025話 王都ポワテ 前編
支部を出た私は急いで客室に戻り、焦燥感丸出しでみんなに事情を告げた。
でも、信じてはもらえなかった。
情報の出所が帝国諜報機関だということをバラすわけにはいかず、さらにクロワセル王国の正規鎧という物的証拠があるから、現在の結論を覆すことは難しい。
「うーん、そうだなあ。騙されたと思ってさ、捕らえた兵士を尋問させてくれよ」
「これ以上の拷問は国際条約違反になるのです。たとえ、ミリアの情報が正しかったとしても、さらなる情報を聞き出すことはできないのです」
これ以上のって、拷問を執行したのか……。
とにかく、体を傷めつけるような拷問をしなければいいんだよな?
私には案がある。
みんなを地下牢へと誘った。
もちろん、レティが手続きをしたのは言うまでもない。
薄暗い地下牢。
衛兵三人が先頭となって歩く。
通路が幾股にも分かれていてたくさんの牢屋が設置されている。
犯罪者のためだけならこんなに牢屋はいらない。
ここは国境に近く、大きな戦いがあっても対応できるようにしてあるのだろう。
見える範囲では、どの牢屋にも捕虜が五人前後入れられていて、満員状態だ。
そこから正規兵だと思われる者を三人、任意に抜き出してもらい、手錠を嵌めて二階の一般応接室へと連行する。
衛兵と捕虜には応接室前の廊下で待ってもらい、応接室には捕虜を一人ずつ入れて尋問を行う。
「さて、正直に吐いてもらおうか。レティ、頼んだ」
「はい? なぜ我が尋問を行わないといけないのですか?」
私は知っている。
レティが睨むだけで、内通者が小水を漏らしたことを。
「細かいことは気にするな。近づいて睨んでやればいいだけだ」
レティはしぶしぶ従ってくれた。
「貴様、我に隠し事をしているのですか? 正直に話さないと、痛い目に遭うのです」
やや高い位置から顔を近づけると、捕虜はやはりのけ反るようにして避ける。
おいおい、痛い目に遭わせたらダメなんだろ?
「お前は、ベーグ帝国に雇われているんだな? そうだろ?」
「貴様! 吐きやがれ、なのです!」
「ヒエエェェ!」
まじか! レティがさらに顔を近づけると、捕虜は白目を剝いて失神した……。
仕方がないので捕虜を入れ替えて同じように尋問する。
レティにはもう少し殺気を抑えてもらって。
「い、いい、言います、言いますから助けてください!」
二人目の捕虜はやたら早口に答え、震えながらもすべてを正直に話した。
やはりベーグ帝国に雇われたゴロツキだったと。
クロワセル王国の装備品は、今回の作戦にあわせて支給された物で、闇ルートでベーグ帝国が入手しているらしいとも。
ジンジャー村を襲撃したのもこいつらの仲間の仕業で、こちらもベーグ帝国から指示があったようだ。
「貴様、我に嘘は通用しないのです。嘘ではないと我に誓えるのですか!」
「ハイ! 嘘ではないと誓います! クリム神様に誓います! あなた様にも誓います!」
「どこかで感じたことのある殺気よのぅ……」
三人目も同様に白状し、晴れて、私のもたらした情報が正しいことが証明された。
一人目? あいつはもう牢屋に戻した。
「どうする? この町への襲撃がベーグ帝国の策略によるもので、そんなベーグ帝国とカレア王国が同盟を結んじゃうんだよね? クロワセル王国は濡れ衣なんだよね?」
「まずは領主に伝えるしかないじゃろ」
レティの先導で領主の執務室に行き、領主に尋問の際の動く絵を見せる。
「レティシア、お前……」
動く絵の中、近くで睨んだだけで捕虜がビビる。
そんなレティの姿に、領主もビビる。
「捕虜の自白は、心底真実を語っているように見える……」
よし、信じたな。
このタイミングで、私は策略のすべてを打ち明けた。
「なんと。ベーグ帝国が我が領都を脅かし、さらにはこのカレア王国を戦争へと陥れようとしているとは……」
「父よ。止めることはできないのですか?」
「五日後に王都に赴く予定がある。そのときに進言してみよう。それまでは先日の襲撃の事後処理で手一杯で動くことはできない」
守兵団が無傷だったわけではなく、その補償や論功行賞がある。
また、町の代表者や有力商人などが祝辞を述べるために多数謁見に訪れている。
それに、城の中も一部、無残な状態となり、その予算案なども早く通さないといけない。
領主は忙しいようだ。
「ただ、私が進言したところで、王陛下が動いてくださるかどうか……」
「五日後だと間に合わないんだ。なんとかして三日後までに王城での密談をやめさせないといけないから」
「三日後に密談とは、何かあるのか?」
「とある情報によると、三日後、王城でベーグ帝国の高位外交官が同盟に関する密約を交わす約束になっているんだ」
「なんだと? ベーグ帝国がカレア王国と同盟を? そうか……。それではこれはどうだ? 私が五日後に王都に赴くのは、王城で領主会議が開かれるからだ。おそらく、そこで同盟について話が出るのだろう。その場で私が同盟に反対する。そうすれば少なくとも延期にはなるだろう」
レティの父は、王族を除けば、この国のナンバー2の権力者だったよな?
