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103話 シュクレルの町での騒動

 異次元迷宮で路銀を稼いだ妾たちは、聖都ルレミ・ルクに向かい、乗合馬車で移動を開始したのじゃ。

 その道中。

 息を切らせて走る者、その辺で座りこんで肩で息をしている者など、道の至る所でどこかの町の民らしき者とすれ違うようになったのじゃ。

 町が盗賊団の襲撃にでも遭ったのじゃろうか?

 乗合馬車の御者も気になったようで、馬車を止めてその辺におる壮年男性に尋ねたのじゃ。


「町が、町が!」


「落ち着いてください。町で何かあったのですか?」


「町が、家が、何もかもが、魔物に荒らされている!」


 ここからでは町の姿までは見えぬのじゃが、逃げてきたと思われる人の数からして、町はそう遠くはないじゃろう。おそらく、木々の陰になっておるだけで、このすぐ近くにあるのじゃろう。

 御者は困ったようで、もう一人にも事情を尋ね、


「巨人が、土の巨人が、町を破壊しているんだ! おお神よ、どうか我らをお助け下さい」


 なにやら大きな魔物が町を荒らしておることが分かった。


「乗客の皆様。この先シュクレルの町に魔物が発生しているようです。当乗合馬車は運行規定に基づき、ここで引き返すことにします」


 御者は乗合馬車を回頭させ、もと来た道を戻ろうとしておる。


「ちょ。ここで引き返したら聖都に行けなくなるよ」


「町を破壊する魔物だろ。どんな魔物なんだ? 確かめに行こうぜ」


「困っている者を助けてこその我らなのです」


 妾たちは乗合馬車から降り、歩いてシュクレルの町へと向かったのじゃ。

 やはり町は近くにあり、木々の向こうに見ることができた。


挿絵(By みてみん)


