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176話 ジンジャー村の復活

 地上から立ち昇る数多の円の輝きが描く巨大な花模様。その中心、とんがり山の山頂に眩しい光球が出現し、空高く浮かんで南へと飛び去った。


「光球はカレア王国に向かったのじゃ。落ちたのは、ジンジャー村のある辺りではなかろうかの」


 光球は物凄い速さで空を飛び、カレア王国の北東部に落ちた。マオちゃんの故郷ジンジャー村があの辺りにあったかもしれない。


『はい。甦ったジンジャー村から、もう一人の適格者メルリーをこの場に連れてきてください』


「メ、メルリーが適格者とな!?」


「わわっ!?」


 気がついたときには地上に立っていて、どこか見たことのない村の前にいた。


「まさか、これは! ジ、ジンジャー村じゃ……。妾は夢でも見ておるのかえ?」


「ジンジャー村って盗賊団の焼き討ちに遭ったんだよな? 前に来たときは瓦礫しかなかったのに、どうなってんだ?」


「村が元通りになったの?」


「神は、そのようなことができるのですか」


 畑仕事をしている人が何人かいる。前に来たときには誰もいなかったし、建物なんて一軒も残っていなかった。あのときは皆、焼け落ちて瓦礫の山となっていた。

 マオちゃんはふらつくように前に歩き、そこから駆け出して村の中へと入って行った。

 私たちはやや遅れてそのあとを追う。


「メルリー! メ、メルリーや!」


「ん? お姉ちゃん? どうしたっちゃ?」


 マオちゃんは一軒の家に駆けこみ、そのまま女の子に抱きついた。


「メ、メルリー。ううぅ……」


「お姉ちゃん、そんなに強く抱きついたら痛いっちゃ……。どうしたっちゃ? あれ? どうしてか、私もお姉ちゃんに会いたい気分になっているっちゃ。だからもう、私からも抱き返してあげるっちゃね。私、これまで長い夢を見ていた気分だっちゃ……」


「ううぅ……」


「少し高い位置からお姉ちゃんを見下ろす変な夢だったっちゃ。長い長い夢。お姉ちゃんは魔物と戦って人々を救ったり、神様と戦って傷だらけになったり、槍で刺されて死にそうになったり……」


「妾は、妾は、ぐすっ、生きておるのじゃ……。こうしてまた会えたのじゃ……」


 たしかに、マオちゃんは魔族の国で刺されて死にそうになったよ。


「このペンダントはお姉ちゃんにもらった大事な宝物だっちゃ……。あれれ? お姉ちゃんと王都に行ったのはいつのことだっちゃ? 大事なことなのに思い出せないっちゃ」


 メルちゃんは抱き合う腕を緩め、右手で赤い宝石のペンダントを掴むと首を傾げた。あのペンダントは、カレア王国の王都でメルちゃんにプレゼントした物と同じだよ。


「ずずっ。メルリー。王都には連れて行ってやれなんだがの、今の大仕事が片付けば、必ず王都に連れて行ってやるのじゃ」


「お姉ちゃん、約束だっちゃ……。どうして? どうしてお姉ちゃんを見ていると泣きたくなるっちゃ? 懐かしい思いがこみ上げて涙があふれてくるっちゃ……。う、く、ぅぅぅ……」


