185話 エピローグ
とんがり山の山頂。
エムたちはメルリーと合流するためにここにやって来たのだが、どこを見回してもメルリーの姿が見えない。
「おーい、メルリー。迎えに来たぞ」
「メルリーや。隠れてないで姿を見せるのじゃ」
「どこにもいないね」
岩の陰に隠れているのかと思い、裏まで回って捜しても見つからない。
「このお花は!」
ピオピオが発見した一輪の花。白いフリルのような花びらで、その茎には赤いペンダントがかけられている。また、近くには魔杖アルティヴェスが転がっている。
「そのペンダントは、メルリーにプレゼントした物ではなかろうかの?」
「うん。きっとメルちゃんの物だよ。どうしてここに置いてあるのかな?」
「席を外す意思表示に違いないのです」
「異界ゲートをくぐると十日ほど日数が進むって言っていたしな。山から下りたのかもな」
ピオピオがふわりと飛んで白い花に近づいて行く。
「山を下りたのではありません。このお花がメルリーさんです♪」
「「「「えええええー!」」」」
全員が白い花を囲んで腰を低くした。
マオリーは葉に触れ、それから赤いペンダントを手の平の上に置いてまじまじと眺める。
「ピオちゃん、冗談だよね?」
「それは本当のことなのかえ? メルリーが花になっておるとは、理解に苦しむのじゃが」
「お花になった理屈はわかりませんが、このお花からはメルリーさんの気配を感じます♪」
「人の姿に戻す方法はないのですか? 妖精のピオピオなら知っていそうなのです」
「残念。人をお花にする方法も、お花を人にする方法も私は知りません♪」
「じゃあ、どうすればいいの?」
エムは魔杖を拾い、それを立てて支えとするように腰を起こす。
「ここでメルリーは命の神の声を我らに届けていたのです。命の神なら何か知っているかもしれないのです」
「そっか、命の神様か。呼んでみよう」
片膝をつき、手を組み合わせて祈りを捧げるミリア。
すると、やや高い位置に命の神の姿が現れた。
『ミリア、あなたが私を呼びましたか?』
「うん、呼んだぞ。この花はメルリーなのか?」
見上げて頷き、すぐに下へと視線を移して尋ねた。
『はい、メルリーです』
驚くことも隠すこともなく、極めて冷静に答えが返ってきた。
「どうしてメルちゃんが花になっているの? メルちゃんを人の姿に戻してよ」
『あなた方が悪魔と戦っている間、そして虚無神と向かい合っている間、メルリーはここであなた方に神力を送り続けていました。人の身でありながら膨大な神力に長時間触れすぎたため、神力の影響を受けることとなったのです』
「神力って影響を受けるのか」
「受け取ったエムは大丈夫なのかえ?」
『あなた方に送った神力は障壁展開や神剣活性化に使われましたので、影響はありません。メルリーは神力に直接触れていたため影響がありました。送り続けた神力はあらゆる世界に存在する神々から与えられたものでしたが、メルリーは私と同化していたため、とりわけ私と花の神に由来する神力が多くを占めていました。その結果、メルリーは花の姿となったのです』
「花の神様?」
『以前お話ししましたが、私が神界からこちらの世界へと避難した際、花の神の世話になりました。滅びかけていた私は花の神と同化することで消滅を免れたのです。それで私と花の神とは結びつきが強く、メルリーは花の神の神力の影響で花の姿となりました』
「よくわかんないけど、神力で花の姿になったのなら、神力で人その姿に戻してよ」
『メルリーは神界を救った立役者ですから、そうしたいのは山々なのですが、残念ながら私には何の手立てもありません』
「まじか。メルリーを元に戻せないのかよ」
『はい。花の命は短いです。少しでも寿命を延ばすため、こちらに置いておくのではなく、妖精の国にいる花の神に委ねることをお勧めします』
「メルリーさんを、妖精の国に運びましょう♪」
白い花を鉢に植え替え、大事に運ぶ。
カレア王国へと転移し、妖精の姿となってゲートをくぐり、妖精の国に入った。
「お花の神様の神殿の近くに植えましょう♪」
花でできた神殿、その傍らで人の姿に戻り、白い花を植える。
「ここまで来たんだ。花の神様に会って話を聞かないといけないよな」
ミリアが祈りを捧げると、神殿の奥に花の神が現れた。
『憐花の勇士よ、わたくしを呼びましたか?』
「ああ、呼んだぞ。まずはここに植えたメルリーをできる限り長生きするようにしてほしい」
『はい。慈しみをもって育てましょう』
「花の神様もメルちゃんを人の姿に戻すことってできないんだよね?」
