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051話 素材を集めよう!

 見上げると青い空に白い雲。

 前方に広がっているのは、色とりどりの花が咲き乱れる丘。それが幾重にも連なっている。

 私たちは今、花の絨毯の上を飛んでいる。


「もう二つ丘を越えると、目的の枝を採取できる林があります♪」


 波打つような花の絨毯。

 その先に、黄色の花が満開になっている木々が並ぶ林が見えた。


「第一の素材は、このクネクネの木の枝です。皆さん、準備はいいですか? 落とさないよう受け止めてくださいよ♪」


 林に到着すると、黄色い花をたくさんつけている木の下に行き、すぐに素材を入手しようとするピオちゃん。


「ちょ、待つのです。大きな枝を入手するのでしたら、人間の姿に戻せばいいのです」


「そうじゃのう。今の妖精の姿じゃと、どれくらい力が出せるのか未知数じゃしのぅ」


 盗賊団のアジトに乗り込む際、妖精の姿で重たい木窓を開けたことはある。でも、荷物を運んだことはない。

 いつもの人間の姿だと、どうってことのない木の枝。それが妖精の姿だと、とてつもなく大きく見える。とても重そうだよ。


「残念。根を傷めてしまいますから、ここには足の踏み場はありません。このままの姿で受け止めましょう♪」


 根が浅く広く張る種類の木は、その近くを踏むと枯れるものがあるって聞いたことがある。それでも、一度や二度踏んだぐらいでは大きな影響は出ないと思うよね?

 妖精のみんなは花も、花をつける木々も大切にしている。そんな木々を思いやる心からの発言なんだろうね。


「このままの姿で枝を受け止めるのは分かったよ。で、どの枝にするのかな? 枝の長さに合わせてみんなの配置を変えないといけないよね?」


 長い枝だと、その根元に三人集まっていても受け止められそうにない。先端を落っことしちゃうよ。

 だから、根元と先端付近に分かれて受け止める必要があると思う。


「そうですね。いつもマオさんが使っている可愛らしいスティック三本分より少し長いくらいのものが適していますから……、あれです、ここから三本目に見えている枝。あれにしましょう♪」


 ピオちゃんは上を見上げ、三本先の枝を指差している。


「なんじゃ。今すぐ枝を折りそうな勢いじゃったのに、どれにするかまだ決めておらなんだのか」


「ふふふ。皆さんの心構えを試しただけですよ♪ これから、そこの木に許可をもらいます♪」


 ピオちゃんは木の幹に接近して右手で触れると、そこからほのかな光が円周状に広がっていった。


「許可をもらいました♪ では、あの枝ですよ。準備はいいですか?」


「相変わらず急かすのう。枝は落とした物を受け止めるのではなく、最初から支えておってはならぬのか?」


 目的の枝の下まで上昇し、三人が等間隔に並んで浮かんでいる。

 そのまま上に手を伸ばせば枝を持つことができる。持った状態で枝を折れば、受け損ねて落とす心配もないよね。


「枝全体に魔法が及びますから、持っていると危険になります。枝には触れずに、すぐ下で受け止めてください♪」


「しょうがないのです」


 枝に触れそうなくらい近くまで上昇し、いつ落ちてきてもいいように両手を前に伸ばす。


「それでは行きますよ。キ・ミダーレ・エダオーレ♪」


 バサリ。


 枝が一本、根元から切断されて落ちてくる。

 それを地面に落とさないよう、空中に浮いたまま受け止める。

 うわっ、これは結構重いよ。

 腕にずっしりとした重さが伝わっている。

 羽ばたきを増やして落下の勢いに負けないように踏ん張る。


「成功です♪ 魔法収納にしまってください」


 言われるまま魔法収納にしまうと、体が一気に軽くなり、レティちゃんが上昇しすぎて別の枝に頭をぶつけた。マオちゃんはなんとか枝を避けた。


「痛たた……。エム。しまうときは掛け声をきちんとするのです」


「三人での共同作業じゃったからのう」


「ごめーん。次からは気をつけるよ」


「枝に傷がつかなくてよかったです♪」


 頭をぶつけたレティちゃんよりも木の心配をしているピオちゃん。

 人間の姿だったら枝が折れていたかもしれないね、って、そうじゃなくって、レティちゃんに怪我がなかったか心配してあげようよ。


「さて、次に集めるのは、アングリの実です。もう少し林の奥に行くと実っています♪」


 林の中を飛んで進んで行くと、黄色い花の木々の間に、白い花をつける木が混ざりだした。


「これです。白いお花の木に実っている赤い実がアングリの実です。採取しましょう♪」


「今度は許可は要らぬのかえ?」


 枝をもらうときには許可を得ていたのに、ここではもう、ピオちゃんは赤い実を両腕で掴んでいる。

 実の大きさは、ピオちゃんが両腕で抱きかかえると少し隙間ができるくらい。だから一人で採取できそう。


「木々の果実は、誰かに採取してもらうために実っているのですよ。許可なんて必要ありません♪」


「我には理解できない地域ルールなのです」


「きっと、妖精のみんなの常識なんだよ」


 私たちは赤いアングリの実を集め始めた。

 まだ花が咲いている状況から想像できるように、アングリの実の数は案外少ない。

 探し出して実に飛びつき、両腕で抱えてねじるようにして採取する。


「ところで、いくつ必要なのかの?」


 各自、採取した物を魔法収納に入れた時点で、マオちゃんが尋ねた。

 現在、三個集まっているよね?


