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023話 キャロンへの襲撃を阻止するぞ! 後編

「お答えしましょう。それは城の中の誰かが守兵団が北に向かうことを漏らしたのです♪」


 ピオがエムのポケットから出てきてみんなの前に浮かんだ。

 さっき、転移してすぐにポケットの中に隠れてたんだよな。


「誰かって、まさか作戦会議に出席してた人か?」


「そうだとするなら、最初から東門にするなり、放火位置を変えるなど大きな作戦変更ができたはずじゃ。じゃがどう見ても、今日急遽作戦変更したとしか思えぬ」


 今日のマオは揚げ足とり専門だなあ。

 作戦会議に出てた人はもっと前から守兵団が北へ向かうことを知っていたから、漏らすならもっと早くにできたのか。

 情報を外部に漏らさないように私たちすら軟禁されていたんだ。きっと、会議に出てた人は口が堅くて信頼のおける者ばかりなんだろう。

 それなら漏らしたのは誰なんだ?

 今日、作戦を知った者……。

 下っ端の兵士たちか!


「ピオピオは誰だか知っているのですか?」


「私は知りませんよ。しかーし! 聞き出すことならできますから♪」


「聞き出すとな? 人族が怖いのではないのかえ?」


 ピオはいつもポケットの中に隠れているしな。


「残念。人族に聞くのではありません。そこのお花に尋ねるのです♪」


 そう言うと、ピオは花壇の花の前まで下りて行き、スティックでポンっと優しく花びらに触れた。


「ふむふむ……。なるほど。今朝、ここに集合していた兵士の中で、途中に抜け出してそのまま戻っていない者がいるそうです♪」


 花びらに触れただけで、そんなことが分かるのか!


「守兵団は、なぜ待つなり探すなりしようとしなかったのじゃ?」


「お手洗いに行くと言って出て行って戻らなかったそうです。守兵団としては腹の調子の悪い者を戦場に連れてはいけない、との判断で放置したようですよ♪」


 ピオはポン、ポンとさらに二回花びらに触れて情報を聞き出した。

 内通者がいたことが分かり、盗賊団の妙な動きの謎が解けた。

 戦いを前にして、兵士の腹の調子が悪くなることなんて、ありがちなことだから誰も疑わなかったんだろうな。


「内通者を用意するとか、盗賊団、抜かりないな」


 ん? ピオはまだ花から何かを聞き取っている感じだな?


「同じように集合場所から抜け出した人が、もう一人いるそうですよ♪」


「そうなの!? その人は、やっぱりもう町の外に出ちゃってるんだよね?」


 もう一人いるのか!

 仲間を潜入させているのか、兵士を買収したのか、脅したのか……。

 綿密な襲撃計画書を用意していたし、こりゃあ、ただの盗賊団ではないな。

 あとで支部に報告を入れる必要があるぞ。


「えっとですね、裏庭のお花に聞いてくださいって返されました♪」


 兵舎は裏にあるから、まだそこに潜んでいるのか?

 だとしたら特定して私たちで捕まえよう。


「裏庭に行こう!」


 私たちは裏庭に急いだ。

 城の裏手には練兵場や兵舎、馬小屋などがあり、その分花壇の面積は正面庭園よりも少ない。もっとも、正面庭園には広い石畳の空間が設けられているから、向こうの花壇も極端に広いわけではなく、この城は実用性を重視した設計になっているんだなと思う。


「あっちに向かったようですよ♪」


 裏庭の花壇の花の前をピオが舞うと、今度はスティックで触れていないのに会話が成立した。

 どうやら、さっきスティックで触れていたのは花の意識をこちらに向けさせるためのようだ。


「あっちとな? 城の中かえ?」


 後ろを向くと大きな城が目に入る。

 今、城の中を通って裏庭に来たのに、誰ともすれ違わなかったぞ。

 内通者は既に城の奥に行っているのか?


「城の中ではなく、西の庭です♪」


「貴様ら、内通者を捕まえるのです!」


 どうやら内通者は兵舎から何かを持ち出して城の西側に向かったらしく、何かを企んでいることは明らかだ。それに、城から逃げ出さないということは、まだ盗賊団の勝利を疑っていないということなんだろう。


「わわわっ」


「魔物だ!」


「あれはオークジェネラル、強敵じゃ。どうしてこのような所におるのじゃ?」


 裏庭を西に向かって走っていると、ちょうど城の西の側面からイノシシ顔の魔物が現れた。オークの上位種のようで立派な鎧を身に着けている。

 見ただけで理解できる。あの魔物はとんでもなく強いと。


「あれれ? 襲い掛かってこないよ?」


「素通りしたぞ。どうする?」


 オークジェネラルは私たちには目もくれず、城の壁に沿って歩いている。このまま行くと裏口に至るが、どうする? 私たちで勝てるのか?


