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177話 浮遊大陸

「きゃっ、きゃあぁぁ! な、ななな、なによ。はぁ、はぁ……。驚いたんだからね! いきなり人の部屋の中に現れないでよ。用があるなら玄関から来なさい、玄関から」


 絨毯の上でゴロゴロしていたジネットちゃんは、突然現れた私たちに驚き、飛び起きた。


「悪ぃ悪ぃ。ジネットにしかできない大仕事を頼みに来たんだ」


「あたしにしかできない大仕事? 何よそれ?」


「えっとね、この間ほうきで空を飛んだよね? もう一度みんなをほうきに乗せて飛ばせてほしいの」


「それのどこが大仕事よ。早くほうきを出しなさい……って、部屋の中で飛んだらダメなんだからね!」


 階段を下り、一階の玄関から外に出る。


「うほっ。ムテッポー山の上に大きな島が浮かんでいるのです」


「まじか。本当に浮かんでいるんだな」


 ムテッポーよりも高い空。白い雲の向こう側に大きな島が浮かんでいる。


「あんたたち、またムテッポー山に行くわけ? 山登りなんて野蛮よね」


「違うぞ。今度は浮遊大陸に行くんだ」


「はあ? 浮遊大陸? あんた、嘘をつくの下手ね」


「あれ? ジネットちゃんには見えないの? ほら、あそこ、ムテッポー山よりも高い空の上に浮かんでいるよ」


「揃いも揃って嘘を言って何が楽しいわけ?」


『エムさん、ジネットさんを冒険者パーティーに参加させるっちゃ。そうすれば見えるようになるっちゃ』


「今の声はメルちゃん? うん、やってみるね。ジネットちゃん、私の冒険者パーティーに入って。そうすれば浮遊大陸が見えるようになるよ」


「なんであんたの仲間なんかに……」


「妾たちは空高くにある浮遊大陸に行きたいだけじゃ。ほうきを浮かせる魔法がお主がおらんでも持続するのであれば、見える必要もなかろうから仲間に入る必要はないのじゃが、そういうわけにもいくまい?」


