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032話 クロワセル王国のワンコ 後編

 足の骨を折って入院したおばあちゃんは、五日後に退院する予定。

 この町の病院には高位の回復魔法使いがいるから、短期間で治せるみたい。

 それで、おばあちゃんが入院している間、誰もワンコの世話をする人がいないから、成り行きで私たちが面倒をみることになった。


「今日も犬の散歩なのですか?」


「ピオピオや。少し、こやつらを脅してくれぬかのぅ。外に出たらゆっくり歩けと。もし走ったら、今後のエサは半分に減らすとな」


「はーい。バッチリ脅しちゃいまーす♪」


 おばあちゃんが入院して二日目の今日も、エサやりや散歩など、ワンコの世話を精力的に行っている。

 今、おばあちゃんの家の中には誰もいないから、ピオちゃんはポケットから出て肩の辺りに浮かんでいて、ゆっくりと腰ぐらいの位置まで下りてからワンコに話しかける。


「そこの犬たち、よく聞いてください。今日から走ることを禁止します♪」


「ワワン! ワワン!」


「走るのは俺の自由ですって? はい、そんなことを言うあなたはエサ抜きです♪」


「キュイーン」


 中型のワンコは、しっぽを股間に入れて急におとなしくなった。

 その隣のワンコはひっくり返っておなかを見せている。

 知らない人が見たら、ピオちゃんとワンコが直接会話しているように思うかも。実際は間に念波を飛ばして意思疎通しているんだよね。

 おとなしくなったワンコを外に連れ出し、大通りを歩いて中央広場に行く。


「なんかさー、私たちもワンコに芸を仕込めないかなあ?」


「周り中で犬を訓練しておるから、真似をすればできるのではないかの?」


 今日も中央広場はワンコと戯れる人でいっぱい。

 おばあちゃんのワンコはお手やおすわりなんかはできている。

 でも、周辺では木片を投げて取りに行かせたり、ジャンプして受け止めさせたり、動きのある芸を覚えさせている。


「真似だとつまらないのです。ここにはピオピオがいるのです。もっと変わったことを仕込めばいいのです」


「そっかー。やりたいことを直接伝えれば、あとはその通りに動いてもらうだけだね」


「変わった芸のぅ……」


 ワンコたちの顔を眺めながら、三人であーでもない、こーでもないと芸について話し合う。

 そして、それとなく決まった芸を、ポケットに隠れているピオちゃんを経由してワンコたちに伝える。


「うまく伝わったかな?」


 首を傾げているワンコがいて、ちょっと不安。


「芸を始めるのです」


 ワンコたちが、その横腹を互いに接するように横一列に並びだす。

 いろいろな大きさのワンコがいるので小型、中型、大型、中型、小型の順に並ぶように指示を出してある。

 余る犬がいて最初は戸惑っていたけれど、私がそのワンコの前で屈むと、ポケットの中からピオちゃんがうまく誘導して、ワンコたちは綺麗に並んだ。真ん中が大型のワンコだね。

 上手にワンコの階段が完成した。


「君が階段を上るワンコだね。じゃあ、しゅっぱーつ!」


 今度は、ワンコの階段を小型のワンコが上り……。

 あれれ? 前足をかけて止まっちゃったよ。


「ピオちゃーん、このワンコ、高い所を怖がっているのかな?」


 階段を上がる役割のワンコの傍に行き、ピオちゃんが念波を届けやすいようにする。


「クゥーン、クゥン、クゥーン」


「えっとですね。高い所が怖いのはもちろんですが、背中が揺れているのがもっと怖いとのことです♪」


「貴様ら、根性が足りないのです。小さな犬が背中に上るぐらいでふらついてはいけないのです」


「はーい。そのように伝えました♪」


 階段役のワンコたちが一斉に尻尾を股間に入れた。でも、ピオちゃんが伝えるよりもちょっとだけ早かった気がする。レティちゃんの声が怖かったのかな?

 気のせいか、階段役のワンコたちの足に力が入っている。これならいけるね!


