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026話 王都ポワテ 中編

 腰ぐらいの大きさになったサックデビルは、花壇の花をかき分けてその間を走り抜け、裏庭に向かって逃げて行く。


「魔物か!」


「成敗してやる! 第六小隊は左に回り込め! 逃げ道を塞げ!」


 庭園内を巡回している兵士たちが、サックデビルに気づいたぞ!

 目にした者から順に次々と追跡に加わっていく。

 私たちは花を踏むわけにもいかず、いろいろ迂回して追いかける。

 兵士たちが左右から迫ってくれているお陰で、サックデビルの逃げ道がどんどん狭まっていく。

 サックデビルは、逃げながらも向けられる槍や剣をピョン、ヒラリと器用に躱し、さらに種のような物を複数飛ばして兵士を倒している。

 それでもどんどん壁のある方向へと誘導されている。


「はぁ、はぁ、追い詰めたのです」


「もう逃げられないぞ! オーバースイング!」


「立ち塞がる者すべてを薙ぎ払う魔王の刃、メガ・エアスラッシュ! どうじゃ、切り裂いたのじゃ」


 サックデビルを裏庭から中庭の隅に追い詰め、私の大振りハリセンがうなる。

 それで転んだところにマオの空気の刃が振りかかり、サックデビルは両断され、黒い煙となって消えた。魔石は落ちていない。


「お見事です♪」


「おお、君たちが倒してくれたのか。一体、さっきの魔物はどこから来たのだ? これだけ厳重に警備している場所に抜け抜けと入り込むとは……」


「他にもいないか手分けして探せ!」


 遅れて集まった兵士たちは散開し、他にもいないか捜索を開始した。


「もう、いませんよ♪ それよりも、しおれているお花を元気にしましょう♪」


「水でもやるのか? 今からだと、日が暮れてしまうぞ」


 井戸はこの近くにはない。それにバケツも作業小屋まで取りに行かないといけない。準備だけでも時間がかかる。

 庭園は広大で、水まきを始めてもとても今日中には終わりそうもない。


「水は庭師が与えておったのじゃろ?」


「お花を元気にする魔法、マブシク・ニッコーリ♪」


「うわあ。花が元気になっていくよ!」


「ここには人が多すぎるのです。ですから、エムが魔法を唱えているフリをするのがいいのです」


 それから私たちはいくつかの花壇を渡り歩き、ピオの魔法で花を元気にしていった。

 その際、エムがレイピアを胸元でくるりと回してから高く掲げ、魔法を発動しているフリをしていた。

 わざとらしい演技だけど、目の前の花壇の花が急に元気になるんだ。兵士たちは目を丸くして信じ込んでいた。


「やあ、君たち無事だったんだな。お、おおおおお? 花が、しおれていた花がシャキッとしているんだな!」


 どこかに逃げていた庭師が、恐る恐るの態で戻ってきた。

 そして辺りを見回し、さっきまでしおれていた花壇の花が元気になっていることに驚く。


「えっとね、魔法で花を元気にしたんだよ」


「ワ、ワシは夢を見ているんだな? 牢獄の悪夢から、花園の天国へ……。君たちはクリム神様が遣わしてくださった使徒様なんだな!」


 ここでも使徒様かよ。最近そういうの、流行っているのか?


「夢ではないのです。我らが花を蝕む魔物を退治してやったのです」


「なんってこった。さっきの魔物が花をダメにしていたんだな? 花がしおれたのは、魔物のせいなんだな!?」


「ああそうだぞ。しおれている花も、ある程度は治してやるぞ。でも、今日はもう日が暮れる。続きは明日でいいだろ?」


「使徒様。是非、是非明日もワシを助けて欲しいんだな!」 


 こんな流れで、明日もこの庭師の手伝いをすることになった。


 翌朝。

 庭師と門の前で合流し、正面庭園へと入る。

 今日の仕事は、王の結婚記念樹から。

 これが治らないと、牢獄行きの悪夢が再来するらしい。

 中庭の中央付近で、枯れ木のようにはげている結婚記念樹。

 エムの(本当はピオの)踊るような魔法で簡単に葉が生え、甦った。

 おい、その振り付け、昨日と違うだろ?