「たっくさーんです。それでは、私はこれで族長に報告に行きますので、その間に集めておいてください♪」


「ちょ、聞いてないのです。我らを置いて行くのですか?」


「妖精族は人族を好いてはおらぬゆえ、一緒に行くことはできぬじゃろうし、仕方あるまい」


「そんなに長くかかりませんから。頑張って集めてくださいね。フラワーテレポート♪」


 ピオちゃんは転移して消えた。

 私たちは、働きアリの気分でアングリの実を集める。

 アングリの実を抱きかかえて空中でくるりと回転するのは、意外と楽しいかもしれない。

 妖精のみんなって、いつもこんな気持ちで植物と触れあっているのかな?


「レティちゃん。あんまり遠くには行かないでね。迷子になっちゃうよ」


「そんなことを言われても、赤い実がなかなか見つからないのです」


「妾は目が回りだしたのじゃ。フラフラ~」


 赤いアングリの実を求めて林のさらに奥へと進むレティちゃん。

 目を回してどこかに飛んで行くマオちゃん。

 思いのほか、採取効率は悪かったりする。

 それでも頑張ってアングリの実をぐるり、ぱつん、くるくる、ぱきん、と集め続ける。


「戻りました♪」


 私個人の採取数が十二個になった時点で、ピオちゃんが戻ってきた。

 帰りも転移したみたいで、予想よりも早かった。


「お帰り~。何かいい話でもあった?」


「うふふ、それは内緒です。さてと。アングリの実は油にして使用しますから、採取した物を地面に並べてください。あれれ、二人がいませんね。マオーさーん、レティさーん。こちらに集まってくださーい♪」


