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004話 帝国諜報員ミリア

 超要約すると、レティちゃんって貴族様で、脱獄犯なんだね!

 可愛らしい容姿をしているのに、中身は怖い人なのかな?


「つまり、お主はその鎧を着て戦ったのは初めてで、兜は顔を隠すためのものじゃと?」


「その通りなのです」


「うむ。お主の似顔絵なぞ、どこにも掲示されてはおらぬ。安心して兜を外すのじゃ。ほれ、はよう外せ」


 マオちゃんがレティちゃんの兜を両手で掴んでグイグイ揺らしている。

 たしかに、町の掲示板などには悪いことをした人の似顔絵が掲示されている。でも、みんな怖い顔だったから、レティちゃんは指名手配にはなっていないよね。


「うごごご……。これを外すと、捕まってしまうのです」


「大丈夫じゃ。それに、このままかぶっておっては戦えぬのであろう? 外すしかないのじゃ。それっ」


 スポン!


 兜を抜き取り、レティちゃんの顔が露わになった。

 あとは鎧だね。素早く動けないなら、胴体部分だけを残せばいいかもしれないね。


「鎧も邪魔なんだよね? たぶん、腕とか足とかの部品をいくつか外せば動きやすくなると思うよ」


「うむ。エムの言う通りなのじゃ」


「……そうするのです」


 観念した様相でレティちゃんは私の提案を受け入れ、腕と足の部品を外し始めた。

 その部品を拾い上げて品定めをするマオちゃん。


「これは高級品じゃのぅ。サイズ自動調整の術式が組み込んである。むむ、自己修復の術式まであるのじゃ」


 鎧の各部が、装着者の体に合わせて大きくなったり小さくなったりするんだって。

 それと、戦いで鎧が傷ついても、時間が経てば直っちゃう優れモノだそうで。


「廊下に飾ってあったものを失敬してきたのです。テキトーなのです」


「で、その盾も一緒に飾ってあったのじゃろう? それなら武器もあったはずじゃ。出さぬのか?」


 身軽になったレティちゃんが、外した部品を魔法収納にしまい終え、傍に置いていた大きな盾を持とうと手を伸ばしたところで、マオちゃんから武器の催促があった。


「師匠と約束しているから出さないのです。剣は人を切るためにあらず、なのです」


「ゴブリンは人ではあるまい?」


「人型だから、同じなのです」


「徹底しておるのぅ。無意識とはいえ、約束を破った過去があるゆえ、厳格に行きたくなるのは仕方のないことなのかのぅ」


「そっかー。レティちゃんは無理をしなくても大丈夫だよ。次はマオちゃんが最初から魔法を撃てば、なんとかなるよ」


 このような流れで、次の魔物を探すことになった。

 森の中を歩き、マオちゃんは探索魔法で魔物を探す傍ら、時々キノコや果物を採取している。


「マオちゃんって、食べられるキノコを見分けられるんだ?」


「妾には古くからの知識があるからの。それに、生まれ故郷の村で両親から多くを教わりもした。分からぬことがあったら、なんでも妾に尋ねるとよい」


 古くからの知識だなんて、マオちゃんも変わったことを言うよね。

 マオちゃんの故郷には、幻の先住民とかの古文書でもあるのかな?


