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105話 犯人は誰だ! 後編

「間違いないの。奴が犯人じゃ」


「え、えええー!?」


「捕まえよう。ピオ、元に戻してくれ」


「はーい。変化解除へんげかいじょ♪」


「貴様! 町を破壊した容疑で教会に差し出してやるのです!」


 人の姿に戻ってすぐに、レティが男の腕を掴んだ。私はエムから受け取ったロープを手に、片膝をついて男を縛り上げる。

 痩せていて力がないのか、抵抗らしい抵抗はしてこない。ただし、男は座り込んだままなので縛りにくいことは事実。

 くせー。この男、めっちゃ酒臭いぞ。


「お、お前ら、どこから現れた! 扉には鍵がかかっていたはずだ」


 男の顔の向いた方向には屋上へと出る扉があり、きちんと閉まっている。おそらく、鍵をかけてあるのだろう。


「鍵開けか? 簡単な事さ。後で見せてやる」


 屋上から下りるときには、鍵を開けないといけないからな。妖精の姿で下に行くことはしないだろうし。


「それはともかく。お主が凶変魔物を召喚し、町を破壊したのじゃな?」


「ち、違……」


「貴様! 正直に話すのです!」


「ひえええ! は、はは、はい!」


 男は自らが犯した罪と動機について、正直に話しだした。

 仕事で失敗し、妻は子供を連れてどこかに行ってしまい、酒に溺れる毎日だった。

 気分を晴らそうと中央広場に出ると、通行人とぶつかっって喧嘩になったり、よろけて露店にぶつかって商品を破壊したりと、トラブルが絶えなかった。

 彼はそんな世の中に嫌気がさしてひきこもっていた。

 今朝、久しぶりに食料を調達しようと中央広場へと向かったところ、途中の路地で通りすがりの占い師が、「世直しの人形」と称する商品を売りつけてきた。

 商品名に興味が湧き、商品についていくつか話をすることで欲しくなり、安価だったので購入した。

 それを、ここで使用したまでのこと。


「まさか魔物が空から降ってくるなんて、夢にも思ってなかったんだ。信じてくれ!」


 まあ、普通はそんなことは起きないよな。

 憂さ晴らしに遊び半分でやったのかもしれないけど、犯した罪は大きい。


「むむ? 今朝初めて召喚道具を入手し、そのまま召喚術を成功させたのかえ? いくらなんでも早過ぎぬかの? 本当に今朝の出来事なのかえ?」


「本当だ。俺は嘘は言ってない。今朝、奴は言ったんだ。その紙の上に土偶を置いて願えと。古びた世の中をぶっ壊してくれと願えと」


「これだよね。証拠品として教会に持って行くんだよね? もう魔法収納にしまってもいいのかな?」


 エムは男の前で片膝をつき、ひびの入った土偶を指差している。その下の黒い紙には白い塗料で魔法陣が描かれている。


「なるほどの。その魔法陣はお主が描いたのではなく、最初から描いてあったのじゃな。それならすぐに発動できたのも納得できるのじゃ」


 ん? 訓練の話はどうなったんだ? 秘術には訓練が必要なんだろ?