 調子に乗ったエムの挙動が、大げさになっている。それでも、巡回している兵士は誰も気にはしていない。気づいても、そんな魔法なんだと思われているようだ。


「次は、明後日国賓をもてなす応接室から見える範囲の花をシャキッとさせて欲しいんだな」


 中庭の、東寄りの部分が、件の応接室から見えるようだ。

 庭師はその部屋の飾りつけも言い付かっていて、密談が行われるのがどの部屋か知っているようだった。


「この花、とっても可愛いね」


「そうか? 私はあっちの紫色の花のほうが気になるぞ」


 目の前の花壇では、背丈の低い株が枝分かれして複数の花をつけている。

 そんな株が隙間なく植えられていて、色とりどりの絨毯のようだ。

 花の直径は人差し指第二関節までの長さほどで、それぞれ花びらの根元の部分が白か黄色のバイカラーになっていて、賑やかな感じだ。中には、縁取りのように花びらの端だけが白くなっているものもある。


 それでも、私は向こうの花壇に咲いている、薄い紫色の花が気になった。

 背丈は手の平二つ分ぐらい。花の直径は中指の長さほどで、やや長めの花びら。それでも細すぎないあの形状が心をくすぐる。そいつもバイカラーっていうのか、根元が白い。


「皆さんお目が高ーい♪ エムさんが気に入ったのはプリムローズですよ♪ そして、ミリアさんが気になっているのはサフランです♪ どちらも素敵なお花ですよね♪」


「ここはこの国一番の庭園じゃ。どこを見ても素敵じゃがな」


「プリムローズ? エムの勇者技と同じ名前の花なのです」


 ああ、そう言われれば、エムの連続刺突の際に色とりどりの花びらが舞っていたっけ。同じっちゃあ、同じかもしれない。


「昨日、ピオがエムの勇者技に花の生気が乗るって言ってたよな? 関係あったりするのか?」


「ありますよ♪ エムさんは世界中のプリムローズのお花から力を分けてもらっているのです♪」


「へー、そうなんだー。プリムローズさん、ありがとうね」


 小さな花から力をもらうエム。まるで妖精みたいだな。


「この辺りは、後にするんだな。優先して欲しいのは、飾りつけ用の花を育てている場所なんだな」


 中庭における東寄りの花壇の花を元気にした後でプリムローズを眺めていたら、庭師が近づいてきて指示を出した。

 城内に飾られている花は、花屋から買うのではなく、庭で栽培したものを飾っていたのか。知らなかったな。

 飾り付け用の花を育てている花壇は、西側の作業小屋の近くにあった。

 ここって昨日走って通った場所だよな。

 小さめの花壇がいくつもあり、それぞれにいろいろな種類の花が植えられている。


「くるくる回って、マブシク・ニッコーリ♪」


 レイピアを斜めに構えて狭く振りながら二回転し、ピタっと止まって片膝を折ると同時にテヘペロ風な顔でレイピアを高く掲げたエム。

 エムが踊っているのは、ピオが呪文に文言を追加したことが原因か!