「はい、上る役のワンちゃん、もう一回やるよー」


 私が手で行けと促すと、小型のワンコはやや恐れを顔ににじませながら、階段をゆっくり、ゆっくりと上り、そして向こう側へと下りる。


「わお、できたのです。貴様ら、やればできるではないですか」


「よくできたのじゃ」


 マオちゃんが順番にワンコの頭を撫でていく。

 私も一緒に撫でて……。


「あらまあ、素晴らしいザマス。このような斬新な芸は、初めて見たザマス。犬でできた階段、それは天国に続く道。ああ、なんて美しいザマスの……」


 昨日も会った、三角メガネのおばさんが大型のワンコと一緒にやって来て大きな手振りを交えて感想を言う。


「ハッハッハッ」


「バウ。バウーン」


 その傍らで、役割を終えた階段係のワンコたちが解散し、おばさんのワンコとコミュニケーションをとっている。

 おしりの匂いを嗅ぐアレだね。


「エムさん。このおばさんの家の向かいで飼われている犬が、虐待を受けているそうですよ♪」


「え、虐待!?」


「どうしたザマスか?」


 突然大きな声を出したから、三角メガネのおばさんが話を止めてこちらを見た。今までずっと感想を述べていたんだよ。


「おばさんって昨日も来てたよね。ここの近くに住んでるの?」


「わたくしの屋敷ザマスか? 東大通りの……」


「エムさん。聞かなくても犬が知っているそうですよ♪」


「何か言ったザマスか?」


 怪訝な顔でこちらを見るおばさん。


「ううん、こっちの話。ちょっと用事ができたから、今日はこれで失礼するね」


「エム、どこに行くのじゃ?」


 ピオちゃんは小さな声で話していたからマオちゃんとレティちゃんには聞こえていなかった。

 それで、「こっちだよ、行こう」と促すと、「まだ散歩するのですか」と不平を言いながらもついてきてくれた。


「さーて、ピオちゃん。ワンコに先導してもらえるよう、伝えてよ」


「はーい。伝えまーす♪」


 急にワンコが歩速を上げ、ロープが引っ張られる。

 ちょっと、そんなに急がないでー!

 東大通りを進むと、そこは貴族街のようで、庭つきの屋敷が並んでいる。


「バウ、バウッ」


 とある屋敷の前で停止し、吠えたワンコ。

 庭は狭くて雑草が生い茂り、屋敷は少々傷んでいる。


「ここって本当に誰か住んでいるの?」


「空き家のようじゃの」


「バウバウッ」


「この家で間違いないそうです♪」


「すぐに突入するのです」


 ここに来るまでの間に、マオちゃんたちには事情を説明しておいた。

 それで、レティちゃんが正義感を前面に出してワンコの救出を主張している。

 柵のような門の鍵は閉まっていなくて、私たちはそこから庭に入る。

 ワンコたちのロープを近くの木に結び付け、屋敷の中を窺う。


「ワワワワン!」


「こら! うるせー! 黙れ!」


「ワワワワワン、ワン、ウー、ワン、ワン」


 屋敷の中から聞こえてきたワンコの鳴き声と女性の怒鳴り声。その途中でドカッと音がして、直後「キャイーン」と叫ぶ声が聞こえた。


「ったく、うぜーんだよ」


 イライラした感じの女性の声。虐待の犯人かな?