 マオちゃんの見立てでは、ほうきで飛ぶ魔法は、ジネットちゃんが近くにいないと効果がなくなるみたい。


「なによ。あんたたち真顔で……。頭イカレているでしょ。ま、いいわ。本当にあるのなら浮遊大陸とやらにまで送ってやらないでもないわ」


「ジネットちゃん、ありがとう。今だけの特別な仲間だよ」


「悪魔退治に付き合ってもらってもいいのです」


「あ、ああああ、あれは何よ、あれは!」


 いきなりジネットちゃんは空を指差して震えだした。

 仲間になった途端、見えるようになったんだね。


「あれが浮遊大陸だよ」


「本当にあるなんて、嘘よね? 幻よね? あたし夢を見ているんだわ。浮遊大陸? 何百年も生きていて、聞いたことすらないんだから」


「浮かんで移動しているらしいから、昔からずっとあそこにいるわけではないって話だぞ」


「ジネットや、妾たちの準備はできておるのじゃ。夢ではないゆえ、はよ浮かせるのじゃ」


「もー。あんたたち、夢も希望もないんだから……。ジネット・ブルーム! どうよ、あたしの魔法は」


「ばっちりなのです」


 みんながまたがっているほうきが浮き上がり、足が地面から浮き上がった。

 そのままほうきを操作し、空高く舞い上がる。

 うわあ。風を切って空を飛ぶのって気持ちいいね。

 運送屋の飛竜のカゴに乗るよりも快適だよ。

 わたしたちはどんどん浮遊大陸に近づいて行く。


「わっ」


 途中に雲があってそれに突っ込んだ。

 視界が真っ白になり、霧の中を突っ切るように上昇して行く。

 やがて視界が晴れると、すぐそこに浮遊大陸が浮かんでいた。


「でっかいなー」


「地上で見上げたときより大きく感じるのです」


 浮遊大陸の上に着地し、両足で地面を踏みしめる。

 とくに変わったところのない土の地面。やや乾燥しているだけで地上と同じに感じる。

 少し先に石畳の道があって、私たちはそこに向かって歩く。


「なによ、ここ。古代遺跡なのかしら」


 石壁が崩れたような残骸が多数目に映り、その向こうには、瓦礫の山がいくつもある。


「とても人が住んでいる感じはしないな」


「今は誰もおらぬが、昔ここに人が住んでおったようじゃの。その石造りの住居が風化して崩れたのじゃろう」


 瓦礫の山はおそらくは住居。それらの間を石畳の道が通っている。

 あっちに見えるのは石板かな? 壁とは違ってぽつんと立っている。


「あの石板、何か書いてあるぞ」


「行ってみよう」


 石板の前まで行くと、たしかに文字が彫ってある。でも、知らない文字だね。読めないよ。


「読めないのです」


「これは古代文字です。えっとですね、『我らは創造ベリベリ神により創造されし民族。魔族と呼び、神界の妖魔族と区別する』」


「うむ? 今ピオピオは『ベリベリ神』と声にせなんだかの?」


「ベリベリ神って、魔族が信仰している神様のことだよね?」


 魔王になったから、ちゃんと学んだんだよ。

 魔族の国ではみんなベリベリ神様を信仰している。これに対し人族の国だとクリム神様を信仰しているよね。


「古代語ではベリベリ神と発音しますが、現代語では創造神全般のことを指します」


「命の神様が言っておったことが、ここに記されておるのか」


 うん。神々が妖魔族を元にして魔族を創造したって言ってたよ。


「隣の石板も読みますね♪ 『我らは神界の悪魔を滅ぼす使命を神から与えられた。その武具として神剣、神杖を授かった。力を蓄え、やがて悪魔を滅ぼさん』と書いてあります♪」


 魔族が悪魔退治しないといけない使命は、ずいぶん昔からあったんだね。マオちゃんの代には既に伝えられていなかったけどね。


「向こうにも石板があるぞ」


 離れた所にも石板があって、それには『魔族歴五百六十年。浮遊大陸に不治の伝染病が蔓延し、我らは滅亡を逃れるため地上に降りる決意をした』と書いてあった。


 さらに離れた場所には『先遣隊より報告あり。地上には未知の薬草が豊富にある』、『魔族歴五百六十二年。伝染病が猛威を振るっている。我らは浮遊大陸を放棄。生き残った者は全員地上へ降り、病を治す薬の開発を目指す』と記されていた。