「どういうことだ? 訓練が必要じゃなかったのか?」


「秘術ゆえに妾も詳細までは知らぬのじゃが、訓練のほとんどが、魔法陣を正確に描写することだったのではないかと考察したまでじゃ」


「へー。話がまったく理解できないけど、そうなんだー」


「エムさんはマオさんの事前説明を聞いてませんからね♪」


 私たちは建物の屋上から下り、大通りを教会に向かって歩く。

 教会に行くと、ちょうど司祭が礼拝堂にいた。

 私たちは証拠品とともに、犯人の男を司祭に突き出した。

 男は素直に罪を自白し、司祭が証拠品を検分する。


「これが魔物の召喚に使われた魔道具ですか。占い師から購入したとのことですが、それはどのような人物でしたか?」


「酒に酔っていて、あまり覚えていない……。男だったが、若いような、壮年だったような……」


「エムや。アレを奴に握らせるのじゃ」


「え? アレを握るの!?」


「恥ずかしいから、そのやりとりは止めてくれ……」


「エム、メモリートレーサーなのです。ロリババアの『アレ』に、そろそろ慣れるのです」


 エムは男にメモリートレーサーを握らせ、「もう一度、占い師に会ったときのことを思い出してよ」と言った。


「おお! こ、これは何ですか?」


 突然現れた絵に、司祭は驚きよろけて後ずさった。

 犯人の男も驚いているが、レティが押さえているから動くことはできなかった。


「これはね、この人が見たものを再現しているんだよ」


「再現……? まるでそこに人がいるようです……」


『そこのあなた。朝から浮かぬ顔をしていますが、運勢をより良い方へと導く占いをして差し上げましょうか?』


『なんだ、てめえ。ほっといてくれ』


 すれ違いざまに声をかけてきた占い師。三十歳前後の男に見える。


『あなたには今、そう慌てる用事はないと、占いに出ています』


『るせー。占いを頼んだ覚えはねえよ』


 占い師は、何か札のような物を三枚手にして占いをした。そんなことで用事があるとかないとかが分かるのか?


『私は占い師として修業中の身。占いは無料ですから安心してください。どうですか、今ここで、あなたの運勢をより良くする占いをして差し上げましょうか?』


『運勢をより良く……、無料……。そ、そうか。じゃあ、一つ頼むわ』


 犯人の男はやや逡巡したものの、無料の言葉に負けて占いを依頼した。


『承りました。では早速見させていただきます。……はぁー、きぇー、くぇー、ほあぁっ!』


 さっきと占い方が全然違うぞ!

 指をくねくねさせながら両手を交互に回すように振って、突然両手で犯人の男の顔側面を掴むように伸ばした。両手の平は、顔を掴む直前で止まっている。


『うわっ!』


 犯人の男は驚いて目を見開いたんだろうな。視界が広くなった。


『出ました。あなたには世の中に対する不満が溜まっているようです』


『そ、それで?』


 犯人の男は心中を察しられて、明らかに動揺しているぞ。


『これはいけません。不満の元を直ちに絶たなくてはあなたの命が……、いいえ、それだけではありません。この国の命運すら危うくなります』


『お、俺の命が? 俺の命ぐらい尽きても構わねえが、この国の命運が危ういだと? 逃げた女房と子供たちが不幸になることだけは見逃せねえ』


『はい。あなたが率先して世直しをしないと、いずれこの国は滅びてしまうと、占いに出ました』


『俺が、世直し……』


『どうぞ、こちらをご覧ください。これは世直しの人形といいまして、世直しの意思のある者を手助けする一品です。あなたがこれを使用すれば、きっと運勢が上向き、これまでの不遇が嘘のように改善されることでしょう』


 世直しの人形は、証拠品の土偶と一致する。絵の中ではひびは入っていないけどな。秘術を発動するとひびが入るのだろう。


『世直しの人形を使用する? よく分からねえが、そいつを使用すれば俺の運勢が良くなり、この国の滅びが回避されるのか?』


『はい。強く世直しを願っておられるあなたにしか使用できない、まさにあなたのための開運の人形です。どうですか? 今なら銀貨一枚でお譲りしますよ』


『銀貨一枚! そ、そうか。で、使うってどうやればいいんだ?』


 どんどんのめり込んでいく犯人の男。

 いろいろ土偶の使い方を聞いて、結局、すぐに使用したほうが運勢の上がりがいいと結論づけられて、土偶を購入した。魔法陣の描いてある黒い紙も土偶とセットで入手した。付属品らしい。