「空き家に誰かが住み着いておるのか?」


「不審者は成敗するのです」


「危ない人がいるのなら、正面から入ると危険だね。それなら、妖精の姿になって窓から入ろう。ピオちゃん、お願い」


 私たちは妖精の姿となって浮かび上がり、屋敷側面の二階の窓から屋敷の中へと入る。


「ワワワワン!」


「うぜーって言ってんだろ!」


「キャフン!」


「急ごう!」


 一階からワンコの悲鳴が聞こえた。虐待に違いない。

 急ぎ、階段の上を飛んで下りて行く。


「うわ、ガリガリの犬なのです」


「体毛が抜けてひどい状態じゃのぅ」


 あばら骨が浮き出るような横腹。

 ボサボサの体毛が所々抜け落ち、ハゲている。


「ワワワワン!」

『ご主人、侵入者だワン!』


「ったく、うる……。はっ!? 幻覚なのか?」


 まだ若さの残る女性が奥から出てきて、ワンコを蹴ろうとしたところで、宙に浮く私たちに気づいてその足が止まった。


「わ、私たちはワンコの妖精だよ!」


「今、貴様は犬を蹴ろうとしていたのです。そのようなことをすれば貴様は地獄に堕ちるのです」


「ほえ? 私は夢を見ているのか?」


 目を擦る女性。


「お主はこの屋敷に無断で居座っておるのじゃろう? 犬を解放して今すぐここを立ち去るがよい」


「ちょっと待ってくれ。ここは私の家だ。出て行けと言われても行き場がない」


 えー! ここって空き家じゃなかったの?

 そしてその後に続けられた女性の言葉に、同情の念が湧いた。


 この女性の旦那は下級の貴族様で、三年前に若くして他界した。

 子供はおらず、平民上がりの女性に貴族位は継承されず、領地の経営権をはく奪され、領地は売却処分となった。

 一時的には土地を売った金で生活ができていた。しかし収入が途絶えたままで、やがて金は底をつく。

 使用人を全員解雇し、庭も屋敷も荒れ放題。

 明日の食料にも困る生活を続けている。


「それなら、なぜ犬を飼っておるのじゃ? 犬にも相応の金がかかろう」


「ビターは、私の子供も同然。旦那と一緒に育てた、私の息子」


 子供って言っても、全然ワンコの世話をしてないよね?


「子供同然の犬を蹴るのは、なぜですか?」


「お前ら、うざ……、いや、ビターが吠えるとイラッとするからに決まっているだろ。吠えるなと言っても、一向に言うことを聞かない。こんな聞き分けのない子供には理解するまでしつけてやっているのさ」


「はぁ……。しつけるにしても蹴ったらダメだよ」


 大事な子供なんだし、蹴ったらダメだよね。


「エムや。この女性は少々病んでおるようじゃ。それでの、この犬を三日ほど預かってみてはどうかの。さすれば病が少しは快方に向かうやもしれぬぞ」


 まだおばあちゃんが退院するまでに日があるし、ケージも空いていた。

 ワンコを連れ出すことで、この女性の病気が良くなって虐待をしなくなるのなら、やるしかない。


「うん。お姉さん、私たちが三日ほどワンコを預かるよ」


「その間にゆっくり考え、頭を冷やすのじゃ」


「そ、そんな、私の大事なビターを……」


 女性は手を前方に伸ばして彷徨わせる。


「大事なら蹴るな、なのです。地獄に堕とすのです」


「お金がないなら、冒険者になることも考えてよ。薬草を摘むだけなら一人でもできるし」


「この町には店が多い。そこで働くとよいのじゃ」


「元とはいえ、貴族だった私が、そのようなはしたないことを……」


 さっき昔は平民で、貴族様に嫁いだって言ってたのに。

 一度貴族様になってしまうと、体裁とかいろいろあるのかな?