 しかしまあ、ノリノリだな……。


「明日もよろしく頼むんだな。これは、日当なんだな」


 あっという間に一日が過ぎ、広い庭園も、半分以上は復活した。

 日当をもらい、本日の仕事は終了だ。

 門から出て町の中を歩く。


「目が回るけど、簡単なお仕事だったね~」


「エムは目的を忘れておるのじゃ」


 一日中、楽しそうに踊っていたからな。


「まあ、密談は明後日なんだけどさ、偶然とはいえ、密談する部屋はもう突き止めてあるし、庭に入る口実もある。上出来じゃないか?」


「庭師の悩みを聞いたからすべてが上手に運んだのです。悩める者は救わないといけないのです」


「そう何度もうまくいくこともあるまいが、その心がけだけ・・は立派じゃのぅ。今回真っ先に声をかけたのはエムじゃしのぅ」


「だけ、言うな、なのです」


 いろいろ歩いていただけなのに疲れたぞ。

 今日はもう宿に帰って早く休もう。


 二日後の朝。密談当日だ。

 私たちは何食わぬ顔で門を通過し、当たり前のような顔でしおれた花を元気にしていく。

 実際働いているのはエムとピオだけだが日当は全員がもらえる。実に良い仕事だ。

 そして午後。これからベーグ帝国の外交官が城に入る。

 私たちはそれより先に中庭に行って仕事をする。

 二階の応接室から見える範囲の花はもう元気になっているから、少し西に離れた位置、しかも城に近い場所を仕事場とする。


「そろそろかな? みんな準備はいい?」


 ある程度時間が過ぎた。いくらなんでも外交官はもう応接室に入っているだろう。

 私たちのことが誰かに観察されていないか、周囲を見回して確認する。


「今日も巡回兵は中庭にまでは入ってこないな。遠くからこちらを見ることはあっても、袋小路のようになっている中庭に入る必要はないと考えているんだろうな」


「先日の魔物騒動で、妾たちは完全に信用されておるようじゃの」


「さりげなく花壇の陰に隠れて、作戦開始するのです」


「りょーかーい♪ 妖精変化ようせいへんげ♪」


 草葉の陰に隠れ、妖精の姿となって地面すれすれを飛ぶ。

 花壇の数だけ直角に曲がり、城の壁にぶつかりそうな位置まで行って急上昇。

 おお、スリルがあって楽しいぞ。

 猛スピードで壁が腹の下を通り過ぎていく。

 二階の窓の隅にピタリと吸い付き、こっそり中を覗き見る。


「始まっているね」


「バッチリ見ておくのじゃぞ」


「何を交わすのかは大体分かっているけどな」


 Aの17の情報が正しければ同盟締結の下地作り、そして戦争ための密約。

 戦争自体は準備を早めにしておかないと、いざって時には間に合わない。

 今日、それとなく同盟締結の条件として話にあがるはずだ。


「手前の左側の、あごひげがカールしているのが、国王なのです」


 形式ばった挨拶などはもう終えているようで、両国三名ずつソファーに腰かけ、対話が始まっている。

 席順からおそらく、国王の対面に座っているのが、高位外交官なのだろう。

 国王も高位外交官も窓に近い位置に座っていて助かるぞ。

 とにかく耳を澄まして交渉の内容を聞き取る。

 ふむふむ……。

 大雑把には、昨年の大災害の際、ベーグ帝国がカレア王国に対して資金援助をしてくれたことに対する謝辞から始まり、クロワセル王国からは何も援助が届かなかったと釘を刺し、ベーグ帝国との友好関係を深めたい、そんな感じだ。


 昨年の大災害については、私が実際に見たわけではない。でれでも、噂では聞いたことがある。

 ここ王都ポワテよりもずいぶん西の地域で、突然地面が大きく陥没し、村が一つ消滅した。それだけでは済まず、大きな地震が発生して近隣の町が大打撃を受けた。

 カレア王国はその復興に多額の資金を投じている。


『左様ですか。それは僥倖です。我々はベーグ帝国皇帝の親書を携えて参りました。ぜひ、ご一読いただき、前向きなお言葉を頂戴したいと存じます』


『ふむ。ほぉ……。同盟締結であるか? 現状、両国は中立関係を表明しておる上で、友好の上を行く関係に、であるか……』


 親書を一通り読むと、王は親書を隣の文官らしき者に渡した。


『なんと! クロワセル王国が我が国を虎視眈々と狙っているですと?』


『ベーグ帝国には優秀な諜報員が多数おりますれば、クロワセル王国が貴国を蹂躙しようと企んでいることは間違いないと断言できます。その企みの一端が、数日の後に周知の事実になるとも予想されております。もちろん、私どもは、貴国の第二王子がクロワセル王国の第一王女と婚約されていることも存じております』


 そうなのか! 

 ここの第二王子とクロワセルの第一王女が婚約関係になっていたのか。知らなかったぞ。


『つまり、婚約を速やかに破談とし、貴国と同盟関係を構築しろ、とのことであるな?』


『軍備拡充の状況から、およそ半年後にクロワセル王国が動くと予想されております。遅かれ早かれ、破談となるのは必至のことでしょう。貴国とベーグ帝国が共同となり、クロワセル王国に対抗いたしましょう』


『対抗したその先にある物は、果たして?』


『貴国とベーグ帝国とでクロワセルの地を分割するというのが、合理的だと考えますが、いかがでしょう?』


『承知した。前向きに考えておこう』


 密談は終わった。

 話だけを聞くと、クロワセル王国が悪意のある国で、カレア王国が被害者。それに手を差し伸べるのがベーグ帝国となる。

 私たちは地面へと降下しながら、見聞きしたことについて考えを巡らせる。


「本当に同盟を阻止しないといけないのかな?」


「ベーグ帝国が同盟を結ぶために外交に来ておるのじゃ。だからベーグ帝国の行いが良く聞こえるのは当然のことじゃ。それにの、婚約を破談してまでベーグ帝国と同盟を組めば、自ずとクロワセル王国との関係が悪化する。カレア王国を戦争に巻き込まないようにするには、同盟を阻止するしかあるまい」