 おそらく、この石板を最後に、魔族全員が地上に降りたんだよ。


「うーむ、感慨深いのう……。妾の知らぬ魔族の歴史がここにあったとはの。魔族の歴史はここ浮遊大陸から始まり、先祖は伝染病と闘うため、地上へと降りたのじゃったか」


「魔族? 魔族って敵よね? なんで魔族の歴史なんかに興味を持つわけ?」


「それは、妾が元魔王で、エムが現在の魔王じゃからのう」


「ま、誰が魔王でもそんなことどうでもいいじゃん。今、魔族は敵じゃないし、人族の国々と魔族の国は友好関係にあるからな」


「はあ? あんたたち、またあたしを騙そうと……」


「私、魔王だよ? でも、みんな仲良しだよ」


「ひきこもりババアは時代の流れについていけないだけなので……、ぶふぉっ!」


 透明な何かが、レティちゃんの頬をぶった。たぶん、ジネットちゃんの魔法。


「今は人族とか魔族とか言っている場合じゃないんだ。これから私たちは神様を助けるために神界に行って悪魔を退治するんだ。ジネットも一緒に行くよな?」


「はぁ……。あんたたちと話していると調子が狂うわ。あたしはそんなのごめんよ。神様を助けるとか、どんだけ大ぼらを吹けば気が済むのかしら」


「全部嘘ではないのです。すべて真実なのです」


「はいはい。あたしは隠れ家で魔法の研究ができればそれでいいの。神様だか悪魔だか魔族だかには関わらないって決めているんだから」


 そうだよね。魔族戦争に関わりたくなくて魔女の塔にひきこもっているんだったよね。ずいぶん昔から。


「無理は言わないよ。ここまで連れてきてくれただけでも大助かりだよ」


「わかればいいのよ、わかれば」


「そっか-。残念だな。気が変わったら言ってくれよ。いつでも歓迎するぞ」


「石板巡りはここらで打ち切り、そろそろ異界ゲートを探さねばの」


「ジネットちゃん、もう少しだけ付き合ってね。ほうきで移動するほうが早いし楽だから」


「勘違いしないでよね。あたし便利屋じゃないんだからね。まあ、たまには遺跡巡りで気分転換するのも悪い気はしないから、付き合ってあげるわ」


 ほうきにまたがって石畳の道をスイスイ進む。

 いくつも瓦礫の山を通過し、丘に到達し、そこには大量の瓦礫が積まれていた。


「この量、散らばり方からすると、ここに塔が建っていたと推測できるぞ」


「今日のミリアは冴えているのです」


「斜めに長く繋がるように瓦礫が散乱しておれば、誰でも推測しそうじゃがの」


「もしかすると、異界ゲートは塔の中にあったのかな? それで崩れて潰されちゃったのかな?」


 一旦ほうきから降りて瓦礫を調べる。

 …………。

 ……。

 どう見ても石の集まりだよ。石以外の何ものでもない。


「ここに何かあるのです」


 おそらく塔の一階部分があったであろう場所の瓦礫を調べていたレティちゃんが何かを発見した。近くの瓦礫をポイポイ投げ捨てている。


「階段があるぞ」


 瓦礫を除去することで見えてきたのは地下へと続く階段。

 全員で瓦礫の除去作業を手伝う。大きな瓦礫はレティちゃん任せ、または二人がかりで持ち上げてずらす。


「そろそろ通れないかな?」


 肩幅ぐらいの隙間を確保できたよ。出っ張っている瓦礫に頭をぶつけないように気をつければ、階段を使って地下へと行けるね。

 レティちゃんが率先して階段を下りて行く。


「マオリー、明かりの魔法を使うのです」


「うむ、そうじゃの。世界をあまねく照らす魔王の輝き、ライトアップ。どうじゃ? 足元が明るくなったかえ? 足りねばもう一つ、追加で発動するのじゃ」


 階段の先は真っ暗な地下。異次元迷宮のような明かりはない。

 そこでマオちゃんが光球を出現させて視界を確保した。


「ばっちり明るくなっているのです」


 階段は途中で何度も折り返すように向きが変わっていて、さらに深く下りて行く。


「浮遊大陸の底が抜けていて、地上に落下することはないよな?」


 階段をずいぶん下りた。一緒に来たジネットちゃんは息を切らしているよ。


「地上で見るよりは、実際には厚みがある大陸ゆえ、これしきの深さでは底が抜けぬじゃろうて」


 何度もくねって下りて行くうちに階段は終わりとなり、通路となった。通路はそれほど長くなく、すぐに突き当たりとなる。


「扉があるのです」


 牢屋の鉄格子みたいな、向こうの見える扉。

 その奥には異界ゲートと思われるものが見えている。


「うむ。あれは異界ゲートじゃ」


「意外と早くみつかったな」


「皆さん、気をつけてください♪ 来ます!」


 ピオちゃんが叫ぶと同時に、異界ゲートを通って、手の平ほどの何かが現れた。

 その体は平らで、鉄格子のような隙間を通り、こちらへと駆けてくる。


「サックデビルです♪」


 ヒマワリの花に手足が生えたような形の悪魔、サックデビル。

 これまでに遭遇した個体よりずいぶん小さい。

 まだ花から生気を吸収していないから小さいのかもしれない。


「な、なによ。浮遊大陸には魔物がいるわけ?」


「魔物ではないのです。悪魔なのです」


「悪魔であれば、これを試す絶好の機会なのじゃ。えいやっ!」


 マオちゃんは聖剣を取り出して振り抜いた。すると、サックデビルは二つに裂け、霧のようになって消えた。


「うは。聖剣って凄えな」


「聖剣で切れたことは想定内なのじゃが、今なぜ、ピオピオの魔法が発動しておらぬのに悪魔の姿を目視できたのじゃ?」


 そっか。これまで遭遇した悪魔ってピオちゃんが魔法で見えるようにしてくれていたんだった。今、ピオちゃんはそのような魔法は使っていない。


『お姉ちゃん、答えるっちゃ。それは、お姉ちゃんたちに命の神様の加護が届いているからだっちゃ』


「おおぅ。もしかすると、とんがり山の山頂からメルリーが届けてくれておるのかえ?」


「なによ、今の声?」


「マオちゃんの妹、メルちゃんの声だよ。遠くから届けてくれているんだよ」


『うん。私がお姉ちゃんたちに届けているっちゃ。どんな悪魔でも目視できるっちゃ。安心して神界に行くっちゃね』


「メルちゃん、ありがとう。必ず悪魔を退治してくるね」


 やる気を胸に、鉄格子のような扉を掴み、開……、開かないよ?