「そんなことを考えているから病むのです。金がないなら働け、なのです」


「それじゃあ、ビターちゃんを預かって行くねー。はい、これ、喫緊の生活資金」


 女性に金貨を一枚ずつ三回、計三枚を渡し、ビターちゃんの首輪にロープをつけて連れ出そうと試みる。


「ワオワオーン!」

『ご、ご主じーん!』


 ビターちゃんはこの女性を主人だと認識していて、離ればなれになることを嫌がって進もうとしない。


「蹴られたり、エサがもらえなくても、それでもあれがお主の主人なのじゃな?」


「ワオン」

『ご主人』


「お主の主人には、一人でゆっくりと休む時間が必要なのじゃ。お主なら理解できよう」


「クウーン」

『必要なら……』


 ビターちゃんは理解したようで、元気なさげにトボトボと歩き始めた。

 そのまま廊下を進み、ピオちゃんも入れて四人で扉を開いて、外に出る。

 そこで人の姿に戻った。


「バウ、バウ」


「待たせたねー。このビターちゃんを、今日から三日間預かることにしたんだ。仲良くしてあげてね」


「ハッハッハッ」


 外で待たせていたワンコたちを引き連れ、おばあちゃんの家に戻った。

 すぐにビターちゃんのエサを用意し、さらにブラシで体毛を整えてあげる。

 結構毛が抜けるね……。

 痩せた体でも、ブラッシングすることである程度は見た目が良くなった。

 おや? 他のワンコたちがうらやましそうに見ているよ?

 君たちにはエサはあげないから。でも、ブラッシングぐらいならしてあげるね。


 ……そう思ったのが間違いだったよ。

 一匹のブラッシングを始めたら、他のワンコが要求するようにワンワン吠えだした。


「はいはい、順番にするから待ってて。もーう、マオちゃん、レティちゃん、手伝ってー」


 一匹増えて忙しさが増し、ビターちゃんを預かってからあっという間に三日が過ぎた。

 今日はビターちゃんを飼い主に返す日。

 ビターちゃんは見違えるように元気になった。

 無駄に吠える件については、「縄張りに不審者が侵入しているから威嚇し、ご主人様に知らせている」とのことだったから、「飼い主は知らせることを望んでいないよ。だから誰かが近づいても気にしないで」と教え、この三日間で吠えないよう、近づく者を気にしすぎないようになった。


「飼い主さーん、ビターちゃんを返しに来たよー」


 今日は人間の姿のまま。三人の間では、人間の姿に化けている設定でいる。

 扉をノックし、飼い主が出て来るのを待つ。


「ああ、ビター、ビター!」


「クゥン」


 がばっと開け放たれた扉から飛び出した飼い主の女性。

 ビターちゃんを抱きしめ頬ずりを始めた。

 私たちが人間の姿になっていることにも気づかないくらい、ビターちゃんに夢中になっている。


「飼い主も元気になった感じがするのぅ」


「貴様、いいですか? 犬をいじめたら、我が必ず地獄に堕としてやるのです。大事に育てるのです」


「もちろん、ビターは大事な、私だけの子供。こんな愛おしい子を、虐げるなんてとんでもない」


 飼い主は、前に会ったときのようなイライラした感じは一切なく、優しいお姉さんになっていた。


「幸せに暮らすのじゃぞ」


「その犬は留守番できるようになったから、貴様は働きに出るのです」


「ああ、ビター、ビター……。私は、あなたのために働く。もう心配はさせない……」


 ビターちゃんについては、無駄吠え以外にもフンの場所を教えられていないとか家具を噛むなどの室内飼いとしての訓練がなされていなかったので、仕込んでおいた。もちろん、ピオちゃん経由で。