 クロワセル王国とベーグ帝国は、長年敵対関係にある。カレア王国がベーグ帝国と同盟関係になれば、必然的にクロワセル王国との関係が悪化する。


「貴様ら、我の実家で小物が白状した言葉を忘れたのですか? クロワセル王国の襲撃とみせかけるよう、ベーグ帝国が手配していたのです」


 小物? 捕虜のことか。


「そうか! それで外交官がクロワセル王国の『企みの一端が数日の後に周知の事実になる』と言ったんだな。レティが脅さなければ、クロワセル王国が悪者のままだったからな」


「数日後……。つまり本来、レティシアの父が領主会議において、『クロワセル王国が主導する盗賊団』に襲撃されたと報告をするはずじゃった……。なるほどそうなればクロワセル敵視は確実じゃな。しかしレティシアの睨みによって、襲撃が『ベーグ帝国の企みだった』と暴露されたことで立場は逆転じゃ。それをあの外交官はまだ知らぬのじゃろうな」


「レティちゃん、お手柄だね!」


 どういう手を打ってあったのかは知らないが、捕虜が真実を吐かない絶対的な自信があったのだろう。捕虜自身は催眠術だと思い込んでいたけど、そんな生ぬるいものではないはずだ。


 レティが睨むことで得た事実は、まだごく一部の者しか知らない。

 もしどこかで諜報員がこのことを察知していたとしても、諜報機関キャロン支部が撤退準備中だったから、情報が上げられてもいないのだろう。


「仕事に戻ろう」


 花壇の陰に隠れ、人の姿へと戻る。

 さっきまで高い位置で窓の隅に張り付いて覗き見していたことは、巡回兵には見つかっていない。

 ピオが言うには、巡回兵は遠くにいるから妖精の姿は目に映らないんだってさ。

 近くにいれば見え、遠く離れると見えない。

 人族の目は真実を映していない、とも言っていたな。


「そろそろ庭仕事も終わりになるな。もう少しゆっくり進めて、明日も日当をもらったらどうなんだ?」


「そのような卑怯な手口は、我が許さないのです」


 働いているのはピオとエムだけだぞ。何もしていないのに日当をもらっていること自体が既に卑怯だって気づけよ。

 やがてすべての花壇の花を元気にし、私たちの仕事は終了となった。

 最初に出会った筆頭庭師のほか、五人の庭師が私たちを門まで見送ってくれる。


「使徒様、君たちはワシらの命の恩人なんだな」


「そうです。私たち一同、牢屋に入る覚悟をしていました」


「使徒様ぁ、本当に感謝ぁする。えれぇ助かった。ほんまにありがてぇ」


 牢屋行きにならなくてよかったな。

 だからといって、そう並んで頭を下げられてもなあ。

 こっちとしては庭に入る口実を得たんだ。お互い様さ。

 レティは鼻からふんっと息を吐いて満足気にしているぞ。お前は働いていないだろ。

なっしんぐ☆です。

いつも物語の作成にWin11メモ帳を使っているのですが、ご報告いただいた誤字を修正する際に、すべての文章ファイルを順次手で開き、検索機能で特定の文字を探すのはとても大変だと感じました。

そこで!

フォルダ内の全文章ファイル(txt)から、指定の文字列を含むファイルの一覧を取得するExcel VBAを作成してみました。

これを使うことにより、投稿済みと書き溜めも含め、一覧表にあるファイルだけを開いて置換作業できるようになりました。全ファイルを順次開くより、各段に楽です。


主に、特定の単語、半角スペース、「。 」(句点の次の全角スペース)などが、どのファイルに存在するのか探す用途で使用します。同時に五単語、探せるようにしました。


特定の人物や魔法、魔道具をどの話で登場させたか探すなど、物語作成時にも使えます。


もし皆様の中にtxtファイルで文章を作成しておられる方がいらっしゃいましたら、作成を検討されてはいかがでしょう? 作業効率がひときわ向上しますよ。


※win11メモ帳の使用を勧めているわけではありません。Win10の物より使いにくいですから。

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