107話 聖都ルレミ・ルク
わあ、ここが聖都ルレミ・ルクかあ。
大きな都市だね。大通りの幅がこれまで見てきた町と比べてとても広い。他の町の二本分以上あると思う。
人がたくさんいて、その中に聖職者の格好をした人が何人かいるよ。ほとんどが観光客と巡礼者で、それに他の町から来た教会関係者が混ざっているって感じだね。
イビルタイタンの討伐報酬と、その犯人捕縛の報酬で資金が潤っているから、私たちは路銀稼ぎをすることもなく、真っ直ぐここまで移動してきたんだよ。
目的のフェルメン湖は聖都の東にあるから、西門から入った私たちは東門に向かって大通りを歩く。
「土産物屋が多いなあ。あれはなんだろ? ああ、クリム神様の彫刻かあ」
「ベリベリ神様の物はないのかえ?」
「ベリベリとは何なのですか?」
「おおぅ、独り言じゃ。気にするでない」
通りに面した土産物屋では木彫りの彫刻、銅像、アクセサリーを扱っていることが多く、いずれもクリム神様か大聖堂を模った物ばかり。地図のような織物がたまに並べられていて、そちらは非常に高価。使い道はなさそうなのにね……。
軽食屋と土産物屋、それと宿屋をたくさん通り過ぎ、東の端にあるクリム大聖堂の姿が細部まではっきり見えるような場所、中央広場に差し掛かったところで、
「む、この反応は!」
「どうしたのですか? 何か事件なのですか?」
マオちゃんが何かに気づき、険しい顔になった。どこからも騒動のような音や声は聞こえてこないし、平和そのものだよ。何を発見したのかな。
「北東の方向に、ベルトランの反応があるのじゃ」
「ベルトラン? 占い師の名前か。同名の別人とかじゃないのか?」
「そうだよね。ここってたくさん人がいるから、同じ名前の人がいてもおかしくないよね」
ここでマオちゃんやレティちゃんの名前を叫んだら、きっと何人も振り向くと思うよ。
「妾は聖都に入ってからずっと、左頬に火傷の痕のある者を探索しておったのじゃ。そう重複することもあるまい?」
「そのようなことができるのですか?」
「妾は魔王じゃからの。特別じゃ」
「はいはい。ここで魔王ごっこは危ないからな。それくらいにしといてくれ」
「そうだね。魔王ごっこはおいといて、ここはマオちゃんを信じて犯人を捕まえに行こう」
私たちは噴水と夫婦像のある中央広場から北の大通りへと向かい、北門が近づいてきた所で東に曲がる。
「あの建物の中じゃ」
「あの、黒い布の建物なのですか?」
「うむ」
「何あれ。とっても怪しいよ」
何回か角を曲がって裏通りに入ると、黒い布で扉を覆っている建物をマオちゃんが指差した。
「どうする? 出てくるのを待つか?」
「待っておれ。サーチ……。建物の中には三人しかおらぬの」
「三人もいるの?」
私たちは四人。これに対して捕まえる犯人の仲間は三人。一人が一人を捕まえないといけなくなる。
「三人しかいないのなら問題ないのです。我には秘策があるのです」
こうして、レティちゃんの作戦指示のもと、私たちは怪しい建物の中へと入ることになった。なお、入り口の扉には鍵がかかっていて、ミリアちゃんがそれを解除したんだよ。
「よし、ピオ、頼んだぞ」
「はーい。妖精変化♪」
木窓が閉まっていて、建物の中はとても暗い。
それでもマオちゃんの探索魔法に反応した部屋へと向かう。
そこは大広間のようで、扉は開いていた。
「あの三人、何をしているんだ?」
「まずいのじゃ。あれは秘術を行っておる最中じゃ」
魔法陣の描いてある大きな布を床に敷き、その中央に、亀の像が置いてある。
男が二人と、女が一人。魔法陣の外周に沿って均等に離れて座っていて、祈りを捧げている様子。
「では、ピオピオ。作戦通りにやるのです」
「はーい」
姿を隠せるピオちゃんだけが飛んで行き、こちらを向いて座っている男の後ろに浮かんだ。男にはまったく気づかれていない。
私たちは妖精の姿になっても姿を隠す魔道具を持っていないから同じことはできないし、この次の魔法もピオちゃんしかできないからね。
「ネ・ムーレ・ア・モーレ♪」
「おい! どうしましたか!?」
ピオちゃんが魔法を唱えると、男が一人、深い眠りについて床に横になった。それに驚いた占い師の男が大きな声を上げて腕を伸ばす。
「うむ。無事、秘術を中断できたようじゃの」
「変化解除♪」