「うぅぅ。また会えてうれしいのじゃ……」


 再び強く抱きしめ合った二人。

 私たちは家の入口付近に立ち、二人が泣き止むまでそっとしておいた。


「……うむ。こうしてはおれぬ。ずずっ。メルリーや、お主を大仕事に誘いに来たのじゃった」


「大仕事? また新しく畑を開墾するっちゃ?」


 泣き止み、抱き合う腕を伸ばした二人。近い距離で見つめ合っている。


「そのような些事ではないのじゃ。神々を悪魔の魔手から救う前代未聞の大仕事なのじゃ」


「あれれ? 私、また夢を見ているっちゃ? お姉ちゃんが夢の続きを話しているっちゃ」


「夢ではないのじゃ。この大仕事の適格者に神がメルリーを指名したのじゃ」


 見つめ合ったまま少しだけ間を置き、深く頷いたメルちゃん。


「お姉ちゃんの大仕事、私、頑張るっちゃ」


 マオちゃんはメルちゃんの背中を押し、家の中から出てきた。


「ピオピオや。命の神様のもとへ行くのじゃ」


「はーい。とんがり山の山頂へ、フラワーテレポート♪」


 とんがり山に戻ると、命の神様はまだそこにいた。


「あれれ? ここはどこっちゃ? また夢の中っちゃ?」


「夢ではないのじゃ。ほれピオピオや、姿を見えるようにするのじゃ。そうじゃ。この妖精ピオピオの魔法で妾たちはクロワセル王国のとんがり山へと転移したのじゃ。そしてここに揃っておる者が、悪魔退治の仲間じゃ」


「エムだよ」

「レティシアなのです」

「ミリアだ」

「ピオピオでーす♪」


『メルリー。あなたはこの世界線においては死亡する『結果』に行き着いていたのですが、時の神の協力を得て、新たな『結果』を生み出し、ここに参じてもらいました』


「生き返った、で間違いないのじゃな?」


『時の神の力で時を戻し、私の力で再び生を与えました。ただ、そのままでは時空が定まらずあなた方と邂逅できませんので、新たな『結果』を与え、時の神の力で時を進めてあります』


「生き返ったっちゃ? 夢……?」


 ゆっくりと辺りを見回すメルちゃん。


『メルリー。あなたは生まれながらにして神界の悪魔を消滅させる重要な役割を持っています。この世界線における理を改変し、死に至らない世界線に存在するあなたを融合しました。ですから今のあなたは死んではいないのです』


「難しいことを言っているけどさ。死んだのは夢の中で、実際は死んでないってことで合っているか?」


『そのように捉えて問題ありません。それではメルリー。あなたの使命をここに明示します。エム、アルティヴェスをメルリーに渡してください』


「はい、これが魔杖アルティヴェスだよ。持つことができるかな?」


 魔剣と魔杖は魔王しか持つことができないとされていた。

 でも、メルちゃんが適格者なら、持つことができるのかな?


「これがアルティヴェス……」


「おおぅ……」


 メルちゃんは両手でしっかりと魔杖を握り、やや傾けてその容姿を観察している。そんな姿に、マオちゃんは大きく驚いている。魔王以外に持つことができる人が現れて、これまでの常識が覆ったんだからそうなるよね。


『メルリー。あなたの使命は、こことんがり山の山頂でアルティヴェスを手にし、悪魔に立ち向かう勇者に私の声を届け、さらにこちらの世界の力を届けることです』


「ここでお姉ちゃんを助けるっちゃね」


 メルちゃんには混乱の様子が見られない。勇者がマオちゃんのことだと理解しているし、夢の形でいろいろ見ていたのかもしれないね。普通なら神様と会話ができているだけで大混乱だよ。


『エム。エステシアとアダマンタイトの剣を手にしなさい』


「ん? これ?」


『エステシアの形状を、使い慣れた形に変形、両者を融合させます』


 魔法収納から魔剣エステシアとアダマンタイトのレイピアを取り出して手にすると、両社が浮かび上がって融合し、一振りのレイピアとなった。


「えっと、これってエステシアなのかな? それともアダマンタイトのレイピア?」


 魔剣エステシアはショートソードの形だったから、レイピアの形になったのなら、消滅したのはエステシアのほう?


『それはエステシアです。アダマンタイトは神剣の素材でもありますから、融合させました。アダマンタイトの武具であれば高位悪魔に傷を負わせることができるのですが、消滅させることはできません。それで、エステシアに取り込む形としたのです』


