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041話 異次元迷宮、ガラクタ世界 後編

「ここが第二階層!? さっきまでとまったく違う光景が広がっているよ」


「うむ。フィールド型の異次元迷宮は階層ごとにガラッと景色が変わることが多いでのぅ。昔は多くの異次元迷宮に籠ったものじゃった……」


「不思議な地面なのです」


 空の色は、第一階層と同じで緑色。

 そして今、私たちが立っているのは、たぶん・・・、小高い山の上。

 どうして「たぶん」なのか。それは、足元を見ると、ここが液体の上だと分かるから。

 足に伝わるのは、先日の高級宿のふかふかベッドのような柔らかな弾力。

 遠くを見渡しても、地面は青や水色で、所々に白やピンクの模様が入っている。

 いくつも見えている山々は液体が波打つような形をしていて、まるで時間が止まっているかのよう。

 足が水没しないのがとーっても不思議。


「どうじゃ? 先ほどの地図を取り出して宝とやらを探してみぬか?」


「そうだね! えーっと……」


 景色のあまりの変わりように意識を奪われ、すっかり忘れていた。

 魔法収納から宝の地図を取り出して周囲の地形と照合する。

 正面、右、左……。

 地図上で最も特徴的なのは高い三連山で、それを探している。

 そして後ろを見ると、


「あれだ! あれだよ! ほら、あの山が、地図の三連山にそっくりだよ」


「ふむふむ。あの白い模様が、地図では川のように描かれておるのじゃな。それで、矢印の方向はこちらになるのかのぅ……」


「あの葉っぱに乗って進むのです」


 近くには大きな葉っぱが何枚も落ちていて、みんながそれぞれ葉っぱを拾う。

 矢印の方向に向きを調整しながら葉っぱを置いたら、葉っぱに乗り、一斉に長い斜面を滑り下りる。


「爽快だね!」


 風を切り、高速で滑って行く。

 小さい頃に、草原の斜面を滑り下りて遊んだことを思い出す。

 あのときは地面が硬くてお尻が痛かったんだよねー。でも今は地面に弾力があってお尻は痛くない。

 時々弾き上げられて体が宙に浮かぶのも、楽しい。


「快適です♪」


 ピオちゃんは私の肩の上で風と揺れを体感している。

 いつものように飛んでいたら、この楽しさは味わえないもんね。


「わっ!」


 途中、地中から浮かび上がるようにカニの魔物が現れ、そのまま弾き飛ばして魔石に変わった。カニの殻にはいくつも穴があって、中身が入っていないようだった。

 その魔石はレティちゃんが差し出した盾の上に転がり、回収できた。


「あっと言う間だったのです」


「便利な移動手段じゃったのぅ。時短になったのじゃ」


「うん。ここからは矢印に従って進もう」


 楽しい斜面滑りはすぐに終了となり、葉っぱから降りて、地図上の矢印が示す方向へと歩いて進む。

 歩いているというより、地面がよく弾むからスキップしている感じかな。

 地図上の矢印は、宝の在り処に真っ直ぐに引いてあるわけじゃなくって、二か所、経由地がある。


「最初の経由地は、あの石碑なのかなあ?」


 谷間を進んだ先、高台のような場所に四角い石碑のような物を見つけた。

 地図上で経由地に描画されているのは、まさにこの形。


「わざわざあそこを経由しておるのじゃ。少し調べたほうがよさそうじゃの」


 石碑に近づき、変わったことがないか調べる。


「文字が彫ってあるわけでもないし、特別変わった感じはしないね」


「うーむ……。鑑定しても、これはただの石碑じゃの」


「とんだ無駄足だったのです」


 ガツッ!

 ゴゴゴゴ……。


「おお!?」


 レティちゃんが石碑の土台を蹴ると、土台は石碑を載せたまま横にスライドし始めた。


「宝箱が現れたのです」


 土台があった場所には狭い穴が掘ってあって、そこに宝箱が隠されていた。


「開けるよ? いい? せーの……。中身は薬品?」


 率先して宝箱の前に行き、しゃがんでフタを開ける。

 すると宝箱の中には、赤い液体の入ったビンが収納されていた。


「なんと! それは時を戻す薬じゃ。とても貴重な物じゃぞ」


 マオちゃんの鑑定によると、この薬品を振りかけると若返る薬なんだって。


「きっと、おばさんとかに人気の薬品だね」


 年を取ると小ジワやシミが現れて、肌のうるおいもなくなるらしいから、きっと都会のおばさんが欲しがる薬品だよ。都会のおばさんって、超分厚く化粧を塗ってそれらを隠している人が多いからね。


