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104話 犯人は誰だ! 前編

 でかい魔物だった。

 シュクレルの町に突如として現れた巨大な凶変魔物。

 私はその原因を探るべく、帝国諜報機関のシュクレル支部に向かっている。

 たまたまこの町に支部があってよかったぞ。聖クリム神国内にはあまり支部は設置されていなくて、この町を越えると、私たちの進行ルート上には聖都ルレミ・ルクまで支部は存在しない。


「ここだ、ここ」


 外観は普通の二階建ての民家。

 前に一度来たことがある。ベーグ帝国からカレア王国に向かって移動する際、この町で乗合馬車の乗り換えが必要になるからついでに寄っただけなんだけどな。


「いい情報が得られるといいな」


 小さなウエストポーチから棒状の魔道具を取り出す。それを鍵穴に差し込むと、第一の扉が開く。中に入り、第二の扉の前に立って名乗る。


「Bの39、ミリアだ。情報の確認に来た」


「……合言葉は?」


 返事が遅いな。

 それなりに待ってから合言葉の確認が行われた。

 私が「シ・馬・頭」と答えると、ガチャリと音を立てて第二の扉が開いた。

 お? ガラガラだぞ。事務スペースには諜報員が一人しかいない。


「面談室Aへ」


 その一人に促され、小部屋に入って椅子に腰かけると、ほぼ同時にその諜報員もテーブルの向かい側に座った。


「Aの67が用件を聞く。現在、諜報員全員が調査に出ていて忙しい。手短に申せ」


 彼は壮年で、髪型は側面を刈り上げ、頭頂部の毛が後ろに向かって立っている。


「この町に凶変魔物が現れただろ? その原因を教えてくれ」


「それについては、調査を開始したばかりだ。ここに誰もいないのは、その調査に出ているためだ」


 諜報員が総出で凶変魔物の調査をしているのか。留守番のこの人は支部長なんだろうな。


「諜報機関では魔物の襲来を察知できなかったってことなのか?」


「本件は襲来ではない。発生時に偶然、私は二階の窓から魔物が出現する瞬間を目撃した」


「出現する瞬間?」


「ここから東南の空に、一瞬大きな魔法陣が現れ、そこから降りるように魔物が現れた。つまり、誰かが召喚した可能性が高い」


「そこまで分かっているなら、原因を把握しているのと同じじゃないか」


 やっぱり魔物は町の外から入って来たんじゃないんだな。


「基本に立ち返って冷静に考えたまえ。現象原因と発生原因とを区別するのだ。あくまでも現象原因が召喚術ではなかろうかという推測であって、では、召喚術を行った者が誰なのか、その目的は何なのか。それは分かっていない」


「じゃあ、東南の誰かが召喚したのか?」


「現象だけを見ると可能性としては大いにあるが、我々が日々得てきた情報では、東南方面にマークしている人物はいない」


「マークしている人物?」


「君も知っているように、やり手の商人からチンピラに至るまで、特徴のある人物は善悪問わず、すべてが我々の日々の調査対象となっている。その中から、破壊活動をするような不審者を洗い出したリストがこれだ」