『わたくしの力では、神力で花の姿になった者を人の姿に戻すことはできません』
「元に戻す方法を知っている神は、知り合いにいないのですか?」
『はい……。数千年の時があれば戻せる可能性がありますが、花の姿のメルリーさんの寿命を考慮すると、神々にはなす術はありません』
「時の神様に時を止めてもらえばいいってことか」
「それで解決するのであれば、なす術がないなどとは言わぬじゃろうて」
『神々にはなす術がありませんが、あなた方には可能性があります』
「我らの力で戻すことができるのですか?」
『はい。著しく低い可能性ですが、あります。それは、願いを叶える神器デザイアリングを利用する方法です。ただ、デザイアリングに溜まっていた神力は先のフォーガ獣国における地底人との戦いでほとんどが使われたため、このままでは願いを叶えることはできません』
「神力が枯渇しておる状態で試すということかえ?」
『いいえ。それでは願いは叶いません。あなた方の行動をもって神力を溜め、輝きを取り戻すことができれば、この場においてその力を解き放つことができるでしょう』
「デザイアリングを借りて、メルリーさんを人の姿に戻しましょう♪」
エムたちは妖精の姿となって小人の国へと移動し、族長のゆゆからデザイアリングを借り受けた。
「デザイアリングの神力はほぼ空だっぺ。借りてどうすっぺか? 自然回復だと千年ほどかかるって言い伝えがあるが誰も試した者はいないべなあ」
「デザイアリングを所持して善行を積めば、神力が溜まるかもしれないって花の神様に教えてもらった。私たちはそうするしかないんだ」
「善行のあては今のところないがの」
「そうっぺか。善行とは困りごとを解決する行為でよかろう。ならよ、床に世界地図を広げるっぺ。んでな、サーガ・スリングを手にして困りごとのある者を探すと念じ、歌いながら小石を軽く弾くといいべ」
「そのような手段があるのですか」
「はーい。困っている人、どこですか~。私たちが助けま~す♪」
ピオピオがサーガ・スリングで小石を弾いた。
小石は地図上をころころ転がり、バタロン王国の上で静止した。
「まさか、ここに助力を求める者がいるのか?」
「そうだべ。気の変わる前に行くといいっぺ」
小人の国から妖精の国、カレア王国へと移動し、人の姿に戻ってからバタロン王国のジューシー族の村の北、白虎岩の傍へと転移した。
「白虎岩の周りに人が集まっているね」
「白虎岩に、いくつもハシゴが立て掛けられているのです」
「盗人だ、ごるあ! いいところに現れたぜ、ごるぁ!」
「ああん? サルどもかい。ちょうどよかった。手伝っておくれよ」
「盗人ではないが、困りごとを解決するのはやぶさかではないのじゃ」
白虎岩の前には新しい祭壇岩が設置されている。
明日、その設置を祝う祭りを行う予定で、その前段取りとして汚れた白虎岩を綺麗に掃除することになった。
白虎岩の周囲にはいろいろな果実の姿のジューシー族がデッキブラシを持って集まっていて、白虎岩を掃除している。ただ、白虎岩は見上げるほどに大きく、ハシゴを立てないと高い所は掃除できない。
ところが、ジューシー族の者がハシゴにのぼると、その体の形状のせいで転がり落ちて掃除することができない。
そこでエムたちに高所の掃除を依頼したのだ。
「ぶるぶるっ。ここは嫌な寒気がするのです。とっとと終わらせるため、リバサンを呼ぶのです」
「お。それは良い考えだ。あいつなら浮かんで水をぶっかけられそうだ」
白虎岩の掃除に水神リバサンを呼び出したミリア。
その効果は上々で、リバサンは白虎岩の周囲を浮かんで回り、圧のかかった水流を当てて、あっという間に汚れを落としていく。
「魔物かと思ったじゃねえか、ごるあ!」
「びっくりしたろ~」
「ぼぼぼぼ、逃げるので精一杯だったぼん」
「サルどもにしては上出来だねえ」
一度はクモの子を散らすように逃げたジューシー族の面々だったが、遠巻きに観察し、リバサンが魔物でないと認識すると近くまで戻り始めた。
「うむ。デザイアリングの輝きが少しだけ増したようじゃの」
「次行こ、次。困りごとをどんどん解決しよう」
世界地図とサーガ・スリングで目的地を探し、善行を重ねる。
ベーグ帝国の帝都では、ベッティが謎の魔道具を作成し、広場に巨大な陥没ができ、町の者が困っていた。ロックゴーの力を借りてその穴を埋めることで善行を積んだ。
フォーガ獣国では病院のレレハ院長が流行病の対処について悩んでおり、マオリーが新たな薬の知識を授けることで悩みを解決した。