「あれは見たことがあるのです。たぶん、兵士長のペットなのです」


「なんじゃと、ペットじゃと? 放し飼いなのかえ?」


 いやいやいや。どう考えても、あんなのペットとして養うことなんてできないだろ。


「えっとですね、兵士長は魔物使いなのです。それで、兵士長が城を離れる際にはいつも部下に魔物召喚石を託していて、有事の際に召喚して代わりに城を守ってもらうことになっているのです」


「そうなんだ。じゃあ、あれは味方だね?」


「やたら城の壁に沿って歩いているのが気になるけど、味方なら内通者を捕まえるほうが先だ」


「今、城は有事なのかえ? 腑に落ちぬのぅ」


 オークジェネラルを放置して西側へと向かった。

 城の角を過ぎると西の庭が目に入り、その花壇の切れ目、城の西側の壁のすぐ下で、兵士の格好をした何者かが紙束に火をつけようとしていた。

 城によって遮られた北風が城の側面に集まり、城と城壁との間で速度を増して吹いていて、ここでは風が強い。それでなかなか着火しないようだ。


「不審者を捕らえるのです!」


 一斉に速度を上げて走り寄せる。

 不審者は私たちに気づくのに遅れ、逃げ出しはしたが、焦っていたのか途中で転び、すぐに追いついた。


「捕まえたぞ!」


 地面に腹をつけさせ、背中側で腕を掴む。

 諜報機関での訓練の成果だ。


「お主、今、何をしようとしておったのじゃ? ん?」


「貴様は盗賊団の仲間なのです。白状しやがれなのです!」


「ひ、ひええぇぇ!」


 まじか!

 レティが近寄って睨んだだけで体を震わせ、小水を漏らしたぞ?

 レティは可愛らしい女の子なのに、それはないだろ?

 まあ、なんとなく殺気みたいなモノを感じはしたけどな。


「た、たたた、助けてください、白状します!」


「貴様、全部吐きやがれ、なのです」


「君は盗賊団の仲間なの?」


 不審者はレティから顔を遠ざけるようにエビ反りするもんだから、代わってエムが尋問することになった。

 それによると、こいつはやはり盗賊団に買収されていて、ここで煙を出して城内を混乱させようとしていた。

 こいつは残念な奴だなあ。石造りの城は、紙束を少々燃やしたくらいでは火災にはならないぞ。


「なんと! 先ほどの魔物は、お主が召喚したのか! で、どのような命令をしたのじゃ?」


 さっきすれ違ったオークジェネラルはこいつが召喚したと白状した。

 そして、魔物召喚石から召喚される魔物は、召喚主の命令に従うようだ。

 その命令とは、


「城内で暴れろ? とんでもない命令をしたな! おいエム。すぐに行くぞ!」


「うん!」


「我が成敗してやるのです」


 尋問中にロープで手足を縛っておいたからこいつはもう逃げ出せないだろう。

 とにかくさっきの強い魔物が城内で暴れたら大惨事だ。

 勝てる見込みはないが、誰かが止めに行かないと、多くの人が死亡する事態になってしまう。城の中にはメイドなどの戦闘できない人が大勢いるんだ。

 私たちは急いで城の裏口に行く。

 そこには裏口を守っていたであろう兵士が二人、血を流して倒れていて、扉は破壊されている。


「オークジェネラルは、既に中に入っておるようじゃの」


「みんな、急ごう! 早く、早く!」


「キャアァァァーッ!」


 壊れた扉を通ると、悲鳴が聞こえてきた。

 ガラスや陶器が割れるような音、木製の何かが叩かれた音、布が破られた音……、いろいろな物が壊される音がする場所へと向かう。

 途中、床の絨毯には赤黒い染みがあり、壁際にぐったりともたれかかっている兵士の姿が見える。今は怪我人の救護よりも魔物を止めることが先だ。そうしないと被害者が増え続ける。


「見つけたのです! 貴様の相手は我がするのです。掛かってきやがれなのです!」


 ホールから廊下を二度曲がった所で、オークジェネラルを発見した。

 その前方には、ほうきで戦おうとしている事務員の姿がある。手足が震えていることが、ここからでもよく分かる。


「た、助かった……、ってお嬢様!? わ、私はお嬢様を置いて逃げてもいいのでしょうか?」


「貴様は邪魔なのです。早くどこかに消えやがれ、なのです!」


 事務員は一礼してこの場を去った。


「た、戦うよ!」


「お、おう」


 エムまでビビっている。もちろん私も怖い。

 オークジェネラルと比較したら、この間の凶変魔物が子供のように感じられる。それくらいに威圧感のある魔物なんだ。

 レティが半歩前で盾を構えて挑発、続けて自己強化の盾技を発動した。


 すると、オークジェネラルは体を反転させてこちらを向いた。

 や、やってやるぞ!

 ……足がすくんで前に出ることができない。

 しっかりしろ、私!

 あの大剣はレティが受けてくれる。それを信じて攻撃するんだ。


「ここでは火魔法はまずいのぅ。仕方あるまい。立ち塞がる者すべてを薙ぎ払う魔王の刃、メガ・エアスラッシュ!」


 マオはビビっていないのか、平常運転だ。

 空気の刃による先制攻撃!

