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038話 感謝の食事会

 巨大アヒルを倒したら、次は人攫いの集団。

 今日は朝から散々な目に遭ったよ。

 そのどちらも、アルテルちゃんが助けてくれたから乗り越えることができたんだ。

 レティちゃんが言うように、きちんとお礼をしないといけないよね。


「三人部屋、空いてるかな?」


「はい。空きがございます」


 受付をしているのは、すらっとした姿勢の紳士。

 いつもの宿屋のような、がさつな女将とは全然違う。


「それなら、一泊でお願い」


「三名様ご一泊、承りました。お部屋の鍵はこちらになります。夕食は、そちらのレストランをぜひご利用ください」


 うわっ、高い!

 一泊、金貨八枚もするんだ?

 レティちゃんがニヤニヤしながらこっちを見ているよ。いつも高級宿を望んでいるからよっぽど嬉しいんだね。今はレティちゃんへの感謝の気持ちもあるから、ここは奮発しちゃうよ。

 金貨を支払い、ルームキーを受け取ってからレストランへと向かう。

 そこでは、ちょうど六人が座れるテーブルが空いていた。


「今日はね、アルテルちゃんたちの助力に感謝する会なんだよ。だから全部私が支払うから、遠慮なくなんでも頼んでね」


「皆さんが無事でなによりでした」


「無事生還できた祝いなのじゃ」


「マオリーは死ぬつもりだったのですか?」


 縛られたままなのに魔物が現れたし、本当に死ぬ覚悟だったよ。


「賊ごときに後れを取った妾は、恥ずかしさで死にそうじゃ……」


「そうだよねー。いきなり袋をかぶせられて、訳が分からないうちに賊に捕まっていたんだよねー」


 あのときの、道案内を頼んできた少年もグルだったのかな。

 今考えると、目がよく見えないとか、都合が良すぎたよ。


「とにかくじゃ。知らない男に声をかけられたら、裏路地に行ってはいけないと、身をもって学んだのじゃ」


 うん、知らない人と狭い通りに行ったらダメ。

 あんな怖い目に遭ったんだから、もう二度と同じ過ちは繰り返さないよ。


「ええ。今後はぜひ、その教訓を活かしてください」


「凶変魔物に立ち向かわれた皆様は、勇敢でしたわ。賊など、蟻みたいなものでしてよ。大きな隙さえ見せなければ、賊の手に落ちることなどありませんから」


 魔法剣士のラブロスちゃんは、ずばっと剣を振るだけで四人の賊を倒しちゃったもんね。だから、蟻なんだよね。


「そうだ。レティシア殿は、この私でも一目置く盾技を使う。賊などとは比べ物にもならないだろう」


「捕まったのはエムとマオリーなのです。我は追跡してきた賊を逆に捕まえてやったのです」


「そうだったのですか。それは災難でしたね」


 え、そうだったの?

 レティちゃんは賊を撃退してたんだね。


「人族は、妖精族に飽き足らず、同族の人族まで攫っています。最悪です♪」


 ポケットの中から顔だけ出して愚痴を言うピオちゃん。珍しいね。

 花があれば何も食べなくていいから、ピオちゃんの料理はないよ。


「妖精はみんな仲良しなんだね」


「お花を眺めてお話をしていれば、それだけで幸せになれます♪ 私は人族の心の黒さを垣間見ました……」


「人族には自称勇者のようなお人好しもいるのです。人族は皆、自己を中心とした善と悪を持っているのです。ですから一概に論じるのは早計なのです」


「レティシアは達観しておるのぅ」


 みんな、いろいろ考えることがあるんだね。

 レティちゃんもマオちゃんみたく、時々おじいちゃんやおばあちゃんみたいなことを言うんだよね。やや上から目線な感じもしなくはない。

 貴族様って、小さい頃から世の中のことを深く学んでいるのかもしれないね。


「改めて、アルテルちゃん、ラブロスちゃん、デクシアちゃん。今日は救助に来てくれてありがとう。もちろん、ピオちゃんとレティちゃんもだよ」


 果汁の入ったグラスが運ばれてきたので、グラスを掲げて、改めて開会の宣言をしたよ。

 村にいたときも、お酒が注がれたら大人たちが騒ぎ始めたからね。

 今、お酒を注文しなかったのは、全員普段からお酒を飲む習慣がないからで、その中でも特徴的なのがレティちゃんとデクシアちゃん。

 レティちゃんは、お酒に酔って寝ると寝首を掻かれる伝承があるから絶対に飲まないそうで。デクシアちゃんのほうは、お酒は筋肉の敵だから飲まないんだって。


「そうじゃ。勇者一行には感謝するのじゃ。ピオピオとレティシアにもじゃ」


「きっと、皆さんを助けることが、私の宿命だったのです。これまで多くの村人に援助をしてきましたが、何か物足りない感じがしていました。今回、賊を捕らえることで、心の奥に引っかかっていた物が取れたような気がします」


 アルテルちゃんは、どこまで行っても謙虚だねー。

 あんまり多くの村人に援助しちゃうと、私も勇者だから援助しなくちゃいけなくなるよね。だから、そこだけは真の意味で遠慮してもらいたいよ。

 小皿の料理を口にし、グラスを傾けて果汁をガブリ……。

 あれ?