『いいですか。早ければ早い方が、あなたの運勢が高まります。ただ、人目につく場所だと運気が乱れますので、人目を避け、十分に集中できる場所で願いを込めてください』


『ああ、やってみる。この俺が国の命運を握っていると言われりゃあ、やらねえとは言えねえだろ?』


『では、あなたの幸運をお祈りします。またどこかでお会いしましたらどうぞご贔屓に』


 ここで動く絵が止まった。

 エムはメモリートレーサーを回収し、魔法収納へとしまう。


「まさか、この男に犯行をそそのかしたのは彼ですか……。信じたくありません。でも……」


 司祭は何か煮え切らない顔をしている。


「貴様、占い師に見覚えがあるのですか?」


「はい……。あの左頬の火傷の痕。占い師の男は、私のよく知る人物です。彼の名は――」


 占い師の名前はベルトラン。

 この司祭とは同郷だ。

 昔、司祭が勤めていたとある町の教会。そこに聖職者の道を志したベルトランが修行に訪れた。司祭はベルトランを温かく迎え入れ、修行の手助けをした。

 修行の日々、努力家のベルトランはいつも遅くまで勉学に励んでいた。

 そんなある日。ベルトランは勉学中に居眠りをし、ろうそくを左頬に強く押し当てる形となり、左頬に火傷を負った。火災には至らず、書物をいくつか焦がしただけで済んだことで、司祭はベルトランを咎めることはなかった。

 さっきの絵の中で、占い師の左頬には傷痕があった。あれが火傷の痕なんだろう。


「ベルトラン君は優秀で、地方の教会からすぐに聖都の大聖堂へと所属が変更になりました。評判は聞こえてきていましたので、今も彼はきっとそこでうまくやっているのだろうと思っていたのですが……」


「怪しいのう。大聖堂に勤めておるのなら、顔見知りのお主がここシュクレルにおることも知っておるじゃろうにのう」


「頬の火傷の痕を隠さないのも不自然だぞ。今回こいつが酔っていてたまたま覚えていなかったけど、顔の傷は覚えやすい特徴だから、隠さないとすぐに足がつくと思うよな」


「おじさん、ベルトランさんと知り合いなら、過去に何か恨みを買うようなことでもあったの?」


「いいえ、何も思いつきません……。一緒に過ごした年月も、そして彼が大聖堂に転属になってからも。彼は喜んで意気揚々と聖都に向かいましたし……。少々、お待ちください」


 司祭はそう言って席を外した。

 少しだけ待っていると、紙切れを持って戻ってきた。


「これは私ども教会の組織図になります。ここ、この辺りが大聖堂勤務の者でして、ベルトラン君は……、あっ、名前が抜けています!」


「大聖堂に勤務しておるのではなかったのかの?」


 大聖堂どころか、どこの教会を見ても名前がない。

 カレア王国やベーグ帝国など、外国の教会を見ても名前がない。


「この組織図は毎年更新されていますから、少なくとも今年の初め頃には聖職を辞していたのでしょう」


「評判のよいエリートだったのじゃろ? 辞する理由は何だったのじゃろうのう?」


「昨年、司教試験を受けると噂になっていたくらい優秀なのですが。いやはや、どうして名前が抜けているのでしょう。教会としても大きな人的損失になっているはずです」


「司教試験? なんだそりゃ?」


 私が尋ねたところ、司祭は組織図を使って、次のように教会内の序列を教えてくれた。

 教皇は聖クリム神国の国家元首であり、すべてのトップ。

 大司教は教会運営上のトップ。とくに、各国の王都にある教会にはそれぞれに大司教が配置されている。

 司教は各地域区分ごとの教会集団のトップ。

 司祭は各教会の運営者。

 助祭は司祭の下について運営を補佐する。

 で、各段階ごとに、昇格するには試験があって、今回ベルトランは若いのに司教試験を受けると噂になっていたそうだ。

 あ。教皇だけ試験がなく、大司教の中から選ばれる仕組みらしい。基本的に、聖クリム神国の大司教が次期教皇候補となっている。


「恥ずかしながら、私ごときでは、一生勉学に励み、神に祈りを捧げ続けても司教試験を受ける資格すら得られることはないでしょう」


 学力、人望、所属教会の寄付の多寡。いろいろ兼ね備えないと試験資格は得られないらしい。


「長くなりましたが、ベルトラン君については、私ども教会が威信をかけて探し出します。今回の犯人については、このままこちらで引き取ります。ご協力ありがとうございました」