私たちがこっそり占い師と女の後ろに飛んで行ったのを確認すると、ピオちゃんが私たちの変身を解除してくれた。
「な、何者ですか!」
「おとなしくしろ!」
「悪人は、成敗するのです」
私たちに気づいた頃には、腕を後ろ手に掴まれ、ロープで縛られていく二人。眠っている一人はこの後で。
三人同時捕縛は無理だけど、二人の意表を突いた捕縛なら私たち四人でできる。とくに、レティちゃんに掴まれた占い師の男は、身動き一つとれなかったからね。
「お主ら。ここで何をしておったのじゃ?」
「ちっ。神に祈りを捧げていただけです。それがどうかしましたか?」
占い師の男は、悪びれた様子もなく答えた。
「これはただの祈りではないのじゃ。魔族に伝わる秘術、しかも大掛かりの物じゃ」
「ど、どうしてそれを!? 大聖堂の中でも特別な者しか知らない秘術の存在を、なぜ!?」
「妾は魔お……、もぐっもごっ」
マオちゃんの口はミリアちゃんによって塞がれた。女を掴んでいた手を放したってことは、もう捕縛は完了しているんだね。
「とにかく、お前らは、シュクレルの町に現れた凶変魔物みたいなものをここで召喚しようとしていたんだろ?」
「シュクレルの町のことまで!」
「そこまで理解しているのでしたら、貴様らは犯行を白状したも同然なのです」
三人目を縛り上げ、ミリアちゃんが衛兵を呼びに行った。私たちだけだと連行まではできないよ。
「シュクレルの町では犯人は一人だけだったのです。どうしてここには三人もいるのですか?」
「大掛かりな秘術は、数人がかりで行うこともあるのじゃ。ここで行っておったのは、おそらく、シュクレルの町とは比べ物にならぬような災禍の降臨じゃ」
「人数が増えれば、被害が大きくなるの?」
「いや、違うのじゃ。あの亀の像に込められておる災禍が、それ相応の人数を要求するものということじゃ」
「ククク……。ますますもって、あなたは、あなた方は、何者ですか?」
「エムは勇者なのです。それ以上でもそれ以下でもないのです」
「はーはっはっ。勇者ですか。可笑しいですねえ。勇者が本来の目的を忘れてこのような所に観光ですか。あーっはっはっは……」
「貴様、何がおかしいのですか!」
「待たせた」
このタイミングで、ミリアちゃんが衛兵の集団を連れて乗り込んできた。
衛兵が事情徴収を始めると、占い師は隠すこともなく名前や目的を語りだした。
私たち、もういいよね?
三人と、秘術の道具は衛兵に引き取ってもらい、私たちはこの場からさようなら……。
「それはなりません。君たちには重要参考人として、一緒にクリム大聖堂に赴いてもらいます」
衛兵たちと一緒に大聖堂に行くことになっちゃったよ。
仕方なく、ゾロゾロ連れ立って通りを歩いて行く。
大通りに出ると、観光客は衛兵の列に道を空けてくれる。
なんだか私たちが連行されていると勘違いする人が大勢いるようで、嫌な目線とヒソヒソ話が後を絶たない。
私たちにいろんな罪状がつけられているよ。助けてー。
「あー。この縄目の三人が罪人で、四人の女の子は捕縛協力者です」
視線に気づいたのか、途中、三回ほど衛兵が声を上げてくれた。それでも人混みがすごすぎて、焼け石に水って感じ。
このまま大聖堂の敷地へと入って行った。
「意図しない形で、クリム大聖堂を訪れることになったのう」
「うん。大きいよね、歴史を感じるよね」
クリム大聖堂は、純白の壁に宝石が散りばめられていて煌びやか。以前ベーグ帝国の帝都で見た大神殿よりもはるかに大きく、豪華に感じる。壁に施されている彫刻も、大神殿のものよりも素敵に見える。
「ピッカピカなのです」
「それを言うなら、色鮮やかだろ」
大聖堂の正面口から入ると、そこはステンドグラスが鮮やかな礼拝堂で、そこには寄らずにすぐに右に曲がって廊下を進む。
「罪人は重罪で指名手配中の男です。今すぐ、大司教猊下による罪状認否が行われますから、こちらでお待ちください」
途中、小部屋に入ると衛兵が一人、大司教様を呼びに行った。
しばらく待っていると、教会関係者が六人、入ってきた。
そのうちの二人は、豪華な神官衣装を身にまとっていて、四人は武装している。
「衛兵殿には、これで引き取り願おう」
「お言葉ですが、我々には報告する義務があります」
「報酬は弾む、では気に入らぬのか?」
豪華な服の一人が、衛兵の耳元でささやいた。私にまで聞こえたけどね!