「持ち帰れば、高く売れるのです」


「前にも話したことじゃが、貴重品を入手できたのは、縁があってのことなのじゃ。ゆえに、売るなど考えぬほうがよいのじゃ」


「そうですよー。それを売るなんてとんでもないです。枯れかけたお花に振りかけてあげましょう♪」


「それはピオピオの魔法で代替えが利くのです」


 赤い液体の入ったビンを手に入れ、その場を立ち去ろうとすると、


「お主ら、よく見るのじゃ。ビンに隠れてよく見えなんだが、何か小さなゴミのような物が宝箱の中にまだ残されておるのじゃ」


 マオちゃんの指摘を受け、再び宝箱に向き直った私たち。


「ガラクタなのです……。ポイするのです」


「ちょっ、待ってください! それをポイするなんてとんでもない♪」


 ピオかちゃんが宝箱の中に飛び込んで行き、ガラクタを拾い上げる。


「これは、強化パーツです♪」


「「「強化パーツ?」」」


「ほら、メロディア・キタラにこのように取りつけると……、演奏の効果が上がりました♪」


 強化パーツを取りつけると、メロディア・キタラの形状が変わって装飾も増えた。ボタンも増えていて、本当に強化されているように見える。


「それなら、今後のピオちゃんの活躍に期待だね!」


 これで石碑に未練はなくなり、私たちは再び矢印の方向に進路を修正し、水面のような地形の上を進みだした。


「サーチ……。第二階層に入ってからずっと、妾たちの後をつけるように歩いておる冒険者らしき者が後方に確認できるのじゃが、たまたまかのう?」


「異次元迷宮に冒険者が一組しか入ったらダメっていう規則はないし、他にいてもおかしくはないよね」


 ダウ・ダウの町には冒険者がたくさんいた。だから、他の冒険者に遭遇しても不思議なことではないと思う。


「魔物なのです!」


 レティちゃんの前に、突然地面から飛び跳ねるようにして現れた魔物。

 私の身長ぐらいある大きな魚の骨の魔物、三体。私の肩の高さで浮かんでいる。


「悪霊退散! あれれ?」


 骨の魔物だから死霊系だと思い、すぐに聖水を振りかけた私。

 しかし、骨の魔物は平然としている。


「あれはアバンダンドフィッシュボーン、捨てられた魚の骨じゃ」


「また、ガラクタなのですか? マオリーが修理するのですか?」


「あれはですね、ただのゴミです。意識体ではありませんから修理する必要はありません♪」


 ピオちゃんの見立てでは、ただのゴミ。え? ゴミなの?