聖クリム神国のクリム大聖堂において、エムたちは実体験を教皇などの前で披露することになり、創造神と破壊神は表裏一体だという新しい教義をつくるための礎となった。
魔族の国ジャジャムでは、水と野菜についての利権がらみの騒動が勃発し、魔王エムが水神リバサンの背に乗って仲裁に入ることで騒動を抑え込んだ。これによりエムは名実ともに魔王として認められることになった。
「デザイアリングの輝き、最初の頃よりだいぶ増したぞ。そろそろいいんじゃないか?」
「うん、花の神様に見てもらおう」
妖精の国、花の神殿へと赴き、花の神を呼ぶ。
『どうされました?』
「デザイアリングの輝きが増したからさ、見てもらおうと思って」
「こんな感じだよ」
『まあ。短期間で多くの善行を積みましたね。これだけ神力が溜まっていれば、願いが叶うことでしょう』
エムが掲げるデザイアリングを確認した花の神は、続けて儀式の方法をエムたちに伝えた。
それに従い、白い花を覆うように神剣ディティエリミネーター、神剣エステシア、神杖アルティヴェスを立てて三角錐を作る。その頂点にデザイアリングを置き、エムたちは手を繋いで四角形になるように白い花を囲んで座る。ピオピオはエムの肩の上だ。
「デザイアリングよ、メルリーを人の姿に戻すのじゃ。どうか、妾たちの願い、叶えたまえ」
四人はやや俯き、目を閉じて祈る。
祈れば祈るほどそれぞれの胸が熱くなり、そこからデザイアリングへ向けてふわふわと光球が浮かんで飛んで行く。
すると突然デザイアリングから眩しい輝きが解き放たれ、その光の中に人の影が形成されていく。
「お、おおぅ、メル、メルリー!」
輝きが収まる前にマオリーは繋いだ手を放し、立ち上がって輝きの中へと入り、メルリーに抱きついた。
「うふ。お姉ちゃん、お帰りなさいだっちゃ」
「おおう、メルリーや。お帰りなさいはメルリーのほうじゃ」
「うん、メルちゃん、お帰りなさい」
「やった! メルリーが元の姿に戻ったぞ」
「メルリーなのです」
『あなた方は新しい結果の世界に到達できたようですね。おめでとう』
「ううぅ。メルリー、会いたかったのじゃ……」
「私もお姉ちゃんに会いたかったっちゃ……」
デザイアリングの力を使い、メルリーが存在する結果の世界を創造したエムたち。
悪魔ならびに虚無神から世界を救う偉業を成した立役者は揃った。
それぞれ、住まうべき地へと意気揚々と帰還する――。
ベーグ帝国において。
多くの民が見守る中、凱旋パレードが行われ、続けてミリアの戴冠式が行われた。
ベーグ帝国にも各国と繋がる転移石が設置され、これまでの鎖国政策は撤廃、帝都には世界中から賓客や見物客が訪れることとなった。
「俺の娘ミリアは、今このときをもって、ベーグ帝国の皇帝だ」
「アンヌ神様の啓示だからしょうがなく皇帝になったけどさ、私は戦争には反対だ。世界中の国々と友好関係になることをここに宣言するぞ」
皇帝となったミリアは賓客として招いた世界各国の王が見守る中で帝冠を授かり、世界中の国々との友好関係樹立を宣言した。
もちろん、魔族の国の魔王エムも招待されており、ベーグ帝国は魔族の国とも友好関係を結ぶこととなった。
魔族の国ジャジャムにおいて。
クロワセル王国とフォーガ獣国からの食料などの人道的支援を多く受けることで、魔族の民は人族に対する敵愾心を改め、友好的な考えへと導かれた。
また、両国の闘技場での催し物に魔族の戦士が参加し、拳を交えての友情が芽生え始めた。
闘技場の外では、エムたちが土地を広く開墾することで魔族の国の名産物となったアカリンコンとジャガイモの料理が振る舞われ、彫刻品が展示されるなどして、人族の庶民が魔族の国に関心を持つようになる。
人族においても魔族の見方を変える者が増加し、概ね友好的な考えが広がっていった。
エムは毒地を肥沃な大地へと変えることで食糧難を解消する偉業を達成したことに留まらず、人族と和解し、魔族の国を恒久的な平和へと導いた偉大な魔王として歴史に名を残すことになる。
フォーガ獣国のアミノンの町において。
世界を救った獣王が経営する闘技場は連日大盛況で、たまたまエキシビジョンマッチとして出場したレティシアは無類の強さを誇り、挑戦者をことごとくねじ伏せた。
その原動力になったのは二つの技。一つは剣技ドラゴニック・スラッシュで、威力を加減して放つ術を得た結果、対戦者の腕を切り落とすようなことはなくなった。もう一つは憐花の勇士技ガザニア・ライトニングシールドで、盾から水平に広く放たれる雷撃はどの挑戦者も躱すができない強力技となっていた。