この国の仕来りで、国家の重要案件は領主会議で領主たちの同意を得ないと採択されない仕組みになっていて、レティの父が公の場で反対すれば、それなりの効果が期待できる。
本当は中止まで持って行きたいが、延期している間に何か対策を講じれば、なんとかなるはずだ。
私たちは領主の案に乗り、執務室を出た。
その際、レティが領主に小遣いをせびっていた。
何に使うのかと思いきや。
「これから王都に向かうのです」
「はあ? 今から向かってもいつ着くか分からないぞ」
王都ポワテに行ったことはないが、乗合馬車だと十日以上かかると思う。王都は遠い南の地にあるからな。
領主の飛竜を拝借すれば今すぐにも行けるだろう。でも、そんなことをしたら領主が領主会議に出席できなくなる。
「早く町に出るのです!」
訳も分からずにレティに連れられて町に出る。
城からそう遠くない場所に、飛竜の運送屋があった。
「まさか、飛竜に乗るのか?」
「ひ、飛竜って高いんだよね? 乗ったことはないけど、一般人お断りだよね?」
「つべこべ言わず、乗るのです。金ならここにあるから大丈夫なのです」
皮袋を手にするレティ。
さっきせびった小遣いか……。
私たちは飛竜に乗って空を舞う。
速い、速いぞ!
ぶら下げられたカゴの中。立てば胸から上が強い風を受け、眼下に広がる景色を堪能できる。
草原や森などの緑と一緒に、村や町がどんどん後方へと流れて行く。
乗合馬車だったら、今日いっぱい移動しても、もう視界に入らないくらい後ろの町にまでしか行けなかった。
「お客様、降下します。危険ですので着席してください。着地の際には衝撃があります。舌を噛む恐れがありますので、口を閉じて衝撃に備えてください」
御者が着席を促すと、飛竜はしばらくして降下を始めた。
もう王都に到着か。
体感的には半日もかかっていない。
王都の運送屋の敷地に着地し、カゴから出て王城へと向かう。
「ところで、王都に来たのはいいけど、どうやって王城に入るんだ?」
王都は広く、建物の背丈も高い。
人も多く、この国で一番栄えている町だと実感する。
王城は、まさにこの国の頂点。
入れてくれと頼んで入れる場所ではないし、容易く侵入できるはずもない。
「またピオちゃんに頼めばいいと思うよ」
「そうじゃの。それしかあるまいて」
その下見のために王城の敷地まで行くと。
「花が枯れてるね」
「枯れる一歩手前、しおれておるのぅ」
「巡回兵が多すぎないか? これだと妖精の姿で侵入しても見つかってしまうぞ」
正面庭園、裏庭。いろいろ外から見て回った。
さっきまで滞在していた城(レティの家)とは違って、ここは高い鉄柵で囲まれているだけで外からでも庭がよく見える。
残念なことに、一部の花壇の花がしおれていて、想像していしたような華やかな庭ではなかった。
そして、どこも巡回兵が多すぎる。これも残念なことだ。
ベーグ帝国の外交官が来る予定だから、いつもより警備を厳重にしているのかもしれない。
町の中を歩いている際にも衛兵とよくすれ違った。
一旦、町の中心部へと戻り、中央広場のベンチに座って対策を考える。
「あそこの人、思いつめた顔をしているよ? 大丈夫かな?」
人通りの隙間から、噴水前にあるベンチが見え隠れしている。
そこでぐったり俯いて座っている男。やや年配な感じだ。
頬がやつれていて、髪も乱れている。
「ただの物乞いではないかの?」
「物乞いにしては服が立派じゃないか?」
作業服のようだが、刺繍が施してあったりして、華やかな服だ。
ってエム、話しかけるのか?