 身を取って捨てられた骨なんだね。

 まだ見たことはないけど、海に行けば、あんな大きな魚がいるのかな。


「倒しちゃっていいんだね? 行くよ!」


 ガバッと大きな口を開いた左の一体に向かって踏み出し、レイピアで斜め上から切り込む。


「妾は右のを狙うのじゃ。すべてを焼き尽くす魔王の炎、メガ・ファイア!」


 スティックを更新することで威力の上がった火球。

 その直径はマオちゃんの頭よりも拳一つ分ぐらい大きくなっている。


「うぬぬぬ、生意気な魚なのです」


 真ん中の一体がレティちゃんの盾に噛みついて、さらに暴れるように尾ヒレを大きく振った。

 その尾ヒレが、私と戦っている魚の骨を激しく叩いて前進させ、


「きゃっ!?」


 私は押し出された魚の骨と一緒に地面を転がった。

 その間に噛みつきと、至近距離からのあばら骨による突き刺しを腕と横腹に受け、痛みを堪えながら魚の骨を蹴って間合いを取り、立ち上がる。

 あまりの痛さに一瞬目がくらみ、膝が落ちた。


「立ち塞がる者すべてを薙ぎ払う魔王の刃、メガ・エアスラッシュ! どうじゃ、一体仕留めたのじゃ」


 マオちゃんが私の前に出てスティックを大きく振り下ろし、空気の刃を出現させて、私と戦っていた魚の骨を両断した。

 さっきまでマオちゃんが相手にしていた右の一体は、レティちゃんの挑発に乗って、透明な盾の有効範囲に体当たりを繰り返している。


「エムや。無理はせず、ここは妾に任せて回復に努めるのじゃ」


「うん……」


 痛々しい歩きで後ろに下がり、膝をつく。

 魔法収納からポーションを取り出して、痛たたっ。

 この傷の深さだと、ポーションでは治らないかも……。


「回復促進の曲、奏でまーす♪」


 ポーションを口に含もうとしたところで、ピオちゃんがゆったりとした、心温まるような曲を奏で始めた。

 それを鑑賞する余裕もなく、ポーションを一気飲み。


「あれれ? 傷が、傷が治っていくよ。痛みも引いて、ポーションでは考えられないような治り方だよ」


 アルテルちゃんたちのように上級ポーションを持っていれば演奏がなくても治ったのかもしれない。安物のポーションでここまで治ったのはまさに奇跡。


「えへん。素晴らしい曲でしょう。強化パーツで追加になった曲なんですよ♪」


「うん。とーっても素晴らしい曲だね。ピオちゃんのお陰で、戦列に復帰できるよ」


 私が後ろで休んでいる間にマオちゃんがもう一体仕留めていて、残りはあと一体。

 最後の魚の骨目掛けて勇者技プリムローズ・ブラストを発動し、さらにその闘気の玉を追いかけて走ってレイピアで切りつける。


「浅い!?」


「十分じゃ。有象無象に降り注ぐ魔王の岩、メガ・ロックフォール」


 マオちゃんが岩石を降らせ、魚の骨に止めを刺した。

 私の力って、こんな弱い魔物にも通用しない。

 マオちゃんの魔法にも、アルテルちゃんたちの戦い方にも遠く及ばない。

 今のままで、本当に魔王と戦うことなんてできるのかな……。


「ふぅー。痛ー、たたた、なのじゃ。弱いくせに何回も噛みつきおって。妾が魔王としての力をすべて取り戻しておれば、あのようなザコ、瞬殺だったのじゃ。傷もいとも簡単に治せたのじゃ……」


「マオリー、何ブツブツ言っているのですか? ピオピオの演奏が続いている間に、早くポーションを飲むのです」


 魔石を拾い終えたレティちゃんが、マオちゃんに一言入れてから私に魔石を差し出す。魔石は私が管理しているから「ありがとう」と受け取って魔法収納に入れた。


「おおぅ。ピオピオの演奏は天上のベリベリ神様が奏でる甘美な調べのようじゃ」


「べりべり?」


「む、そうそう、クリム神サマじゃった。ちょっとボケておったのぅ」


「マオリーは、ボケロリババアなのです」


 怪我から完治した私たちは、先に進む。

 流木のようなでっぱりを避け、泡の集合体のような砂利を踏みしめて小山を一つ越えると、二か所目の経由地、三角の花畑に差し掛かった。


「地図上だと三角の花は一本だけなのに、ここにはたくさん生えてるね」


 花の群生地。見渡す限り、三角形の花が風に揺られて並んでいる。


「珍しいお花です♪」


「ピオピオや、突出すると危ないのじゃ」


 ピオちゃんが飛んで行き、花畑の上を舞う。

 認識阻害の魔道具のおかげで人の目からは見えなくなっている。それでも罠が発動するかもしれないし、魔物に気配を察知されるかもしれない。

 一応ここは安全なようで、今のところ危険な事象は何も起きてはいない。起きてからでは遅いけどね。

 ピオちゃんは一本の花の上で止まって、そこで旋回し始めた。


「これですよ、これ。このお花が地図のお花に違いありません♪」


 よく見ると、その花だけ三角形の頂点が真横になっている。他の花は頂点が真下にある。


「おお、そうかもしれぬの」


「たまたま横にねじれただけなのです」


 レティちゃんが言うように、茎がねじれただけかもしれない。

 それでも、何かが起きないか調べる価値はあるよね?

 他の花を踏まないように慎重に近づいて行く。


「向きが違っても、やはり、花は花じゃの。うおっ!?」


「わわ!? どうしよう? マオちゃんが消えちゃったよ」


 鑑定して特別な情報を得ることのできなかったマオちゃんが、花に触れると、一瞬で消えてしまった。

 左右を見回しさらに後ろも見る。

 どこにもいない。


「我らも触れるしかないのです。ふぁっ!?」


「え!?」


「転送でーす♪」


 花に触れると、どこかに転送されたようで、私たちは滝のような壁に囲まれた空間に立っていた。


「あれは迷宮ボス!? いや、この迷宮は第四階層まであると聞いておったから、違うのじゃ……」


 壁を背後に立っているのは、大きな、とても大きな鎧の魔物。

 その剣と盾も、もちろん大きい。

 ただ、欠けたり、ヒビが入っていたりしてボロボロな状態。


「カイワ・セイリーツ♪ ……あら? 意識体なのに効果がありませんよー。意識が暴走しているようで自我を保てていないようです♪」


「どうやらあれは、この迷宮の隠れボスとして君臨しておるようじゃの。名前はBAAじゃ」


 隠れボス!?

 この迷宮にはお金を稼ぎに来ただけだから、ボスと戦うのは遠慮したいよね。

 回れ右して戻……、


 ガツン!


「ひゃっ!」


 びっくりしたあ。

 突然巨大な槍が飛んできて、レティちゃんの透明な盾に当たって大きな音を立てて落ちた。盾技を発動してくれたんだね。


「迷宮のボスって、接近しないと動き出さないのじゃなかったの?」


「あれは隠れボスであって、正式な迷宮ボスではないのじゃ」


「エム。もう戦うしかないのです。武器を手にするのです」


 向き直り、レイピアを構える。

 三人揃って前進し、隠れボスとの戦いが始まった。

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