「うわあ、おっきいね」


「さっきの奴、土の巨人って言ってたからな。そのまんまの魔物だぞ」


 城壁で囲われた町であり、少々距離があるとはいえ、城壁よりも背丈のある魔物が町の中で土煙を上げて暴れておる姿を確認できたのじゃ。


「大変なことになっていますよ♪」


「急ぐのです!」


 妾たちは走った。

 シュクレルの町の門は開いており、門衛はおらなんだ。

 まだ中から駆け出てくる町の民が大勢おって、門を通る際には幾度もぶつかりそうになった。


「やべえ。あいつの背丈、エム五人分はありそうだぞ」


「あの魔物、武器を持っていないね。殴る、蹴るだけで戦っているみたいだよ」


 家々の陰となっておって詳しいことは分からぬのじゃが、地上から魔物に向かって、矢や魔法がひっきりなしに飛んでおる。衛兵が戦っておるのじゃろうな。


「戦っておる者どもと、一刻も早く合流するのじゃ」


 妾たちは大通りを真っ直ぐに進んだあと、路地を右へ左へと曲がり、武装した集団を発見した。

 また、この距離になってようやく魔物を識別できたのじゃ。魔物の名前はイビルタイタン。巨大な凶変魔物じゃ。


「何本刺されば倒れてくれるのよー。この調子だと、矢が足りなくなっちゃうわ」


「モーミル。矢は町から支給される。気にせず射てくれ」


「リーダー、私が回復しますから、切り込みに行っても構いませんよ」


「ほや。剣士のリーダーは見ているだけやが。女は度胸やがいね。根性見せてやー」


 あれは、どこかで見かけた冒険者パーティーじゃのう……。

 付近は衛兵や冒険者で埋まっておって、あやつらの近くしか空いておらぬから、そこに行くしかないのじゃが。


「あいつら、この間倒れていた奴じゃないのか?」


「凶変魔物イビルバグベアに、コテンパンにやられていたのです」


「ん? アンタは! その節は世話になった」


 すぐ隣まで行くと、やはり見覚えのある顔じゃった。

 ああ、こやつらは冒険者パーティー「浮雲の集い」じゃな。

 妾が初めて加入し、追い出されたパーティーじゃ。


「あら、へっぽ……、偉大な魔法使いマオリーさんだわ。ほら、ぼけっと見てないで、魔法を撃ってくださいな」


 妾たちは助っ人に来たのじゃ。言われるまでもなく、妾は魔法を放つ。エムは闘気玉じゃの。


「しかしお主ら、ダウ・ダウの町で入院しておったのではなかったのかの?」


「その話か。アタシらは先日退院して、しばらく異次元迷宮に籠って修行していたんだ」


「修行?」


「凶変魔物に会わないよう、聖都ルレミ・ルクにお祓いを受けに行かないといけないからな。長旅に備えて、そして入院費用の捻出を兼ねて、異次元迷宮通いをしていたんだ」


「怪我でパフォーマンスが落ちたため、初心者向け迷宮からやり直しだったわ」


 うむ。それはよい心掛けじゃの。長期入院をすれば冒険者としての能力は落ちるじゃろうからの。


「アタシらは強くなった。それで満を持して旅に出たらこの有り様だ」


「どうして行く先々で凶変魔物に会うのよ~。リーダー、やっぱり今すぐにでもお祓いを受けに行きましょうよ」


「お主らも、難儀よのう」


 カレア王国のメルトルーの町の近くで凶変魔物に襲われて入院し、お祓いを受けようと聖クリム神国に入ってまた凶変魔物に襲われてダウ・ダウの町に入院。

 晴れて退院して旅立つと、ここでも凶変魔物に遭遇。

 こやつらは、なかなか波乱万丈の人生を送っておるようじゃのう。

 通常であれば凶変魔物が現れるはずのない場所でばかり遭遇しておるからの。

 今もまさにそうじゃ。町の中で巨大な凶変魔物に遭遇するなど、妾の長い転生人生においても一度も経験したことのない事態じゃ。


「やっぱ接近戦はやばいよな? って、レティ、行くなって」


「周りの衛兵も、誰一人として接近戦を挑んではおらぬ。体格の差がありすぎるゆえ、接近戦が不利なのは明確じゃ」


 場合によっては足を切りつければなんとかなることもあるのじゃが、おそらくそれを試して無駄だと判断したのじゃろうのう。


「マオリーの言う通りだ。衛兵が接近戦を挑み、ことごとく蹴散らされた。アンタらも接近戦は控えるほうがいい」


「リーダーが、近くに行きたくないだけだわ」


「入院したくないからな……」


 妾は話をしながらも、火属性、水属性、風属性と三つの属性魔法を当ててみたのじゃが、今のところ大きなダメージにはなっておらぬ。


「どうしよう、家がどんどん壊されていくよ……」


「我が受け止めてやるのです。そこの魔物! かかってきやがれなのです!」


「おい、標的固定なんかしても大丈夫なのかよ?」


 レティシアは盾技で自らがイビルタイタンの標的となりおった。これでイビルタイタンが家を壊すことは少なくなるじゃろうが、果たして、あの巨体の攻撃を受け止め切れるかのう?

 一応、続けざまに盾技レインフォースシールドとイージスを発動しおったから、防御力は各段に上がっておるのじゃがの。


「こ、こっちに来るぞ。あ、アタシらは距離をとる。マオリーたちも下がれ。ここは危険だぞ」


「妾はパーティーの仲間を見捨てるほど薄情ではないのじゃ」


 どこに逃げようとも、標的を固定した以上はレティシアを狙ってくるのじゃ。


「貴様ら、頭を覆え、なのです」


 レティシアが叫ぶと同時に、イビルタイタンは手の平をこちらに向け、そこに吸い込む渦のような物が一瞬見えた途端、砂嵐を噴出させおった。


「有象無象を跳ね除ける魔王の岩、メガ・ロックウォール」


 妾は岩の壁をレティシアの前方に生成して砂嵐を凌ぐ。

 巨体の発生させた嵐じゃ。レティシアの盾だけでは抜けることが予想されたゆえ、やや高めに生成してやったのじゃ。


「おふっ!」


 砂嵐が止むより先にレティシアに蹴りが届き、岩の壁こそ破壊されたのじゃが、レティシアは後ろに少々滑りはしたが耐えきった。よくもまあ飛ばされなかったものよのう。

 周囲から感嘆の声が上がっておる。魔王の妾でも、レティシアの盾技能には一目置いておるくらいじゃからの。人並外れた技能よの。


「もう、殴るしかないよな。意地でも倒してやるぞ。フレイムスマッシュ!」


「レティちゃんが頑張っている今、私たちも戦わないといけないよ。プリムローズ・スプラッシュ!」


「標的固定が切れるまで、攻め続けるのじゃ。有象無象を粉砕する魔王の鉄槌、メガ・クラッシュ」


 ミリアとエムが接近戦を挑んでおる。

 妾も近接戦闘用の魔法で大ダメージを狙う。


「なんだよ。殴っても殴っても表面の土がぼろぼろ剝がれるだけで、またすぐに元に戻るぞ」


「レイピアで突き刺した穴も、消えちゃったよ」


 エムは勇者技で無数の突きを喰らわせたのじゃ。それが、あっという間に塞がってしまいおった。


「ぐはっ! ぐ、ふ、ぅ。早く倒せ、なのです……」


 イビルタイタンが両手を組み合わせて振り上げ、さらに跳躍して上空からレティシアを思い切り叩きつけ、それでも盾で耐えてみせたレティシア。今の衝撃で周辺の建物が破壊され、妾たちもその余波で転がった。


「いっつー。標的を固定していても攻撃を喰らうこともあるんだな……」


「うむ、そうじゃの。油断は禁物じゃぞ」


 破壊された建物は、跡形もなく砂に変わっておる。魔法攻撃だったのかのう? 妾たちが砂にならなくて助かったのじゃ。


「いてて。頭を打ったよ……。うーん。なんかさあ、鳩尾の上の辺りに、ホクロみたいなのがついてない? あそこを攻撃できないかなあ?」


 エムは頭を振りながら起き上がり、イビルタイタンの腹部を指差して言いおった。転がることで視野が広がったようじゃの。


「妾が狙ってみるのじゃ。すべてを焼き尽くす魔王の炎、メガ・ファイア!」


 レティシアを殴ったイビルタイタンの姿勢は前かがみで、そこからは上体を起こすぐらいしかできぬじゃろうと高をくくって火球を飛ばしたのじゃが、火球は拳で殴って消されてしまったのじゃ。


