020話 出頭命令!?
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昨日は山奥から森の中の屋敷へ、そして町に戻って報告と、いろいろ冒険した気分だぞ。
今日は、これから盗賊団への尋問結果を確かめるため領主館に赴く。
宿を出ると空は暗く曇っていて、今にも雨が落ちてきそうだ。
空を気にしながら歩いて領主館の敷地の前まで行き、門衛に用件を伝えて門を通り、正面口でもう一度衛兵に用件を伝えて堂々と中に入る。
すると、すぐにメイドがやって来て、応接室へと案内された。
「使徒様がた、大変お待たせしました。私はこの度新しく領主になったコットンと申します」
応接室で待っていると、若い女性が入ってきた。若いといっても私よりは年上だ。
やたら低姿勢だな。それに「使徒様」ってなんだ? まだその設定を引きずっているのか?
まあ、そのこともあって私はここで声を出すことを禁じられているんだけどな。
この間、クリム神様の声役を演じたから仕方ないよな。
下手に声を出すと「カスタ様のお声が!?」とか言われかねないしさ。
「父ブワデーは、領主の地位を私に譲り、罪を償うため、地下牢に入っております」
この女性が領主になった? 領主が隠居したのか?
そして領主が、いや、元領主が地下牢に入っているって?
誘拐事件を起こしたのだから、罰せられるのは当然のことだとしても、刑を決めるのは領主だからなあ。この新領主が裁いたのか?
「使徒様がたがお見えになられたら、失礼ですが地下牢までご案内するよう言い付かっております」
「そうなんだー。ブワデーさんに会いに地下牢に行くよ」
「尋問の結果を聞くだけじゃから、わざわざ地下牢に行かなくてもよい気がするがの」
そうだよな。
捕らえた盗賊団がジンジャー村を襲ったのかどうかを知りたいだけなんだから、伝言で事足りるよな。聞いてきてくれないかな?
「それは父が、地下牢に入っているその姿を使徒様がたに、さらにはクリム神様にご覧になっていただきたかったのでしょう」
はあ。クリム神様に見せたいのか……。私たちが地下牢に行っても、クリム神様には何も伝えたりはしないのが正直なところだ。
私たちは応接室を出、新領主の案内で地下牢へと下りた。
「おお! 使徒様! お待ちしておりました。ワシは罪を償うため牢屋に入っております。隣の商人メルチェ、さらに隣の執事クーゴともども、必ずや改心いたしますので、どうかクリム神様にはよしなにお伝えください」
ここでも「使徒様」かあ。
めんどくさいことになっている気がするぞ。
それに、隣の牢の商人と執事は巻き込まれたのか? だとしたら、申し訳ないことをしたな。
隣は見えないはずなのに、口裏を合わせたように三人揃って正座し、背筋を伸ばしている。
「お主らが罪を償おうとしておることはよう分かった。それで本題じゃ。捕らえた盗賊団はジンジャー村を襲ったのかえ?」
「それにつきましてはですな、捕らえた盗賊団は白、という結果でした」
「そうなんだー。他の盗賊団がやったことだとしても、何か繋がりとか、手掛かりとかも持ってなかったの?」
盗賊団って縄張りがあるらしいし、ある程度の情報の繋がりがあってもおかしくはないよな。
「それがですな、全員に個別に尋問しましたが、あのような残虐非道な集団は知らない、との言葉しか聞けませんでした」
「やはり手掛かりはないのじゃな。元領主よ、大義じゃったの」
「ぜひ、クリム神様には、よしなに……」
地下牢を後にし、領主館からも出た。
途中、新領主から元領主の刑期が一年だと聞かされて驚いた。
元領主が自らを裁いて刑期を決めたそうで。
あのような暗く湿った場所に好き好んで一年もいたくないよな。
それと、私たちが夜中に侵入した三階の寝室。あそこが「クリム神様から啓示を受けた神聖な場所」として多くの町民が礼拝できるよう改築を始めたとも聞いた。
私たち、とんでもないことをしでかしたんじゃないのか?
