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016話 迷いの森の、朽ちた屋敷 後編

「うひゃー。でっかい骨の魔物かあ」


「レティちゃんが入ってしまったから、戦うしかないよね?」


「うむ……。ガーディアン・ボーンドラゴン、強敵じゃの」


 ボス部屋は、完全に入ってしまうと、ボスを倒すまで外には出られない。

 レティちゃんが既に入ってしまったから、みんな意を決して後を追うように部屋の中に入る。


 あれ? どこか別の場所に繋がっていたのかな?

 扉を抜けると背景が変わり、空と地面のある広い空間になった。周囲は高い崖で囲まれている。

 その奥に、私三人分ぐらいの背丈の骨ドラゴンがいる。あれはさっき部屋の入り口で見たのと同じだね。骨ドラゴンを含めて全員が別の場所に転送されたのかも?

 骨ドラゴンはやや黒っぽくて、前に異次元迷宮のボスと戦ったときのように、ある程度近づくまでは活動を開始しないみたい。もちろん、動き出すまでこちらの攻撃も受けつけない。


「どう戦えばいい? 接近戦を挑めるようには見えないぞ」


 高い背丈に長い尻尾。

 迂闊に近づいたら、頭からガブリと噛みつかれそう。


「まずはピオピオ。防御アップの演奏を頼むのじゃ」


「私の助けが必要ですか? 必要なのですね? 仕方ありませんね。今だけの特別ですよ♪」


 屋敷の敷地に入ってから今まで私のポケットの中に隠れていたピオちゃん。ずっと小刻みに震えていたから、ピオちゃんもゆーれいが怖いのかもしれない。

 ふわりと浮かび、マオちゃんの後方に行って演奏の準備を始めた。


「それでは作戦じゃ。妾が魔法で攻撃しておる間、エムとミリアは、あやつの気を引き続けるのじゃ。あやつは魔法を撃ってくるゆえ、的を絞らせないよう、常に動き続けるのじゃぞ。長い尻尾による殴りにも注意するのじゃ」


「うまくやれるか分からないけど、やってみるね」


「ここでは聖水は使わないのか?」


「あやつは大きすぎるからの。切羽詰まったときに振りかけると、一瞬じゃが動きを止められる可能性がある、ぐらいしか言えぬの。緊急回避用であって、積極的には使わぬほうがよかろう」


「このまま人間の体でドラゴンと戦うのは無謀なのです。盾技で防御力を上げないと死ねるのです。レインフォースシールド! 我は準備完了なのです」


 マオちゃんの作戦指示が終わり、自身の防御力を強化する盾技を発動したレティちゃんが先頭となるよう隊列を組んで骨ドラゴンに接近する。

 ピオちゃんの演奏も始まった。みんな、骨ドラゴンがいつ動き出してもすぐに戦える準備はできてるよ。

 あと十歩で骨ドラゴンに触れられる位置まで近づくと、骨ドラゴンは色が白っぽく変わり、咆哮を発した。


「うわっ」


 耳をつんざく轟音。みんな耳を塞いでやり過ごす。

 うぅ、耳が痛いよ……。

 骨の体のどこからそんな音を出したの?


「すべてを焼き尽くす魔王の炎、メガ・ファイア!」


 いち早く復帰したマオちゃんが火球を飛ばした。

 私とミリアちゃんはそれを見てすぐに左右に分かれて前方へと走る。

 まだ私の耳はキーンと鳴っているよ。


「おっと」


 私目掛けて降り注ぐ三本の氷柱。

 それは骨ドラゴンの右手から飛ばされた魔法。

 私は左へと大きく跳んで躱しながらレイピアを骨ドラゴンに向け、「プリムローズ・ブラスト!」と闘気の玉を飛ばす。


「受けてみろ、ハリケーンスマッシュ!」


 右側に位置取りしたミリアちゃんがハリセンを大きく振り、竜巻を起こして骨ドラゴンに攻撃を加えている。


「うひゃっ!」


 今度は骨ドラゴンの左手の平がミリアちゃんに向けられ、そこから魔法が飛び出そうとした刹那。

 ミリアちゃんは条件反射のように聖水を振りかけてバックステップ。


「動きが止まったね。プリムローズ・スプラッシュ!」


 ここぞとばかりに、私はレイピアを無数に突き出す勇者技を発動。

 レイピアを突き出すたびに赤、白、紫、黄、ピンク、青の花びらが舞う。花びらは根元の部分が白や黄色のバイカラーとなっていて、とても綺麗。

 多くの花びらを舞わせて突き続ける。

 一体、どれだけ突けば倒せるのかな?

 肉がないからレイピアは刺さらない。足の骨を削ってはいるけど、大してダメージにはなってなさそう。

 あ、骨ドラゴンが動き出した!