「今まで矢を避けることすらしなかったのに、鳩尾を狙った火球をわざわざ消したぞ? よっぽど狙われたくないみたいだな」


「マオちゃん、どんどんやってよ! 私も一緒に狙うよ。プリムローズブラスト!」


「うむ。凍てつく魔王の矢、メガ・アイシクルアロー!」


 闘気玉と氷の矢が、完全に立ち上がったイビルタイタンの鳩尾を狙う。

 妾たちの後方からも、鳩尾を狙う軌道で矢と魔法が飛んで来おる。衛兵と冒険者も、あそこが狙い目だと感づいたようじゃの。


「おしい。両手をクロスして守りに入ったぞ」


「いや、やばいのじゃ。急ぎレティシアの盾に隠れるのじゃ」


 イビルタイタンは鳩尾を守るような姿勢のまま体をひねって跳び上がり、地面を転がって妾たちを押し潰そうとする。


「がはっ! き、貴様ら、いい、加減、仕留め、や、がれ、なの、です……」


「そうは言ってものう。決め手に欠けておるからのう」


 イビルタイタンの身長よりも長い幅で、周辺の建物が破壊され、砂に変わった。攻撃のたびにレティシアが後退させられておるゆえ、どんどん建物の被害が広がっておる。


「これだけ動かれたら狙いようがないぞ」


「ガードもしちゃうしね。どうしようもないよ」


「それはどうでしょう。ミリアさん、新装備を試す時が来ましたよ♪」


 ピオピオはミリアの傍まで飛んで行った。


「新装備? あ、そっか。吹き矢か。試してみる価値はあるよな」


 先日入手した吹き矢の筒。いろいろパワーアップしておるゆえ、効果があるといいのう。

 ミリアは筒を構え、レティシアのすぐ隣に躍り出た。そのままピュッと吹き矢が飛んで行く。


「おおう。立ち上がろうとしたイビルタイタンが、よろけて倒れたのじゃ」


「マヒ毒が、すげー効いたみたいだな」


「マヒ? それなら、乗っかってもいいよね?」


 エムは、小刻みに震えるイビルタイタンの足に乗り、そのまま腹部まで走ってレイピアを高めに構える。


「いくよ! えいっ!」


 ホクロのような凸部に、レイピアが突き立てられたのじゃ。深く刺さっておる。


「ドゴオォォ」


 イビルタイタンは断末魔を上げ、魔石へと変わりおった。


「へっぽ……、マオリーさん、素敵だわ!」


「またマオリーに助けられたな」


「妾ではなく、妾の頼もしい仲間に、じゃろ?」


 この周辺で戦っていた者どもが歓声を上げ、走り寄って来る。


「標的固定で耐えきったあの子は、とんでもない逸材だ」

「俺、蹴り飛ばされたからな。盾技、半端ないぜ!」

「可愛い女の子よ!」


「えへん。もっと称えるとよいのです」


「凄いわ。細身の剣で、あの巨体を仕留めるなんて」

「私は怖くて近づくこともできなかった。度胸のある娘っ子だな」

「握手してください!」


「え、あのっ、そのぅ……」


 レティシアとエムに群がる群衆。これまで必死に戦っておったこともあってやや汗臭い。

 こやつらが壊された建物に向かっておらぬのは、妾もさっき探索魔法で確かめたのじゃが、砂の山には生存者が存在しておらぬからじゃ。全員逃げ出せたのか、砂になってしまったのかまでは分からぬがの。


「二人は一躍人気者だな。ま、別にいいけどな」


「ミリアの吹き矢のことは誰も気づいておらぬのじゃろうな。知らぬ者が見ても、口に拳を当てておるようにしか見えぬからの」


 この後、教会の司祭がやって来て、労いの言葉をかけてくれたのじゃ。

 妾たちの後方にはクリム神の夫婦像があり、それが無事でなによりじゃったとかの。

 また、冒険者ギルドのギルドマスターもやって来て、妾たちに特別報酬を支給してくれることに決まったのじゃ。ギルドマスターも戦っておったようじゃの。手に負えなかったと言っておった。


「で、どうして凶変魔物が町の中に現れたのじゃ? 城壁が壊されたようには見えぬし、甚だ疑問に思うのう」


「それについては、これから調査する」


「なんとなくでもいいから、原因は分かってないのか?」


 うむ。原因がはっきりしておらねば、再び現れない保証はないからの。


「突然のことで、どこから現れたのか、それとも誰かが召喚したのか、まったく見当もついていない。これから現場検証だ」


「そっか。私がすぐに調べてやるぞ」


「そのような安請け合い、するでないのじゃ」


 ミリアは「知り合いに尋ねるだけさ」と言ってどこかに消えて行きおった。

 まだレティシアとエムは囲まれたままゆえに、妾はこの場で立ったまま空を見上げることになったのじゃった。

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