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024話 襲撃の真相

 今夜、盗賊団討伐を祝う祝賀会が開かれる予定で、私たちはその立役者の一員として参加することになっている。だから、まだ城にいないといけない。


「痛たたた……」


「エムは思いきり蹴られておったからのぅ。大きな怪我がなくて幸いじゃった」


 住み慣れた客室。

 エムはソファーに座ろうとして、いろいろ痛みを感じ、苦痛の表情を浮かべている。そんなに痛いのなら、先にポーションを飲めよ。

 すべて打撲程度で済んでいるから、放っておいてもそのうち治るのも事実だがな。


「オークジェネラル、強敵だったな。麻痺毒が効きにくかったのは、想定外だったぞ」


 麻痺針がまともに刺さったのに、時間差こそあっても、あそこまでピンピンしている魔物なんているとは思っていなかった。


「あやつには麻痺耐性が少々あったのじゃろう。そういう輩にも対処できるよう、今後は麻痺毒の濃度をもっと高くすればよいのではないかの?」


「濃度を上げるのかあ。私にもリスクが伴うけど、そうするしかないか」


 濃度を上げると、麻痺毒を塗布してある部位に不用意に指が触れるだけで手が痺れるようになる。さらに濃度を上げると腕が、そして体全体が痺れてしまう。

 それくらいに危険な劇物なんだ。

 焦って吹き矢を構えようとすると、自爆するかもしれない。今後は取扱いに注意が必要だ。


「これから向かう先には、さっきみたいな強い魔物がいたりするのかな?」


「そうじゃのう、街道を進む分にはまずおらぬ。しかし、路銀を稼ぐために寄り道すれば、いずれどこかで強敵に遭うこともあるじゃろう」


 魔王を倒しに行くんだっけ。

 行き先は魔族の国ジャジャムだったよな。

 北のクロワセル王国を縦断すれば到着だ。まあ、魔王城はもっと先にあるんだろうけど。

 オークジェネラルの話、強敵の話、そして魔王の話と話題が変わっていく。

 マオは、やたら魔王の強さ、偉大さを詳しく語るよな。なんだか勝ち誇っているように見えなくもない。お前が自慢げに話してどうするんだよ!


「守兵団が帰還したのです。貴様ら、ホールに急ぐのです」


 自室にいたレティがパシリとなって、守兵団が帰還したとの報を客室に届けた。

 三人で話し込んでいたらいつの間にか夕方になっていて、守兵団が盗賊団を撃退して戻ってきたようだ。

 今のところ、町に盗賊団による被害が出ているとは聞いていない。守兵団が帰還したのなら盗賊団に勝利したということ。私たちは襲撃を防ぐことができたんだ。

 レティを加えて四人になった私たちはホールに向かう。


「うむ。見事な料理が並んでおるのじゃ。贅沢よのぅ。人族の国はもっと質素な生活を心がけるべきじゃ……」


「普段の食事よりも豪勢ですが、今日は質よりも量なのです」


 ホールに入ると、そこは立食形式で、整然と並べられている白いクロスのテーブルの上には、鮮やかな花を飾る高そうな花瓶と、おいしそうな香りのする料理を盛った皿がいくつも所狭しと載せられている。

 テーブルはホールの長手方向に沿うように三列、さらに左右の壁際にも配置してあるので全部で五列。これだけ用意するのは大変だっただろう。


「みんなそれなりに傷ついているよな」


「私たちだけで盗賊団を倒しに行ってたら、ああなっていたのかな?」


 大勢の兵士が集っていて、包帯を巻いている者が多数見受けられる。

 ここに入りきらない兵士は、城の正面の石畳の場所に集まっている。ここと同様に料理が用意されているとのことだ。


「ごほん。アルグレン領守兵団の諸君。君たちは盗賊団の襲撃からキャロンを見事に守り抜いた。その手腕、その武功、私は誇りに思う。今宵は諸君らの活躍を祝して宴を用意した。無事生還した仲間とともに存分に歓談の時を分かち合い、疲れを癒してくれ」


