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183話 私たちの世界が危ないよ 後編

『お姉ちゃん、注意するっちゃ。第一位の悪魔、ザナルデウスだっちゃ』


 バルゼゴブの切断された首元から這い上がってきたのは人型の悪魔ザナルデウス。その体全体がバルゼゴブの中から出ると、バルゼゴブは黒い霧のようになって消えた。


「まさか第二位の悪魔の中から第一位の悪魔が出てくるとはの」


「ζEδDAGφ……」


「何か言っているぞ。ピオ、翻訳だ」


 異界ゲートをくぐることでピオちゃんの翻訳魔法は効果時間が切れていて、ザナルデウスの言葉を訳してくれてはいない。さっきのバルゼゴブは何も言葉を発することがなかったから切れていることに気がつかなかったよ。


「はーい。カイワ・セイリーツ♪」


『……時が正常に流れているのか。ほほう。バルゼゴブの首を刎ねたのは貴女か』


「そうだよ。私たちが退治したんだよ」


 魔剣の汚れをチラリと見て苦笑いを堪えているような顔をした。頭一つ分ぐらい背が高いだけなのに、酷く見下されている気分になる。


「妾は争いごとは好まぬ。どうじゃ、お主はどこか遠くの世界に消えてもらえぬかの?」


『ふぁーっはっはっ。永い眠りから覚めたばかりでここがどこかは知らぬが、余に消えろだと? 余は世界を漆黒の闇に塗り替えるために存在する。闇に消えるのは貴女らのほうだ。さあ、とばりの一幕になってもらおう』


「やはり説得には応じぬか。仕方あるまい、実力をもって退いてもらうのじゃ」


 ザナルデウスは背中の羽の形とかの容姿が全体的に魔族と似ているんだよね。違うのは肌の色が黒っぽいところだけ。説得したくなるのも理解できるよ。

 でも、説得に応じなかったから、戦うしかない。それこそが命の神様の願いだから。


「強大なマナの流れを感じます。念のため魔法耐性アップの旋律を奏でますね♪」


 ややゆったりとした曲が流れだした。これで魔法耐性が上がっているはず。

 先手必勝、左から私が、右からマオちゃんが剣で斬りかかる。


『セ・ダテ・ホッシュ』


「ひゃっ!」

「むおっ!」


 やや高くに掲げられた右腕が斜めに振り下ろされると、その軌跡が鋭利な手刀となって飛び出した。私の魔剣とマオちゃんの聖剣が手刀を切り裂くことで直撃を免れる。それでも余波の勢いで二人とも後ろに転がされた。

 痛たた……。これでも魔法耐性が上がっているんだよ……。


『マカ・オン・シュベラ』


「うひゃっ。あちちっ。半端ないな!」


 転がる私たちを飛び越えてハリセンで殴りかかったミリアちゃん目掛け、左手から火炎放射が浴びせられる。ハリセン大振りで風を起こして火炎の向きを微妙に変え、こちらも直撃を免れている。


『レグ・イデ・スピラ・サン』


「ぎゃっ」

「うはっ」


 ミリアちゃんの着地を狙って地面から鋭利な尖りが複数突き上がり、さらに左右の地面が板状に起き上がって私たち三人を挟み込もうとする。


「有象無象を跳ね除ける魔王の岩、メガ・ロックウォール」


 転がって尖りを避けつつ、マオちゃんが岩の壁を生成して挟み込みを阻止した。あと少し遅かったら私とミリアちゃんがぺちゃんこになっていたよ。


『ほう。余の魔法を止めたか。少しはやるようだ。石像の相手ぐらいにはなるかな? カル・ザ・ルイゴ・デラ』


「ガーゴイルじゃ。しかも三体とはの」


 鳥に手足が生えたような黒い石像が三体現れ、槍で突いて私たちを囲い込もうとする。


「貴様ら、一旦我の盾の有効範囲まで下がるのです」


 言われるまでもなく、すぐにレティちゃんの後ろまで下がったよ。


「強力な魔法を次々撃ってきて、接近戦に持ち込めそうにないと思っていた矢先、召喚魔法まで使うのか。石像だと分が悪いぞ」


 石像ガーゴイルはザナルデウスを攻撃するには邪魔な位置にいて、先にそちらから退治しないといけない。でも、石像って剣で斬ることができるのかな?


『お姉ちゃんのディティエリミネーターなら、なんでも斬れるっちゃ。一体ずつ仕留めるっちゃ』


 そっか。マオちゃんの剣は聖剣神殺しって名前だからなんでも斬れちゃうんだね。それは私の魔剣でも同じのはず。


「レティちゃんが標的固定している間に、横から石像ガーゴイルを斬っちゃおう」


「うむ。妾は右から行くのじゃ」


 標的固定を発動したレティちゃんの盾を執拗に槍で突いているガーゴイルに、私は左から、マオちゃんは右から剣で切りつける。


 ズバッ!


