なんじゃ。倒れただけじゃの。驚かせおって」


 魔物が突然倒れ、また石の床の上でうつ伏せ状態となった。

 やや腰が浮いていて、この魔物からは戦おうとする気力が感じられない。


「無視して行っちゃおうか」


 隙だらけで、倒そうと思えばいつでも倒せる。

 でもさー。この魔物を見ていると、なんかこっちまでやる気がなくなっちゃうんだよね。だから、関わらずに進むことにした。

 やり過ごしてから振り返っても、魔物はぐったりとうつ伏せのまま。背後から襲ってくることもなかった。


「迷路が続いているのです」


 小部屋がなく、石の柱と石の壁で構成された通路をひたすら進んで行く。

 何度か曲がり、数回行き止まりで戻り、それでも右手を壁に当てるようにして探索を続ける。


「気をつけるのじゃ。壁が濡れておるように見えるのは、魔物じゃぞ」


 まるで天井から雨漏りでもしているかのように、左側の石壁が高い位置から濡れている、いや、濡れているように見える。マオちゃんはいち早くそれを魔物だと見抜いた。


「うはっ」


「イージス! 我の盾を抜けると思ったのですか!」


 高い位置のまま、魔物は体の一部を尖らせて飛ばしてきた。

 それは盾の有効範囲を広げる盾技で阻まれ、床に落下した。


「来るのじゃ。青く変化したのが『べったり君』で、赤く染まったのが『失敗作しっとりさん』じゃ」


「なんなのー。その名前、おかしすぎるよー」


「二体いるのか!」


 スライム系の魔物のようで、石の床の上に落ちるとべちゃっとした液体の塊となった。

 液体を鋭い円盤状にして飛ばし、さらに弾むように移動してこん棒のような形状になって殴りつけてくる。


「コアを狙えばいいんだよな! ボンバースマッシュ!」


「うん。プリムローズ・スプら……、わっ!」


 こん棒を右へと躱し、二歩踏み出したミリアちゃんが青い個体をハリセンで殴って爆発を起こし、その体をコアごと爆裂させた。

 ミリアちゃんの左隣を、赤い個体に向かって一歩遅れて飛び出した私は、勇者の刺突技を発動しようとレイピアを突き出した瞬間、踏み出した足が滑って背中を床に思い切り打ちつけた。


 いたた……。どうして滑ったの?


 床の上を観察すると、透明な膜のような物が張られていて、それは赤い個体しっとりさんから続いている。


「失敗作と銘打つ魔物にしてやられるとは不覚よの。仕方あるまい、妾が仕留めるのじゃ。立ち塞がる者を穿つ魔王の槍、メガ・エアランス!」


 私が立ち上がった頃には、マオちゃんの放った空気の槍がしっとりさんのコアを貫き、魔石に変えていた。


「私の出番がありませんでした♪」


「よいことではないか。ピオピオが頑張らねばならぬ魔物であれば、それは苦労しておる証拠じゃからの」


「よっしゃあ。どんどん進むぞ!」

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