 これで、安心して家を空けられるはず。閉じこもっていないで外に出て収入を得られるようになれば、きっと心が安らぐようになるよ。

 私たちは、ビターちゃんとお姉さんを暖かく見守りながら、静かにその場を去った。


  ★  ★  ★


 今日はおばあちゃんが退院する日。

 ワンコたちの散歩を兼ねて、病院に行った。

 マオちゃんとレティちゃんにロープを預け、私だけが病院の中に入り、おばあちゃんに会いに行く。

 おばあちゃんは歩けるまでに回復していて、退院の手続きをしてから外へと案内する。


「あらあら。おまえたち、会いたかったわ」


「バウッ、バウッ」

「キューン」

「キャンキャン」


 扉を開いてすぐに犬の前まで行き、屈んだおばあちゃん。

 あるワンコはその頬を舐め、またあるワンコは周囲をぐるぐる走り回り、小さなワンコは飛び跳ねてオシッコを漏らしている。

 各自がバラバラに動いたから、マオちゃんとレティちゃんが手にしているロープが絡まって酷いことに。すぐに絡まりを直す。


「貴様ら、再会の挨拶はもう終わりなのです。今こそ、退院祝いの芸を見せるのです」


「バウッ」


 レティちゃんの指示を受け、大型のワンコが存在感を露わにし、他のワンコを誘導する。

 あっという間にワンコの階段ができた。

 小型、中型、大型二匹、中型、小型の六匹の階段。最初の練習のときよりも大型のワンコが一匹増えている。

 それを見た道行く人たちの足が止まる。


「上るのです」


 残った小さなワンコ二匹がそれぞれ左右から階段を上り、中央の大型のワンコの上に並んだ。


「せーの」


 二匹が同時に前足を上げて立ち上がる。


「おおおー」

「すんごい芸だ!」

「なんだ、なんだ? おお! どうなってんだ!?」

「素晴らしい!」


 道行く人たちが拍手喝采をし、


「おまえたち、しばらく見ない間にそのようなことが……。ああ、なんて賢い素敵な子たちなんでしょう」


 おばあちゃんが芸を終えたワンコたちに近づいて屈み、頭を撫でる。

 すぐに階段は解体となって、撫でているのか、舐められているのか、もう分からない状態に。


「鍛えた甲斐があったのです」


 階段を上るだけだと飽きたので、少し芸に手を加えたレティちゃん。

 最初は階段を上るのすら怖がっていたのに、レティちゃんが仕込むと、一発で立ち上がることまでできるようになるんだから不思議だよね。

 他にも仕込んだ芸があるけど、今ここで披露することでもないし、後日、おばあちゃんが散歩で中央広場に行ったときにでも見てもらえればいいかな。


「おばあちゃん、大丈夫? 歩ける?」


「はいな。ちゃんと歩けるよ」


 おばあちゃんと一緒に大通りを歩き、ワンコたちもおとなしく歩いている。

 ワンコたちは歩きながらも、時々見上げておばあちゃんの顔を見ている。その姿が健気に感じられ、本当に退院が待ち遠しかったんだなと思う。

 途中、中央広場に差し掛かり、


「あのおばさん、今日もいるね」


 三角メガネで髪の毛がもじゃもじゃのおばさん。


「あのお方はアーティ様だねえ。貴族様だから粗相のないようにしないといけないねえ」


「え? 貴族様だったの? 知らなかったよ」


 気さくに話しかけてくるし、近所のおばさんだと思っていた。

 たしかに貴族街の屋敷に住んでいるんだけどね。


「貴族なのに一人で出歩いておるのか。無防備じゃの」


「あらあら。お連れのサイヤン様が、不埒な輩に噛みついて撃退した話は有名ですからのぅ」


「あの犬は噛みつくのですか……」


 護衛も兼ねている大型のワンコ、サイヤン。レティちゃんはそうとも知らずにそのワンコに触ったことがある。

 それとは別に、ワンコの散歩をしている格好で何人か、遠巻きに見守っている人がいるとのことだった。


「あらあら。懐かしの我が家だねえ」


 北西の大通りに入り、おばあちゃんの家の前に到着した。

 おばあちゃんが扉の前まで行き、誰も指示していないのに、一斉にワンコたちがその前に綺麗に並ぶ。その瞳はレティちゃんを一心に見つめている。


「あらあら。おまえたち、お世話になったんだねえ。私もお世話になった。お嬢ちゃんたち、ほんと、ありがとねえ。一時はどうなるかと思ったからねえ」


「おばあちゃんが元気に退院できてよかったよ。今後は転ばないように気をつけてね」


 おばあちゃんは退院する際にも、医者に何度も言われていた。

 今回は奇跡的に助かった。そう奇跡は起こらないから転ばないように気をつけろって。

 足の筋肉が衰えているから転びやすくなっていて、無理のない範囲で足を鍛えろとも。


 おばあちゃんが家の中に入り、ワンコたちも我先にと入って行く。

 ふー。

 一つの仕事をやり遂げた気分だよ。

 ワンコの世話って大変だね。


「これで妾たちを足止めする事象はなくなったのじゃ。晴れて、王都クレッセンに向かうのじゃ」


 私たちは王都クレッセンに向かうべく、北西へと進んだ。

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