「すぅー……、ふあぁー。よし、ここなら声を出してもいいよな」
深呼吸し、エムの許可を得る。
「うん、大丈夫だよ」
「マオ、残念だったな。でもさ、私が何でもいいから盗賊団の手掛かりを見つけてやる。今からもう一度知人に尋ねてやるよ」
私には帝国諜報機関というバックがある。私はその一員だからな。
盗賊団は村を壊滅させるような目立つ行為をしたんだ。
いずれ必ず何らかの情報が上げられるはずだ。
もしかしたら、もう何かが上がっているかもしれない。
「お主の知人は、一体……」
みんなには中央広場で待ってもらって、私は帝国諜報機関のメルトルー支部へと向かう。
中央広場から東へ二本外れた通りに面する、外観はごく普通の民家。
その扉の前に立ち、小さなウエストポーチを開いて中から棒状の魔道具を取り出す。
それを鍵穴に差し込むと、第一の扉が開いた。
三歩進み、第二の扉の前に立つと。
「コードネームは?」
「Bの39、ミリアだ。報告に来た」
「合言葉は?」
「メ・犬・尻尾」
支部が設置されている町の名前の頭文字、月替わりの動物の名前、週替わりの部位が合言葉だ。小さい頃に徹底的に教え込まれたから、バッチリ覚えている。
ガチャリ、ギーっと音を立てて第二の扉が開いた。
内部はいくつかの小部屋になるよう仕切られていて、私は「東の三番に行け」と指示された。
東の三番に入ると、すぐに年配の女性が入ってきた。
いつもの聞き取り係だ。この人の役職とかは知らない。
「まずは報告から。珍しい魔道具メモリートレーサーを発見した。エムが持っている。それを使うと、記憶を絵にして他者に見せることができる」
「それはどちらで?」
「ちょっと難しくなるけどさ、迷いの森にある朽ちた屋敷についてはこの間報告したよな? その建物の東端の、失われた部分を発見したんだ。実際には石化してメルトルーの北東の山中に落ちていて、それにも関わらず、内部は繋がっていて、朽ちた屋敷の中から行き来できたんだ」
聞き取り係はやや首を傾げ、いくつか質問してはメモをとる。
まあ、私だって、突拍子もないことを言われたら、いろいろ尋ねたくもなるよな。
ここにメモリートレーサーがあれば、一目瞭然でそれだけで説明完了になっていただろうな。それくらい有用な魔道具だと思う。
「もう一つ。エムの勇者パーティーは、領主から『使徒様』と呼ばれるようになった」
「どうして『使徒様』と呼ばれるように?」
「そ、それは、ク、クリム神様の啓示を、受け、たからだ」
あぶねー。
この間の夜のことを思い出して笑いそうになったぞ。
私がカスタ様だもんな。
それからどのような啓示だったかなど、詳細を尋ねられ、簡単に答えておいた。
「それと、今日は情報を求めてここに来た。前にも尋ねたことなんけどさ、ジンジャー村を襲った盗賊団について、なんでもいいから手掛かりを教えて欲しい」
「ジンジャー村を襲った盗賊団……。こちらでは、さらなる情報は掴んでいません。調査を続行しましょう。あ、そうそう、ベリポーク支部からBの39に出頭命令が出ています。早急に向かわれますように」
出頭命令?
私、何かヘマをやらかしたか?
それとも、多くの情報を流し過ぎて、整理が必要になったのか?
勇者パーティーに潜入しているとか、悪徳領主の誘拐事件を解決したとか、朽ちた屋敷を発見したなどの情報は流した。それでも、妖精や小人のことは伏せておいたし、慧変魔物のことも伏せてある。
ほとんどがこの支部に流した情報だな。
そう考えれば、それほど多くの情報を流したともいえないか。
とりあえずベリポーク支部に行こう。転移で行けばすぐだしな。
盗賊団探しはそれからだ。
支部から出て中央広場に向かう。
「おーい、エム! 戻ったぞ」
「どうだった? 何か見つかった?」
「まだ難しそうだった。でも、必ず見つけてやる。それと、ベリポークの知り合いから会いに来てくれって頼まれたんだ。だから、ベリポークの町に連れて行ってくれ。ピオなら簡単なことだろ?」
エムのポケットの中のピオは「任せてください♪」と返事をした。
「ベリポークの知り合いとメルトルーの知り合いとは互いに懇意なのかのう?」
懇意というか、組織の仲間なんだよな。
明かせるわけがないだろ。
「ま、そんなところだ」
私たちは人目につかない場所に移動し、ベリポークの町へと転移した。
ここはエムたちと初めて出会った町だ。
みんなにはどこで待っててもらおう?