 レイピアの形になった魔剣エステシアなんだね。


「今、さらりと重要なことを話したぞ。もしかすると、私のハリセンでも悪魔を退治できるのか?」


『退治はできませんが、高位悪魔にもある程度の傷を負わせることはできるでしょう』


 ミリアちゃんのハリセンもアダマンタイトで強化してあるんだったね。ハリセンで悪魔と戦えるなら、心強いよ。

 レティちゃんのアダマンタイトの大盾も同様に悪魔に効果があり、悪魔の攻撃を大幅に軽減してくれる。


「我の盾も悪魔に有効なのでしたら、心強いのです」


 憑依形の悪魔でも、アダマンタイトの大盾で防ぐことができるとのこと。頼もしいね。


『それでは、あなた方を神界へと導きます。今、異界ゲートはフォーガ獣国付近に浮かんでいます』


「異界ゲートが浮かんでおるのかえ?」


『はい。地上のものはあなた方が目撃したように、消滅しました。ところが、この世界に存在する神々の力では、神界へとつながるゲートを生成することができません。それで残存する異界ゲートを利用します。それは雲の上、浮遊大陸上に存在しています』


「浮遊大陸!? そんなものが存在するのか!」


「フォーガ獣国に何度も行っているけど、大陸が空に浮かんでいるのって見たことがないよね」


 フォーガ獣国には力比べで長い間滞在していたし、ムテッポー山に登ることもした。それでも、空に何かが浮かんでいることなんてなかったよ。不自然な雲の塊みたいなものもなかったし。


『あなた方の目に映らない大陸ですから、気がつかないのです。今、あなた方にも見えるよう調整します。メルリー、アルティヴェスを地面に立て、マオリーの目に浮遊大陸が映るよう祈るのです』


「うん、祈るっちゃ。お姉ちゃんが、空に浮かぶ大陸を見ることができますように……。お姉ちゃんなら何でもできるっちゃ」


 メルちゃんが祈り始めるとすぐに私たちの周囲がやや白い光に覆われ、透明になっていった。


『これであなた方が浮遊大陸を目視できるようになりました。フォーガ獣国へ向かってください』


「それじゃあ、ピオちゃん……」


「ちょっと待った! どうやって空に浮かぶ浮遊大陸に行くんだ?」


「雲の上なのです……。命の神が、転移魔法を使うしかないのです」


『私を含め、この世界の神々があなた方を浮遊大陸まで転移魔法で運ぶことはできません。そこは神力によって守られた特別な場所なのです』


「そっか。それなら転移じゃなくって飛んで行くしかないね。ピオちゃんの魔法で妖精の姿にしてもらおう」


「残念。皆さんを妖精の姿に変えても、空高くまでは飛ぶことはできません♪ どんなに頑張っても雲の高さまで飛ぶことなんてできませんよ♪」


「「「「うーん……」」」」


「お。リバサンの背中に乗って行くのはどうだ? あいつ、浮かぶことができるだろ?」


『リバサン……。水の神でしたら、空を飛ぶことはできません。あくまでも地上近くを浮かぶことしかできません』


「大仕事にとりかかる前に、大きな壁にぶち当たったのじゃ」


「地上から跳び上がっても雲の上には届かないしな」


「我が前世の姿なら飛んで行くのですが……」


「竜王のレティちゃんがお願いすれば、ドラゴンの背中に乗せてもらえたりする?」


 ドラゴンの領域にはレティちゃんのことを竜王だと認識しているドラゴンがいる。それに頼めば、空を飛んでもらえないかな?


「ドラゴンが背中に人を乗せて飛ぶことは、絶対にしないのです。ドラゴンとしての矜持が許さないのです」


「「「「はぁ……」」」」


『あなた方の記憶の中には、山肌の上を飛んでいる姿があります。それを利用すれば浮遊大陸に到達することができるでしょう』


「空を飛んだか?」


「飛んだのは山肌の上なのです」


「おおぅ! ほうきじゃ、ほうき。ほうきにまたがってムテッポー山の山肌の上を飛んだのじゃ」


「ジネットちゃんだね!」


 思い出したよ。マホモリモリ芋を採取するためムテッポー山に登る際、そのあまりの険しさに、ジネットちゃんの魔法を頼ったんだった。

 ほうきにまたがって山肌をすいすい進んだよ。


『旅立ちの目途は立ちましたね? あなた方に、祝福を与えましょう……』


 命の神様が手の平をひらりひらりと左から右へと動かすと、私たちの頭上から光の粉が舞い降りた。


「ピオちゃん。ジネットちゃんの部屋に行こう」


「魔女の塔へ、フラワーテレポート♪」

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