「サーチ……。お、発見したのじゃ。前方、十本ほど木々の先に、ゴブリンが二体おる」


「やってやるのです!」


「二体だよ? やるの?」


「決めるのはリーダーのお主であろう。って、向こうもこちらに気づいたのじゃ」


 レティちゃんは盾を構えて臨戦態勢になっている。

 その前方では、ゴブリン二体が真っ直ぐにこちらに向かって走ってきている。

 もうすぐそこまで迫っていて、逃げることはできない。


「やろう。やるしかないよ」


「うむ。すべてを焼き尽くす魔王の炎、メガ・ファイア!」


「防御力を強化するのです。レインフォースシールド」


 マオちゃんの右手から火球が飛び出し、レティちゃんの全身が輝いた。

 私はレティちゃんの斜め後ろで上体をやや低く構え、包丁を強く握って飛び出す機会を窺う。


「うむ。命中したのじゃ」


 火球が腹に命中し、一体の走りが止まった。両腕で腹を庇うようにして腰を折っている。

 これで接近してくるのは一体だけになった。


「掛かってきやがれなのです!」


「私も参戦するよ! えい!」


 レティちゃんは、さっきみたいに転ぶこともなくしっかりとこん棒を受け止め、私は前に出てゴブリンの側面に包丁を刺す。

 直後、ゴブリンの意識が私に向き、こん棒が上段から振り下ろされる。


「貴様の相手は我なのです!」


 レティちゃんの盾がその間に割り込み、こん棒を弾き返した。


「レティシアよ、見違えるようになったのう。凍てつく魔王の矢、メガ・アイシクルアロー!」


「ふん。これしきの魔物、我の敵ではないのです」


 こん棒を弾かれて大きな隙ができているゴブリンの頭に、マオちゃんの魔法、氷の矢が刺さり、このゴブリンは崩れ落ちて魔石に変わった。


「あと一体だよ」


 先ほど火球を喰らって痛みを堪えていた一体が遅れて参戦し、こん棒をやはり上段から振り下ろす。


「同じ手は、我の盾技の前では通用しないのです」


「キュ、キッキー! キュ、キッキー!」


 ゴブリンは盾で弾かれたこん棒をその勢いのまま高く掲げると、前後に振って何かを叫んだ。


「む? サーチ。……ま、まずいのじゃ。こやつの仲間が五体、こちらに向かってくるのじゃ」


「もしかして、ゴブリンが仲間を呼んだの?」


 まさか、魔物って仲間を呼ぶの? 知らなかったよ。


「その通りじゃ。逃げんと五体はまずいのじゃ」


「え? 逃げるのですか? 弱小魔物ごときに……」


「うん、逃げよう!」


「わ、置いて行くな、なのです!」


 魔石を拾い、後方へと走りだす。

 木にぶつかったり木の根で転んだりしないよう、気をつけながら走る。

 レティちゃんとマオちゃんがはぐれていないことも確認しながら、走る、走る。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ずいぶん遠くに来たと思う。

 これだけ走れば、もういいよね?

 膝に手を当て、肩で息をする。


「ふぅー。こんなに走ったのは、はぁ、はぁ、何百年ぶりかのぅ……」


「師匠の訓練よりもきつかったのです……」


「すぅー、はぁー……。魔物って、仲間を呼ぶんだね」


 深呼吸して息を整え、気になっていたことを確認した。


「そうじゃ。仲間を呼ぶ者もおる。そもそもゴブリンが一体で歩いておること自体がまれなのじゃ」


「まとめて食べないと、ゴブリンは物足りないのです」


「え? レティちゃんの家ではゴブリンを食べるの?」


 貴族様って平民とは違う物を食べているって聞いたことがあるよ。まさかそれが魔物だったの?

 で、仕留めたら魔石に変わっちゃうから、魔石を食べるの? だからさっき……?