私としてはなじみが薄く、それに宿をとるには早すぎる。
とりあえず、
「冒険者ギルドで待っててくれ。すぐに戻ってくる」
と言って、ベリポーク支部へと向かった。
こちらも外観は普通の民家。
合言葉や二重扉の仕組みはどこの支部も同じで、私はサングラスをかけた強面のオッサンに小部屋へと誘われた。
出頭しろ、とのことだったから、このオッサンに何か叱られるのか?
「Bの39。調査結果の報告だ」
あれ? 何か頼んでいたっけ?
きょとんとしていると、オッサンは話を続けた。
「ジンジャー村を襲撃した盗賊団の行方についてだ。いいか、一度しか言わないから、よく聞けよ」
盗賊団?
たしかに最初ここで尋ねたが、そのときはロクな情報はなかった。
まだ調べてくれていたのか。
「ジンジャー村を襲撃した盗賊団のアジトは、ガリックの町にある」
まじか!
超重要な情報じゃないか。
テーブルの上に置かれた調査報告書を手に持ち、まず目に入ったのが「最高機密文書」の文言。報告書の冒頭に赤色で大きく書かれている。
機密文書はここから持ち出すことはできない。
気合を入れて詳細までよく読む。
下っ端の私が尋ねたことを、よくもまあ詳細まで調べてくれたものだな。
「オッサン、情報ありがとうな」
「俺はオッサンじゃない、Aの17、支部長だ! 本来なら下っ端のBの39の依頼など……、まあ、よい。Bの39、お前は何者だ? なぜそのような権限を……、いや、同じ組織の人間だ。詮索するのはよそう」
「はあ? 権限? なんだそりゃ? ま、情報、助かったぜ。じゃあな」
私はベリポーク支部から外に出て、冒険者ギルドへと向かう。
重要な情報を入手でき、今は心躍る気分だ。
「待たせたな。凄い情報を手に入れたぞ」
「手に入れた? お主……」
「で、どんな情報? ここで聞いてもいいかな?」
「マオリーの仇の情報だから、隠すことなどないのです。ここで堂々と言えばいいのです」
それもそうだよな……、って、ここにも盗賊団の関係者がいるかもしれない。
アジトの情報だから、漏れていることが明るみになると移転されるかもしれないよな。
用心するに越したことはない。町の外に出て誰もいない所で話すほうがよさそうだ。
今日の私、冴えてるぞ。
「ビッグニュースだから、ここだとダメだ。町の外で話す」
「もったいぶりおるのぅ」
私たちは町の外に出た。
せっかくだから、常設の弱い魔物討伐か、薬草採取でもしておこうという話でまとまっている。
指名依頼を二回もこなしたから、資金には余裕がある。
それでも、日の高い時間帯に何もしないのはもったいない。
全員、貧乏性だよな。
「驚くなよ。実はな、盗賊団のアジトの場所が判明した」
「うそぉ! それって物凄く大事な情報だよ!」
「本当なのじゃな。こうしてはおれん、すぐに乗り込むのじゃ」
マオリーがそわそわしだした。
まだ行き先を言っていないぞ。落ち着けよ。
「アジトは、ガリックの町にある」
「うほっ。ガ、ガリックなのですか」
今度はレティがそわそわしだした。
突然、兜をかぶったぞ。
エムまで何か慌てている感じがする。
なんだ? ガリックに何かあるのか?
「ガリックに行くには馬車を乗り継いで行く必要があるから、出発は明日の朝がいいだろう」
調査報告書の添付資料には、ガリックに行く手段についてまで書いてあった。
至れり尽くせりだよな。
「我は歩いてここに……、む、独り言なのです。気にするな、なのです」
「そっかー。それなら今日はこのままいつもの林行きだね」
町の南西にある林へと向かう。
今日の宿代ぐらいは稼げるだろう。
ガリックの町に向けて出発するのは明朝だ。