「我々は盗賊団を撃退した! 我々はキャロンの平和を守った! 思い残すことがあるとしたら、まだ酒を飲んでいないことだ! 存分に飲むぞー!」


「「「「「オオーッ!!」」」」」


 壇上に立った領主の労いの言葉によって祝賀会が始まり、続けて兵士長が乾杯の音頭を取ってグラスを掲げると、ホール中に耳が痛くなるような雄たけびが響いた。

 まるで戦場だ。まだ戦いの興奮が冷めていないのだろうな。

 よーし、私たちも食うぞ。


「今回の襲撃事件を未然に防ぐことができたのは、レティシアお嬢様を中心とした冒険者の活躍があったからです。それではその立役者を紹介しましょう」


 しばらくの歓談タイムを挟んでから私たちが壇上に呼ばれ、全兵士の前で名前が紹介された。正確には、ホールにいる全兵士な。

 多くの視線を浴びて場違いな気持ちでいっぱいだ。

 事前に襲撃計画を入手して知らせ、さらに今朝、盗賊団の襲撃計画変更を見破って東門に向かうよう進言したヒロインとの紹介。

 割れんばかりの拍手喝采が起こり、頭を掻くしかできなかった。


「城内で暴れていたオークジェネラルを仕留めたのも、レティシアお嬢様を筆頭とするこちらのヒロインの方々です!」


「ワァー!」と歓声が上がる。「キャー! レティシアお嬢様ぁ!」といった黄色い声も複数聞こえた。


「私から一言。私のオークジェネラルは、召喚者が送還の呪文を唱えれば魔石に戻る。お前たちは戦おうなどとは思うなよ! お嬢様は強かったから勝てたのだ。肝に銘じておけ!」


 会場の真ん中の辺りで挙手し、皿を置いて発言した兵士長。

 そうだったのか。オークジェネラルは兵士長のペットだったっけか。だから送還の呪文を唱えれば戦う必要はなかったのかあ。

 命がけで戦って損したぞ。


「魔物使いなど、珍しいからの。知らんのが普通じゃ。妾も知らなんだ」


 壇上から下り、再び歓談タイムとなるとレティの周りに女兵士が集まりだした。

 レティ、オークジェネラルとの戦いの回想をそんなに自慢げに話すなよ。おそらく外で戦った兵士たちのほうも死地を越えてきたんだ。互いに労い合うのがいいと思うぞ。

 お? エムに熱い視線を送っている娘もいるようだ。

 そんな黄色い声に囲まれながら、時が過ぎていく……。



 三日後。

 盗賊団による襲撃を無事に退け、その結果本来であれば軟禁が解けて解放されているはずのところ、私たちはまだ城に滞在している。

 それは軟禁ではなく、私たちの意思によるものだ。宿泊費用が浮くとかの打算はもちろんある。

 で、延泊の目的は、捕えられた盗賊団がジンジャー村を襲った犯人かどうか確かめるためだ。

 実は襲撃の当日、別動隊がガリックの町に向かっていたんだ。別動隊はアジトに乗り込み、証拠品を押収する目的をもっていた。

 私たちはその結果が出るのを待っているんだ。


「ガリック遠征隊が戻ってきたのです」


 ガリックの町に行っていた別動隊が戻り、押収した大量の証拠品がホールに並べられた。

 話によると、ガリックの町の中にあったアジトはあくまでも盗賊団が住まう目的の建物で、盗品は山にある別のアジトに保管してあったそうだ。


「多いな。盗賊団は、実に多くを盗んだものだな」


「奴らが野放しになっていれば、さらに多くの盗みを働いたことでしょう。全員を捕らえられたことが幸いでした」


 ここホールでは、領主や兵士長、衛兵長など、ある程度の地位の者が品定めをしている。

 私たちは、それに混ざって盗品を眺めている。見たいと言ったからだ。


「取り調べでは、盗賊団はクロワセル王国に雇われたと吐いたのです。それに、鑑定した結果、あの鎧はクロワセル王国の正規兵の物だったのです。正規兵が混ざっていたのです」