 名前と特徴を記した用紙と、地図が一枚、テーブルの上に置かれた。

 タイトルには「C号事件調査対象」と記されている。魔物が現れてから作成したのだろう。仕事が早いな。


「なるほど。所在地と行動範囲まで調べてあるのか。ふむふむ。たしかに支部から見て東南方面に印はないな」


 地図には数字がいくつも記入されていて、それが、調査対象者につけられている番号のようだ。その数字を囲うようにしてあるのは調査対象者の普段の行動範囲らしい。


「そのリストの人物は、町や教会に強い反感を持っている者だ。しかし、巨大な魔物を召喚できるようなスキルは誰も所持していない」


「うわ。よく見れば使用できる魔法属性まで書き込んであるぞ。すげーな」


 各人には火、水などの属性を頭文字に省略して記してある。


「つまり、外部からの流入者による犯行を疑っているのが現状だ」


「外部からかあ。何か目星でもついているのか?」


「ゼロからの調査になる。魔物騒動によって、衛兵も町民も普段の位置にはいないからな。目撃情報を集めるのにも時間がかかるだろう」


 西門には門衛すらいなかったしな。町の民も大勢外に逃げ出しているし、情報を集めるのも大変だ。

 町の中では衛兵と冒険者が入り乱れて魔物と戦っていて、巨大な魔物の動きに合わせて場所を移していたから、単純に聞き出してもまとめるのに苦労しそうだ。


「そっかー。このリスト、もらっていってもいいか?」


 諜報機関にしてみれば当てが外れたリストなんだろうけど、まったくのハズレというわけでもない。これが悪人を割り出すためのなんらかの手掛かりになるかもしれない。


「それは開示レベルこそ各諜報員向けだが、持ち出しレベルは支部長……。そうか、君はBの39だったな……。仕方がない。複製してくるからここで待ちたまえ」


 極秘、所持者Bの39と朱書きされたリストをもらい、私は支部から出た。


「待たせたな」


 魔物と戦った現場に戻ると。

 うわあ。さっきよりも人が増えているぞ。レティとエムが完全に取り囲まれている。魔物が消えることで、戦闘に参加していた者がことごとく喜びを分かち合うために集まっている感じだ。

 マオはその輪から外れる位置で呆けるように突っ立っていた。ピオもその隣に浮かんでいる。


「どうじゃ? 何か分かったかえ?」


「うーん。まだこれから調査をするって言ってた」


 パーティーのみんなには私は帝国諜報員だと暴露してあるから、隠さずに答えた。


「その紙はなんじゃ?」


「これか? これは極秘資料だから人目につく場所では見せられない」


 ここは人だらけ。ほとんどの者が勝利の喜びを分かち合っているだけで私たちの挙動には関心がないのは分かるけど、それでも極秘資料だからな。

 ごく少数、親類縁者などの知り合いがこの周辺に住んでいる者が安否確認に訪れていたり、教会の関係者が被害状況を確認しに来ていたり。数人、泣きじゃくる者もみられる。ほとんどの住民が町の外に避難しているから、途方に暮れるのはこれからのことになるだろう。

 ほかの国と違って聖クリム神国では教会が各町を治めている。だから被害の確認は教会が中心となって行われている。


「エムとレティシアはまだ解放されそうにないゆえ、近くの路地に入ってその紙を見せるのじゃ」


 私はマオに手を引かれて路地へと入った。

 普段この辺りにいる町の民は逃げ出していなくなっているし、ここで戦っていた者も既にいなくなっている。つまり、誰もいない。


「一応極秘の資料だからな。こっそり見てくれよ。どこに諜報員がいるか分からないからな」


「分かっとる。ふむふむ……」


 極秘資料を差し出すとマオはそれを掴み取り、食い入るように詳細まで目を通している。

 地図とリストを何度も照らし合わせているようだ。

 まあ、支部では当て外れの資料扱いをされていたけど、マオには何か感じる所があるのだろうか?


「たくさんの名前があります♪」


「お主。容疑者が多岐に渡っておるのはなぜじゃ?」


「ああ、肝心なことを言うのを忘れていたぞ。それは町や教会に反感を持つ者のリストだ。実は支部長が諜報機関の二階で、凶変魔物出現の瞬間を目撃していたんだ。東南の空に巨大な魔法陣が一瞬現れて、そこから凶変魔物が落ちてきたらしい。しかし、そのリストには召喚術を使える奴はいない」