歩いて近づいて行く。
仕方ないのでみんながそれに続く。
「おじさん、どうしたの? 困っているのなら助けてあげるよ?」
おいおい、そんな暇なんてないぞ。今はどうやって王城に侵入するか考えないといけないんだから。
「お嬢さん、心配してくれるのかな? ありがとな。でもワシゃぁ、もうダメなんだな」
男はエムの声で顔を上げたが、また元気なく俯いた。
「短い人生、いろいろなことが起こる。ダメなんてことは、考え方を変えればダメではなくなることが多いのじゃ。お主がダメと思っても妾はダメではないかもしれぬじゃろ? ほれ、何がダメなのか話してみよ」
なんか年寄り臭い説教だなあ。だからロリババアなんだけどさあ。
「ありがとな。お嬢さんの言う通り、第三者にとっては他愛もない話なんだな――」
彼は王城お抱えの筆頭庭師だ。
私たちがさっき見てきたように、庭園の花がしおれてしまっている。
しかも、王が王妃とともに植えた結婚記念樹まで枯れかかっている。
これまでずっと手を抜くことなく、庭園の花や樹木を育ててきたにもかかわらず。
水を適度に与え、養分を十分に管理して与えていた。
ここ最近の気温は育成に適していて、日照りなんかは起きていないし、害虫もモグラも見当たらない。
それなのに花がどんしおれていく。
しおれた花々は、水を与えても養分を増減しても元には戻らない。
花壇の土を入れ替えても、花そのものを他の物に植え替えてもやはりしおれてしまう。
三日後、国の重要な会談が予定されていて、それに飾る花が間に合わない。
また、五日後の領主会議に飾る花も、もう間に合わない。
「このままでは、ワシは投獄されてしまうんだな」
職務を全うできなかった罪で。
王が裁くわけだから、王の大切な樹木が枯れたりすれば、罷免では済まずに投獄の可能性が見え隠れする。
「近くでお花を見せてください♪」
エムのポケットの中のピオが声を上げた。
庭師は左右を見回し、一度首を傾げたが、
「興味があるのな。専門家のワシでもどうにもならんのな。それでも見たいと言うのなら、ついてきてくれなんだな。門はワシが雇った作業員と言って通過すればいいんだな」
庭師は立ち上がると、王城に向かって元気なく歩き出した。
私たちはそれについて行く。
やがて王城の庭との境界に設置されている門に至ると、顔パスで通過できた。
「どうだ? ひどい有様なんだな?」
少し進んだ花壇の前で立ち止まり、しゃがみ込んだ庭師。
この花壇の花はすべて項垂れるようにしおれている。
「えっとですね、もっと西のほうに案内してください♪」
ポケットの中から指示を出すピオ。
二回目ともなると、庭師はあまり声の出所を気にせず西へと向かう。
ここまで黙っているレティの声だと思っているのか?
そして、西の花壇で。
「皆さん戦いの準備はいいですか? 見つけましたよ、ミ・エール♪」
「戦い? わわっ!」
ピオがポケットから顔を出して魔法を発動すると、花壇の前に、黒い花のような魔物が現れた。
ヒマワリの花に手足が生えた形状だ。茎や葉はない。
「ひえー!」
庭師は驚いて走って逃げた。
花壇の花々の陰になって巡回兵から魔物は見えないのか、兵士は声に気づいてこちらを見はしたが、まだ誰も戦闘態勢にはなっていない。
「あれは、お花から生気を吸い取る悪魔です。妖精族の天敵ですから、皆さん早く始末してください!」
「凍てつく魔王の矢、メガ・アイシクルアロー、どうじゃ! 名はサックデビルと厳ついが、見た目は弱そうじゃ」
マオが飛ばした氷の矢。
それが中央に刺さってサックデビルは一瞬凍る。
「続けていくよ! プリムローズ・スプラッシュ!」
エムがレイピアで連続刺突をかますと、それが刺さるたびにサックデビルが大きくなる。
「エムさんダメですよ。サックデビルにお花の生気を与えたら吸い取っちゃいますから!」
「まじか、先に言えよ」
「エムの勇者の技に、花の生気が乗っておるのかえ?」
「皆さんには見えないのですか? 説明は後です。倒しちゃってください♪」
私は濃度を上げた麻痺針を飛ばし、動きを止めようと試みたが、ヒラリと躱された。
「こいつ、素早さが上がっているぞ!?」
大きくなっただけでなく、素早く動けるようになっている。
「逃げたのです。貴様ら、追うのです!」
腰ぐらいの大きさになったサックデビルは、花壇の花をかき分けてその間を走り抜け、裏庭に向かって逃げて行く。
なっしんぐ☆です。
ブックマーク登録並びにポイントを入れていただき、ありがとうございます。
心なしか、指が軽快に動くようになりました。
わっ。作者の指捌きが向上したよ?
いくら速く打ち込んでも、作者は怪獣・誤字ラァだからなあ。きっと誤字も増えているぞ。
うむ。時々練習しておるピアノでも、未だに曲のどこかでミスりおるからのう。まあ、弾ける曲数は大分増えたようじゃがの。
右手しか使っていないのに下手クソなのです。
代わりに私が歌いましょう。ラ~ラララ~♪
【改訂内容】 025話、026話、087話
旧:花のエネルギー
新:花の生気