「つまり、北のクロワセル王国の兵が混ざっていたから北門から襲撃する計画になっていたのか」


「アジトが南にあるのに北に集合した理由は、それなんだね」


 隣国が動いているのか。国境付近の町は怖いな。


「おおぅ! これは、実家の隣の家に飾っておった木彫りの裸婦像じゃ!」


「なんだ? ジンジャー村から盗まれた物なのか?」


 腰ぐらいの大きさの木彫りの彫刻。右手を後頭部にあて、やや左を向いての艶やかな姿勢をしている。


「こんな物を作るのは、あのエロジジイしかおらぬのじゃ。ほれ、この辺りにホクロをつけておるのは、初恋の娘を再現しておるからと言っておったのじゃ」


 彫り始めから完成まで目にしていたのでよく知っているそうで。


「そのジジイは、なんで初恋相手の裸を知っているんだよ」


「さあのぅ」


「覗きジジイ……」


 それからも盗品を眺め、いくつかジンジャー村の物だったと判明した。

 意匠の凝った金色のスプーンが、三軒隣の婆さんのプロポーズの品だったとか、あの服は村の端の女性が嫁入り時に着ていた物で、油をこぼした染み模様から明らかだとか。マオは変なことを覚えているよな。

 とにかく、これで捕らえた盗賊団はジンジャー村を襲ったとほぼ確定した。マオの心残りがなくなるはずだ。


「わりぃ。ちょっと知り合いに会ってくるわ」


「お主の知り合いは、ここにもおるのか……」


 みんなには客室に戻るように言って、私は帝国諜報機関キャロン支部へと向かう。場所は、この間のベリポーク支部で見せてもらった調査報告書に地図が添付してあったから知っている。

 あの支部長、Aの17だっけか。よく気が利くよな。

 城から出て大通りを真っ直ぐ北へと進み、第二区画に入ってから左折する。そこから真っ直ぐ進んで最初の交差点で右に曲がり、左手五軒目の民家がキャロン支部だ。一見すると、それは細い路地に面した木造三階建ての民家。

 いつもの手順で中に入ると、内部では数人がやたら忙しそうに書類を運んで往復していた。


「今日は報告は受け付けない」


「せっかく報告に来たんだから少しぐらい聞いてくれてもいいんじゃないのか?」


 ここの担当者はサングラスをかけた若い女性。エリートっぽさが体中からあふれ出ている。

 最初は襲撃の翌日に報告に行こうと思ったんだ。でも、ガリックの町に行った別働隊の結果を聞いてからにしないと二度手間になると考えて今日にした。

 襲撃を撃退したこと自体はわざわざ報告しなくてもわかることだし、ジンジャー村と同じ盗賊団だったかどうかが重要だろ?

 でも、今日は報告を受け付けないのなら、結局二度手間になるのか?


「見ればわかる通り、この支部は本日をもって解散する」


「は? 解散? 初めて聞いたぞ。今後はどこに報告に行けばいいんだ?」


 解散って、重要事項じゃないか。

 事前連絡ぐらいしてくれよな。まあ、しばらく城の中にいたからそれは無理な話だとは承知している。


「王都にあるカレア王国本部、またはベリポーク支部に向かうとよいだろう」


「解散って、移転とかではなくって、マジで支部がなくなるのか!」


「Bの39。あなたには本国から指名で指令が届いている。それと、あなた宛てにベリポーク支部から手紙が届いている」


 本国から指名で指令? 私、何かまずったか? それともようやく私に仕事を割り当てる気になったのか?

 それにベリポーク支部から手紙? なんだろう?


「指令はここで焼却処分する。手紙のほうは持ち出し可能だ」


 テーブルの上に置かれた一片の紙切れと、一通の封書。

 紙切れは指令書だ。すぐ焼却できるよう、最小限の大きさとなっている。

 なになに? 至急本国に帰還せよだって?