 そう言うと、司祭は祭壇横のテーブルの上で何か書面を用意し、簡単に文面を書いて封書に入れた。


「こちらを冒険者ギルドにお渡しください。冒険者ギルドを通す形で犯人捕縛の礼をさせていただきます」


 エムが封書を受け取り、魔法収納へとしまった。

 マオの探索魔法ではベルトランは近くにはいない。彼の捜索は教会に任せ、私たちは教会を出て冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者ギルドに入り、受付でエムが冒険者カードと司祭からの封書を渡すと、


「ド、ドドド、ドラゴンスレイヤー!?」


 受付の女性が驚いて固まってしまった。

 前にも似たようなことがあったな。

 私たちは大したことはしてないんだけど、肩書だけが独り歩きしているぞ。

 しばらくの間をおいて応接室へと通され、そこでギルマスと面会となった。イビルタイタン討伐直後に一度現場で会っているから、細かな話はしないはずだ。


「おお!? お前らCランクだと? 嘘抜かせ。ドラゴンスレイヤーの称号を持っていて、さらに、Bランク冒険者パーティーが二つ参加しても倒せなかったイビルタイタンを軽くあしらった、お前らがCランクだあ?」


 そんな大仰に驚くなよ。

 どちらもたまたま弱点を突いただけなんだからさ。


「私たち、Cランクだよ?」


「こりゃあ、冒険者ギルドの運営に支障をきたす案件だ。今すぐここでBランクにしてやる。ちょうど、イビルタイタンは緊急依頼を発行していたからな。お前ら受けてなかったが、倒しちまったから、受けたことにしてやるぜ」


 なんだか闇ルートでランクアップするって感じがするぞ。

 緊急依頼を受けなくても討伐報酬をもらえることにはなっているようだったけど、依頼を受けて達成したことにすれば冒険者ギルドへの貢献度を上げることができるらしい。


「今な、聖都のほうでとんでもない魔物が発生していてな。Aランク冒険者でも討伐に失敗したと聞いている」


「へー。どんな魔物なの?」


「フェルメン湖に突如現れた、謎のドラゴン。識別すらできない強者だと聞いている。が、正確な所まで俺には伝えられてはいない」


「ドラゴンが暴れているのですか! 我らが直ちに成敗してやるのです」


「ここでは依頼を発行していないから、ぜひ聖都の冒険者ギルドに行って依頼を受けてくれ、Bランクのドラゴンスレイヤーさんよ」


「いずれにしても聖都には行く予定だからな。倒せるとは思えないけどな」


 聖都どころか、フェルメン湖に行く予定だからな。嫌でも顔を合わせる気がするぞ。

 私たちはBランクへと昇格し、討伐報酬と犯人捕縛報酬を受け取って冒険者ギルドを後にした。


 そうだ。犯人を捕縛したことを支部に伝えないといけないよな。

 みんなには中央広場の噴水前で待ってもらうことにして、私は諜報機関の支部に報告に行った。

 支部ではやはりまだ犯人の特定には至っていなくて、事の顛末を報告したら「やはりBの39は違うな」と褒められたんだか呆れられたんだか分からない返しを受けた。

 今回活躍したのはマオだからな。呆れられたんだろうな。

 なにはともあれ、イビルタイタンを召喚した犯人を早急に特定できてよかったと思うぞ。

 ただ、シュクレルの町の惨状には目を覆いたくなる。住民には頑張って復興してもらいたい。貧乏な私たちはこればかりは手伝うことはできないからな。

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