 とくに剣技を使わなくても、大振りするだけでガーゴイルを二つに裂くことができた。続けて水平に薙ぐことでもう一体も裂く。マオちゃんが倒したのを含め、三体すべてを裂くことに成功した。


『ほほう。石像では役不足か。ならば余の槍の餌食となれ』


 ザナルデウスは黒い炎をまとった槍を手にし、拳一つ分ぐらい浮かんだまま滑るように前進。勢いをつけての連続刺突!


「わわっ」

「ぬぅっ」


 瞬時に横に飛んだ私のすぐ隣を槍が通り過ぎる。続けてマオちゃんも横に飛び、そちらもすぐ近くを槍が通過した。

 槍は二人を追尾することなく前進し、レティちゃんの盾に向かう。


「ぐくくぅ……。強烈な突きなのです」


 私とマオちゃんは改めてレティちゃんの後ろに立ち、反撃の機会を窺う。

 連続刺突中にミリアちゃんが紫色の闘気玉を撃ち、それは刺突で消された。

 横に飛び出し大回りして背後を狙おう。チラリとこちらを見たマオちゃんも同じ考えだよ。

 アイコンタクトをし、一斉に横に飛び出した。

 それを狙う黒い槍。連続刺突は見た目の槍の長さ以上に射程が長く、横に飛び出た私たちにも矛先が届く。

 私とマオちゃんは転がって避け、それでも背後を狙うため前進を試みる。

 十分近づいた所で起き上がり、剣を構えて跳びかかる。


『ダル・ペクト・エラダ』


「きゃっ」

「むほっ」


 あと少しで斬りつけられたのに、ザナルデウスの体を中心とした球状の黒い波動が発せられ、私とマオちゃんは遠くに吹き飛ばされた。


「痛てて……。接近戦を挑むには隙がないのう。こうなったら魔法で押し込むしかあるまい。メルリーや、魔杖の力、妾に多めに寄こすのじゃ」


『こほっ。わかったっちゃ。行くよ、お姉ちゃん』


 レティちゃんの後ろへと戻ったマオちゃんの体が薄く光を放つ。


「うむ。すべてを爆散する魔王の業火、ギガ・エクスプロージョン!」


 聖剣をスティックに持ち替え、その先をザナルデウスに向けて魔法を発動。ザナルデウスの胸辺りに一瞬赤い玉が現れ、それが爆発へと変わって体全体を爆散させたかのように見えた。