「ふん。鉄格子ごとき我の力でねじ曲げてやるのです。むむむむむ……。ぷはぁ。なんなのですか。我の力でも曲がらないのです」


「なんだよこの扉。外の建物は壊れていたのに、こいつだけ頑丈なままだぞ」


「鉄格子のように見えるのは、魔法合金のようじゃの。扉には鍵穴があるゆえ、ミリアが解錠できるのではなかろうかの?」


「よし、私のテクニックで解錠してやる……」


 細い針金のような物を二本差し込んで解錠を試みるミリアちゃん。

 ガチャガチャ、クリクリ、ガキガキ……。


「ダメだあ。この鍵穴には引っ掛かりがなく、魔法の鍵を差し込む仕組みになっているみたいだぞ」


「鍵を探すしかないね」


「き、きゃああ!?」


「驚いたのです。ババア、いきなり叫ぶな、なのです」


 やや離れた位置でジネットちゃんは左手を口に当て、右手で床を指差している。みんな何事かと思い、そちらに近づいて行く。


「なんじゃ? おおう、白骨体が転がっておるの。羽のような骨があるゆえ、浮遊大陸に住んでおったのはやはり魔族なのじゃろうな」


 魔族は人族と違って背中にコウモリのような羽がある。

 何千年前の骨か知らないけど、私、近づきたくないよ。近くにゆーれいとかいるかもしれないし。


「腰の辺りに、丸棒が落ちているのです。ミリアの言っていた鍵ではないのですか?」


 しゃがんで何かを掴み上げたレティちゃん。それを、嫌そうな顔をしているミリアちゃんに渡す。ミリアちゃんもゆーれいとかが怖いから、きっと関わりたくないんだよ。


「鍵かどうかは自分で試せよ……」


 嫌そうな顔のまま扉の前に行き、丸棒を鍵穴に差し込む。

 ガチャリ。


「お。開いたぞ」


「神界へ出発するのです」


「ちょ、待ちなさいよ。ゲートをくぐる気なんでしょ? あたしを地上まで送り届けてからにしなさいよ」


「ここまで来たんだから一緒に行くのかと思っていたぞ」


「はあ? 行かないって言ったでしょ。ここの階段暗くて薄気味悪いから、誰か地上までついて来なさい。ほうきで飛んで行くから時間はとらせないわ」


「一人で行けばよいのではないかの? お主、明かりの魔法ぐらい使えるじゃろ」


「一人で? 暗い階段を一人で行くなんて、寂しいじゃない」


「万年ひきこもりババアが寂しいなど……、ぶへぁっ!」


「まあ、ジネットを地上に送るまではいいが、帰りは階段を足で下りることにならないか?」


「それでしたら、ここにお花を置いて転移で戻りましょう♪」


「ここで転移魔法が使えるのかえ?」


「外部からこの浮遊大陸に転移することはできないようですが、浮遊大陸内の行き来なら、大丈夫です♪」


「そうなんだ。じゃあ、私とピオちゃんで送るよ」


 白骨体の転がる地下に長居はしたくない。だから率先して送迎係を買ってでた。


「あんた一人だけ? しょーがないわね。ジネット・ブルーム。ほら、行くわよ」


 ほうきにまたがって階段を上る。何度も曲がって地上に出ると、そこでほうきから降り、ほうきにまたがったままのジネトちゃんに手を振って別れる。


「ジネットちゃん、ありがとねー。また何かあったらよろしくねー!」


「ふん。あたしは便利屋じゃないんだから」


 ジネットちゃんの姿が見えなくなるとピオちゃんの転移魔法で地下へと戻る。


「よし揃ったな。いざ、神界へ」

「困っている神様を助けるのです」

「妾が勇者のう……」

「悪魔は、ずばっと切り裂いちゃおう」

「悪魔退治は皆さんの使命です♪」


 私たちは異界ゲートに触れ、神界へと渡った。

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