現代具足制作譚・破
「初めまして、甲冑工房の延栖です。今回は見積依頼とのことですが」
「はい、よろしくお願いします」
えるめすを訪れた翌日。パソコンの画面共有ツールを使用して、具足を仕立ててくれる業者さんと打ち合わせをすることに。俺はお相手さんのイラストツールを画面共有してもらい用意してもらったテンプレートの具足案に色々と書き足していく。
「桃型兜に角を生やして、面頬と角に蓄光塗料を塗りたいんですよね」
「ほう……なかなか珍しい提案ですね」
桃型兜とは名の通りに桃の形をした兜のことで、作りが簡単で安く済むことから安土桃山時代から江戸時代に下級兵士の間で流行した兜である。しかし、見てくれもいいことから上級武士の間でも流行した。有名なのは金色の桃型兜を使った立花宗茂あたりだろうか。
「昼の間に光を蓄えて、夜になったら飾った場所に鬼がいるって感じにしたいんですが」
「……ちょっと待ってくださいね」
そういった延栖さんの通話ソフトに表示されているアイコンにマイクミュートのマークがつき、しばらくの間音声が途切れる。上司や職人にでも確認に行ったのだろうか。今のうちにトイレへ……そう思って席を立ち、トイレから戻ってくると延栖さんは帰ってきていなかった。
「……なんか面倒なこと頼んじゃったか俺」
俺が不安に襲われていると、軽快な通知音と共に延栖さんが通話に復帰した。
「お待たせしました。蓄光塗料は職人に確認したところ可能だそうです。発光が強くなるようにオリジナルの蓄光塗料を配合するので少々値が張りますが、よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。次に板札と胴の色を青、発色の強いウルトラマリンブルー。面頬を除く小具足を金色にして、それ以外を黒でお願いしたいのですが」
延栖さんがうっ、と言葉に詰まり、
「ちょ、ちょっと待ってくださいね!」
またしても消えた延栖さん。今回はそんなに難しいこと言ってないと思うんだけど……
◇
「まとめますね。桃型兜に角の装飾、その角と面頬に蓄光塗料を塗布し発光するように加工。板札と胴はウルトラマリンブルー、これは合成塗料での塗り、小具足は面頬を除いて金箔加工し、蝶番などの小さな部位は漆塗り。別添えのマントは赤いものと、以上でよろしいでしょうか」
「はい、間違いないです。料金はいつ頃お支払いすればよろしいでしょうか」
「当社規定では前金で半額、完成時に残りが基本なんですが……今回の十川様の御注文ではコストがかなりかかっているので、前金として二百五十万円。完成時に残りの百万円でお願いいたします」
「わかりました。明日振り込みますね」
「はい、よろしくお願いします。それでは本日はありがとうございました、失礼いたします」
そういって延栖さんがボイスチャットを切断した。顧客の俺から切るのを待たなかったあたり疲弊してたんだろうなぁ。それにしても、完成が二か月後とは意外に早いな。最悪半年ぐらい待たされたりするのかと考えてたわ。
「……と、なると途端に暇になるんだよなぁ……」
今、こちらは七月、具足ができあがるのは九月ってことだ。あちらの時代に戻ってもこちらの時間は進まないので二か月間こちらで時間を潰さないといけない、はてさてどうしたものかね。
……久しぶりにバイトでもするか。善は急げとちょくちょく短期バイトをさせてもらっている喫茶店に電話する。ワンコールののち、低音の響くダンディなおじさまの声が電話口から聞こえてきた。
『はい、喫茶スターホースです』
「あ、小父さんご無沙汰です。廉次です」
『あぁ、廉次君か! 久しぶりだね、どうしたんだい?』
「家のことも落ち着いてきたんで、また短期バイトさせてもらえないかなって思って電話させていただきました」
『それは助かるよ、夏休みでお客さんが多くなるからね。来週からでも入ってもらえるかな? シフトはいつもどおりメールで送るよ』
「わかりました、よろしくお願いします」
――こうして、二か月間におよぶ俺の暇つぶしバイト生活が始まったのである。