 しかしそれは大きな盾で防がれた。

 今度はエムがへっぴり腰で足元を狙い、逆に蹴飛ばされる。


「ぐへっ」


 花瓶を巻き込んで後方に転がるエム。

 私は吹き矢で、蹴り上げた足を狙った。


「刺さったぞ、うわっ!?」


 麻痺針は見事に足に刺さった。それと時を同じくして、私の足元から鋭い岩の尖りが二本、斜めに突き出してきて頬を掠める。

 瞬時に避けることができたが、指一本ほどずれていたら顔に刺さっていただろう。


「こやつ、魔法を使うようじゃの」


 至近距離からの、地面から生えるタイプの魔法はレティの盾では防げないのか。

 いつ、またさっきの魔法が来るかと思うと、ますます恐怖心が募る。


「大剣を振りかざしたのです。チャンスなのです。シールドバッシュ!」


 大きな魔物が大剣を思い切り振りかざせるほど天井は高くない。

 必ず天井が邪魔で大剣が止まるはず……、


「ぶはっ。貴様、卑怯なのです」


 盾を前にして突撃したレティに、見事に大剣が振り下ろされた。

 レティは盾ごと後方へと押し戻される。

 そして天井は無惨な姿に……。


「うわっ!?」


「有象無象を跳ね除ける魔王の岩、メガ・ロックウォール! どうじゃ、ロックプレス返しになったであろう」


 間髪入れずに左右から岩盤が私たちを押し潰そうと迫り、それを、マオが背後に石の壁を生成して止めた。

 左右から挟んで私たちを潰そうとしたのは、オークジェネラルが発動したロックプレスって魔法だったのか。

 斬撃の直後に魔法攻撃が来る。気を抜く暇がない。


「マオ、こいつはどうすれば倒せるんだ?」


 守りを固めても、魔法で襲われる。

 かといって接近しても反撃に遭う。

 そして、左右にも背後にも岩の壁。退路はない。って、マオはわざと後ろに壁を作ったんじゃないだろうな?


「いずれ、さっきの麻痺針が効いてくるのじゃ。諦めずにまだ撃ち続けることが肝心なのじゃ」


 仕方ない。もう一度吹き矢だ。

 吹き筒を構えた今、私たちを囲んでいた壁が消えた。


「プリムローズ・ブラスト!」


 復帰したエムが左から闘気の玉を飛ばし、吹き矢に合わせてくれた。

 これならどちらかしか盾で防げない。どちらかが必ず当たる。

 よし! 見た目が派手な闘気の玉を防いだぞ。

 その結果、麻痺針が首に刺さった。


「動きが鈍くなったのじゃ。今じゃ。凍てつく魔王の矢、メガ・アイシクルアロー!」


「行くよ! プリムローズ・スプラッシュ!」


「今度こそ、シールドバッシュなのです!」


「喰らえ、ハリケーンスマッシュ!」


 オークジェネラルは反撃しようと大剣を∞字状に素早く振った。

 しかし、氷の矢が眉間に刺さってよろけ、大剣の軌道が乱れて壁に激突し、続けてエムによる無数の突き刺し攻撃でハチの巣状態になった。

 さらにレティの盾がアゴに決まって宙に浮き、私のハリセン殴打と同時に発生させた竜巻がオークジェネラルを高速回転させて壊れた天井にぶつける。


「おお! お嬢様が暴れる魔物を倒したぞ!」


「お嬢様が城の窮地を救ってくださった!」


「ああ、赦してください。正直言って、俺は怖くなって逃げたんです。それを、お嬢様が!」


 オークジェネラルは消えた。なぜか魔石にはならなかった。

 すると、遠巻きに見ていたのか、兵士や事務員など、城の中で勤務している者たちが集まってきた。全員、興奮して大きな声を上げている。


「レティお嬢様、素敵です!」


「私、しびれちゃいました~」


「すぐに汚れをお拭きします!」


 レティはメイドにも人気があるのか?

 メイド服の者たちがレティを取り囲んでハンカチで顔の汚れを拭き取っている。

 私の顔も拭いてくれてもいいんだぞ?


「レティシアよ。強大な魔物をよくぞ倒してくれた。礼を言おう、ありがとう。お前があのような魔物を倒せるとは思ってもいなかった……」


 人垣をかき分けて領主がレティの前に立った。

 そして肩に手をのせ、感慨深そうな顔で頷いている。


「我は強いのです。だから旅に出ても何も心配することはないのです」


「うーむ。ソレはソレだ」


 目を開き、レティの言葉を聞いていたが、また目を閉じて頷いている。

 レティが冒険者を辞めてここに残るって話は、レティ自身は納得していない。

 領主が挙げている理由の中で、何度も口にしていたのが魔物と戦うことは非常に危険だということだった。

 今、目の前で強い魔物を倒してみせて、少しは安心できたのではないだろうか? 少々苦戦したけどな。


「領主様、お嬢様。ここは危険です。場所を移されるのがよろしいかと存じます」


 事務員らしき者が、天井を見ながら進言した。

 ああ、言われる通り天井の部材が崩れて落ちてきそうだ。

 ここにいる者はこれで解散となり、私たちは客室に入ることになった。

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