『ほほう。貴女らをみくびっていた。バルゼゴブを屠っただけの力はあるようだ』


 魔法を当てたことで連続刺突は止まった。

 腕で顔を拭い、その手で胸の辺りを払ったザナルデウス。受けたダメージは小さい模様。

 連続刺突で体力を奪われたレティちゃんは急いでポーションを飲んでいる。


「おおう。直撃のはずじゃが、傷らしい傷など一つもついておらぬのじゃ」


『お姉ちゃん、次、行くっちゃ』


「そうじゃの。圧倒されるだけでは何の解決にもならぬ。ではこれならどうじゃ。あらゆる物を溶解する魔王の津波、ギガ・レジアウエーブ」


『レグ・イデ・ドルガ』


 巨大な波が出現し、ザナルデウスをもう少しで飲み込もうとしたところで地面が盛り上がって壁となり、波を左右へと分断させた。

 盛り上がった地面そのものはジュゴッと音を立てて白い煙を上げ、溶けるように崩れていく。

 なにあれ? なんでも溶かす波なの? 地面の土どころか、岩なども溶けているよ。

 それでも巨大な波はザナルデウスには届かなかった。


「ザナルデウスが防御したぞ」


「あらゆる物を溶解する液ゆえに、直撃できれば多少は効果があるはずじゃ。しかし、大魔法ゆえ連発はできぬ。新たな手を考えねばの」


「私も闘気玉を飛ばすよ。プリムローズ・ブラスト」


 剣先をザナルデウスに向け、闘気玉を飛ばした。

 間合いが広いこともあり、真っ直ぐ飛んで行くだけの闘気玉は易々と手刀で撃ち落とされた。


「吹き矢ならどうだ」


 手刀の動き始めに合わせて放たれた吹き矢。もう片手が指を鳴らすだけで弾かれて地面に落ちた。


「やっぱ、もう少し間合いを詰めないと手出しできないぞ」


「たしかに、今の間合いはあやつの得意な距離なのじゃろう。しかしじゃ。安易に間合いを詰めると、向こうからの魔法への対処が難しくなるだけじゃぞ」


「貴様ら、憐花の勇士として覚醒した我の存在を忘れているのです。我が突進するから、貴様らはそれに続きやがれなのです」


「そうだね、後ろをついて行くよ」


 レティちゃんが盾を前に構えて走りだす。

 私たちもその後ろを走る。


『セ・ダテ・ホッシュ』


「手刀ごときで我の突進は止められないのです」


 手刀を弾き返し、まだまだ進む。


『ウ・レテム・ゼラード』


「貴様が魔法を発動したのが運の尽きなのです。ガザニア・ライトニングシールド!」


 上空が暗くなり、猛吹雪が私たちを襲った瞬間、レティちゃんの盾から幾百もの電撃が放たれ、ザナルデウスの体全体にまとわりつく。


『ぐあっ』


「今だ! サフラン・バースト!」

「プリムローズ・スプラッシュ!」

「すべてを地獄へと堕とす魔王の炎獄、ギガ・インフェルノ」


 紫色の闘気玉が胸を狙い、魔剣連続刺突が腹部を狙う。それらを飲み込むように巨大な炎の波が左右から押し寄せてザナルデウスを揉みくちゃにする。


『ぐふぅ。余の体に傷を負わせるとは、少々見くびっておったわ。余の最大魔法をもって、この大地もろとも消滅させてやろう。ぬぅぅぅ……、ラディ・ラソ・メルド』


 ザナルデウスが集中を始めると、渦のように黒い空気が吸い寄せられ、その体に入って行く。そして魔法の発動に合わせて空が暗転した。


『まずいっちゃ。巨大隕石が降ってくるっちゃ』


「え? 空から?」

「ぬおっ、まずいのじゃ」

「あんなのが落下したら、世界が消滅するぞ」


 やや遠い空から赤色の巨大な火球が黒い尾を引いて落下してくる。

 高速のままいくつかに分裂し、こちらに向かっている。


『神々の力を混ぜ合わせ、世界を守る障壁を展開するっちゃ。命を燃やしてお姉ちゃんを、世界を守るっちゃ!』


 上空に広く半球状の障壁が現れたと同時に、巨大な火球がそれに衝突。空高い位置で爆発が起こり、破片が四散して障壁の外側に飛び散る。


「おい、さっき魔法を発動する際、ザナルデウスの姿がブレていなったか?」


「そう? 空を見ていたから見逃したよ」


『けほっこほっ。私にも見えたっちゃ。……あのブレは憑依型悪魔の証。ザナルデウスは憑依型の悪魔で、妖魔族に憑りついているっちゃ』


「皆さんにも見えるようにしましょう。ミ・エール♪」


「おおう。黒い膜のようなものに覆われておるのじゃ」


 ザナルデウスの体を一回り大きくしたような黒い膜が見える。

 これまでの憑依型悪魔は背中に生えるように憑りついていたのに、ザナルデウスは体全体を覆うように憑りついている。


『強力な魔法を連発したから、魔法疲れで憑依にズレが生じているっちゃ。今ならやれるっちゃ』


「聖剣で斬り裂けばよいのじゃな?」


「妖魔族ごと斬るのか?」


「フリーデちゃんを呼んで浄化してもらおうよ」


『妖魔族の方には罪はないっちゃ。斬ったらいけないっちゃ。それと、一個人の浄化の魔法では効果は期待できないっちゃ』


「ならばどうすればよいのじゃ?」


『そうだっちゃね、憐花の勇士に覚醒したレティシアさんなら、ザナルデウスだけを斬ることができるはずだっちゃ』


「我の剣は人を活かすためにあるのです。斬るためにあるのではないのです」


 後ろで私たちが作戦会議をしている間も、レティちゃんは飛んで来る魔法を盾で受け続けていて、振り向くことなく返事が来た。


『大丈夫だっちゃ。レティシアさんのもつ最強の剣技は、憐花の勇士に覚醒した今なら、人を斬らずに悪魔だけを斬ることができるっちゃ』


 作戦が決まった。あとは実行あるのみ。

 私とミリアちゃんが斜め前に飛び出してザナルデウスの意識を分散させる。


「シールドチャージ! ……からのガザニア・ライトニングシールド!」


 盾技で突進し、最接近したところで憐花の勇士技を発動してザナルデウスの体に雷をまとわせる。


「我の剣は人を斬るためにあらず、悪魔を斬るためにあるのです! ドラゴニック・スラッシュ!」


 右手に剣を持ち、下段から思い切り振り上げると、その軌跡からドラゴンの頭が飛び出す。


『ぐ、ぐわあぁ!』


 ザナルデウスは避けることも魔法で相殺することもできず、ドラゴンの頭に両断されたかのように見えた。


「今じゃ! えいや!」

「たあ!」

「ハリセンでおまけだ!」


 二つに割れてはがれた黒い膜に、魔剣、聖剣、ハリセンがそれぞれ一撃を入れた。


『……ん? おおぉ? なんと! 自由に体を動かせます!』


 ザナルデウスの黒い膜だけが霧散し、肌から黒っぽさが抜け、前に見た妖魔族と同じ肌の色になった。


「お主は悪魔ザナルデウスか? それとも憑依されておった妖魔族か?」

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