「なんと。召喚術のようじゃな。それなら怪しいのは……」


 マオはまたリストに見入ってしまった。支部では当てが外れていると判断しているんだけどな。


「こやつじゃ。まずはこやつを調べるのじゃ」


 マオが指差しているのはリストの八番目の名前。


「だからリストには召喚術を使える奴は載っていないんだって。支部では犯人像を外部からの流入者だと疑っているんだ」


「なるほどの。やはり人族の間では知られておらぬのじゃな」


「何のことだ?」


「魔物や召喚獣を召喚する術としては、召喚術士が召喚魔法で行うのが一般的じゃ。そのほかじゃと魔物使いが作成した魔物召喚石から行うぐらいかの」


 召喚術士ってのには会ったことがないけどな。

 魔物使いの魔物召喚石で召喚された魔物については、レティの故郷でオークジェネラルを見たのが最初で最後だな。


「ん? そうか。魔物召喚石でイビルタイタンを呼び出したってことか!」


「可能性はゼロではないが、あのような巨人を従わせることのできる魔物使いがおったら、世界中で名前が売れておるはずじゃ。ただでさえ貴重な職ゆえにの」


「違うのかよ。じゃあ、何なんだ?」


「そこで三つ目の召喚方法が登場するのじゃ。召喚魔法と魔物召喚石、それら両方の特徴を混ぜ合わせた召喚術が存在しておるのじゃ」


「混ぜ合わせた?」


 二つの手法を混ぜることができるのか?

 おそらく特徴が似ているだけで、実際に混ぜたわけではないのだろうけどな。


「簡潔に言うとじゃな。特別な召喚石に特別な魔法を唱えることで特別な魔物が召喚されるといったものじゃ」


「それじゃあいろいろ特別すぎて、その手法も可能性がゼロになるんじゃないのか?」


「うむ。もちろん可能性自体は高くはないのじゃ。もとはといえば魔族の国に伝わる秘術じゃからの。人族が使うことに疑問が残るのもまた事実じゃ」


「じゃあ、可能性が高いのは何なんだよ?」


「秘術については、単体で考えると人族の地における実現の可能性は低いのじゃが、三つの手法の中では最も実現の可能性が高くなるのじゃ。なぜかというと、秘術を使った場合、触媒を用意し、手順さえ正しく踏めば、簡単な訓練だけで誰でも召喚術ができてしまうからの」


「つまり、魔族の国の秘術を、何らかの形で入手した奴がいるってことか」


「入手経路は分からぬが、そう考えるのが妥当じゃろうな」


 数百年、魔族とは交戦状態が続いているからな。捕虜とかそういうのから聞き出したのか?

 ただ、ここ近年は睨みあっているだけらしいけどな。


「とにかく、マオの感覚で怪しい奴がいるんだろ? 捕まえに行こうぜ」


「戦闘中も探索魔法で周辺を探っておったのじゃが、怪しい場所におる者の名前がこのリストにあったまでじゃ」


 出会ったばかりの頃のマオは探索魔法で名前まで調べることはできなかった。それでも、今では異次元迷宮でスティックを新調したりして魔法技能が向上しているようで、名前を知ることができる。


「おーい、エム、レティ! 行くぞ!」


「わわっ、ま、待ってよー」

「我を置き去りにするのですか!」


 イビルタイタンと戦った場所に戻り、二人を呼んだ。

 すると二人は慌てて人垣に隙間を作り、押し退けるようにして私たちと合流した。


「マオ、どの辺りだ? 近いのか?」


「ねね、どこに行くの? そっちに冒険者ギルドがあるの?」


「討伐報酬の受け取りは後回しじゃ。大通りを挟んだ向こうの、三本先の通りに、不審者がおるゆえ、その確認に向かうのじゃ」


 私たちは三本先の通りへと急いだ。

 そこは細く、いわゆる裏通りって所だった。


「あの建物の屋上じゃ。ピオピオ、妖精の姿にしてくれぬかの?」


「はーい。妖精変化ようせいへんげ♪」


 妖精の姿となって、建物の壁に沿うように垂直に上昇して行く。


「あやつじゃな。気づかれぬようにこっそり上空に行くのじゃ」


 屋上に行くと、髪を無造作に伸ばし、無精ひげを生やした男がしゃがみ込んで震えていた。

 その前には黒い紙が置いてあり、土偶っていうのかな、泥を焼いて固めた人形がその上にのっている。ヒビが入っているけどな。


「間違いないの。奴が犯人じゃ」

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