 ちょうど冒険者をやってるのが、楽しくなってきたところなのにな。


「至急って、いつまでなんだ?」


「さあ。本来期限を重視した特別な指令であれば、対象者を捜索して期限を厳守させるものだ。しかし、この指令は全支部に対して通常の手順で発行されている。その有効期限は一か月。つまり、あなたが指令を見るまでに一か月の猶予が見込まれていると考えてもよいだろう」


「一か月か……」


 小難しく答えてくれたが、要するに出発が一か月遅れてもいいってことだよな?

 帰還することには納得はしていないが、私も組織の一員だ。上からの命令には従わないといけない。


「あとは手紙だな。おや? プライベート? 私以外に見せるなってことか」


 封書には親展プライベートと書いてある。ここで封を切るのはよくないか。かといって城の中で見るわけにもいかないし……。


「私はこれで席を外そう。なにぶん、忙しいのでな」


 気の利く担当者だ。席を外してくれた。

 狭いが個室になっているここで手紙を読めば、誰も盗み見るようなことはないだろう。


「差し出し人はAの17、強面のベリポーク支部の支部長か……。んん?」


 表書きには親展としか記載がなかったのに、内部の手紙自体には最高機密文書と書いてある。持ち出せる封書の形態だったのに、中身は外部への持ち出しは禁止なのか?


『最高機密文書。

 Bの39。お前がこの手紙を受け取るのは、キャロンの町での騒動が一区切りついた頃だろう。

 では、本題に移る。くどいがこれは最高機密の文書だ。心して読め。

 X月△日。カレア王国の王城において、ベーグ帝国の高位の外交官が密談を交わす予定になっている。

 これは、ベーグ帝国とカレア王国が同盟を結ぶための事前の取り交わし。

 すなわち、ベーグ帝国がクロワセル王国に侵攻する際、カレア王国にクロワセル王国の背後を突かせる戦略だ。

 実はキャロンの襲撃計画は、この同盟交渉がうまく進むように発案されたものだ。

 クロワセル正規兵の武具を秘密裏に調達し、あたかも盗賊団がクロワセル王国に雇われているようにみせかる手筈になっていた。

 お前がこれをどう受け止めるかは自由だ。

 俺には帝都に妻子がおり、今の職位を失うわけにはいかない。動けないのだ。

 誠に勝手ながら、束縛のないBの39にカレア王国、それとクロワセル王国の未来を託す』


「なんだって!?」


 思わず腰を上げ、声を出してしまい、慌てて口を紡ぐ。

 深呼吸して座り直す。

 ベーグ帝国がカレア王国と同盟を結んでクロワセル王国に侵攻する。

 要約するとそうなる。


挿絵(By みてみん)


 それに盗賊団がクロワセル王国の手先だったってのは、偽情報だったのか!

 みんなまんまと騙されているぞ。

 実は帝国による偽装だったなんて、誰も思っていない。

 そして、私に国の未来を託す?

 とんでもないことが書かれている。


「間違いなく最高機密情報だ……」


 こうしてはいられない。関係のないこの国が戦争に巻き込まれるのは不憫だ。どうにかして止めないと。

 とにかく密談が交わされる王都ポワテに行くしかない!

 私は手紙を千切ってから焼却してもらい、さらに麻痺毒のビンの支給を受けて、支部を後にした。

なっしんぐ☆です。

誤字報告をいただきました。どうもありがとうございます。

以下のように003話、006話の誤字を修正しました。

誤:さぞ当たり前 ←方言? 普通に使っていました。スミマセン

正:さも当たり前

誤:おだてに乘る ←見たことのない漢字が! 誤変換??

正:おだてに乗る

なるべく誤字脱字が出ないようにしているつもりですが、やはりありますね……。反省。


お手数ですが、今後も発見されましたら報告をいただけると幸いです。

とくに方言や誤用は本人が気づくことができませんので、とても助かります。

来れる=方言 来られる、来ることができる=共通語 よくやらかします。


※なお、ご報告はありませんが、人や動物に対する脚、足の使い分けはしていません。同一話内で混在し、文面がややこしくなったからです。

通常は「足」表記で、テーブルなどは「脚」としています。

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