その後も時々エキシビジョンマッチが開催されることとなり、
世界各地からレティシアに挑む強者が集うようになった。なお、この収益はフォーガ獣国の発展と、魔族の国の開発に費やされることとなる。
「早く言葉を覚えるのです」
「クエェ」
ドラゴンの領域、竜王のねぐらにおいて。
ここに独立した転移石を設置し、レティシアは子供ドラゴンに竜王としての教育を施すため何度も足を運ぶ。レティシアは獣王のほか、真の竜王としても広く認められることになる。
妖精の国において。
帰還したピオピオは、「スーパーエリート妖精」の肩書を得、花の神を祀る神殿の責任者の職をあてがわれた。
年に数回ミリアたちを呼び、花の神を降臨させて望みの花を尋ねて植える。妖精は皆、花に囲まれていれば幸せであり、この幸せな空間は花の神に守られて末永く続くこととなる。
カレア王国のジンジャー村において。
全村人の総意で村長となったマオリー。
魔族の国で培った前世の知識を最大限利用して畑地を開墾し、水路を設けて収穫を増やす。
年々ジンジャー村の生活は豊かになり、人口も増えていく。
そんな村長を支えるのは妹のメルリー。
率先して開拓を行い、時には命の神を降臨させて農作物の生育を推進する。しばらくの間命の神と同化していたメルリーにはそんな特技が身についていた。
「お姉ちゃん、今日はこんなに収穫があったっちゃ」
「おおぅ。ありがたいことじゃ」
ジンジャー村はやがてカレア王国でも有数の裕福な町として発展する。
また、マオリーは魔族の国において魔王補佐としても活躍し、魔族の安定した生活を陰ながら支える。
エム、マオリー、ミリア、レティシア、ピオピオの五人は、生活する場は離ればなれとなったが、互いに転移石で行き来できるようにし、月に一度は集まって慈善事業を行っている。
「困っている人、どこですか~。私たちが助けま~す♪」
「おお、今日は聖クリム神国の聖都ルレミ・ルクか」
「きっと、生臭聖職者のインチキ話なのです」
クリム大聖堂を訪れたエムたち。水神の使徒として認められており、教皇への謁見は最優先でかなった。
「困りごとがないか、ですか。そうですね、大変困っていることといえば、現在、フェルメン湖のほとりに水神様を祀る神殿を建てているのですが、最近水神様が現れてその邪魔をなされることでしょうか」
水神リバサンと意思疎通のできない教皇は、リバサンがなぜ神殿建設の邪魔をするのかその理由が分からない。その調査をしてほしいとのことだった。
早速、エムたちは現場へと向かった。
「おーい、リバサン。話があるから出てきてくれ」
両手を組み合わせて祈る仕草をしながらも、声にするのはただの呼びかけ。
『名ヅケノ者ヨ、呼ンダカ?』
現れたリバサンに建設の邪魔をする理由を尋ねると、それは神殿は石造りで、ミスリルが使われていないことが気に食わないからだった。
その旨を教皇に伝えると、直ちに神殿の内部にはミスリルを多用することとなった。
神殿は無事完成し、そこには世界各地から大勢の人が拝みに来るようになる。
「クラハイト修道院にはミスリルなんて使っていないのに、ここだけミスリルにこだわるのは納得がいかないぞ」
クラハイト修道院では水神リバサンを祀っている。そちらでリバサンを崇めても邪魔されたとは聞いたことがない。
『修道院ハ修行ノ場。神殿ハ我ヲ崇メル場。根本的ニ違ウ』
リバサンの声が聞こえたような気がした。
「困っている人、どこですか~。私たちが助けま~す♪」
今日も、サーガ・スリングで弾かれた石が地図の上を転がる。
世界各地を転々と。エムたちの活躍は末永く続く――
なっしんぐ☆です。
最終話までお読みいただき、ありがとうございます。
主人公エムが空気となる設定だったのですが、視点が主観なこともあり、うまく表現できませんでした。反省。
全体の流れとしては、中盤辺りから話を進めることを優先し、枝葉となるサブイベントをほぼカットして幹に専念、さらに説明文を減らして会話主体でペースを上げました。
その結果、なんとか最終話に辿り着くことができました。
【制作裏話】
大プロットの初版では、「え! 俺も勇者!?」からレイナ、ユーゼ、ポップの三名が迷宮の罠で異世界転移して現れ、共闘し、故郷に戻る方法を探る物語としていました。
しかし、世間一般ではこの三名を知らない方のほうが多いことを思い出し、断念して現在の形に変更したという経緯があります。
Thanks for your reading.