「およ? 今のはただの独り言なのです。気にしたらいけないのです」


「とにかくじゃ。妾たちだけでは、徒党を組んだ魔物には対処できぬ。ゆえに、もう一人雇ったらどうなのじゃ?」


「そっかー。町に帰ったら、募集をかけるね。でもまだ町に帰るには早すぎるから、薬草摘みでもしようか。魔物狩りは仲間が増えてから再開だね」


 私が勇者の技を発動できていたら、もしかしたら戦えたのかもしれない。

 でも、あの晩以来、勇者の技を発動することはできない。あのときは無意識に発動していたから、感覚がいまいち分からないんだよ。


 今日の魔物狩りはこれで終了とし、森から出て草原で薬草探しをすることにした。

 昨日まで通っていた草原に向かおうとすると。


「あの谷間に、薬草が生えておるのじゃ」


 私が向かう先とは反対の方向を指差すマオちゃん。


「そうなの? マオちゃんって、この辺の薬草について詳しいんだ?」


「む? 詳しくはないのじゃ。魔法で見つけただけなのじゃ」


 山と山の間の谷間。

 その南西の部分に林があり、それを越えると草原が広がっていた。


「ここには誰も採取に来ていないのかな? 薬草がたくさん生えているよ」


「エムや。そんなチマチマしたものを採取してもラチが明かぬじゃろう。ほれ、あの辺りにまとまって生えておるぞ」


 マオちゃんが草刈り鎌を向けた先では、薬草が群生している。

 これも魔法で見つけたんだって。


「すごーい」


 それからしばらく薬草を摘み、少し早いけど町へと帰った。

 もちろん、仲間の募集を忘れずにかけておいたよ。

 翌日も薬草を摘み、夕方に冒険者ギルドに納品に行くと。


「エムさん、募集に応募されている方がお待ちですよ。実績のないFランクのパーティーに三人目の応募者が来るのは奇跡です。めぐり逢いを大切にしてくださいね」


 私のような実績のない人が募集すると、ひと月待っても誰も来ないことがよくあるらしい。アメリアさん的には、レティちゃんも募集に応募した扱いになっている。実際は、倒れていたところに声をかけだだけなんだよね。

 前回は三日で。今回は昨日の納品時に募集をかけて実質一日で応募があった。

 マオちゃん、レティちゃんには感謝だね。


「私の仲間の募集に応募してくれてありがとう。私はエムだよ」


 右後方のロビーに行き、テーブルに座っている女の子に挨拶をする。


「私はミリア。よろしく頼む」


 ミリアちゃんはアタッカーで、武器はハリセンという物らしい。

 腰にぶらさげている、白いやつだね。

 ショートソードと同じくらいの長さの紙の束?

 ミリアちゃんが言うには、特別なアクセサリ屋で、厚紙の表面を鉄のように硬くする術式を組み込んでもらっているそうで。武器なのに、武器屋ではできないんだって。

 あと、右手中指に嵌めている青い指輪、高そうに見えるね。


 今日はもう出掛ける時間ではないから、私たちは宿屋へと帰ることにした。

 その食堂でミリアちゃんの歓迎会を開き、四人が泊まれる広さの部屋に部屋替えして夜を過ごした。


  ★  ★  ★


 私はミリア。

 ベーグ帝国の諜報員として、カレア王国に派遣された。

 ベーグ帝国とカレア王国とは隣接関係にない。それなのにベーグ帝国は私の他にも諜報員を何人も送り込んでいる。

 私は下っ端なので、実際にカレア王国内をいろいろ見て回り、見たことや感じたことを、極秘に設置されている諜報機関支部に報告するのが任務だ。

 つまり、観察対象は指定されていない。大雑把にカレア王国の住民の動向を調査すればいいことになっている。

 はっきり言って、大雑把すぎて私は困っている。

 もちろん、いずれ特別な任務が出されることもあると聞いているが、それがいつになるのやら、予定は未定だしなー。


「いくつか町を見てきたけど、どこもそう変わらないよな。私は、一体何を調べればいいんだよ?」


 何か面白いことが起きていないか、またはスクープになるような事件に出くわさないか期待しながらカレア王国内の町をいくつか彷徨った。その流れで、行くあてもなく、ぶらりと立ち寄ったベリポークの町。

 そして、なんとなく冒険者ギルドに寄ってみた。


「ぶっ!? 『魔王を倒す仲間を募集』? これだ! 私が求めていたものは!」


 掲示板の募集の紙を見て、盛大に吹いた。

 魔王を倒すとは、カレア王国には大それたことを公言する奴がいるんだな。

 これは諜報員としてスルーしてはいけない案件だぞ。きっちりと調査しないといけないだろう。

 すぐに受付に参加申請をし、指定のテーブルで待つことにした。


「私の仲間の募集に応募してくれてありがとう。私はエムだよ」


「私はミリア。よろしく頼む」


 しばらくして、雇い主が現れた。

 向こうが立ったままだ。私も立ち、握手をする。

 それで目に入ったハリセンに話題が移り、少々話し込むことに。

 こいつ、面白い奴だな。気に入ったぞ。

 って、この子が、魔王を?