「のわっ!」


「ミリアちゃん!?」


 硬直から復帰すると同時に物凄い速さで尻尾が振られ、攻撃しようと再接近したミリアちゃんが後方へと殴り飛ばされた。


「エアシールド! 間に合え、なのです!」


 骨ドラゴンの正面にいて、さっきまで噛みつきと魔法を受け続けていたレティちゃん。直前まで硬直により攻撃が止んでいたので状況をよく見ていてミリアちゃんの援護ができた。

 後方に空気の盾が生成され、飛んで行くミリアちゃんを受け止める。

 空気の盾はミリアちゃんを包んで大きく後方に歪み、ミリアちゃんの飛翔速度がほぼゼロになった時点で消滅した。

 そのままミリアちゃんは地面に落下した。


「間に合ったようじゃの」


「ミリアちゃん、怪我はない?」


「エム、今はピオピオが展開しているフィールドを信じて、戦いを続けるしかないのです」


 そうだよね。私が骨ドラゴンの気を引かないと、マオちゃんが魔法を撃てないよね。

 ミリアちゃんの様子を見に行きたい気持ちを抑え、骨ドラゴンに向き直り、レイピアを突き出す。


「万物を穿つ魔王の氷柱、メガ・アイシクルランス! ……ええい、大してダメージを与えておらぬ感じがするのぅ」


 マオちゃんが飛ばした氷の槍は、骨ドラゴンの肋骨に当たって消えた。


「こいつは生前、竜王に匹敵する強さを持っていたと推測できるのです。だから、ウロコがない今の状態でも魔法耐性が高いのです」


「レティちゃん、レイピアも効かないよ。どうすればいい?」


「今、我が弱点を探しているのです。必ず見つけますから、貴様らは攻撃を続けるのです」


 骨ドラゴンがガシッガシッと前進し、レティちゃんを蹴り上げる。

 その直前にレティちゃんは盾技イージスを発動し、やや後方に下げられはしたけれど、足蹴りの衝撃を緩和して宙に浮かぶことはなかった。

 私はその間も側面から攻撃を続けている。マオちゃんもメガ・エアランスやメガ・ロックフォールを発動して攻撃の手は緩めていない。

 骨ドラゴンはそれを無視して前進していた。


「まずいのです! ブレスが来るのです! エム、すぐに遠くに退避するのです!」


 骨ドラゴンが立ち止まり、骨の羽をパタパタ羽ばたかせながら大きく空気を吸い込むような動きをし、レティちゃんはそれを見て慌てて叫んだ。レティちゃんの手は骨ドラゴンの斜め後ろを指している。

 そっちに行けってことだね。

 今いる位置から、ブレスの届く範囲を走ってレティちゃんの後ろ側に行くのは危険。

 骨ドラゴンの首は横にも向くことができるから、側面にいるのも危ない。

 それで、骨ドラゴンの後方に回り込むほうが安全だと判断したんだね。


「うん、骨ドラゴンの後ろに行くよ!」


 尻尾に注意しながら背面方向へと走る。

 これくらい離れれば大丈夫かな、と思ったのと時を同じくして、骨ドラゴンの口から氷混じりの吹雪が吐き出された。その向きは正面に固定されている。


「凍てつくブレスじゃの。このまま受け続けるとまずいのぅ」


 先ほど発動した盾技イージスによって、ブレスはレティちゃんの盾の前面で大きな板に遮られるように流れ、後方に向かって収束している。

 その流れがどんどん凍っていく。まるで、レティちゃんの周囲を大きな氷の球で包み込むように。


「たしかに、ブレスよりも先に盾技が途切れたらまずいのです。でもですね、今ので弱点が見えたのです。弱点は、上から二本目の肋骨の後方にあるのです」


「後方のう。ここからでは狙えないのぅ。もっとも、氷で閉じ込められておるから今は無理じゃがの」


 軽く腕を組み、スティックを持つ手首をぐりぐり動かすマオちゃん。

 氷で包まれて、その姿がどんどん見えなくなっていく。

 魔法が届かないなら、私がやるしかないよね。

 ちょうど、私は背面にいる。


「私がやるよ!」


 まだブレスを吐き続けている骨ドラゴンの尻尾に乗り、さらに背骨の上を跳んで上って行く。


「あれだね! プリムローズ・ブラスト!」


 肋骨の背中側。そこにはアザのような濁りがある。

 私は跳び上がりながらレイピアを構え、濁り目掛けて、頭ぐらいの大きさの闘気の玉を撃ち出した。


「グオォォォ!」


 闘気の玉がアザに命中すると、骨ドラゴンの頭が空を向き、ブレスは上空へと向かう。

 それは高い位置で広がり、キラキラ輝く細かな氷の粉となって周囲に舞い降りる。

 やがて、キラキラが減りだすと、骨ドラゴンは大きな魔石へと変わった。


「ふぅ。氷の檻から出られたのです」


 レティちゃんたちを閉じ込めていた氷も消え、二人は私のもとへと歩いてくる。

 あれ? 二人だけ?