「うむ。妾も並べればよいのじゃな」


「たくさん集めたのです」


 マオちゃん、レティちゃんがここに戻ってきて、ピオちゃんの足元の地面にアングリの実を並べていく。私はもう置いたよ。

 アングリの実は全部で三十個前後集まっているね。


「魔法で油を抽出しますね。ミカラビン・アブラビン♪」


 ピオちゃんがスティックを振りながらどこかで聞いた魔法を唱えると、アングリの実はビンに詰まった油へと変化した。ビンの数は三つ。


「どうじゃ? アングリの実は、足りておるかの?」


「私の見立てでは、おそらく足りています♪」


「おそらく、なのですか」


 近くの実は既に採取しちゃったから、足りないなら、遠くまで探しに行かないといけない。


「私は人族の足の治療をしたことはありませんから、正確な必要量は分かりません。ですから、余るくらいの量を心掛けています♪」


「多めに集めているのなら安心だね……。あれ? さっきのクネクネの枝は一本だけでよかったの?」


 これまでに集めたのは、高級丸太三個にクネクネの枝が一本、アングリの油ビンが三本。

 クネクネの枝だけ少ないように感じるよ。


「はい。クネクネの枝は魔法をうまく作用させるための触媒です。消費しませんから一本あれば大丈夫です♪」


「しょくばい? 消費しない? よく分からないけど問題ないなら完了だね!」


 消費しない素材って物もあるんだね。


「いいえ、完了ではありません。あと二種類、素材集めが必要です♪ それは小人の国に生えていますから採りに行きましょう♪」


「ならば行くしかあるまい」


 まだ集める物があるようで、私たちは林から出て、以前魔導戦士と戦った丘を目指し、そこからさらに丘を越えて石畳で整地してある土地へと至る。

 石畳の上に垂直に存在している白いゲートをくぐると、小人の国に出た。

 前回同様、空はピンク色で、地上には太い幹の木が何本も並んでいて、その枝にはトマトのような形の家がぶら下がっている。


「ここでは何を集めるの?」


「まるしかく茸とピリピリ草です♪」


「足を治すためには、いろいろ素材が必要になるのじゃな」


 ピオちゃんの先導で小人の集落の間を飛んで行くと、


「おい、あれはこの間の悪魔退治のでっかい人たちだっぺ!」

「救国の勇者様が凱旋なされたっぺ!」

「勇者様、お帰りなさーい」

「おーい、おーい! オラの家に寄ってけー」


 家の窓から手を振る者、木の陰から顔を出す者、走って追っかけてくる者。

 小人のみんなはとても好意的に私たちを受け入れてくれている。

 まあ、救国の勇者様って、ちょっと大げさな気もするよね。

 ここは、さっき通過してきた妖精の国とは対照的だよ。向こうでは、すれ違うだけで「ひえっ」と声にして逃げて行っちゃうからね。


「あそこの草原に、ピリピリ草が生えています。黄色い茎の草ですから、簡単に見分けがつきますよね。皆さんで二株ずつ採取しましょう♪」


「ここでも許可は要らぬのじゃな?」


「今回採取するのは、小人族にしてみれば雑草と毒キノコです。ですから採取しても咎められることはありませんよ♪」


「うぼぼぼ……」


「レティちゃん!?」


 黄色い茎に一番乗りで掴みかかったレティちゃんが、雷撃を受けたように焦げついた。


「地面に足をつけてはいけません。浮かんだまま引き抜いてください♪」


 そんなことで雷撃を受けなくなるの?

 まずはピオちゃんが見本を見せ、次にマオちゃんが実践する。


「ぷはー。先に言いやがれ、なのです」


「うむ。言われた通りにすれば、簡単なことじゃ」


 口から黒い煙を吐き、ポーションを飲んだレティちゃん。

 私は恐る恐るピリピリ草の茎を掴み、力を込めて上昇する。

 よいしょっ。

 うん、抜けたよ。

 浮かんでいれば大丈夫だなんて、不思議だね。

 みんながそれぞれ二本ずつ引き抜き、魔法収納へとしまうと、


「最後の素材、まるしかく茸を採取しましょう。右手の林に自生しています♪」


 右へと方向転換し、林へと飛んで行く。

 少々入り込んだところで停止し、木々の根元付近を観察する。

 そこには人間の手の平ぐらいの背丈のキノコが生えている。


「これが、まるしかく茸です♪」


「なんじゃ、三角形のキノコじゃの。名前からは丸いか、あるいは四角い物を想像しておったのじゃがの」


 ピオちゃんの説明によると、まるしかく茸は幻影を見せる毒キノコで、カサの部分が三角に見えるのは、既に幻影なんだとか。実際は丸い物が多く、時々四角の物があるそうで。

 他に、これとよく似た三角のキノコが存在していて、そちらは食用なので、小人の誰かがそれと間違えてまるしかく茸を採取して幻影病にかかったことがあるんだって。妖精の国に治療するために運ばれてくることがあるらしいよ。


「エム。片っ端から採取するのです」


「レティちゃんも一緒に採取しようよ。遠慮しなくてもいいんだよ?」


「まるしかく茸は、触れても、胞子を吸い込んでも何も起こりませんから。安心して採取しましょう♪」


 さっきの雷撃の恐怖のせいで、レティちゃんは採取におよび腰。

 口に入れなければ変なことは起こらないと説明を聞き、ようやくしぶしぶと採取しだした。


「これだけ離れておるにも関わらず、既に幻影を見せておるのじゃろ? 本当に安全なんじゃろうな?」


「この世の中は、目に見える物よりも目に映らないモノのほうが多いのですよ。三角のキノコの幻影が見えるくらい、どうってことありません。食べてしまうと、それはそれは恐ろしい幻影が見えるようになりますよ♪」


 妖精の常識を熱く語られても、不安が募るだけだよね。

 とりあえず今は三角に見える以外には何も起こらないから問題ないんだって。


「そんな怖い物が、治療に必要なんだ?」


「はい。正確には使わなくても治療はできるのですが、足が木のままだと困りますよね? まるしかく茸を加えることで、木の足が人族の足に見えるようになるんですよ♪」


「なるほどの。治療の全体像が見えてきたのじゃ。木材の義足を生成して、それを本物の足のように見せるのじゃな」


「うふふ。もう少し踏み込んだことをしますよ。期待してください♪」


 どんな治療になるのか想像を膨らませながら、まるしかく茸を採取する。

 これは一人あたり三個のノルマ。


「揃いましたね。採取完了です。元の世界に戻りましょう♪」


 全員が採取を終えると、ピオちゃんを先頭に、再び来た道を飛んで戻る。


「ピオピオ。転移魔法で一気にニーデンの町まで戻らないのですか?」


「はい。フラワーテレポートは次元世界をまたぐことはできません♪ 小人の国や妖精の国は、人族の世界とは次元が異なりますから♪」


「それでは仕方がないのう」


 ジゲンってなんだろう?

 転移魔法を通さない壁で隔てられているってことなのかな?

 マオちゃんは理解しているようで、ジンジャー村には物知りなおばあちゃんとかがいて、教えてもらってたのかな?

 私たちは小人の国、妖精の国と順に飛んで抜け、元の世界に戻ったところでニーデンの町へと転移した。

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