 他のみんな、めっちゃ上品に食べてない?

 私だけ、村娘丸出しだよ!

 マオちゃん、レティちゃん。いつものように食べよ?

 アルテルちゃんたちは高級料理を食べ慣れているようだから、これから私はその真似をしようと決心したよ。

 うぅ……、意外と難しいね。


「こちらのサラダは、特産のラディッシュをシェフがこだわりの塩加減で浅漬けにしたものでございます。ハダザメの卵とご一緒にどうぞ」


 コース料理って初めて頼んだよ。一品ごとにどんな料理か説明してくれるんだね。

 さっきのスープもシェフ独自の香辛料を使っているって言ってたし、女将の手料理とは作り込みが違うんだろうね。


「こちらはアラカルトよりご注文になられました、山の幸をふんだんに盛り付けたサラダになります」


「たくさん頼んであるのです。感謝の気持ちが詰まっていますから、残さず食べやがれなのです」


 コース料理の他に、一品料理をいくつも注文してあるんだよ。

 それなら最初からいつものように、全部単品で頼めばいいって思ったよ。でもね、今日は救助に来てくれたレティちゃんへの感謝も含んでいるから、その言葉はぐっと抑えて飲み込んだ。

 運ばれてくるどの皿も、見た目が綺麗で、味もいい。そして値段がバカ高い。


「うむ。我が求めていたのは、この味、この香りなのです!」


「レティシアは贅沢に育ちすぎなのじゃ」


 みんなが楽しく話しながら食事を進めている。

 その間に、私は人攫いに捕まっていた当時のことを思い出す。

 賊の前に突然現れた魔物。あれは父さんと母さんの仇の魔物、使い魔。

 知能が高く、魔族の中でも高位な者が使役していると聞いていた……。

 それがどうしてこのような町に現れたの?

 魔王がこの近くまで侵略してきているの?

 使い魔は、私の目の前で二つに裂かれたから、もう、仇を討ったことになる……?

 いや、違うよ。

 きっと、使い魔はたくさんいる。

 魔王が人族の町を侵略しようとしている。

 だから勇者の私が魔王を倒さないといけない。


「エムさん。どうかなされたのですか? 難しい顔をされていますよ」


「ん? な、なんでもないよ。ほら、ばばーんと食べるよ!」


「エムは上品な振る舞いを学ぶ必要がありそうじゃのぅ」


 ずっと考え事をしていたから、アルテルちゃんが心配してくれた。

 私が身動きできずに床に転がっていたとき、使い魔を両断したのはこの人たち。

 私は、もっと強くならないといけない。勇者が賊に捕まるなんてあってはならない。


「皆さんはどうしてフロリカ村にいらしたのですか? あの周辺には普段は魔物もおらず、冒険者が立ち寄るような場所ではないのですが」


 今度は話題を変えてくれた。

 こういう気配りもできて、アルテルちゃんたちのほうが、本当の勇者みたいだよ。世間では勇者って呼ばれているし、それはまっとうなことだと思うよ。

 私はアルテルちゃんを超えないといけない。


「巨大アヒルが現れた村? あそこはたまたま通りかかっただけだよ」


「そうなのです。我らは王都に向かっていたのです。王都でクソ女王に国民の窮状を訴えてやろうとしてたのです」


 ここまで聞いて、アルテルちゃんの目が丸くなった。


「まあ、そのようなお考えで。女王陛下に苦言を奏上されるのは、今一度考え直される方がよろしいかと存じますよ」


「王都クレッセンには女王陛下はおられませんわ。女王陛下は新都セレーネに居城をお築きになられましたもの」


「新都セレーネは、女王陛下が一から造られた町だ」


 アルテルちゃん、ラブロスちゃん、デクシアちゃんの順に説明してくれた。

 新都セレーネ?