「ミリアちゃん、大丈夫?」


 私は二人をスルーしてその後方で地面に横になっているミリアちゃんのもとへと向かう。


「おおぅ、そうじゃった。戦闘に集中しておって存在を忘れておった」


「ミリアは名誉の戦死だったのです。そこにはいずれ魔王が行くから天国で待っていろなのです」


 二人も向きを変え、ミリアちゃんの傍に戻った。


「いててて……。勝手に殺すなよ。なんとか生きているぞ」


 私の肩を使ってよろりと立ち上がったミリアちゃん。

 体のあちこちが痛いみたいで、少し動くたびに顔をしかめている。


「骨の尻尾だったとはいえ、直撃だったからのぅ。よく生きておったのぅ。ピオピオのフィールドのお陰かのぅ」


「私のメロディア・キタラの演奏は世界で一番ですから、その効果は宇宙で一番です♪」


 魔道具をジャジャーンと鳴らしてからくるりと回転したピオちゃん。

 ピオちゃんは陰の立役者だね!


「これからも頼りにしてるよ、ピオちゃん」


「うふふ♪」


「さてと。ボスを倒したことじゃし、そろそろここから出るとするかの」


 あの、奥の方に現れた白い円環に触れると、異次元迷宮の外に出られるんだよね?


「貴様の魔石、我が預かったのです。我に歯向かったこと、存分に後悔するのです」


「いてて……。レティの言うことは、いつも訳が分かんねーよな」


「レティちゃんダメだよ。その魔石はギルドに引き取ってもらうんだから私が持つよ」


「ちぇっ、なのです」


 魔石を受け取り魔法収納にしまう。

 あとは、急いでここから出て、ミリアちゃんを病院に連れて行かないと。

 そんな逸る気持ちを抑え、痛そうにしているミリアちゃんを気遣ってゆっくり、一歩ずつ進む。


「ミリアよ。もう少しの辛抱じゃぞ」


「我は先に出るのです」


 先に円環の前に辿り着いたマオちゃんが、そこで振り返って待っている。

 一歩、また一歩と進んで、ようやく円環に触れられる位置まで近づいた。


「ミリアちゃん、出るよ」


「ああ……」


 円環に触れると、私とミリアちゃんは見覚えのある場所に転送された。


「あれれ? ここは異次元迷宮の中だよね?」


「うむ。ここは屋敷のホールじゃの。後ろにあるのが、屋敷の正面扉じゃ」


 ここはホールで、前方には階段があり、後ろには正面扉がある。

 白い円環は異次元迷宮の外に送ってくれるものだと思っていたよ。でも、戻り先が入り口付近のこともあるんだね。


「そんなことよりも、痛みが引いたぞ、怪我が治っているぞ!」


「え? 本当に? ミリアちゃん、よかったね」


 私の肩にかかる重さは消え、ミリアちゃんは自力で立っている。

 さらに腕をぶんぶん振り回したり、屈伸してみたり。

 本当に治ったみたい。

 

「ボス部屋の白い円環に触れると、その迷宮内で負った傷は完治するのじゃ。そういえば、教えてなかったかもしれぬの」


「そんなことはどうでもいいのです。早くボルトに報告して町に帰るのです」


 私たちは正面扉を開けて屋敷から出て、さらに敷地からも出て、外で待っているボルト君にボス討伐の報告をした。

 異次元迷宮のボスを倒したから、少なくとも数年は屋敷から死霊系の魔物があふれ出ることはないってマオちゃんが言っていた。

 え? ボスって数年から数十年で復活するんだ?

 また一つ知識を得たね。


「えへん。我らは、弱者の窮地を救ったのです」


「レティ様は、迷いの森に現れた英雄、この世に降臨した救世主様に違いないチョ」


 やたら誇らしげなレティちゃん。

 ボルト君がヨイショしまくるから、背中の反りが大きくなっているよ。


「貴様はよく分かっているのです。また貴様に会いに来ることもあるのです。エム、ここに花を植えるのです」


 もう、ギルドからの依頼をこなしたし、ボスまで倒したから、再びここに来ることなんてないと思うけどね。

 慧変魔物のボルト君にもとくに用事はないし。

 でも、レティちゃんが良い気分になっているのを邪魔するのも悪いから、黙って花を植えておいたよ。ピオちゃんが花の寿命を延ばす魔法をかけてくれたから、作業完了だね。


「メルトルーの町へ、フラワーテレポート♪」


 私たちはメルトルーの町へと転移した。

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