「はっ。大司教猊下のお言葉を賜り、我々はこれで任務を完了いたします!」
衛兵全員が部屋から出ていった。
それを見届けると、武装した二人が部屋の扉の前に立ち、逃亡防止の役割に回った。
犯人はぐるぐるに縛ってあるから、そこまでしなくても大丈夫だと思うよ?
「ベルトラン、君には失望したよ。次期大司教として目をかけてやっていたのだがな」
「何が次期大司教ですか。呆れますね。その席はあなたの孫、クレマンに内々で決まっているでしょうに!」
「慈愛に満ち、能力に秀でる者こそがその席に相応しい。それは相応の時期にクリム神様の御心に従って決められる。内々で決まっていることなどあり得ない」
「ふんっ。よくもまあ、真顔で出鱈目を言えたものですね」
「君は、立場をわきまえていないようだな!」
「よいよい。セザール大司教、罪状認否に取り掛かりなさい」
もう一人の豪華な服のおじいさんが、大司教様に指示を出した。
どういうこと? このおじいさん、大司教様よりも上の立場の人?
それから大司教様により尋問が行われ、占い師の男はすべてを自供した。シュクレルの町での罪状についても、素直に自供した。
「国家転覆の罪でそれぞれ独房へ。刑などは追って沙汰が出る。死刑のうちでも、苦しみの少ない物になるよう、せいぜい祈ることだな」
なんと、部屋の外にも武装した人がいて、三人はそちらに引き渡された。
あれ? なんで私たちはまだここに残されているの? 報酬の相談でもあるのかな?
取り調べ中、私たちには一度も声を掛けられなかったから、重要参考人の役割を果たしていないよね。
「冒険者の諸君。君たちが潜入した集会所は、どんな所だったかね?」
「黒い布の建物のこと? 怪しい場所だったよね」
「あそこでは、更生神を祀っておったのじゃ。人族にしては変わった神を拝むものよのう」
祭壇にそれらしき物があったみたい。マオちゃん、よく見ていたんだね。っていうか、更生神って何? 初めて聞いたよ。
「ほほう……」
あれれ? おじいさんの目つきが鋭くなったよ?
「そこまで知られては、生かしてはおけない」
「は? 何を言っているんだ?」
大司教様が、とんでもないことをさらっと口にしたよ?
生かしてはおけないって、どういう意味?
「罪人を終身房へ」
「はっ!」
武装した四人が、私たちを取り囲み、腕を縛り上げる。
これって私たち、罪人扱い!?
「ちょっと待てよ! どういうことなんだ? 私たちが何をしたって言うんだよ!」
ミリアちゃんが声を荒げる。
「ベルトランの供述を聞いていただろう? 災禍降臨の儀式には、ここクリム大聖堂の宝物庫に保管してあった邪神の神具を使用したのだ。これは、超級の秘密事項。教会関係者以外で知り得た者の命の保証はない」
大司教様はさっき衛兵にしたように、顔を耳元に近づけ、小声で話した。
「我らは、そのような些事、誰にも言いふらすことなどないのです」
「そうじゃ。妾たちにとっては、どうでもよいことじゃからの」
「邪神による秘術の存在、さらには邪神崇拝者の集会所が聖都に存在していること。あなた方は、知ってはならないことを知りました。申し訳ありませんが、余生を牢屋で過ごしてください。再び日の当たる場所に出ることはないでしょう」
おじいさんの声は、まるで私たちを憐れんでいるよう。
「再び日の当たる場所に出ることはない? 冗談じゃないぞ!」
「教皇猊下の憐れみの言葉、しかと心に留めよ!」
武装した者がさらに増え、がっしりと取り囲まれて私たちは地下の牢屋へと連行されて行く。
ちょ、冗談じゃないよ!
歩みを止めても引きずられるように進んで行く。
もうダメ。誰も話を聞いてくれないし、ここから逃れることができないよ。
誰か助けてー!