 知らないよ。


「それってどこにあるの?」


「ここからでしたら、まずは北に真っ直ぐ行って、そこから東に向かうことになりますわ」


「東なんだ!?」


 私たちは北西に向かっていたから、どんどん遠ざかっていたんだね。


挿絵(By みてみん)


「どちらにしましても、女王陛下に苦言を奏上して機嫌を損ねますと、投獄では済まなくなります。今一度考え直されますよう、強く願います」


「それでも、誰かが言わないと直らぬじゃろ? 妾たちは多くの村人の惨状を見てきたのじゃ。クロワセル杯、まずはそれを止めさせるのじゃ」


「それを止めさせたところで、大勢に影響はあるまい」


 口数の少ないデクシアちゃん。

 巨大アヒルのときは大盾と槍で頑張っていたね。


「いずれ時が来れば、この国は良くなります……。今はまだ、その時ではないのです」


 すぐに良くするのって、難しいことだよね。

 どんなことでも時間がかかる。

 村人に人気のあるアルテルちゃんもいろいろ考えているようだから安心したよ。


 その後も、コースの品と一品料理の品が交互に運ばれ、果汁飲料に至っては全種類を堪能した。

 恐怖体験から解き放たれた安心感が果汁を求めて止まなくて、飲みすぎちゃった。お腹タプタプ。


「ふー、もう食べられないのじゃ」


 お腹を摩るマオちゃん。こっちは食べるのを止められなかったみたい。

 さっきまでの上品な振る舞いが台無しだよ。


「これほど多くのの料理を口にしたのは初めてです」


「妾は、このような贅沢、長い人生で初めてじゃった」


「おいしかったのです」


 アルテルちゃんとマオちゃんは食べすぎて青い顔に。

 私は、支払いで真っ青な顔に……。

 レティちゃんだけ満足気な顔をしているよ。


「また、明日会いましょう」


「うん、またね~」


 アルテルちゃんたちも、明日、衛兵の現場調査に協力する。

 私たちとは別の階の部屋のようなので、階段で別れた。


「明日は、宿を替えようね」


 部屋に入ってレティちゃんがこの宿屋を気に入る前に釘を刺しておいたよ。

 現場調査が終われば、またどこかに泊まらないといけないからね。

 こんな高い宿に連泊はできないよ。


「このままでいいのです」


「エムにも考えがあるのじゃろ。レティシアよ。一泊だけで満足するのじゃ」


 ふかふかなベッドで就寝。

 最初で最後の高級宿を存分に……、Zzz……。


 翌朝。

 衛兵の詰め所に行き、聞き取りから始まり、続けて現場調査につき合う。

 聞いた話では、賊に尋問した結果、攫った少女を買い取っている貴族様の名前が明らかになったみたいで、何人かの貴族様がやり玉にあがっているんだとか。

 でも、この町の衛兵には貴族様を捕まえる権限はなく、対象地域の領主様や女王様に伺いを立てることになるそうで。

 それと、私とマオちゃんをだました少年も、捕まったよ。

 骨董品店に戻ってきたところを、衛兵が捕縛したんだって。

 いろいろ聞いたり尋ねられたり。

 解放されたのは夕方。


「そうだ! 今日の宿は、聖クリム神国のダウ・ダウの町に行って、そこで探そうよ」


「ミリアと別れた町に戻るのですか?」


「あの町には冒険者がたくさんいて、宿屋もたくさんあったよ。それでね、明日はちょっとだけお金を稼ぎに行こうと思うんだ」


 私が言うのもなんだけど、いい考えだよ!

 昨日はお金を使い過ぎたから、旅を続けるには稼がないといけない。

 ダウ・ダウの町の周辺には異次元迷宮が数多くあるって聞いてたから、お金を稼ぐにはもってこいだよ。宿代もここより安く済むし、いいこと尽くめだね。


「ダウ・ダウのう。ピオピオや。この町に戻れるようにしてから、妾たちを運んでくれるかの?」


「妖精様は、そのようなことができるのですか」


「内緒です♪」


 ピオちゃんのことは昨日の荷馬車の中で紹介済み。でも、どんなことができるのかは伝えてはいない。


「お主らもダウ・ダウに行くかの? 運賃は無料じゃ」


「聖クリム神国……。とても興味深いですが、遠慮させてください。私たちには、この国でまだしないといけないことがありますから」


「そっかー。じゃあここでお別れだね。またどこかで会ったらよろしくね」


「ええ。運命の導きで、再びお会いすることもあるでしょう」


「さらばなのです」


 アルテルちゃんたちと別れ、町の外に出た私たちは、町の外壁の傍に花を植え、聖クリム神国のダウ・ダウの町に転移した。

なっしんぐ☆です。

三日ほど深夜0時に投稿してみましたが、この場合予約は前日限定になりますから(0時につき当日予約は間に合いません)、へっぽこな私は少々混乱しました。

今後0時は使いません。

さて、今日は投稿日でしたっけ? 混乱継続中……。

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