挿絵(By みてみん)


 魔族の国ジャジャムは、ベーグ帝国の北にある。

 両国は敵対関係にあり、長年戦ってきた。

 軍事国家のベーグ帝国でも手を焼く魔族の国。

 その王を倒すと公言しているエム。

 私と同い年に見えるが、大丈夫なのか?

 一抹の不安を抱きつつも、宿屋で歓迎会が開催された。


「今日はね、ミリアちゃんの歓迎会だから、思う存分食べてね。支払いは全部私が持つから。でも、予算は金貨一枚だからね」


 思う存分は金貨一枚以内なのか?


「ぐぬぅ。妾は参加費を徴収されたのじゃ。新人だけが無料なのじゃぞ。心して食うのじゃ」


「我も同じなのです。でもですね、銀貨とか、細かいことを計算するのはめんどくさいですから、今後、資金は全部エムが持っていればいいのです」


「え? 私が管理するの?」


「うむ。それがよかろう」


 なるほど。パーティー資金はリーダーが一括管理するのか。悪くはないな。


「あー。紹介するね。この子は魔法使いのマオちゃんで、こっちは盾役のレティちゃんだよ」


「私はミリア。前衛を担当するが、中衛からの飛び出しも得意とするところだ」


 腰にはハリセンとダガー、それに吹き矢の筒があるから、見れば察しがつくだろう。

 お、料理が運ばれてきた。

 宿屋で料理を食べるのは初めてだぞ。


「ほー。うめーな、これ」


 いつも食事は露店での買い食いで済ませていたからな。

 フォークを使って食べるのはずいぶん久しぶりな気がするぞ。


「そうですか? 品数も味付けも物足りないのです」


「レティシア、贅沢を言うでない。お主は貴ぞ……、ごほっ、まあ、いずれにしても妾の故郷の晩飯よりも豪勢なのは明らかなのじゃ」


「そうだよ指名手……、げほっ、湿っぽい話はダメだよね」


「はあ? 意味が分かんないぞ?」


「あはははは……」


 よく分からない話が時々飛び出してはいるけれど、このような和気あいあいとした温もりのあるひと時を過ごすのは何年振りだろう?


 幼くして母を亡くし、身寄りのなくなった私は孤児院に入れられた。父の顔は見た覚えすらない。

 孤児院では、みんなしけたツラをして、笑い声なんて滅多に聞かなかった。

 それから数年して、帝国諜報機関から孤児受け入れの打診が来て、本人の意思に関わらず、健康な孤児は帝国諜報機関に入れられた。

 そこで私は諜報員としての教育・訓練を受けた。

 諜報機関では、笑みなど見たことがない。

 指示に従い一斉に食事を始め、指定の時間内に素早く食べ終える。

 食べ終えてからも訓練だ。

 そして、疲れ果てて寝るだけの毎日。


「あれ? ミリアちゃんどうしたの? 涙が出ているよ?」


 母と過ごした昔に戻ったような気分になって、自然と涙が出ていた。

 あの頃が懐かしい……。

 すぐに右腕で拭き取り、何もなかったことにする。


「目に蚊が入っただけだ」


「それは大変なのです。目に小鳥がぶつかると、物凄く痛いのです」


「痛いのは、お主の話じゃ。目に鳥が入るなど、お主の目はどれだけデカイのじゃ」


「普通、草原にでも行かないと、蚊も入らないよねー」


 本当によく分からない話が多いなあ。でも、私はこの三人が気に入った。

 この冒険者たちに紛れて諜報任務を続行する。いや、この三人を徹底調査する。

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